B-1グランプリを主催する団体、愛Bリーグの顧問としても活躍する筆者による、ひと味もふた味も違う「B級ご当地グルメ」の旅コラム。全国津々浦々のディープなグルメたちを独自の視点で紹介していきます!
「B-1グランプリ」の主催団体「一般社団法人B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会」(愛Bリーグ)顧問。日本経済新聞特別編集委員。著書に『全日本「食の方言」地図』『眼で食べる日本人』『天ぷらにソースをかけますか?』など。現在、日経電子版で「列島あちこち 食べるぞ! B級グルメ」(食べB)を連載中。
このコラムも今回が最終回。その舞台は、わがふるさと久留米としたい。
前回、大分県日田市と久留米は川と鉄道と道路で結ばれた、県境をまたいだ同一文化圏にあるのではないかと書いた。
その象徴がチャンポンであり、アブラナ科の植物であろう。
日田で出席したパーティーに「高菜巻き」が出た。ご飯を高菜漬けで巻き、中に納豆を詰めたもの。地元の人々は「高菜巻きは日田生まれ」と口々に言った。
高菜漬けは温暖な九州では数少ない特産の漬物で、私の好物である。高菜を細かく刻んでタカノツメを少量投入。隠し味に砂糖を振って炒めるのだが、それさえあればご飯が進む。
久留米には同じアブラナ科で「山潮菜」というものがある。「食材図典Ⅲ 地産食材篇」によると「葉カラシナの一種…1725年(享保10)の筑後川氾濫のとき、洪水とともに種子が流れつき、中流域の中洲に自生したと伝えられる。大雨による山潮(山津波)で、上流の大分県久住高原で栽培されていた久住タカナが流れついたと考えられ、名の由来はここから。自生地に近い三井郡弓削村(現久留米市の北部)から栽培が始まり、筑後川流域の肥沃な沖積平野に広まった」。
この植物もやはり、筑後川を伝播のルートとしている。
秋から春先のもので、私は旬の終わりに久留米のスーパーで買った。

山潮菜は久留米限
味は一般の高菜に比べてすこしピリリとするが、浅漬けにすると区別がつかない。東京に戻って山潮菜を刻んで朝の食卓に出したところ、家族はいつもの高菜としか思わなかった。
季節ではないので手に入らなかったが、久留米にはカマス寿司というものもある。冷蔵・冷凍技術がなかった昔、恐らく博多方面の海から塩蔵したカマスが陸路を筑後平野方面に運ばれてきた。
塩はしてあるが、時間がたてば悪くなる。ちょうど久留米の辺りでの塩梅がよくなるため、塩抜きして酢で締め、押し寿司にしたのであろう。
久留米はラーメンや焼き鳥や餃子だけではない。江戸の昔から伝わる食べ物も守り続けているのである。
寿司というと、私は18歳で東京に出てくるまでにぎり寿司を食べたことがなかった。西日本の多くがそうであるように、寿司というのは鮮魚を使わないちらし(ばら)寿司のことであり、太巻きのことであり、いなり寿司のことであった。
久留米で母と姉、甥を伴って寿司屋に行った。母と姉はお好みで食べる寿司屋は初体験であった。何を注文したらいいかわからないといけないので、まず上寿司を注文し、もっと食べたいもの、食べてみたいものがあれば各自発注ということにした。
ところが年齢や体調の問題があったのかもしれないが、どうも箸が進まない。1人前を持てあましている気配。寿司は好きではないのかも。
酒を飲みながらメニューをながめていると「お好み寿司」というのがあった。握りのほかに助六が加わっている。
東京では太巻きやいなりを置く寿司屋はまずない。それらは甘味屋さんのメニューであることが多い。しかしながら久留米では、いや西日本各地の庶民的な寿司屋には当然のごとく太巻きといなりが完備されている。
ついでに言うと穴子ではなく、うなぎを置く店が多いのも西日本の特徴。
ともかく、あまり箸が進まない母と姉に少し気を揉む私を見て、カウンターの向こうにいるご主人が声をかけた。
「小食ですね。これなら食べられるでしょう」
と言って出してくれたのが太巻きだった。

太巻きこそ私にとっての寿司なのだ
主役は卵。それを刻んだカンピョウやデンブ、キュウリなどが囲んでいる。口に入れると甘さは極限まで抑えられ、酒の邪魔にならないほどである。
いま隣にいる老いた母が若かったころ、小学校の運動会のお昼に作ってくれた太巻きはもう少し甘かった。そのことを思い出しながら無言で食べた。
翌朝、久留米市内の道の駅に行ってみた。ご飯もののコーナーをのぞくと各種の太巻きを売っている。見た目は昨夜、寿司屋で食べた太巻きと寸分変わらない。そして予想した通り、握り寿司というものを売っていない。
久留米では太巻きこそ寿司の王者なのである。
(了)
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