ショウガ醤油で注目される、ご当地「姫路のおでん」

2016.06.16 更新

姫路城は日本初の世界文化遺産であり国宝だ。2015年の春、5年間かけた保存修理工事を終え、この年の入城者は約286万人と、前年の91万人からどっと増えて過去最多を記録した。そしてその姫路城のお膝元である姫路市とその周辺で注目を集めているのが「姫路おでん」。ショウガ醤油をつけて食べる独特のおでんだ。地元の「おでん通」太鼓判の3軒をご紹介する。

美しい姫路おでんを丁寧この上なく。「能古」

「姫路おでん」の店で最も知られているのが「能古(のこ)」。
場所はJR姫路駅から、姫路城方面に徒歩5分。山陽姫路駅からなら2ブロック北と駅から近い白銀町(しろがねまち)にある。
城下町特有の、縦横に張り巡らされた碁盤目の道路。白銀町の町名は江戸中期よりの名称だ。
▲文字通り「白鷺」の姿に生まれ変わった姫路城
▲店に行くまでの南町栄通り。旧い城下町=「城の下町」のにおいがする
「能古」のオープンは1997年だが、2007年にこの場所に移転してきた。店は最近、二代目として大橋ひとみさんが女将を継いだばかりとのこと。
おでん鍋をL字型に囲むカウンター席9席、奥に4席のテーブルが1つ。常におでんダネの具合を見つつ、客にサービスするのにぴったり手の届く大きさだ。
ここのおでんは美しい。
選りすぐりのタネと透き通ったダシ。
器は英国の陶芸家バーナード・リーチが絶賛し、自らも滞在して作陶した逸話で知られる大分県日田市の小鹿田焼(おんたやき)で統一されている。
おでんはダイコンや厚揚げ、ちくわといったおなじみのものに加え、タコ(明石蛸のお膝元である)や湯葉、生麩などがメニューに載っている(値段は表記されていない)。
この日はメニュー表記されていない季節ものの淡竹(ハチク)があって、客のほとんどが注文していた(350円)。

まず厚揚げ(200円)と一緒に注文する。
厚揚げはほんとうに大きくぶ厚い。淡竹は食べやすいように丁寧に切ってくれる。刻み青ネギがのせられている。
ショウガ醤油は大きな器にダシが足されて出てくる。
次いでタコ(600円)。大ぶりの足1本分にびっくりするが、これも目の前で食べやすいように切ってくれる。
ほどよい煮込み加減だから、ぶりっとした歯ごたえが生きていて、これはショウガ醤油にぴったりだ。
ちくわ(200円)は注文があってから生のものをさっとダシに通す。
だから良い素材の味が生きている。「練り辛子の方がおいしいよ」と「開店時間前から飲んでいる」ゴキゲン状態の隣の常連さんグループからアドバイス。
食べ比べてみるとなるほどそんな気がする。
メニューにない明石鯛の造りを塩で、焼きあなご(これも地元播磨灘名産)を生わさびと貝割れ大根と一緒に海苔で巻いて食べている。
この店はまぎれもないおでん屋だが、常連さんは小料理屋使いをしているようだ。
せっかくだからと勧められ、数切れを試食させてもらう。うまい。さすが播磨灘の魚介だ。
▲焼酎の銘柄もこの通り。グラス1杯600円~

初めての店なのに、初代女将さんと重要無形文化財保持者で観世流シテ方の常連グループの旺盛なコミュニケーションのおかげで、アットホームな雰囲気に飲み込まれる。
おでん鍋はダシが沸騰しないように工夫してあること、ダシは鰹と昆布だけであることなど教えていただく。
いやはや、地元が誇る「良い店」だとの実感ひしひし。
※値段はすべて税別。基本的に時価なので参考価格。

気軽に姫路おでんを、の店「くにさだ」

姫路で一番の歓楽街の魚町。
でっかいネオンのある老舗大中国料理店を過ぎてすぐ角の一等地にある「くにさだ」。
おでんと焼鳥がメインの居酒屋だ。
10人ぐらい座れるカウンターに大きな長方形のおでん鍋が鎮座。
入口にテーブル席1、奥に小上がりの座敷席1の小さなキャパ。
メニューのA面がおでんで、「一四〇円 豆腐 平てん ごぼてん ちくわ…」と値段の順に約40種。最後は「二九〇円 たこ」である。
「一七〇円 すじ肉」には2種あって、「アキレス 牛スジ」となっているのがシブすぎる。これは絶対食べるべしだ。
瓶ビール(520円)を注文後、アキレス、ちくわ、こんにゃく、とりあえず。
アキレスとこんにゃくが先に出てきて、ちくわはナマを鍋にいれてしばし。
そうそう、ちくわは「浅いのがうまい」。つまり、あまり煮すぎるのはダメ。ツボを突いてくれます。
カウンターには小さな壺状の陶器のなかに入れられたショウガ醤油。
練り辛子もひとまわり小さな壺にあるが、隣の地元客によると「あまり使わない」とのこと。
おでんが出てくると壺のスプーンですくって、上からおでんダネに直接かけるのがこの店流。
隣の女性客が手本を見せてくれる。
そのお隣の男性も地元の方で「子どもの頃から家でもやっぱりショウガ醤油ですわ。夜店の屋台とかでは大阪の串カツのように、おでんにドボンと浸けて渡してくれるんですわ」。
なるほど、「大阪名物二度づけお断り」の姫路バージョンが「おでん」なのか。
▲たこ(290円)と大根(140円)

この店のおでんは昆布や鶏ガラのうす味のダシで、それがショウガ醤油に合う。
ショウガ醤油もマイルドなのでおかみさんに訊ねると、醤油にダシを調合しているとのこと。
気軽におでんで一杯の店、であるが相当のこだわりとお見受けした。
※値段はすべて税込

人気居酒屋「停主」の姫路おでんとあなご丼

姫路城のすぐ南、本町にある「停主(ていしゅ)」。
前の道路から見える姫路城のライトアップが美しい。
そっけなく提灯がかかっている入口だが、扉の横を見ると大きくてポップな姫路城の絵が。なかなか良いムード
扉を開けて厨房を囲むコの字型のカウンターに座る。
「姫路おでんのこの道60年、この店で55年」というご主人の池尻康典さん(右端)ご一家がお忙しい中、お迎えしてくれる。
お目当てのおでんは1つ100円から。
「うちは何品ぐらい食べるか言って頂いたら一番おいしいものをおいしい状態で出します」とカウンター内から娘さん。
厨房にはおでん鍋、焼鳥用の炭火、奥にはコンロもある。
メニューを見ると、鍋やご飯ものまで豊富だ。
オールマイティな居酒屋さんと見た。
それではまずおでんを、と4品お願いする。
出てきたのは右上から時計回りに厚揚げ、玉子、豆腐、ダイコン、そしてスティックに刺された見慣れない練り物。
これは姫路名物の「レンコン棒」。姫路はレンコンの名産地。播磨灘でとれる魚のすり身と一緒に練りこんで棒状にした、「地産地消」のナイスなおでんダネ。

例のショウガ醤油は、「どばーっ」という感じで、おのおののおでんダネにあらかじめかかっている。おまけに練りカラシもスタンバイ。

「うちのおでんは甘く炊いているんで合うんですよ」とご主人。
まずダイコンを一口食べる。
なるほど甘めの味で、ショウガ醤油できりっと引き締まる。
日本酒もビールももちろん良いが、よくダシが浸みたこの濃い味おでんにはやっぱり焼酎だ、ということで地元のヤヱガキ酒造が地元の酒屋とコラボした「ゆいゆい」(一杯450円)を注文。
水割りで、と注文するとゴツい陶器のコップにオンザロックと水が別のグラスで出てきた。
これは酒飲みのココロをわかっていただいているようでありがたい。
レンコン棒はしゃきっとしたレンコンの歯ごたえと、ねっとりした魚のすり身のバランスが良い。

厚揚げ、玉子と食べて、ふとカウンターの「地物天然穴子 穴子丼」が気になってご主人に聞くと、「これはうまいですよ」とのことだ。

アナゴの名産地・瀬戸内でも屈指の明石浦漁協の証明書付きのもので、「明石海峡(明石~加古川沿岸から南方へ淡路西淡町付近までと大阪湾より)の海域で漁獲された真アナゴであること。明石浦漁業協同組合の組合員が水揚げした真アナゴであること」が証明されているではないか。
これはぜひ頂かないと、とのことで注文する。
完全無欠な中型ど真ん中の焼きアナゴを見せてくれる。
「こだわりのアナゴ専門店の焼き。夫婦で焼いてるんや」とのことだ。
炭火で炙られることしばし。錦糸玉子と海苔と一緒に出てきた穴子丼。
言うことナシである。
おいしい姫路おでんを食べて、地元の焼酎。明石の極上の穴子丼で締め。
こりゃ極楽、極楽。
▲奥には囲炉裏端の座敷席もある、地元人気のメガ居酒屋

※値段はすべて税別
ショウガ醤油をつけるのが特徴の姫路おでんだが、それにも各店の個性があるのがいい。
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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