丸い器を重ねた「出雲そば」。名店3軒の味とスタイルは全然別物!

2016.06.13

出雲地方の代表的グルメで「日本三大そば」にも数えられる「出雲そば」。朱塗りの丸い器に入ったそばに薬味を入れ、つゆを直接かける「割子(わりご)」という全国的にも珍しい食べ方で知られています。その「出雲そば」の名店と呼ばれる3軒を巡って、それぞれのこだわりや特徴をご紹介します。

~荒木屋~出雲大社のお膝元にある天明年間創業の老舗

▲休日など店の前で入店を待つ人のために縁台が用意される

最初に訪れたのは縁結びの神様で知られる「出雲大社」の参道入口から徒歩3分。創業230年以上で、出雲そばの店としては最古と言われる老舗の「荒木屋」です。
▲「勢溜(せいだまり)」と呼ばれる「出雲大社」の参道入口

旧暦の10月に全国の神々が出雲に集まる「神迎祭(かみむかえさい)」で神様が通る「神迎(かみむかえ)の道」にあり、周辺には神話や伝統文化を伝えるスポットもたくさんあります。
▲神事の「神迎祭」も行われる「神迎の道」

店内は民芸調のつくり。2011年にリニューアルされていますが、老舗らしい落ち着いた雰囲気です。1階はテーブルと座敷の36席。2階にも約40人を収容できる広間の座敷があります。
▲さすがに人気店。壁には超有名人のサインが並んでいます

ここで注文したのは「縁結びセット(税込940円)」。観光客に一番人気のメニューで、2段の割子そばにぜんざいが付き、おみくじと「ご縁袋」が添えられています。もう少しボリュームが欲しい人には、なめこおろしやうずらの玉子が入り、天ぷらもついた「縁結び天セット(税込1,490円)」もあります。
▲オリジナルメニューの「縁結びセット」

そばとぜんざいは意外な組み合わせのように思えますが、ぜんざいは「神在(じんざい)」が語源で出雲が発祥の地と言われ、毎年10月31日は「出雲ぜんざいの日」になっているほど。出雲のご当地グルメが二つ同時に味わえるとは嬉しいではありませんか!
▲そば粉と白玉粉のハート形団子が入ったぜんざい

「ご縁袋」の中には赤い糸が結ばれた「ご縁玉(5円玉)」が入っています。持ち歩けば「良縁に恵まれるかも…」ということで特に女性には喜ばれています。おみくじはイラストや写真が入ったファンシーなデザイン。もちろん書かれている内容は開けてみてのお楽しみ。
▲「縁結びセット」の「ご縁袋」とおみくじ

「出雲そば」はそばの実の甘皮だけでなく黒い殻の部分まで一緒に挽き込んだものが主流ですが、こちらは皮がしっかり取られた部類。コシが強いのにツルリと食べやすく、万人に好まれる印象です。そば打ちの際に使う水は自家の井戸水で、これは創業時から変わらないこだわりとのこと。
つゆも同じ井戸水を使い、ウルメイワシから出汁を取ったさっぱり上品な味わいです。
▲細めでクセのないそば。上品な香りが愉しめる

「割子」と並んで「出雲そば」の食べ方で特徴的なのが、茹でた後の水洗いをせず、そばを釜からそのまま器に盛る「釜揚げそば」です。とろみのあるそば湯を入れて、つゆや薬味をかけて食べます。こちらも出雲大社の食文化を経験するにはオススメの一品です。
▲8代目店主の浜村裕昭さん。「釜揚げそば(税込640円)」もぜひ味わいたい

~献上そば 羽根屋本店~伝統とトレンドが融合した、コースで味わう出雲そば

▲江戸時代末期創業の老舗。外観からも伝統を感じる

続いて訪れたのは、JR出雲市駅から徒歩7分の「羽根屋(はねや)本店」。創業から約200年で、店名に冠している「献上そば」の由来は、大正天皇が東宮の時代(明治40年)に召し上がられたことから。
▲JR山陰本線の「出雲市駅」。駅舎は「出雲大社」をイメージしている

こちらでは、夜限定のメニューとして「出雲そば」を取り入れたコース料理をいただくことができます。
このコースは完全予約制で、好みや予算に応じて3,500円(税込)から自在に設定することができます。内容も和食をベースに、フレンチなど洋のアレンジも可能。共通しているのは、最後に「出雲そば」が出ることです。
▲離れ風の座敷。他に個室やシックなインテリアのテーブル席もある

コースの食事処は中庭を抜けた先にある離れのような座敷。モダンな設えで、室内から坪庭を眺めることもでき、落ち着いた雰囲気で食事を愉しめます。
▲和洋を取り入れたコース料理

この日の献立は、カマンベールチーズ豆腐、春菜とそばの実のお浸し、真イカの造りウニソース、赤酢握り三種盛り、真鯛のポワレ柑橘ソースとニンジンのムース、お吸い物の6品(税込3,500円)。
これらの料理はそば打ち職人とは別に専門の調理人の手によるもの。地元を中心に全国から旬の美味しい食材を集めているそうで、見た目にも美しい料理ばかりです。
▲真鯛のポワレなどフレンチも入る

そして、最後に出てきたのが2段の「割子そば」。殻の部分まで一緒に挽き込んだ「出雲そば」特有の黒いそばですが、細めで食べやすく、喉ごしも香りも申し分ありません。
▲コースの最後に出てくる「割子そば」

そば打ちは店の裏の作業場で行われています。人気店だけにそば打ち職人も常時4~5人を揃え、行列ができる休日などは早朝から仕込みが始まります。
12代目の石原健太郎さんもそば打ち職人の一人。代々受け継いだ伝統を重んじながら、今の時代に合った味わいや食感を追求。常に美味しいそばづくりを目指しています。
▲12代目の石原健太郎さん。そば粉は出雲産だけを使用する

各種そば定食や一品料理も豊富で、もちろん単品の「割子そば(3段/税込750円)」や「釜揚げそば(税込700円)」もあるので、予約なしで行っても充分に「出雲そば」を堪能することができます。
▲1階のテーブル席。老舗らしい上質な空間で接客レベルも高い

~中国山地蕎麦工房 ふなつ~石臼挽き、十割りの無骨なまでの黒さと太さ!

▲水都・松江を象徴する「四十間堀」沿いに佇む

場所を出雲市の東隣りにある松江市に移し、次なる訪問先は全国で現存する12天守閣のうちのひとつ「松江城」の外堀「四十間堀(しじゅっけんぼり)」沿いにある「ふなつ」です。
▲2015年に国宝に指定された「松江城」

店のつくりは農村にある民家風で、足を踏み入れただけでホッとできる温かみのある空間。中央には囲炉裏を囲むテーブル席もあり、田舎に帰って来たような懐かしさを感じます。
▲控えめな照明で、民芸調の味わいのある店内

メニューを開くと、ご主人のそばに対するこだわりが丁寧に書かれています。そんな中、目に入ったのが「そば前に」と書かれた一品料理。
そば屋での粋を愉しむためにも、まずはそば前(メイン料理の前にいただく日本酒)と、この一品料理から始めてみることにしました。注文したのはこの2品。
▲たまご焼き(税込450円)
▲鴨のオイル焼き(税込950円)

旨い!「たまご焼き」はそばつゆを使った甘さを控えた味付けで、そば前によく合います。「鴨のオイル焼き」もそばつゆを絡めて旨みを濃縮した感じで、添えられたネギや舞茸にもしっかり味がついています。ちなみに、この日のそば前は超辛口の地酒「王祿(おうろく/税込980円)」。小気味よいキレで、スイスイ飲めます。
▲割子そば(3段/税込750円)。そばぜんざいとそばの揚げ餅も付く

そば前のひとときを愉しんでいると、ちょうどいいタイミングでそばが運ばれてきました。このそば、ひと目で違いが分かります。太くて、短くて、黒い。典型的と言っては誤解があるかもしれませんが、個人的には「これぞ出雲そば」といった容姿です。
▲もちもち感があり、そば本来の風味が堪能できる

「昔の家庭では石臼を使っていたので、短くブツブツと切れるようなそばしか打てなかった。打ちにくくても、味が濃くて透明感のあるそばが好きなんです」と、ご主人の槻谷英人(つきたに ひでと)さん。
▲そば打ち場が店内にあり、時間帯によっては仕事風景を見ることもできる

奥出雲町の契約農家と自家栽培のそばの実だけを使い、石臼による粗挽きの自家製粉。高温にならないよう低速で挽くので、そばの風味がしっかり残り「生きた粉」になるとのこと。ちなみに、槻谷さんは普通の店のそば粉よりもやわらかめに挽くそうです。
▲「生きた粉」は水を必要とするため加水量が多くなる

噛まずに飲み込むのがそば通の食べ方だと言われていますが、このそばはしっかり噛んで味わいたい、そんな気にさせるそばです。舌の上でそばの実の風味が広がり「あぁ~、そばを喰ってる」と実感できる力強い味わい。わざわざでも出かける価値のある一軒です。
一言で「出雲そば」と言っても、味わい方や愉しみ方もいろいろ。伝統や新しい試みなどスタイルも様々ですが、3軒に共通するのは「出雲そばの美味しさを伝えたい」という強い気持ち。それが名店と評価される人気の理由のようです。

さて、最後になりましたが、地元以外ではあまり馴染みのない「割子そば」の食べ方をお教えします。よく分からない場合は、お店で聞いてくださいね。

<割子そばの食べ方>
1)そばの上に適量の薬味をのせる。
2)つゆを「の」の字を書くようにかける。
3)器の中で混ぜてつゆをそばにからめて食べる。
4)残ったつゆは次の器に移し、薬味とつゆを足す。
5)そば湯の入ったお猪口に残ったつゆを入れて飲む。
廣段武

廣段武

企画から取材、撮影、製作、編集までこなすフリーランス集団「エディトリアルワークス」主宰。グルメレポートの翌日に大学病院の最先端治療を取材する振り幅の大きさと「NO!」と言わ(え?)ないフレキシブルな対応力に定評。広島を拠点に山陽・山陰・四国をフィールドとして東奔西走。クラシックカメラを語ると熱い。

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