旨みが染み込んだ長浜名物「鯖そうめん」は知恵と優しさが込められた料理

2016.06.28 更新

滋賀県長浜市、いわゆる“湖北地方”には昔から伝わる「鯖そうめん」という郷土料理があるそうです。鯖とそうめん?想像がつくようでつかないこの一品は、長浜を訪れる多くの観光客に大人気とのこと!ならばぜひ一度いただいてみようと、行列のたえない鯖そうめんの店「翼果楼(よかろう)」を訪ねました。

JR長浜駅から徒歩2~3分歩いた旧市街には、「黒壁スクエア」をはじめ伝統的な建造物を活かしたお店が軒を連ねています。ガラスショップやギャラリー、雑貨のセレクトショップやカフェなどオシャレなお店も多く、休日にもなると全国から観光客が訪れます。

昔の趣がそのまま残された築150年の店内

黒壁スクエアから1分ほど南に歩いた場所にあるのが、今回お邪魔する「翼果楼」です。お店に近づくと、すでに焼鯖の香ばしい匂いが…。うーん、待ちきれない!
▲「鯖そうめん」の暖簾が目印。古き良き日本家屋の佇まいがそのまま残されています

午前11時頃からオープンとのことですが、お昼前には行列になることも。予約は受け付けていないので、当日来店した順から店内に案内されます。

1990年にオープンした「翼果楼」は築150年の呉服問屋を改装したもの。とはいえ、昔からの佇まいを残すため極力建物には手を加えず、当時使われていた家具や器などもそのままの状態で使っているそうです。
▲まるでおばあちゃんの家に遊びに行ったような懐かしい雰囲気が漂います

中はちょっとした博物館のよう。古い電話機や火鉢、古書など歴史を感じさせるものをたくさん目にすることができ、骨董好きにはたまらない空間です。
▲レトロな電話機がいい味を出しています

店内は1階と2階があり、ゆったり過ごせる広々とした座敷席。お一人から家族連れ、カップルまで幅広い世代のお客さんが来店します。
▲明るい光が差し込む縁側の席はカップルに人気とのこと。中庭を眺めながらゆったり食事を楽しめます
▲広々とした座敷席なので小さな子どもづれの方も安心です

まずは地酒で軽く一杯

「翼果楼」ではお酒と一緒に食事を楽しむ人も多いそうです。日本酒は滋賀の地酒を中心に揃えていますが、中でもおすすめは地元・長浜の蔵元「佐藤酒造」の“湖濱(こはま)”。
▲湖濱(一合780円・税込)。好きなお猪口を選ばせてくれるのも嬉しい

米の旨みが引き出されたほんのり甘口の日本酒は、甘辛く炊いた「小あゆ煮」をつまみにいただくとこれがまた格別です!
▲小あゆ煮(600円・税込)はもちろん琵琶湖で捕れたものを使っています

鯖そうめんは“おかず”です!

ほろ酔い気分になったところで、いよいよお待ちかねの鯖そうめんが登場です!
▲「翼果楼」名物の焼鯖そうめん(900円・税込)

まるで波を打ったようにきれいにまとめられたそうめんの上には飴色に輝く鯖が鎮座しています。そして、そうめんと言えば、おつゆにつけていただくのが普通のスタイルですが、鯖そうめんはだし汁が一切ありません。

まずはこの焼鯖からいただいてみましょう。
肉厚の鯖は脂を落とすために軽く焼き目をつけ、その後醤油ベースの甘辛い秘伝のタレで2日間かけてじっくり煮込んだもの。お箸を入れると鯖の身は弾力を感じることができるものの、骨はほろっとくずれる絶妙の柔らかさ。焼鯖を余すところなくいただくことができます。
▲中まで煮汁がしっかり染み込んでいる焼鯖

鯖の味つけは見た目ほど濃くはありませんが、臭みは一切なく、噛む度に鯖の旨みがじんわり。
そして、束になったそうめんは鯖を煮込んだ煮汁で味を染み込ませるためいい色をしています。鯖の旨みを吸い取ったそうめん、これが美味しくないわけがありません。
▲そうめんは3年寝かせたものを使っているため、コシが強く茹でてものびにくい
▲添えられた薬味をほんの少しのせると、また違った味わいを楽しめます

鯖を食べ、そうめんを食べ、鯖とそうめんを一緒に食べ…
あぁ、止まらない。思わず顔がほころびます。
▲食べ終わるまで笑顔が止まりませんでした(笑)

驚いたのが、鯖そうめんは主食ではなく「おかず」とのこと。
鯖そうめんと一緒にごはんを食べるのが昔からのスタイルなのだそうです。

「そうめんがおかず!?」とはじめは思ったものの、食べてみると、しっかり味が染み込んだそうめんはごはんと合うのもうなずけます。

焼鯖そうめん自体もボリュームがありますが、白いごはんや焼鯖寿司と一緒に頼む人も多いとのこと。ちなみに筆者は焼鯖そうめんと焼鯖寿司のセットをペロッと完食しました。
▲焼鯖寿司とセットになった「鯖街道」(1,770円・税込)も人気

栄養たっぷりで食べやすい、まさに思いやりの料理

そもそも、なぜ長浜の方では鯖そうめんが食べられているのでしょうか。
店主の辻郁子(つじいくこ)さんに話をうかがってみました。

「湖北地方では田植えが行われる5月頃、農家へ嫁いだ娘を持つ親が、忙しく働く娘のために実家から嫁ぎ先へ焼き鯖を届ける『五月見舞い』という独特の風習があったんです。農繁期でも簡単に作ることができて、パッと食べられる。しかも鯖は栄養満点ですし、農作業で疲れた身体にちょうど良い塩加減なんですよ」
▲「私も小さい頃、家で鯖そうめんを食べていました」と辻さん

田植えの時期は米を切らしている農家もあったそうですが、そうめんは保存食としてどの家庭にも置いてあることが多いため、鯖そうめんの文化が根付いたとも言われているそうです。

今では気軽に作って食べられる家庭料理として、また長浜で毎年4月に行われる「曳山まつり」で振舞われるもてなし料理として愛されている鯖そうめん。
「翼果楼」では観光客の方が少しでも長く長浜散策を楽しめるようにと持ち帰り用も販売しています。

豊富な栄養、調理の簡便さ、そして何より娘を思う親の心。
昔の人の知恵と思いがこもった料理に深く感動した筆者なのでした。
石原藍

石原藍

ローカルライター。 大阪、東京、名古屋と都市部での暮らしを経て、現在は縁もゆかりもない「福井」での生活を満喫中。「興味のあることは何でもやり、面白そうな人にはどこにでも会いに行く」をモットーに、自然にやさしく、心地よい生き方、働き方を模索しています。趣味はキャンプと切り絵と古民家観察。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP