茶の湯文化が息づく月照寺で満開のあじさいと抹茶を楽しむ

2016.06.16

島根県松江市には、日常にお茶を楽しむ習慣が根付いていることをご存知ですか?松江にはお茶屋、和菓子屋、窯元の数も多く、松江市民にとって茶の湯は身近な存在です。そんな松江に茶の湯文化を広めた松江藩7代藩主・松平治郷(はるさと)ゆかりの寺「月照寺(げっしょうじ)」。6~7月は境内にあじさいが咲き乱れ、「山陰のあじさい寺」としても名高いこの寺で、抹茶と和菓子を楽しみました。

▲あじさいが咲き乱れる6月の月照寺(写真提供:ログカメラ)

月照寺は、一畑(いちばた)電車の松江しんじ湖温泉駅から徒歩10分。国宝・松江城を南に望む閑静な町のなかにあります。
▲入口を入ると鬱蒼とした緑と静寂が広がる

創建は古く、寛文4(1664)年。歴代松江藩主・松平家の菩提寺で、大名茶人として名高い松平治郷の廟所もあります。

治郷公は希代の教養人だったと言われ、特に茶道に関心を持ち、自らの流派「不昧(ふまい)流」を完成させました。現在も「不昧公」「不昧さん」と呼ばれ市民に親しまれています。
▲境内にある石畳の遊歩道を歩くと、木漏れ日や草花の香りに癒される

境内に咲き誇る3万本のあじさい

月照寺では、桜やツツジ、ショウブ、モミジなど一年を通して四季折々の草花が境内を彩りますが、一番の見どころは6月中旬~7月にかけて咲き誇るあじさいです。

この時期は境内に約3万本のあじさいが所狭しと咲き乱れ、その光景を見ようとひと月で約1万人が訪れます。
▲境内を幻想的に彩るあじさい(写真提供:ログカメラ)

それまで葉だけだったあじさいが一斉に大きな花を咲かせた光景は、まるで魔法がかかったように幻想的。境内の景色が一変します。
▲水の都・松江は雨が似合う町。雨の日の月照寺は特に趣深い
▲苔むした石畳とあじさいの組み合わせに、侘び寂びを感じる(写真提供:ログカメラ)
▲あじさいが咲き乱れる池

庭を愛でながら、松江銘菓と抹茶で一服

月照寺を訪れたらぜひ体験したかったのが、お茶席。松江に茶の湯を広めた不昧公ゆかりの茶室「大円庵(だいえんあん)」では、厳かな雰囲気の中で抹茶と松江銘菓を頂くことができます。これも月照寺の醍醐味ということで、早速一服してきました。
▲茶室から見える日本庭園。ふすまに切り取られたその風景は、まるで額に入った絵画のよう

縁側に腰掛け、庭を眺めながら待っていると、係の方がお茶を運んできてくださいました。
▲お抹茶と松江銘菓「路芝(みちしば)」(400円)

お抹茶とセットで供される和菓子は、松江の老舗「風流堂」の銘菓「路芝」。路芝とは“道ばたの草”という意味で、春先に草の上に積もった雪が溶けていく様子を表したお菓子と伝えられています。
▲「路芝」は白ごま入りの求肥と白餡の組み合わせが、甘さ控えめで上品な味わい

なお、お抹茶は参道脇に湧き出る「茶の湯の水」で淹れられています。この水は不昧公も茶の湯に愛用したと言われ、「島根の名水百選」に指定されています。
▲「茶の湯の水」は、自由に汲むことができる

清々しい風が吹き抜ける縁側に腰掛け、お抹茶をいただいていると、ふと頭の中が静かになり、ただただ五感で「いま」を味わっている感覚になりました。

聴こえるのは、小鳥のさえずりと木の葉が揺れる音だけ。不昧公が愛した茶の湯の時間を垣間見たような気がします。
▲縁側で庭を眺めながらの一服は格別

なお、月照寺では毎年4月に、日頃愛用した茶筅(ちゃせん)に感謝して供養する「茶筅供養」も行われています。茶の湯にゆかりのある寺ならではの珍しい行事です。

松江城も望める趣のある境内を散策

お抹茶を楽しんだ後は、静寂が広がる境内を散策。苔むした石畳を歩くと、自ずと足取りがゆっくりになります。日常の喧噪を忘れ、しっとりとした空気に包まれて心が癒されていくのを感じました。日本庭園好きの方や、「THE 日本!」な景色を楽しみたい外国人観光客にもおすすめです。
▲茶室に続く石畳で着物姿の女性とすれ違う。ここには松江の茶人も多く集う

境内には初代から第9代藩主までの廟所が厳かに並んでいます。6代藩主・宗衍(むねのぶ)の廟所のそばには、月照寺の見どころのひとつである高さ3mの大きな亀の石碑があります。この大亀は小泉八雲の怪談にも登場し、「夜な夜な松江を徘徊する」という伝説がありました。
▲市内ではこの大亀にちなんだミステリーツアーも催行されている

月照寺には蓮や菖蒲が咲き誇る池もあり、晴れた日には亀が石の上で日向ぼっこをする様子も見られます。
▲晴れた日は、甲羅干しをする亀が多数見られる

最後に、隠れた見どころをご紹介。実は、7代藩主・治郷公の廟所付近からのみ松江城を望むことができるんです。これは、松江城をこよなく愛した治郷公のために、廟所から松江城天守閣が見えるように計算して建てられたためだそう。

墓を背にして斜め左方向を見ると、松江城が小さく見えるようになっており、城を見つけた瞬間には小さな感動を味わえます。
▲治郷公の墓の近くから見た松江城天守閣。遠くからでも立派な姿

月照寺で味わった銘菓を求めて「風流堂」へ

江戸時代から茶の湯文化が根付く松江市は、京都・金沢と並ぶ日本三大菓子処であり、昔から和菓子作りも盛んです。和菓子の1世帯あたりの購買量が日本一とも言われているほど。そこで、月照寺で食べた「路芝」を製造販売する松江の老舗「風流堂」を訪れました。
▲「風流堂」京橋店の外観

松江市内に4店舗を構える「風流堂」の京橋店は、月照寺から徒歩18分。松江の老舗が軒を連ねる京店商店街にあり、店の前には松江城の敷地を取り囲む堀川が流れ、遊覧船が行き交います。
▲松江人にとって和菓子は特別なものではなく、日常でいただく身近なお菓子

ショーウィンドウには松江銘菓がずらり。月照寺でいただいて気に入った「路芝」(6本入/税込339円)と、お茶を習っている友人が勧めてくれた「若草(わかくさ)」(6個入/税込864円)をお土産として購入しました。「路芝」だけでなく「若草」も松江を代表する銘菓。200年ほど前に、「不昧公好み」のお菓子として創られたと伝えられています。
▲爽やかな若草色が美しく、目でも楽しめる「若草」

松江銘菓は松江の文化を象徴するもの。これを機に、自宅でお抹茶を点ててみたくなりました。松江銘菓はデザイン、味、食感などのバリエーションが豊富なので、お気に入りを探すのも楽しいですよ。
日常に茶の湯文化が息づく城下町、松江。そんな松江の歴代藩主が眠る月照寺は、3万本のあじさいとお抹茶が楽しめる、静かながら見どころいっぱいの素敵な場所でした。

その土地に古くから根付く文化を体感できるのは旅の醍醐味。山陰の風流人に愛される月照寺で、しっとり静寂な時を過ごしてみませんか。

写真提供:ログカメラ
小島有加里

小島有加里

島根県在住のグラフィックデザイナー。島根県の観光情報サイト、フリーペーパーなどでライターも務める。山陰のおいしいもの・楽しいこと・素敵な場所を発掘するのが趣味。(編集/株式会社くらしさ)

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