神戸の通なたこ焼き「蛸の壺」とホットケーキの名作「元町サントス」

2015.06.17 更新

ソースを塗るのではなく、ダシに浸けて食べるたこ焼きが神戸の「玉子焼(明石焼きとは言わない)」。その代表格の「蛸の壺」は昭和28年(1953年)に界隈で創業し、ファミリーから会社員、観光客、そして酒呑みや北京料理好きにも愛されるオールマイティな店だ。そこから鯉川筋を挟んだ元町商店街は今や”日本一”と言っても過言ではないほどの名喫茶密集地で、その立役者の一つ「元町サントス」のホットケーキも10代から80代までを惹きつける。神戸の繁華街といえば三宮だが、隣の元町の方が歴史のあるぶん飲み食いの幅が広く、奥行きが深い。

ひとびとが集う木の大テーブル「蛸の壺」

元町といえば路地。ごった返す「元町通1丁目スクランブル交差点」のすぐそばにあるとは思えないロケーションがうまいもん好きを誘う。

「蛸の壺」の売りは、震災で移転改装してからまだ20年とは信じられないほどシブくてモダンな民芸調の内装と、センターに鎮座するケヤキ製の大テーブル。スクランブル交差点のごとくいろんな客が思い思いに過ごせる空間だ。

奥から見たらこんな感じ。開け放たれた引き戸から入る光が昼酒にはたまらない。しかもお昼から夜まで通しの営業もうれしい。

まずはお酒と蛸わさび(300円・税込)を頼んで一杯やりながら、「何食べようかなぁ」と考える。小さなマダコに細かく切ったわさびの軸を和えてあり、双方のコリコリ感と脳天にキーンとくる辛味がスバらしい。
常連さんが座るカウンター奥では2代目店主の木村満也さんが忙しく立ち働く。「玉子焼」のオーダーが通ったらまず昆布ダシに溶いた生地を特製の鉄板に流し込み…。

それぞれにタコを入れ、固まってきたらひっくり返して形を整える。手前の木はひっくり返す時に握る柄。普通のたこ焼き器とはもちろん違う。

最後は木製の器を上からかぶせて、さっと返せばこのとおり。木村さん曰く「僕も酒呑みやけど、先代(創業者で父上)も酒が好きでね。酒を飲んだあとの仕上げということで玉子焼を考えたようです」。

先ほどの玉子焼(620円・税込)が両端で、センター2列はタコだけでなくネギやミンチも入った五目焼(720円・税込)。いずれも昆布&カツオのダシに浸けて。手前左はバターとニンニクが香ばしい蛸チャーハン(520円・税込)、その隣は酒呑みをさらに魅了する蛸酢(470円・税込)。隣の席からは「タコがおいしい!」と歓声が上がっていた。

ここの面白いところは先代が戦前、中国に渡っていた時に見よう見まねで覚えたという北京料理も売りであること。自家製の小麦の皮で葱、キュウリ、鶏肉を巻いて食べる包餅(パオピン・570円・税込)。さぁ紹興酒の出番ですよ。

仕上げはスープ餃子(520円・税込)。もちもちの皮はこれまた自家製。神戸の地元うまいもん好きが口をそろえて「ええ店や」と言う理由が納得できるはず。

さて至福の昼を過ごして表通りに出たら、リドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』にも登場したスクランブル交差点から元町商店街に入ります。

名店の「甘い」は美味い。「元町サントス」

いま日本中の街から「喫茶店」という業態がなくなりつつある中、元町界隈は今なお喫茶店が百花繚乱状態で、「エビアン」「にしむら珈琲店」「観音屋」などどこに入ろうか真剣に迷う。
その中で「元町サントス」は2015年で創業55年を迎える重鎮だ。「蛸の壺」同様に10代から80代までと客層が実に幅広い。なぜかと言うと…。

このホットケーキに老若男女がラブコールをおくる。「ランチでお腹いっぱい。あとはお茶かジュースで」という客が、隣のテーブルに運ばれるのを見た瞬間に心変わり…というのはここでは普通です。ホットケーキセット700円(税込)。

ホットケーキとは「固くてずんと胃にくる」と思いこんでいる人にこそ食べていただきたい。3秒後には「このふわふわ加減は一体なんだ!?」が待っている。 
小麦粉・卵・バター・牛乳・ベーキングパウダーを混ぜ合わせた生地を半日から1日寝かせ、生地を焼く時に牛乳で伸ばし、火加減を気にしながら水分が飛ばないように蓋をして厚さ1㎝の鉄板で焼き上げるそうだが、これは家庭では絶対できない味。バターもメープルシロップもフレッシュこの上なし。たっぷり入ったコーヒーはブラックでいただくほうが、きっとホットケーキにベストマッチかと。

もし、「いやぁ別腹でもそこまでは…」の人にはこんな誘惑も…。

これも昭和35年(1960年)のオープン時から不動の自家製プリン(600円・税込)。
固からず柔らかからずの蒸しプリンで、カラメルの甘苦さとコクのある味が何ともたまりませぬ。またこの器がオジサンにもええ感じですな。

「元町サントス」のもう一つの楽しみは、窓から見える元町商店街。1階からは右へ左へと流れる人波が、2階からは向かいの店の2階が見えてこれもオツな眺めです。
しかし……それ以上に壁に掛けられたレリーフなどの美術品を見ていると、「ありったけの道楽と贅沢を店に注ぎ込んだ」今は亡き創業者と対話しているようで、なんだか楽しくなってくる。
「ホットケーキセット」目当てに入った若い人が、ここの常連になっているというのも、そりゃ分かりますわ。

世界じゅうの港町に「サントス」という名前のカフェは(たぶん)千軒以上あるだろうけど、その中でも「元町サントス」は確実に五指に入るはず…と来るたびに思います。いつ来ても何を頼んでも発見がある。

元町商店街はJR神戸駅の手前まで続く。中突堤通の信号を越えるとまたちょっと感じが変わるのも元町ならでは。時間の許すかぎりどうぞ。
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。「蛸の壺」は開店以来60年以上常連(!)の大先輩から、「元町サントス」はホットケーキ好きの妻から教えてもらい、「うまいもん好きが身近にいると人生ええこと多い」を日々実感する今日この頃である。

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