神戸人のソウル・フード、箱寿司「檜垣」と港町の「パブ・ケネス」

2015.06.17 更新

神戸自慢の食材の一つは瀬戸内で獲れる穴子。中華にもフレンチにもイタリアンにも穴子がメインディッシュとなってうまいもん好きを喜ばせているが、地元の人間が何より喜ぶ箱寿司の旨さを忘れてはいけない。中国料理店がひしめく南京町の箱寿司名店「檜垣」と、午後の光が差し込む港町らしいバー「パブ・ケネス」でもう一つの歩き方をたのしむ。

流れるような所作のち「伝助」が見事な箱寿司に

南京町のメインストリートからちょっと枝道を浜側(南)に折れると、洋食の
「双平」を通り過ぎた左手に穴子箱寿司の名店「檜垣」がある。朝10時から売り切れまで休憩なしにやっている。
この店に何の予備知識もなく行っていた頃、「少なくとも半世紀以上前に創業して何代も続いている店なんだろう」と勝手に思い込んでいた。というのもお客さんは50代半ばの私より圧倒的に先輩で、たまに若い人を見かけても「常連さんの息子さんか娘さん」だったからである。
▲カウンター右手に積み上げられたダシ巻きは、ご主人曰く「明日、巻き寿司200本の注文が来ましてね(苦笑)」と話していた。

何より、店主のビジュアルと佇まいが歌舞伎役者のようで「所作が流れるようでええなぁ」とか、「何代にもわたってお客さんが支えてる雰囲気やなぁ」とか。
しかし店主・檜垣友朗(ともあき)さんの経歴は、35歳まで普通に会社員として働き、そこから独立してこの店を始めたというもの。「勤めてからも寿司屋でバイトしてましたが…」とさらっと話すが、とてもお店を始めてまだ10年とは思えない熟練ぶりである。
しかし「どうやってこんな技を…」みたいなことを聞くより、店主の動きに見とれ(他人の分を作る動きもええ前菜だ)、自分のが来たら心の中でガッツポーズする方がたのしい。
瀬戸内でええもん食べて育った大きな穴子を「伝助」と呼ぶ。明石浦漁協のホームページでは「明石では300g以上の大きなアナゴを“デンスケ”と呼び区別しています」とされているが、肉厚のデンスケくんたちが惜しげもなく使われるのだ。
▲多くは語らない人ですが、付かず離れずの接客がいい。何より華があります

いただいたのは「穴子寿しの盛り合わせ(箱寿司、穴キュウ巻、穴新香巻)」(1,600円・税込)。箱寿司は厚めのネタに穴子の頭でダシをとった煮詰め(タレ)の味わいは言わずもがな、シャリとシャリの間に入った椎茸の旨みもキクラゲの食感もたまりません。
穴キュウ(下の写真・右奥)の色彩コントラストとコリコリ具合も素晴らしいし、穴新は新香の細さがとてもいいアクセントになっていて、3つとも同じ穴子とは思えない発見がある。
ビールでも日本酒でも抜群ですが、見た目以上にあっさりした味で、お茶でもいけます。
▲仕入れた焼き穴子の小骨を1本1本外して…という舞台裏のおかげで、素晴らしいミルフィーユ状態に恍惚となる。

そして女性に圧倒的人気なのがこの「三種の盛り合わせ」(1,600円・税込)。海老の赤、巻き寿司の黄色と黒が入り、華やかさがひと際増すのである。一人の場合は選択が悩ましいが、二人連れなら一皿ずつ仲良く頼みましょう。
堪能したあとはお持ち帰りも。穴子はオールシーズンだけど、棒寿司は季節にによって鯛→鯵→ハモ→鯖と変わるのがまたここの楽しみ。列車の中で食べようか、それとも家に帰ってからにしようか、楽しい悩みは尽きない。
▲持ち帰った鯵の棒寿司(1,500円・税込)を食べ物にうるさい同僚がひと口食べるや、「酢加減と塩加減がバツグンやな!」と

お持ち帰りを待っていた社長然たる貫禄の常連さんがひと言、「ここはアオタツの後継者やからなぁ。応援してんのや」と愉快そうにおっしゃる。
「青辰」というのは阪神大震災まで元町にあった穴子箱寿司の名店。檜垣さんは「滅相もありません」と謙遜していたが、「子供の頃から食べ親しんできた地元の名店」がなくなった後で、それを受け継ぐ人間がまた現れたとしたら、応援したくなるのは当然ですよね。
神戸の人間と穴子寿司との親密な関係を垣間見た気がした。

栄町通の雑踏をアテに軽く1杯

南京町を歩き、南門(南楼門)を出て東に歩くとこんな看板が。

2階は「パブ・ケネス」。大きな窓から栄町通の雑踏を見下ろす絶好のロケーションで、午後の光のあるうちに軽く一杯飲んで帰ろう。

マスター・北秋亮(りょう)さんのつくるカクテルや、泡のきめ細かさが最高のビール(650円・税込)に地元の酒好きがヘビーユーザーになっていて、一品のアテもチキン&チップス(700円・税込)など気が利いているものばかり。
コーヒー(400円・税込)もあるので下戸にも優しいし、何より常連と一見それぞれ気楽に過ごしているのがここの味。
▲アイスピックではなく北秋さんが包丁でスッスッと切った氷がまた美しいジントニック(700円・税込)。これが美味さを保証する

ちょっと違う南京町を堪能したら、元町駅に向かって歩こう。豚まんの行列に並んだり中国食材を買ったり、どうぞ心ゆくまで。
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。「なんか食べたいけど中途半端な時間やなぁ」と南京町を歩いていたときに偶然入った「檜垣」にヤラれる。早く「パブ・ケネス」で週に1回昼酒が飲めたら…と願う。

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