絶景の大沼、駒ヶ岳をぐるっと一周!「函館本線の旅」/古谷あつみの鉄道旅 Vol.2
私、鉄道タレントの古谷あつみが考えた鉄道旅プランに、鉄道ライター土屋武之さんをお迎えして、鉄道旅行をより楽しむコツやポイントをお伺いしながら旅する連載企画です。前回は、北海道新幹線に乗車した様子をお伝えしました。北海道新幹線開業が話題になっている函館ですが、今回はそんな函館周辺のローカル鉄道の魅力は何なのか? 今回も「マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ」所属の助川康史(すけがわ・やすふみ)さん撮影の写真とともに、その魅力に迫ります。

今回の見どころはここ!
2. 列車がすれ違う駅で鉄道写真に挑戦!
3. 有名すぎる駅弁「いかめし」
4. 駒ヶ岳を一周!? ぐるっと、ひとめぐり
5. 魅力いっぱい! 函館市電を完乗!
古谷「今日は、函館駅からJRと函館市電を利用した鉄道旅をします。土屋さん、助川カメラマン、アドバイスをよろしくお願いします!」
土屋・助川「よろしく!」
1. 不思議な路線「藤城線(ふじしろせん)」
土屋「藤城線かぁ。なるほど。」

「藤城線」とは通称で、正式名称はあくまで「函館本線」です。函館本線には線路が絡み合い、路線図で見ると8の字になっている不思議な区間があります。七飯(ななえ)駅~大沼駅~森駅がそれです。路線図を見ても、列車がいったいどのような経路で走るのかが、よくわかりません。
藤城線は、七飯駅~大沼駅間の東側の路線。途中に駅がひとつもない、さらに不思議な区間です。

土屋「西側の渡島大野(現在の新函館北斗)経由の函館本線は、下り列車に対して登りの急勾配になっている。そのため特急と貨物列車専用として、勾配がゆるい藤城線が建設され、昭和41(1966)年に開業したんだよ。」
古谷「そうだったんですね! 知りませんでした。」
土屋「北海道新幹線が開業してダイヤが改正された後も、なぜか下りの普通列車が3本だけ藤城線を通っている。チャンスがあれば、この珍しい路線に乗ってみるのもいいね。」
古谷「自由席だし、進行方向左側の席に座りましょう!」
土屋「そうだね。大沼公園駅までは、左側の方が景色がいい。」

古谷「新函館北斗の駅が見えますね!」
土屋「函館山も少し見えるよ。」

古谷「大沼公園駅に着きました! レトロで素敵な、ここの駅舎が見てみたかったんです! ステンドグラスなんかもあって、眺めているだけでも楽しいです。」

大沼公園の駅舎は大正13(1924)年に建てられ、昭和58(1983)年に改築されました。建設当時そのままの、重厚感のあるデザインが特徴です。
土屋「天井がとても高いなあ。何故だかわかる?」
古谷「背が高い人のため!」
土屋「そうそう。君が171cmで、僕が181cmあるから…って、面白くないボケだね…。こういった駅舎はね、鉄道が陸上交通を一手に引き受けていた『鉄道黄金時代』に、地域のシンボルとして豪華に作られたものなんだ。観光地だから、周りの景観にも合うようにも作られている。見てごらん、壁にレンガ調のところがあったりする。」
古谷「本当ですね。こういう駅舎は減ってきているので、旅の楽しみの一つですよね。」

2. 列車がすれ違う駅で鉄道写真に挑戦!
古谷「森駅!?まさか、いかめしですか?」
助川カメラマン「いかめし!最高ですね!」
「いかめし」は、全国でもっとも有名とも言われる駅弁。あらゆる駅弁ランキングで必ずランクインするほどの人気です。私たちは、そのいかめしが買える森駅を目指すことにしました。

古谷「大沼と駒ヶ岳が、よく見えますねぇ。駒ヶ岳がだんだんと大きくなってきて、迫力ありますねぇ。
土屋「大沼公園駅と森駅の間で、右側に座ると一望できるね。空いていればいいけれど。」


森駅行きの普通列車は、駒ヶ岳駅で8分間停車。単線なので、函館行きの特急「北斗6号」とすれ違いです。
土屋「『北斗』の走行シーンが駅のホームから撮れそうだね。助川さんにいろいろ教えてもらうといいよ。」
古谷「それ、撮影したいです!」

古谷「助川さん、よろしくお願いします。」
助川カメラマン「はい、喜んで(笑)。古谷さんのカメラは何ですか?」
古谷「CanonのEOSkiss X4です。」
助川カメラマン「なるほど。僕たちプロが使うようなカメラは、1秒間に14コマとか、連写できる枚数がとても多いのですが、普通のコンパクトデジカメや一般的な一眼レフカメラは、そこまで速くないんです。だから、走る列車を撮る場合は、タイミングを逃さないよう連写では撮らない方が良いですね。」
古谷「難しくないですか?」
助川カメラマン「列車の走行シーンを撮る場合は、とにかく焦らず、神経を集中させること。ここでは、列車が来る音をよく聞いていて、止まっている普通列車の横から、『北斗』の顔が見えた瞬間にシャッターを切ると心に決めておいてください。」
古谷「わかりました! やってみます! きゃー! 難しい!」

古谷「焦ってしまいました…。」
助川「いい感じじゃないですか。これぐらいなら、後でトリミングすれば大丈夫!」

古谷「やっぱり難しいですねぇ。」
助川「だんだん慣れてくるので、大丈夫ですよ! たくさん撮って、たくさん練習しましょう! もちろん、ルールを守って、安全な場所から楽しんでくださいね。」
3. 有名すぎる駅弁「いかめし」

古谷「森駅です!」
土屋「さっそく、いかめしを買おう!」
助川カメラマン「僕も早くいかめしが食べたいです! 鉄道カメラマンは、駅から離れたところへ車で撮影に行くことが多いんですけど、ここのいかめしだけは、必ず買いに森駅に寄るんですよ。」
古谷「駅のキヨスクで買えるんですね。いかめしくださぁい!」

古谷「わぁ!あったかい!」
お昼前に行き、タイミングが良ければ、こうして出来たての「いかめし」が味わえます。ただ、人気駅弁のため売り切れていることもしばしば。特に秋から冬にかけては、全国の駅弁大会へ出品されているため、品薄になることもあるそうです。
そんな時は、駅前にある阿部商店へも行ってみてください。そこでも同じ「いかめし」が売られています。
土屋「古谷さんは、アレルギーでイカが食べれないらしいから、僕たちだけでいただこうか。」
助川カメラマン「ごめんなさい。でも遠慮しませんよ!」
土屋「小ぶりなイカにもち米を詰めて、秘伝のタレで煮込んでいるそうだけど、うまいねえ!」
助川カメラマン「シンプルなんですけど、記憶に残る味なんですよね。」
土屋「イカ独特のえぐみなんかもないし、くどくない。」
助川カメラマン「そうそう、甘くて、やわらかくて最高!」

ここでは書ききれないほど、いかめしの話で盛り上がる二人…。私も食べたかった…。鉄道に詳しい二人に、ここまで言わせるいかめしの魅力は絶大なようです。ぜひ、皆さんも召し上がって、確かめてみてください。
古谷「くぅ~! 待合室の中が、いかめしの香りでいっぱいじゃないですか!」
土屋「ははは。ごめんね。でも、古谷さんが楽しめることも考えているから。さあ、行こう。」
古谷「私が、楽しめるもの?」
われわれ3人は、駅から歩いて約5分のところにある、森郵便局へ…
古谷「ここ、郵便局じゃないですか。私、手紙なんて出す用事ありませんよ。」
土屋「古谷さん、駅スタンプが趣味だと言っていたよね。風景印といってね。消印の一種なんだけど、全国のかなりの数の郵便局には、その土地その土地の風景印があるから、集めると楽しいよ。」

古谷「ほんとだ! これは楽しいですね! 乗り換えの時など、余裕があったら、郵便局を探すのも良いですね。」
土屋「郵便局は駅の近辺にあることも多いし、鉄道旅行の記念にはいいよね。52円以上の切手かハガキに押してくれるから、通常はがきでそろえておけば、帰ってからの整理も簡単だ。」
風景印は、正式名称は風景入通信日付印といい、名所旧跡などの図柄が描かれています。風景印収集を趣味にしている人も多いそうで、駅スタンプといっしょに集めると楽しいでしょう。

4. 駒ヶ岳を一周!? ぐるっと、ひとめぐり
土屋「大沼公園駅経由のルートには急勾配があるので、藤城線と同じように遠回りだけど坂道がゆるい別の線路を敷いた区間だ。昭和20(1945)年の開通だよ。次も右側に乗ろう!」
古谷「また、右側ですか? 何がありましたっけ?」
土屋「乗ればわかるさ。」
古谷「わぁ! 素敵! やっぱり、ディーゼルカーのディーゼルエンジンの音はいいですね。カラカラからって…癒されます。」
土屋「お! 見えてきた!」
古谷「駒ヶ岳ですね! さっきとは雰囲気が違う!」
土屋「感想はそれだけ?(笑) 古谷さんは、なんでこの函館本線一周ルートを選んだの?」

古谷「えっと…。まぁ、とりあえず、2つに分かれたルートがあるし、一周してみたいなぁ、と。それに、景色もいいですし。」
土屋「大沼公園周りの時も、駒ヶ岳が見えたよね? そして、海岸周りでも駒ヶ岳が見える。と。いうことは?」
古谷「あ! 駒ヶ岳を一周ぐるっと回って見られるんですね!」
土屋「そう。駒ヶ岳は、見る角度によって山の形が違うんだ。大沼も両側から見えて楽しいよ。こういう時は、スマホやタブレット端末のGPS機能を使って、現在地を確認しながら乗ると楽しい。」

5. 魅力いっぱい! 函館市電を完乗!
土屋「『乗り鉄』の遊びの一つとして、『その鉄道の全路線全区間に乗る』というものがある。完全乗車を略して、完乗。それを極めていくと、日本の鉄道のすべての路線に乗りたくなってくるんだ。」
古谷「土屋さんは、どうなんですか?」
土屋「もちろんJRも、私鉄なども、すべて含めて日本の鉄道の完乗を達成しているよ~」
古谷「すごい…」

函館市民の足となっている市電の一日乗車券は600円。大人の1回乗車につき210~250円ですから、3回以上乗るのなら、一日乗車券がお得です。
古谷「やっぱり路面電車って、いいですよねぇ。」
土屋「函館市電には、レトロ電車『箱館ハイカラ號(ごう)』や、北海道新幹線開業を記念したH5系塗色の列車も走っているんだ。」

古谷「まずは、函館どっく前停留所を目指しましょう。十字街あたりは、車窓も素敵ですね。」
土屋「古い建物がたくさん見えるからね。十字街の停留所を過ぎてすぐの交差点には、昔の市電の信号所も残っているよ。」

古谷「函館どっく前! ここが、終点なんですね。」
土屋「ここから、折り返して湯の川停留所を目指そう。」

古谷「古い電車には、昔ながらの雰囲気が残っていて良いですね。床も木の温かみがあって…窓も素敵ですね。」
土屋「この窓は、俗にバス窓と言うんだ。昭和30~40年代のバスによくあった、上半分がゴムで固定された窓なんだ。今ではほとんど見られなくなっている。」

湯の川停留所からは完乗を目指し、また折り返して谷地頭(やちがしら)停留所を目指します。
古谷「谷地頭! ここで完乗ですね! のったど~!」
土屋「おいおい(笑)」
古谷「ほんとにぐるっと一周、旅できましたね。」
土屋「時間があれば、いろんな停留所で途中下車しても面白いけどね。一日乗車券があれば、それも自由自在だ。函館市電の湯の川、谷地頭の両終点には温泉もある。ひと浴びするのもいいね。」


翌日は、「箱館ハイカラ號」が走るということで、JR函館駅前で見学しました。

土屋「レトロ電車が来たよ~」
古谷「きゃ~! ほんとだ! 本当にレトロでかわいい!」
土屋「運転席には風よけがないから、春から秋までの運行なんだ。他の電車と同じ運賃で乗れる。もちろん、一日乗車券でもOKだ。」
古谷「可愛い車掌さんも乗っている!」
土屋「『箱館ハイカラ號』の車掌さんは人気の職業で、志望者も多いそうだ。」

古谷「ローカル列車でぐるっとひとまわり旅ができたし…一周してくるのって、いいですね。」
土屋「行きと帰りとでルートを変えると、旅の楽しみは倍になるのさ…」
こうして不思議なコンビのはまだまだ続くのであった…。
次回、古谷あつみの鉄道旅 Vol.3は、香川県、瀬戸大橋へ!
※記事内の価格表記は全て税込です。

土屋武之(鉄道ライター)
鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道のしくみ・基礎篇/新技術篇」(ネコ・パブリッシング)、「鉄道の未来予想図」(実業之日本社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「鉄道員になるには」(ぺりかん社)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)
小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。
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