繁昌亭と大阪天満宮、そして夕暮れに「甚六」のお好み焼きを。

2015.06.17 更新

「上方落語の定席(常打ち寄席)を復活させたい!」。上方落語協会会長・桂文枝ら噺家の奮闘の末、2006年に誕生した「天満天神繁昌亭(てんまてんじんはんじょうてい)」は界隈に不可欠の名所となった。隣には水都大阪の象徴である祭礼・天神祭を司る「大阪天満宮」がある。大阪下町お好み焼きの名店「甚六」は、その大阪天満宮正門からすぐの場所だ。南北に長く(日本最長の2.6km)、天満宮の表参道である天神橋筋商店街沿い、大きな提灯がぽっと迎えてくれる。

※「甚六」は閉店しました(2016年5月現在)

本日も満員。若手・大御所関係なしの真剣勝負「昼席」

天満天神繁昌亭の醍醐味は「昼席」にある。もちろん実力者の独演会や毎月25日の「天神寄席」などが人気の「夜席」も堪能できるが、昼は所属事務所や一門などの垣根を取り払い、噺家が若手から重鎮まで8人(ほか色物など2組)が演じる。
「3席目に出たあの◯◯という噺家よかったね」などと、トリそっちのけで盛り上がったりするので、みな気が抜けない。この日も満員で、パイプ椅子の補助席が出ていました。
昼席は13時に始まり、16時過ぎまでの長丁場。座席では飲食不可なので、中入り休憩の間に外に出たり、館内の無料休憩スペース「輪茶々々庵(わちゃわちゃあん)」でお茶とおやつでも頬張りながら、たくさんのチラシを見て「次はどの寄席に行こうかなぁ」などと皆さん楽しんではります。
▲公演中以外の時間帯(11:00~12:55/16:30~18:25)は一般開放されているので、ひと休みにどうぞ。

さて、長丁場の3時間をトリまで堪能すると、みなが一斉に出てくる。

意外に知らなかった「大阪天満宮」の凄さ

この後どこに行くか思案のしどころだが、「天神さんにお参り」の人ももちろん多い。何と言ってもこの繁昌亭は大阪天満宮の敷地内にあるので、すぐ右手を30歩も歩けば、大阪天満宮の大工門となる。
おなじみの「天神さん」には南の正門(大門)から入り、拝殿でお参りしたらそのままUターンという御仁も多いが、繁昌亭そばの大工門から拝殿に向かう間に見える社殿建築は、複雑に積み重なる屋根や随所に配された細やかな装飾が素晴らしいので、ちょっとゆっくり歩こうではありませんか。
弘化2年(1845)年に造られた名建築はこんな感じです。
▲大工門をくぐり南へ、本殿西側から。木札の立っている唐破風(からはふ)の屋根は登龍門

そして拝殿で参拝し、大門をくぐって振り返るとこんな風景。
天神祭本宮(7月25日)の最後、船渡御(ふなとぎょ)を終えた渡御列(とぎょれつ)が大川から上陸してこの門が目の前にくると、「あぁ祭が今年も終わるんだなぁ」と男たちがせつなく感じるそうで、それがこの辺りだとか。

お好み焼きの名店は、やっぱり「商店街」にある

「甚六」がある場所はあの長大な天神橋筋商店街のアーケード(地下鉄2駅分以上長い)がちょうど切れた頃、天神橋からの風を感じる辺りという、絶妙な場所にある。
2人までなら絶対にカウンターに座るべし。まずはなすびオイル焼きやしいたけ、ピーマンミンチ詰(各380円・税別)などで軽く試運転。とにかく野菜がぷりぷり、味付けのバランスが抜群!のひと言。ますます食欲が湧いてくる。
そして豚玉(880円・税別)を頼みました。
カップの中に細かく刻んだキャベツと、鶏や野菜をじっくり煮込んだ特製のダシに小麦粉や塩、酒、生姜汁を練り込んだ「タネ」を加え、卵1個を入れて店主の土屋雅昭さんがカチャカチャカチャとかき混ぜる。この音で脳内は完全にお好み焼きモード、そして「おいしい口」になっている。
鉄板の上で伸ばした生地の上に厚手の豚肉(ロースとバラがくっついた甚六独特の豚)をのせ、さらに溶き卵をかける。
ひっくり返してからは金属製の蓋(道具までウマそう)をして蒸しながら焼く。
あとは絶妙のタイミングとスピードで辛子、ケチャップ、辛口ソース、マヨネーズ、そして甘口ソースを塗り、刻み海苔をトッピングして完成、のち歓声。
できましたよついにこの日の主役が。
一方、こちらはいかと豚のミックス焼きそば(1,450円・税別)。本日はカウンターの奥で奥様の都さんが焼きます。溶き卵でロールするオムソバタイプ。見た目にもビールとよく合いますな。
お好み焼きはコテでカットして小皿に取って割り箸で食べたらよいが、大阪ではそのままコテで直接の人間も多い。ここはそんなコテ原理主義者の地元民と、「大阪来たら甚六ね」の観光客が交じり合い、どちらも楽しそうに食べている。
▲コテでお好み焼きをぐっと切り分けたときに、生地の「ふんわり」、キャベツの「さくさく」、そして〝豚の厚み〟が手に伝わってきます。

店がオープンしたのは昭和56年(1981年)。土屋夫妻がお好み焼き屋を始めるきっかけは、「子どもに野菜を食べさせるため」なのであった。
ダシには昆布やカツオ、鶏肉のほかに野菜がふんだんに使われているし、店に入ったらまず突き出しに「野菜サラダ」が出てくるのも日本のお好み焼き屋の中でここだけではないか。
ちょっとカレー風味と酸味の利いたキャベツのサラダ(夏期は別バージョン)がホンマに心憎い。
「お好み焼きは胃にもたれる」とお嘆きの貴兄にぜひ一度「甚六」を味わっていただきたい。ふんわりした食感の後口に、キャベツの甘みが広がり、何とも幸せな気分になる。
この夫婦がつくり出してきた味と空間が見事なハーモニーを見せる天神橋筋の夕暮れでございます。そうだ、日祝はお昼から開いてるんだった。
▲甚六ファンにはたまらんツーショット。土屋氏は1960年代に大学でアイスホッケーの選手として鳴らしてはりました。あの腕の筋肉はそれもあるんだな。

お店を出たらせっかくなので5分ほど歩いて天神橋を渡ってほしい。大阪が「水の都」だとすぐに実感できるし、急にバーンと開ける景色が最高です。
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。20年以上前にある仕事でミスをし、日曜朝から梅田で修復のために働いたあと「まっすぐ家に帰るのもなんやし、どっかでメシ食お」と天神橋筋を歩いていたら偶然「甚六」に出会う。『奇跡の寄席 天満天神繁昌亭』(堤 成光/140B)の担当編集者でもある。

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