滋賀・余呉湖の「徳山鮓」で地産地消の極みを味わう贅沢なひと時

2016.06.20

琵琶湖の北にある余呉(よご)湖。ここに全国から熱い視線が注がれているオーベルジュがあります。季節のうつろいと共に進化を続けるメニューの数々は多くの人たちの心をつかみ、リピーターが後をたちません。週末となると予約は数ヶ月先まで埋まっていることも。今回は噂の一軒宿で余呉湖の恵みを存分に味わいました。

遠くてもまた行きたい!と全国から集まる一軒宿

北陸自動車道・木之本ICを降り、15分ほど走らせると余呉湖が見えてきます。通称「鏡湖」とも呼ばれる余呉湖は日本最古の羽衣伝説が残る地。琵琶湖を隔ててそびえる賤ヶ岳(しずがたけ)は豊臣秀吉と柴田勝家の合戦の舞台としても有名な場所です。
▲風の影響を受けにくく波が立たないため、条件が整うと湖面が鏡のように周りの景色を映し出します

のどかな湖畔を左手に眺めながら西に向かうと、集落の端に見えてくるのが今回お邪魔する「徳山鮓(とくやまずし)」です。
▲集落の最西端、高台に佇む「徳山鮓」

駐車場には県外ナンバーがズラリ。関東や関西方面から訪れる人も多いのだとか。電車の場合は米原、もしくは敦賀から各駅停車に乗り継ぎ、JR「余呉駅」へ。駅からは送迎もしてくれるので、お酒も一緒に楽しみたい方は電車がおすすめです。
▲少し緊張しながら中に入ると、大きなシカが出迎えてくれました

「徳山鮓」は完全予約制。4~5名が利用できる部屋が2つと7~8名のグループ用の部屋があり、どの部屋も落ち着いた雰囲気の中で食事を楽しむことができます。
▲開放感のある大きな窓からは余呉湖のパノラマが広がります
▲部屋の外にあるウッドデッキから眺める景色は最高!夜になると近隣の建物の灯りが湖面にほんのり映り、昼間とは違った幻想的な姿になります

徳山鮓では1日4組(10名迄)で宿泊も可能です。昼と夜で表情を変える余呉湖の景色を眺めながら最高の食事を味わうなんて、想像するだけでウットリしてしまいますね。
▲鏡湖(余呉湖)を眺めることができる露天風呂。その名も「望鏡亭」

食材集めにかける情熱

湖や山々の恵みを存分に活かした料理に定評のある「徳山鮓」。“鮨”ではなく「鮓」なのは、滋賀の郷土料理「熟鮓(なれずし)」への深いこだわりが由来となっています。
熟鮓は塩漬けした魚とご飯で乳酸発酵させたもの。栄養価が高い熟鮓は防腐効果もあり、年中食べることのできる保存食の一つです。

中でも琵琶湖や余呉湖湖畔の田んぼにやってくる産卵前のニゴロブナを使った鮒鮓(ふなずし)は滋賀県の名産の一つで、さわやかな風味にやみつきになる人も多いのだとか。

ご主人の徳山浩明(ひろあき)さんはそんな発酵料理の奥深さに魅了され、2004年に「徳山鮓」を開きました。
▲地元余呉で本当の地産地消を実践したい!という強い思いがあった徳山さん

「徳山鮓」では市場で食材を調達することはありません。
徳山さんが自ら山に分け入っては山菜やキノコを探し、湖に船を出しては天然鰻やナマズ、ワカサギなどを捕ります。さすがにイノシシやシカ、クマなどは地元の猟師さんがしとめたものを分けてもらうとのことですが、食材のほぼすべてがこの余呉湖周辺のものだそうです。

「春夏秋冬と季節は分かれていますが、食材の旬はもっと細かく移り変わっていきます。うちでは昼も夜もメニューはなく、おまかせコースのみ。毎日採れるものによって料理の内容も品数も変わっていきますが、その時期一番美味しいものを一番美味しい状態で出すように心がけています」
と言う徳山さん。否が応でも期待が高まってきました!

川の恵み、山の恵み、湖の恵みが凝縮された極上の料理に舌鼓

最初に出されたのは「鯖の熟鮓」。
ご飯と一緒に発酵させた塩漬けの鯖を、細かく削ったカチョカバロというチーズとトマトピューレと共にいただきます。
▲ちょこんと乗った山の実山椒がかわいらしい

熟鮓とチーズ?
未知の組み合わせに戸惑うも、口に運んでみると鯖の旨みと発酵によるほのかな酸味にチーズのコクが加わって、その相性の良さに驚きます。
▲熟鮓とチーズは“発酵つながり”。だからこんなに合うのだと納得

次に出されたのは「フナの子まぶし」。フナを刺身で食べる習慣がある地域は全国各地にあるものの、フナの刺身に茹でたフナの卵をまぶすのは、滋賀でも湖北地域特有の料理だそうです。

川魚にありがちな臭みはまったくなく、コリコリしたフナの身の弾力と、卵のプツプツ弾ける食感が楽しい一品です。
▲添えられた山ワサビはもちろんこの地で採れたもの

「稚鮎の酢の物」は琵琶湖で捕れた稚鮎の酢づけに、“飯(いい)”のソースがかかっています。飯とは熟鮓を作る過程で、魚に詰めたご飯が発酵したもの。鼻にフッと抜ける酸味の後にくる濃厚なソースが味に丸みをもたらし、口の中でまろやかに変化していきます。
▲山椒がかかった飯のソースは熟鮓を作ったときの飯が使われています

天ぷらも山菜の美味しさ、苦味が楽しめるよう、衣は薄く、食感も軽やか。
“揚げ”の技術はもちろん、火を通しても山菜そのものの元気の良さが損なわれないのは驚きです。地のものの生命力の強さに、思わず目を閉じてしまいました。
▲季節の山菜天ぷら。右から山ウド、コゴミ、コシアブラ、ヤマブドウ、イワタバコ、ハンゴンソウ

そして、徳山鮓といえばジビエ料理もはずせません。
出していただいたのはクマとシカとイノシシのテリーヌ、ウド、ワラビ、イノシシの生ハム、若竹(右端から時計回り)、そして中央にはイノシシ肉のソテー。

噛めば噛むほど旨みが出てくるイノシシ。白い飯のソースと茶色のエゴマのソースをつけていただくと、また違った味わいを楽しむことができます。

冬から春先にかけては『熊鍋』を目当てに来る人も多く、これも絶品とのこと。また、余呉湖で捕れる鰻やスッポンなども一番美味しい時期を見計らって出されるそうです。徳山さんの手にかかるとどんな料理となって出てくるのでしょう。
想像するだけで次回が楽しみになる、これこそ、リピーターがたえない理由なのかもしれません。

そして、徳山鮓の真骨頂と言われる鮒鮓が登場!
▲右から時計回りに鮒鮓、発酵カラスミ、鮒鮓のサンドイッチ

一口食べてみると、今まで食べてきた鮒鮓のような強烈なにおいはありません。ほんのり香るが存在感はしっかりある、という感じでしょうか。パンに挟むとこれがまたパクパクと食べやすく、おかわりしてしまいそう。徳山さんいわく、塩気と臭みを抑えるためには発酵に必要な菌をうまく使いこなすことが大切なのだそうです。

最後に徳山さんに一年の中で楽しみな時期を尋ねると、こう答えてくださいました。

「私が楽しみなのは『食材がないと言われている季節』です。野菜も収穫が終わり、生き物も捕れない。そこで何も食材がないと思ってしまうのは、まだまだ自然のことを知らない証拠。森には一年中イノシシやシカやクマもいる。動物たちは何かを食べて生きているのですから、食材がないわけがないのです。食材集めは苦労も多いですが、『今度はどんなものをどんな風に料理しよう』と考えるだけでワクワクしてきます。これからも徳山鮓の料理は進化し続けていきますよ」

余呉湖に訪れる人たちを究極の地産地消料理でもてなす「徳山鮓」。徳山さんは常に新しい挑戦を続け、食べる側を刺激してくれます。徳山さんの食材に対する情熱にすっかり魅せられた私は、次はいつ予約しようかと手帳を開くのでした。
石原藍

石原藍

ローカルライター。 大阪、東京、名古屋と都市部での暮らしを経て、現在は縁もゆかりもない「福井」での生活を満喫中。「興味のあることは何でもやり、面白そうな人にはどこにでも会いに行く」をモットーに、自然にやさしく、心地よい生き方、働き方を模索しています。趣味はキャンプと切り絵と古民家観察。

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