幾重にも漆が塗られた伝統工芸「輪島塗」の繊細な蒔絵を体験

2016.06.19

石川、福井、福島、香川…と、全国各地で作られている漆器。軽くて薄くて美しく、使いやすさと意匠の追求を重ねた器は日本固有の技術の結晶。海外でも木の器は使われていますが、日本のように繊細な器はほぼありません。特に石川県能登(のと)の輪島塗(わじまぬり)は、日本屈指の伝統工芸。その輪島塗の魅力を「漆アミューズメント・塗太郎(ぬりたろう)」で伺ってきました!

能登の風土と歴史が育んできた「輪島塗」

伝統工芸品である輪島塗は、「輪島の職人の手により、輪島地の粉(わじまじのこ)を使い、布着せ本堅地(ぬのきせほんかたじ)を施し、手作業で塗り上げられた塗り物」かつ、「原材料となる木や漆全てが天然の自然素材であるもの」のみにつけられる総称です。

輪島地の粉とは輪島市内で産出される珪藻土(けいそうど)を焼成粉末にしたもので、布着せ本堅地とは木地に麻などの薄い布を貼って補強したもの。輪島地の粉に天然漆を混ぜて何層にも重ねて厚く塗られているため、何百年経っても色あせない艶のある色合いを生み出しています。

また、天然漆は1回ごとに異なる乾き方をするため、熟練の職人でも常に神経を使うと言われ、ひとつの製品が仕上がるまでに最低でも4~6ヵ月ほどかかります。中でも「輪島塗」は厚みのある塗り方が施され、これは輪島でしかできない手法なのです。
▲沈金(ちんきん)を施している様子

その理由は輪島の気候。漆が乾くには一定の湿度が必要ですが、能登は温度が程よく安定があり、塗った漆が翌日には乾くほどの風土と湿度を備えた、漆の特性をきれいに引き出すのに最適な気候なのです。ゆえに、輪島では漆を用いた漆芸が得意と言われているのだそうです。

かつては何軒もあった輪島塗の蔵と店舗ですが、2007年の能登半島沖地震で多数倒壊してしまったことで塗り職人たちの半分以上が蔵をたたんでしまい、今では蔵と店舗が少なくなってしまいました。

今回訪れた「漆アミューズメント・塗太郎」は、その職人の仕事を間近に見て、本物の輪島塗を買えて、体験もできる数少ない施設。しかも輪島塗の器でお茶をいただけるカフェもあり、輪島塗の魅力をさまざまな角度から堪能できるんです!
▲朝市通りの細路地を入ったところに入口があります

輪島塗の蒔絵をいざ体験!

▲本館内の工房と併設している輪島塗の体験コーナー

体験を通して輪島塗を知ってほしいとの思いで、約17年前から蒔絵や沈金の体験を始めたという「漆アミューズメント・塗太郎」。
購入もいいけれど、体験することで日本の伝統工芸の質の高さ、美しさにより身近に触れられるとのことで、女性を中心に多くの人が体験しています。現役職人の先生による丁寧な指導で、初心者でも気軽にチャレンジできます♪
▲シンプルなおちょこもあれば、ハートの小箱も!

職人用のノミで自由に模様を掘って金粉を埋めていく沈金体験もできますが、今回は初心者でも簡単にできるという蒔絵体験をセレクト。
蒔絵とは漆器の上に漆で絵や模様を描き、その上に金粉を乗せていく作業。これを「蒔(ま)く」というので「蒔絵」といわれます。

特筆すべきは体験できる器がとても種類豊富なこと。最初は箸や皿など簡単でスタンダートな漆塗りの小物だけだったそうですが、お客さんからの様々な要望によってバリエーションが増え、現在はお椀やタンブラーから宝石箱、なつめ、重箱までなんと約50種類もあるのだとか。
料金は1,300円から10万円(共に税・器・体験料込)と幅がありますが、工房から直に卸している特別価格のため、実はとてもお得に体験できるんです。
▲実際に蒔絵体験で使う7色の金粉

金や銀だけでなく、緑、赤などカラフルな金粉は、光沢も申し分なし。色の決まりはなく、好きな色を自由に組み合わせられるので、毎日使いたくなるデザインの漆器が作れそう!
▲今回の体験はタンブラーをチョイス(税込7,500円)

あらかじめ薄く手彫りした絵を入れてあるガイド付きの器か、お手本を見ながら、あるいは自分で自由に描くフリースタイルの器のどちらかを選べます。今回はフリースタイルの器を選んで、挑戦!

天然漆は手がかぶれる可能性があるため、体験で使うのはかぶれない人工漆。
人工漆を細筆で塗り、その上に金粉を蒔いていくのですが…この加減が難しい!すると先生が「間違えても消せますよ」と教えてくれました。
▲個所ごとに漆を塗って、金粉を蒔いて…と繰り返していきます
▲金粉を2色使ってグラデーションをかける作業が、思った以上に楽しい!

ごく少量の金粉を漆の近くに乗せ、ブラシではきかけて蒔いていきます。
なお、グラデーションにする時は筆の加減がコツ。強く色を出したい時はしっかりと、薄くしたい時はごく薄く蒔きます。2色のグラデーションにする場合は、1色目で全て蒔くのではなく漆部分を残し、残した漆部分から別の色を蒔きます。
余った金粉をはき落として、次の部分へ。ひとつひとつの作業を繰り返し、徐々に模様ができていきます。

はみ出した部分などを先生に修正してもらい金粉を蒔いた絵を整え、完成です。体験所要時間は1~1時間半程度で、世界でひとつの輪島塗が手に入ります。
▲自分で蒔絵を施した本物の輪島塗は愛着もひとしお

漆がしっかり乾いたら、金粉は洗っても落ちないのでふだんづかいもOKだそうです。何層にも重ねられた漆塗りなので白木よりは頑丈ですが、プラスチックではなく自然素材の漆器。そのためやさしく取り扱うのが長く使い続けられるコツで、洗ったらしっかり水分を拭き取るのも大切とのこと。

館内のいたる所で漆の技術を実感

体験の他にも魅力はたくさん。施設内のギャラリー「NURITARO CASUAL」ではさまざまな輪島塗が販売されています。
山中の木地挽き技術で0.8mmの薄さにまで挽かれ、口あたりがとても心地よい器や雑貨の他、あえて強化樹脂を使うことで実現した、現代的なデザインの漆器等がそろいます。
▲ギャラリー内ではお手頃価格で現代的なデザインの漆器が購入可能

100年、200年前と変わることなく何度も繰り返し創造し続けることで生まれてくる洗練、工夫が新たなる輪島塗の魅力を生み出しています。
▲自然素材では作り出す事が難しい強化樹脂製のデザートカップ(税込1客2,500円)
▲明るいグラデーションのサラダボウル(税込3,000円)

強化樹脂ではありますが、その上に何層もの天然漆を塗っているので漆の質感は同じ。むしろお手頃価格なので、漆器を子どもに使わせてみたいという人や、現代的なデザイン漆器を好む人、気軽に漆の質感に触れてみたいという人に人気なのだそうです。

シンプルさの中に気品、あるいは優美な意匠。さまざまな表情を持つ輪島塗は料理や人生の節目の儀式を引き立ててくれます。
▲ギャラリー内の坪庭には本物の漆の木が

すっと上へ伸びる漆の木。かぶれるので触れませんが、この木の幹に傷をつけてにじみ出してくる樹液を掻き取り、漆を採取します。1本で約200g程度とわずかな量しか採れないため、天然の漆は非常に貴重なもの。それを何層にも塗り重ねるのですから、本物の漆器が高価になるのも納得です。
手や足、目といった五感、肌で漆の良さを感じることで「本当にいい漆の良さ」を知って、判断してほしいという思いから、ギャラリー内は扉はもちろん、梁や天井、柱までもが漆塗り。他の館にも漆塗りが多く見られます。

実際に使われていた蔵で、漆を感じながら一服

体験工房がある館内と併設して、喫茶用に開放された蔵「塗師蔵喫茶 中尾庵(しつぞうきっさ なかおあん)」があります。もとは塗物の最終工程である上塗りをする蔵で、なんと築100年以上!使われる器はもちろん、こちらも床、天井、柱の全てが漆塗りです。
▲赤色の格子戸が印象的な「塗師蔵喫茶 中尾庵」入口
▲総漆塗りの蔵内では床までも漆塗り

やわらかくしっとりとした漆本来の肌触りを、足で。手で触れることはあっても、足で触れることはほぼ無いのではないでしょうか…この贅沢感は体験してこそです。
▲漆香茶(しっこうちゃ/税込500円)と金箔アイス(税込350円)

漆の実を自家焙煎したお茶「漆香茶」は香ばしくてさらりとした飲み口。漆の木は実がなる木とならない木があり、さらに年によって採れるかどうかも左右されるので、通年で漆の実のお茶をいただけるのはここだけだそうです。
薄く伸ばした金箔を添えた金箔アイス、どちらも木製の器でいただくと熱すぎず冷たすぎず穏やかな気持ちで味わえます。
▲奥には2階へ続くちょっと急な階段があります

漆塗りの階段を上ると、2階はアウトレットの展示場になっています。艶やかな黒い階段は一見滑りそうですが、これが思った以上にしっかりとした足取りで昇り降りできます。
▲メーカーならではのアウトレット漆器がそろいます

ここにも天然漆の器たちがズラリ。高価な漆器がアウトレットで4,000円くらいから購入できます。伝統工芸である輪島塗がこの価格帯で購入できるチャンスはあまりなく、さすが工房直営のアウトレットです。ひとつ気軽に買ってみては?
先人たちから受け継がれてきた伝統工芸に敬意を払いながら、実際に触れて使ってみる。物の本質は見て聞くだけでなく、自分も体験して参加してみてこそ。本物の「輪島塗」に触れられる貴重なスポットへ、ぜひ行ってみてください!
SARYO

SARYO

石川県の温泉地として名高い南加賀在住のライター・エディター、時々シナリオライター。北陸の地域情報誌に10年勤めていた経験と、国内も国外も興味津々な好奇心をフル活用し、さまざまな情報をお届けします。歴史、神社仏閣、旅、温泉に強く、利用者と同じ目線を重視するスタイル。

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