現存最古の中華そばが阪神尼崎にあった「大貫」

2015.06.17 更新

元気な商店街のあるにぎやかな下町といったイメージが強い尼崎。阪神尼崎駅前界隈は、商店街を中心に、その周りにもたくさんの店が連なるエリア。その中でも地元の人たちに長く愛される一軒に、「現存最古」の中華そばのある老舗「大貫本店」がある。

駅前の商店街はタイガース一色

▲商店街は、尼崎駅を降りて北口へ出た後、西へすぐ

阪神電車の尼崎駅界隈と言えば、線路のすぐ北側を西に向けて延びる長い中央・三和商店街が有名だ。阪神タイガースが優勝したりすると、必ずと言っていいほどニュース番組の中継が入る。商店街をあげてタイガースを応援していて、優勝セールなども派手に行われるため、ペナント争いを繰り広げていると商店街の雰囲気もがぜん盛り上がる。

いや、優勝争いなどしなくても勝手に盛り上がっている。ここでは「日本一早いマジック点灯」と称して、毎年シーズン開幕前にタイガースの優勝を祈願してマジックを掲示する。
▲商店街のアーケードはタイガース一色
▲天井では動く看板キャラ(?)の「めでタイガー」が、タイガースの優勝マジックを元気に宣伝中

ちなみに、この取材で訪れた際のマジックは「94」だった。決して早ければいいというものではないと思うのだが、地元民にとってはすっかり恒例行事のようになっている。
▲写真右が練りもの専門店の「枡千」

この商店街には生鮮食料品や惣菜などを売る店から、店先で立ち呑みのできる酒屋、パチンコ店、うどん屋などとにかくいろいろな店がある。最近は携帯電話ショップやコンビニ、マッサージ店なども増えてきた。それでもなお、練りもの専門の「枡千(ますせん)」のような安政年間創業という店があったりして、歩いてみると何かと発見が多い。

城下町の歴史を伝える「寺町」

ところで、線路を挟んで商店街の反対側に「寺町」と呼ばれるエリアがあるのをご存じだろうか。大小合わせて十箇寺が集まった一角は、下町尼崎とは打って変わって風情のある景色が広がっている。
▲寺町は阪神尼崎駅の南西側。駅を出るとすぐに案内表示がある。歩いて5分ほど

こうした姿になったのは、江戸時代。元和3年(1617年)、尼崎城が築城された折、尼崎各所に散在していた寺院が集められたのだ。寺町は東側にある城や城下町を守るための出城代わりになると共に、監視をしやすくし、寺院勢力の拡大を抑制する狙いもあったという。
尼崎城は阪神尼崎駅の南東側、現在は尼崎市立中央図書館が建つ場所にあった。寺町の石畳や瓦屋根の風景は、そんな城下町の歴史を伝える貴重な存在。門を入って参拝できる寺院もあるので、立ち寄ってみてはいかがだろう。京都や奈良とは規模が違うが、ここもまた尼崎らしい場所だ。

大正元年創業の「大貫本店」

さて、前置きが長くなったが、尼崎には「現存最古」の料理がある。商店街から出てすぐの場所にある「大貫本店」の看板メニュー、中華そばだ。店構えはごく普通の中華料理店だが、意外やその歴史は100年以上も前にさかのぼる。
「大貫」の創業は大正元年(1912年)、神戸の旧居留地でのこと。現店主の曾祖父が中国人料理人を雇い、中華そば専門店を開店した。するとたちまち人気となり、店舗営業に加え、屋台での営業も開始。多い時では10台以上にも上ったという。
この頃すでに他の店でも中華そばは出されていたが、現在まで営業を続ける店はなく、これが「現存最古」の由来である。店はその後、昭和27年(1952年)に戦後のヤミ市の活況を見て尼崎へ移転。それ以来、60年以上この場所で営業を続けている。
▲中華そばと焼飯(小)のセット(1,500円・税込)。焼飯は小と言っても2人で分けてちょうどくらいのボリューム

肝心の中華そばはご覧の通り、いたって素朴でシンプルなもの。追い足しを重ねて使われ続けてきた秘伝の醤油ダレに、鶏ガラや豚骨でとったスープを合わせる。濃いのは見た目だけ。さらりとしていて驚くほどあっさりした味わい。創業以来変わらないという足で踏んで自家製するたまご麺も、ぷりぷりとしていて旨い。具材はチャーシューにメンマとキクラゲのみ。キクラゲは刻んだものではなく大きいのが嬉しい。

取り立てて奇をてらったところは何もないのだが、他にはない独特の風味が地元民に愛され続けている。わざわざこの一杯を食べるためだけに尼崎を訪れる人や、遠方から取り寄せる人もいる。
▲店主の千坂創さん。丁寧に手作りすることを心がけている。

「お客さんから『ベストセラーよりもロングセラーの方が難しい』と言われると、自分が受け継いでいるものの大きさを実感しますね」と4代目店主の千坂創(ちさか・はじめ)さん。今や店の歴史は創業の地である神戸よりも尼崎の方が長くなった。阪神タイガースが勝った翌日には生ビールが安くなるというサービスも、尼崎の街を愛し愛されている証か。「尼っ子の味」はこれからもきっと受け継がれていくのだろう。

最後に、尼崎観光のお供を2つご紹介。尼崎南部を知り尽くしたフリーマガジン『南部再生』は阪神電車の駅や市内の尼崎信用金庫各店などで配付。よくあるお店の紹介とは全然違った切り口の編集で、街のことを深く知ることができる。
また、お土産なら尼崎駅北側の広場にある「メイドインアマガサキショップ」へ。文字どおり、尼崎生まれの逸品が揃っている。
大迫力

大迫力

編集出版集団140B、編集者・ライター。尼崎で生まれて育ち、現在も住む。食べものから工業製品まで「尼崎産」を紹介する「メイドインアマガサキ・コンペ」の審査員や工場地帯をめぐる運河クルージングのガイドなど、地元での活動も増えている。

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