商都大阪の旦那好みの味を「吉野」「平岡珈琲店」でたのしむ

2015.06.17

太閤秀吉の大坂城築城に遡る「船場」は、いわば大阪・町人文化のふるさと。その船場は、大坂夏の陣、太平洋戦争の2回の戦火で焼失してしまったが、そのスピリッツを受け継ぐ店はある。創業天保12年(1841年)の大阪寿司の[吉野]と大正10年(1921年)の喫茶店[平岡珈琲店]を訪ねる。

吉野の「二寸六分の懐石」。至高の大阪ずし

保存食としての「なれ寿司」の系譜を引く箱寿司が、大阪の本来の寿司。対して江戸前寿司は歴史が新しく、ファストフード的なもの。そして東京式のにぎりずしが大阪に現れたのは明治末から大正前期といわれている。
この店の伝統の箱寿司は、それまでコノシロやサバといった大衆魚を使われていたのを高級化し、ごちそうにした。
すなわち焼きあなご、エビ、厚焼き卵、小鯛、キクラゲ、エビ、味つけ椎茸といった高級素材をそれぞれに調理し、丁寧に箱(木型)に詰めて押す。そのサイズから「二寸六分の懐石」と称されている。味も彩りもバランス良く、それぞれひとつの料理として完成されている。なので醤油はつけない。
いろいろ食べられて飽きさせない、船場の旦那衆好みの贅沢な寿司だ。
箱寿司と吉野巻2,800円(税別)。突きだしと鯛のすましもしくは赤だしがついてくる。
▲現代感覚あふれる外観だが、老舗の雰囲気が伝わってくる。
▲1階はテイクアウトコーナー。ここの箱寿司は大阪では手みやげの逸品としても知られている。鮓、鮨、寿司…額にあるいにしえの文字に注目。

コーヒーとそれをおいしく飲むためのドーナツセットが船場好み

「吉野」で大阪の箱ずしを堪能した後は、この店で伝統の濃く苦いコーヒーを楽しみたい。迷わず関西で現存する最古の喫茶店であり、船場のど真ん中にある平岡珈琲店へ。
船場はここ50年、景気動向とシンクロするように様相がめまぐるしく変わった。バブル期には次々と新しいビルに建て替わり、近年は高層マンションも増えてきた。そんななか昭和なムード漂う貴重な喫茶店。
コーヒーの淹れ方は、自家焙煎した深煎り豆を一度鍋で沸騰させてから天竺木綿で漉す。3代目店主の小川清さんが、繊細な手つきで見せる昔ながらの「ボイリング法」。
コーヒーを淹れる際の香りがひときわ際立つ。「焙煎や挽いているときもそうですが、コーヒーは変化しているときに良い香りがするのです」と小川さん。
名物のドーナツは、当時とても高価だったコーヒーをよりおいしく飲んでもらおうと、開店当初から手づくりされてきた。朝早くから午前中いっぱいまで目の前で揚げられるが、テイクアウトも多いのでランチ後に売り切れることも。
▲濃い舌触りに濃い味だが、すっきりとうまい。「苦い味は大人の味」と小川さん。平岡ブレンド380円(税込)。ドーナツ150円(税込)。
▲船場は近代建築の宝庫だ。大阪瓦斯ビルディング、通称ガスビルは昭和8年(1933年)竣工。
▲日本生命保険相互会社本社ビルの壁にかかる市営地下鉄のサイン。昭和モダンな雰囲気がむんむん。
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)など、主に大阪の街や食についての著書多数。編集出版集団140B取締役編集責任者。

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