手つかずの自然が残る、そして残してゆく那須平成の森。動植物の息吹を、歩いて、見て、触れて感じよう

2016.08.08 更新

那須御用邸の用地として、近年までほとんど人が立ち入れなかった「那須平成の森」。約560haの広大な森には、普段なかなか見ることができない動植物が生息しています。そんな豊かな森を歩き、ありのままの自然に触れられるガイドウォークに参加してきました!

大切に守られてきた森は自然の宝庫

那須の山々のふもと、標高1,000m前後に広がる「那須平成の森」は、もともと那須御用邸の一部でした。
平成9年度から5年間にわたり行われた自然環境調査で、この森には豊かで多様な自然環境が残されていて、ブナの自然林が広がるほか、国の天然記念物に指定されている「ニホンヤマネ」などの希少種をはじめ、多くの動植物が生息、生育していることが確認されました。
▲数百万年前から日本に生息し、生きた化石といわれている「ニホンヤマネ」。森の木の上で生活しているという(写真提供:環境省)

そして「豊かな自然を維持しつつ、国民が自然に触れ合える場所として活用してはどうか」という天皇陛下のお考えを受けて、天皇陛下御在位20年という節目の機会に、御用邸用地の約半分にあたる560haが宮内庁から環境省へ移管されました。 

その後、遊歩道や拠点施設「那須平成の森フィールドセンター」の整備が進められ、平成23年5月に「日光国立公園 那須平成の森」としてオープンしました。
▲東北自動車道・那須IC、那須高原スマートICから約40分で「那須平成の森」の入り口に到着
▲入り口からすぐにある「那須平成の森フィールドセンター」
▲フィールドセンターでは、周辺の自然や利用に関する情報提供、ガイドウォークの受付などを行っている
▲動植物に関する書籍などもたくさんあり、ここにいるだけでもリフレッシュできちゃいます

気軽に散策する、じっくり歩く…森を楽しむためのさまざまなプログラムを実施

「那須平成の森」は、自由に散策できる「ふれあいの森」と、自由な立ち入りを規制し、ガイドウォーク利用専用エリアとなる「学びの森」の2つのゾーンに分かれています。

「ふれあいの森」には、車椅子でも利用できる園路や、かつて幻の滝と言われた「駒止の滝」の観瀑台まで続く遊歩道などが整備されていて、誰でも無料で利用できます。また、事前予約がいらない無料プログラムなども用意されています。
▲「ふれあいの森」にある「駒止の滝」は幅約2m、高さ20m。フィールドセンターから約3km、往復1時間30分ほどで行くことができる(写真提供:那須平成の森)
「学びの森」は、インタープリターと呼ばれる自然環境に精通したガイドが同伴し、ガイドウォークを行うエリア。ガイドウォークは予約制で有料。所要時間は2時間からで、コースにはアップダウンや一つの谷を越えるものもあるので、軽登山に準じた服装での参加がおすすめです。

フィールドセンターで心と体の準備万端
いざ!ガイドウォークへ出発‼

今回参加するのは、「学びの森」で実施される2時間コースのガイドウォーク(大人1,600円、小中学生800円※ともに税込)。開始15分前にフィールドセンターに集合し、参加者の皆さんと挨拶した後、今回ガイドを務めるインタープリターの小西さんからコースの説明が。コース一帯は那珂(なか)川の源流域で、全長は約1,5km、そんなにアップダウンも激しくないとのこと。ただ、手つかずの自然がゆえにツキノワグマやスズメバチなども生息していると聞き、一瞬緊張が。しかし、遭遇した場合の注意点などもしっかりと伝えてもらい、ほっとひと安心。
▲出発前にコースを地図で確認。地図で見ると、今日歩くコースは森全体のごく一部だということを知り、改めて森の広さに驚く
▲フィールドセンターのデッキから見える茶臼岳に見送られ、いよいよガイドウォークに出発!

人工的なものが一切ない森の中
葉の揺れる音、野鳥、虫の声だけが響く

フィールドセンター前の道路を渡り、鍵のかかったゲートを開け、いよいよ「学びの森」の中へ。一歩足を踏み入れると森一帯が静寂に包まれていて、この先どんな出合いがあるのかと、期待に胸が膨らみます。
▲森の中は自然環境を生かすため、歩道は整備されていない
と、早速森の中から「ピィチュリ、ピッポプリ…」と鳥の鳴き声が。小西さんに聞くと、初夏に森の中で鳴く「キビタキ」という鳥だという。上を見上げ鳴き声の主を探すが、生い茂る葉でその姿は確認できず…が、明るく可愛らしく、まるで「こんにちは♪」と、私たちに話しかけてきているような鳴き声に心がほっこりしました。
▲黄色と黒の体色のコントラストが鮮やかな「キビタキ」。そのお姿…実際に見たかった‼(写真提供:那須平成の森)

さらに、「ココココココ…」という木に何かが当たるような音も。これはキツツキが巣穴を開けるときに出る「ドラミング」という音で、なんと1秒間に20回も木をつつくとか‼
▲この木のどこかに「キビタキ」や「キツツキ」が…!?
そんな森の住人たちに歓迎され、ゆっくりと森を進んでいきます。

森はミズナラやブナの木に囲まれていて、空気はひんやりと涼しく、歩いていても快適!途中、幹肌が模様のように見えるリョウブの木や、ヤマブドウのツルが絡み合う光景などを目にしました。
▲ブナの木に手を当てると、木自体もひんやり感じる
▲幹肌が剥がれ落ち、模様のようになったリョウブの木
▲ヤマブドウのツルが絡み合う様子は自然の造形美

ツキノワグマの爪痕を発見!

そして、ひときわ大きなコシアブラの木の前に到着。小西さんが「これは何だと思いますか?」と指さした場所。そこにあったのは、なんとツキノワグマの爪痕でした!小西さんによると、これぐらいの高さの木であればツキノワグマは簡単に登れるといいます。
▲コシアブラの木に残っていたツキノワグマの爪痕
ツキノワグマのように行動範囲が広く、生息に多様な環境が必要な種は「アンブレラ(傘)種」と呼ばれ、その種の保全を行うことによって、同じ域内に暮らす他の多くの生物種の生息も保証されるといわれています。
例えば、ツキノワグマが果実を食べ、その種子を糞として広範囲にまき散らすことで、森の環境の維持や回復に役立っているのだそうです。

つまり、ツキノワグマが生息しているということは豊かな森だということ。
爪痕に驚きつつも、自然を守るためには人間がむやみに手を加えず、共生しあって行くことが大切なのだと感じました。
▲爪痕の前で説明してもらうツキノワグマの生態に、心の底から納得
▲同じ木にはエゾハルゼミの抜け殻も

朽ちた木がつなぐ、新たな生命

森の中には、病気になってしまった木や今にも倒れそうな木も。それも敢えてそのままにしておくのがこの森のルールだという。なぜなら、それらを利用している動植物がいて、それが新たな生命の誕生につながるからだといいます。
▲キツツキに巣を作られた木(真ん中)
▲キツツキの巣穴には、別の動物が住みつくこともあるとか 
▲倒れた木もそのままに…

より動植物の気持ちに近づくため
森の中でゴロンと休憩

1時間ほど歩いたところで、小西さんから「森の中の動物たちは今、休憩時間。というわけで私たちも、森の中で寝っ転がり休憩しましょう!」と、小西さんが背負っていたリュックサックからシートを取り出し参加者へ。そして、ここでゴロ~ンタイム!実はこれ、参加者の人数が少ない日ならではの特別な時間とのことで、なんともラッキー♪
▲ここまでシートを背負ってきてくれていた小西さんに感謝です!
▲参加者全員、思い思いの場所でゴロンする

早速寝転がると、木々の間から差し込む太陽、土のひんやりした感触、そして香り…いつもとは違う目線で、全身で感じる大自然。まるで、自分も森の住人になったような、特別なひと時を過ごすことができました。
▲空を見上げると、木々の緑が一面に
休憩をしリフレッシュしたところで、再び森の中を散策!かわいらしく咲くコアジサイを見たり、小さな沢を越えたり…歩くほどに新たな光景に出合います。
▲山の中に咲くコアジサイ
▲この小さな沢の水が那珂川の流れとなり、いずれは海へ

何が住んでいるの?想像するだけでワクワクするミズナラの樹洞

そして、小西さんが最後に案内してくれた、とっておきの場所がこちら!
▲樹齢120年のミズナラの木には、大きな穴が…これは一体!?

実はこれ、フクロウの住みかだそう。もしかしたら120年もの間には、フクロウ以外の動物も住んでいたのかもしれませんね。木が横に伸びているのは、太陽の光に向かって伸びていくためだそう。生命の息吹をひしひしと感じます!
▲何かがひょっこり顔を出しそう。想像が膨らみます

さまざまな動植物の息吹に触れたガイドウォーク。終了後、森からコンクリートの道路に出た瞬間になんだか違和感が。人間は元々森に居たといわれるがゆえでしょうか、帰るべき場所はもしかしたら逆なのかもしれません…。

ぜひ、「那須平成の森」で生命の素晴らしさを感じてみてください。きっと明日への活力になりますよ!
yuka

yuka

栃木が大好きで、大学卒業まで県内を出たことのない「栃木箱入り娘」。地元の魅力を知ってもらうべく県内の出版社、テレビ局、新聞社などに勤務。好きなことは直売所&日帰り温泉巡り。おいしい野菜と気持ちいい温泉のためならどこまでも行く。モットーは「思い立ったら即日!」

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