粋なおとなが集うバーVol.6大阪「Bar TSUBAME」「BAR立山」

2016.06.30 更新

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

太閤秀吉が大坂城を築き、船場をはじめ城下を町割りして町人に住まわせた大都市が大阪だ。
ミナミやキタが歓楽街あるいは繁華街であるのに対し、大阪商人の拠点となった船場や西船場は、ちょうどキタとミナミの間に位置し、今も商業の街としての性格が強い。
したがって本来オフィス街(最近は住宅地でもある)の夜は静かで、リラックスした雰囲気の中、ここ10年ぐらいレストランやカフェが増えてきた。
そんななかから、今の大阪を感じる旅人におすすめの、2軒のバーを紹介する。

靱公園南にあるこだわりの「Bar TSUBAME」

このバーのある靱(うつぼ)本町あたりは、中世から海産物市場が形成されていた。靱の地名は豊臣秀吉に関係する。あるとき秀吉がお供を従えてこの地に来た際、魚商人たちが「やすい、やすい」と威勢のよい掛け声で売っているのを耳にして、「やす(矢巣)とは靱(矢を入れる道具)か」と言ったことにさかのぼるとのことだ。
▲靱公園から南を望むと、公園に直接出入りできる店もある

靱にはいまも鰹節の卸商が軒を構えたりするが、靱公園あたりは静かなロケーションに寄り添うようにおしゃれなカフェやイタリア料理店やスペインバルなど、新しい飲食店が点在している。
とくに靱公園の南側の一角は、住宅街とオフィス街が混じり溶けあっているような閑静なエリアで、その間に店舗が混在する。
▲公園から道一つ隔てて、テラスのある店もあちこちに

オーナー・バーテンダー金子歩さんの「Bar TSUBAME」はそんな界隈にある地下のバーだ。
金子さんは新潟県燕(つばめ)市出身で、大阪教育大学に入学して大阪に住むようになった。
大学を卒業した後、北新地の名門「Bar Leigh(リー)」の早川恵一さんの下で11年修業し、満を持して独立。2014年11月にこのバーをオープンした。

靱公園を選んだのは、仕事帰りの客と地元客のどちらもいて、長く地元で愛されることが本来のバーの使命だと思ったからとのこと。
開店にあたって、自分の愛する故郷をそのままアルファベットで店名にした。
燕市の実家から歩いてすぐにある鎚起(ついき)銅器製作舗「玉川堂(ぎょくせんどう)」のマグカップやビールカップ、水差しなどを揃えた。
職人が銅を叩き縮めて器にする「玉川堂」は文化13(1816)年創業、ちょうど200年の歴史だ。
明治6(1873)年、ウィーン万博に出品。文化庁の選択無形文化財に指定されている老舗工房だ。
▲熱伝導がよい銅に錫引きされているビールカップ。抜群の質感に加え持ちやすいデザイン。素晴らしい酒器だ
▲開店にあたって銅板打ち出しのプレート看板を7代目玉川基行さんから直々にプレゼントされた

銘木・鉄刀木(タガヤサン)を使ったカウンターは7席。
加えて昭和の応接間のようなテーブル席は6席、スツールのテーブル席3席というユニークな店内。
自慢のモスコミュール(1,000円)は、生姜と唐辛子、ピンクペッパーを漬け込んだフィンランディア(ウォッカ)がベース。ジンジャーリキュールとジンジャービア、ライムを加える。
びりっとスパイシーで、ドライかつかなり刺激的な味だ。
やはり根強い人気はウイスキー。山崎、白州18年からアイラまで充実している。
「ハイボールを何か」とお任せして出てきたのがグレンフィディック12年(900円)。タンブラーを満たす大きくて細長い氷は研ぎ澄まされたような表面。文句のつけようのない仕上がり。
フード類も故郷・新潟の「うんめもん」にこだわり、いろいろ野菜のピクルス、里芋のポテトサラダ(ともに400円)や越乃黄金豚のローストポーク、ソーセージ(ともに600円)など、「Bar TSUBAME」ならではのバーらしいメニュー。
▲越乃黄金豚のソーセージ。しっかりした肉質で食べ応えあり

キタやミナミからタクシーで10分。この店の存在を知るバー・ファンたちは、北新地で飲んだ後、締めの一杯をと、わざわざ来る客も多い。
※価格はすべて税別

町家を改造したオーセンティック・バー「BAR立山」

靱公園から四つ橋筋を東へ渡ったオフィス街にある「BAR立山」。
あっけらかんとした下町チックな佇まいは強烈な印象を与えている。
キタの曽根崎で13年、名声を轟かせていた「BAR立山」がここ靱本町に移ってきたのは2004年。もうすぐ13年。キタと同じだけの月日が流れた。

建築年不詳(おそらく戦前である)の建物は、1960年代から食堂として使われてきたものをリノベーションした。
角地に建つ町家の1階。外から店内の様子が丸見えで、店内の空気感がストリートににじみ出ている。
L字型カウンターに8席。横には古びた木のテーブルとベンチ、椅子が5~6席。
そんな手づくりレトロの空間の中、白シャツ蝶ネクタイのマスターがオーセンティックなカクテルをつくる。
圧巻はミストの氷。
バックバーの前に、クラッシュ用の木製台と木槌がセットされている。氷塊を厚手の綿の布で覆い、上から木槌で叩き砕く。
クラッシュドアイス電動機や手回しのクラッシャーでつくるよりも、氷温が上がらないので、ミストやフラッペが一段と冷たく、爽やかなままロングで飲める。
「ウイスキーをミストで」と注文したら、アイリッシュ・ウイスキーのブッシュミルズを薦められた(ダブル1,000円)。
これがとても優しい飲み口で大当たり。ミストとはまさにこのスタイルだ。いつまでも氷が溶けないのはさすがで、細かい氷に混ざる最後の一滴まで楽しめた。
▲つまみは「くん玉」(200円)。これが抜群。卵を24時間塩ゆでし、そこから6日間燻製してつくるそうだ

カウンター上に無造作に置かれている抜群の状態のレモンやライムを見て、ジン・リッキーが飲みたくなる。
キンキンに冷やされたゴードン(ジン)に冷やされたグラスが出てくる。切ったライムを搾ってソーダを満たす。そこに透き通った氷を沈める。
極めてシンプルな姿で、すきっとしたのどごし。
▲床に2つ並べられているJBLのスタジオモニター4425。80年代半ばに登場して今なお垂涎のスピーカーシステム。静かにジャズ系の音楽を流す
▲カウンター奥にはカンノ製作所の真空管のパワーアンプに、これまたマッキントッシュの真空管プリアンプC2200。そこいらのジャズ喫茶が吹っ飛ぶハイエンド・オーディオ・システム

他に類を見ないユニークな町家の空間に、背筋が伸びるオーセンティックなスタイルのカクテル。
世代を超えたファンが多いのもうなずける。
※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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