不思議な食べ物ホヤは、5つの味覚を感じられる海のパイナップル!

2016.07.12

トリュフ、キャビア、フォアグラと世の中には様々な珍味がありますが、それらとは比べ物にならないほど変わった食材、ホヤ。東北ではメジャーな存在で、パイナップルのような形をしたオレンジ色の海洋生物です。ミネラル豊富で栄養価も高く、クセのある味から玄人好みの珍味として知られています。そんな未知なるホヤを知って、好きになって、大人の階段を登ってきました!

心の準備をするために、ホヤの知識を身に付けよう

ホヤは、関東以西の地域ではあまり知られていないマイナーな食べ物。知っていることは海の生物ということぐらい。というわけで少しホヤについて勉強してみました。
▲ホヤの一種であるマボヤ。どことなく南国チックな外見

こちらは「マボヤ」。東北の市場で流通されているのは大半がこの品種です。貝類でもナマコの仲間でもなく、海水の中でプランクトンを濾過して食べる尾索(びさく)動物というグループに属しています。確かにパイナップルっぽい見た目ですね。

ホヤの仲間は日本の海に少なくとも百数十種類いると言われていますが、マボヤのように食用とされるのはほんの一部なのだそう。
▲左の突起が海水とエサを取り込む入水孔、右の突起の出水孔から排出します

成体は岩に固着して動きませんが、幼生期はオタマジャクシ風の体で泳ぎ回っているのだとか。数日間遊泳し、育つ場所に付着して今の姿へと変化していくそうです。赤ちゃんと大人でこれほど生き物としての特徴が変わるとは…。
▲炎のように赤いから「火焼(ホヤ)」とも書くそう

ホヤは海水の影響を受けやすい生物。獲れる浜ごとの塩分濃度の差で味わいが変わってきます。例えば近くに川があると、少し淡白な味になるそう。

ホヤは現在、漢字で「海鞘」と書くのが一般的。なぜ鞘(さや)なのかというと、身を覆う赤くて丈夫な皮がさやのようだから。他には老いたナマコに似ているという理由で「老海鼠」、ランプの火を覆うガラスの筒みたいだから「火屋」と書くこともあったようです。

ホヤについての基本情報はここまで。
▲雄大な女川湾。この海で多くのホヤが育てられています

そしてやって来たのが、宮城県の太平洋沿岸に位置する女川町。ホヤの一大産地として名高く、養殖を行っている15の浜が点在しています。つまりホヤを知って味わうなら、この町なくしては語れません。

ホヤを知るには水揚げから。
獲れたてのホヤを見るため竹浦へ!

▲仕掛けがある沖へは漁船で向かいます

ホヤについて知るためには、まずは実物を見たいところ。女川内にある浜の中で最もホヤの養殖が盛んだと言われている「竹浦地区」へ。
▲この美しい海水が美味しいホヤを育てています

浜に到着してまず気付いたことは海水の美しさ。泳いでいる魚が見えるほど高い透明度にびっくり。こんな綺麗な海で育ったのだから美味しいに違いない!記念すべきファーストホヤは何としてでも竹浦育ちのものを食べようと心の中で決めました。

ここでホヤの生態について知るため養殖のエキスパートである漁師、阿部次夫(つぎお)さんにお話を伺いました。
▲ホヤを漁獲している様子。仕掛けの黒い牡蠣の殻に沢山のホヤが

「ホヤの産卵時期は11月後半から。ピークは冬至からお正月の間。このタイミングで仕掛けをセッティングし、養殖の準備を行います。」ホヤは海底の岩などに固着し、一定の場所で成長する生物。その生態を利用してブイから垂らしたロープや牡蠣の殻などの仕掛けにホヤを付着させて育てます。
▲多いときは一度に300kg近く水揚げするそう。ホヤは1個あたり約300gなので、なんと約1,000個分!

「固着させてから1年で約1cm、2年で約10cmぐらいの大きさに変わります。2年を過ぎると急速に大きくなり始め、2年半ごろから出荷できる状態になります。2年半育てたホヤを3年子、3年半育てたホヤを4年子と呼んでいます。ホヤの旬は6~8月ごろ。目安として藤の花が咲くころ」と阿部さんは言います。
▲丸々とした獲れたてのホヤが沢山!

そして阿部さんの粋な計らいで、先ほど獲ったばかりのホヤを特別に見せてくれることに!これが獲れたての新鮮なホヤ。上側は少し刺々しいのに下部分は丸みがあります。正直もっと得体の知れない雰囲気があるのではと想像していましたが、意外にも可愛らしい見た目。ホヤのイメージが少し覆りました。

獲れたてほやほやなホヤを
ホヤ捌き体験で刺身にして食す

先ほどの竹浦地区で特別に分けていただいた一匹のホヤ。この新鮮な個体を食べるべく、女川町の魅力を発信する「あがいんステーション」へ。

「あがいん」とは女川の方言で「召し上がれ」の意味。養殖場での水揚げや魚介類を使った調理実習、そしてホヤ捌きや蒸しホヤ作りなどの体験ができる「あがいんキッチン」と、ホヤの加工品など様々なお土産を買うことのできる「あがいんプラザ」の二つから構成されています。

ホヤは新鮮なものほど美味しく食べることができる鮮度が重要な食べ物。早速「あがいんキッチン」でホヤを捌かせていただきました。
▲ホヤの中のホヤ水が飛び出すこともあるので注意

ホヤの突起部分、入水孔と出水孔を切り落とし、殻の中心あたりから包丁で切れ目を入れます。殻と身の間に指を入れてぐるりと回すと身が取れます。これは加工場で行われているプロの方法で、とても簡単に捌くことができます。
▲切ってみると身がプルプルしていることが分かります

さらに身を裏返し内臓や排せつ物を取り除くと、あとは食べやすい大きさに切り分けるだけ。あっという間にホヤの刺身が完成です。
▲まるで赤貝のような色をしたホヤの刺身

それでは実食。一切れ口に入れてみると、まるで海のエキスが詰まっているかのような独特の味わいが口いっぱいに。ほんの少しだけ苦みもありますが、それも程よいアクセントとなっています。また食感はプルプル。

実はこのホヤ、味覚の基本要素がすべて揃った珍しい食材。甘味・塩味・酸味・苦味・旨味を一度に感じることができるんです。もちろんそれぞれの味の感じ方に多少の強弱はありますが、5つの味を感じるのだから舌の上はちょっとしたお祭り騒ぎ!なんとも不思議な味わいですが、一度ハマるとやみつきになるというのがよく分かります。
▲女川町の町づくりの中心メンバーの一人、阿部さん。様々なホヤ情報も教えてくれます

「新鮮なホヤは美味しいでしょう。ただし水揚げから時間が経つと、自己消化酵素の働きで磯の風味が強くなるんですよ。」そう話してくれたのは女川町の水産品をブランド化につなげる仕事をしている阿部喜英(よしひで)さん。

「次はホヤを食べた後に水を飲んでみてください。驚きますよ。」そう阿部さんに言われたので水を飲んでみると、なんと口の中に甘みが!実はホヤを食べた後に水を飲むとグリシンやアラニンの作用で甘みを感じるのだとか。味覚にまで影響を与えるとは…。ますます不思議めいた食べ物ですね。
▲へそホヤ650円(税込)

併設している「あがいんプラザ」ではホヤの加工品が数多く販売されています。中でも阿部さんのオススメは、こちらの「へそホヤ」。ホヤの根元の部分で、哺乳類でいうところのお尻にあたります。最もホヤの旨みが詰まっている箇所で甘みが強いため、ホヤ初心者におすすめ。
▲左から時計回りに「さきほや」330円、「ほや生ジャーキー」420円、「ほやせんべい」370円、「ほや煮」500円、「燻りほや」390円、「特選ほやしおから」500円(全て税込)

へそホヤ以外にも、スモーキーな燻りホヤにみずみずしい塩辛、4種の乾き物などおつまみが盛り沢山。様々な商品が揃っているのも嬉しいところです。
▲「ほやタマゴ」650円(税込)

そんな加工品の中に丸っこくて可愛らしい見た目の食べ物が。「これはホヤたまご。女川発祥の郷土料理で、ホヤの身の中にゆでたまごを詰めて甘辛く煮たものです。」と、阿部さんが説明してくれました。元々漁業関係者の一部の家庭で食べられていた料理で、お茶請けやおもてなしの料理として出されていたとのこと。

どことなく親しみやすいユニークなビジュアルですが、正直味が全く想像つきません…。食べてみるとホヤとたまごが相性抜群。ホヤが持つ磯の風味が塩の代わりとなっているためしっかり味が付いています。お互いの風味同士が混ざることで温泉たまごのような味わいに。これは珍味として人気があるのも頷けます!

また、あがいんステーションではホヤ捌き・蒸しホヤ作り・利きホヤができるホヤ体験を実施中。4月上旬~9月(収穫時期による)、5人以上で予約が必要となります。興味のある方は、電話にて詳細を確認してみてくださいね。

ホヤ料理の中でも王道の「蒸しホヤ」をいただく

ホヤのもう一つの定番料理、蒸しホヤを求め1947年創業の「お魚いちば おかせい」を訪れました。水産業の盛んな女川町でも老舗に数えられる鮮魚店です。
▲店主の岡さん。お客さんの笑顔が何よりの喜びだそう

出迎えてくれたのは岡芳彦(よしひこ)さん。三代目として「お魚いちば おかせい」を切り盛りする若き店主です。
「小さな頃から沢山の海産物を食べてきました。僕ほど魚介類が好きな人間は中々いないと思います。」
そんな海の男岡さんが太鼓判を押す一品!一体どれだけ美味しいのだろうかと、期待に胸が膨らみます。
▲「蒸しホヤ」500円(税込)

きました「蒸しホヤ」!殻付きのまま蒸し上げるため、ホヤそのものに近い見た目をしています。それでは殻を剥いて一口。弾力が強く歯ごたえがあるため、お刺身とは違った食感を楽しめます。また味は刺身よりクセが少なくジューシー。初心者がまず蒸しホヤを食べるように薦められることも納得ですね。

岡さんにホヤを美味しく食べる3ヶ条があると教えてもらいました。
「第一に産地で新鮮なものを食べること。第二になるべくすぐに捌いて内臓を取ること。それでも味に慣れなければ、最後に火を入れて調理すること。」
こうすることで独特の磯っぽさを軽減し、美味しく食べることが可能なのだそうです。

「お魚いちば おかせい」では、いろんなホヤ料理を提供中。オススメの一品を岡さんに聞いてみてください。

ホヤがスイーツに!?
奥深い味わいの「ホヤ塩ソフトクリーム」

王道の食べ方で味わった後は、ユニークなホヤ料理を提供しているお店に。町の高台にある女川町医療センターの隣にウッドデッキの建物が併設されています。その突き当たりにあるのが「女川おちゃっこクラブ」です。
▲「ホヤ塩ソフトクリーム」300円(税込)

おちゃっこクラブの看板メニューが、ホヤ塩をトッピングしたという「ホヤ塩ソフトクリーム」。ホヤ塩とはホヤが入水孔から取り入れた海水(通称ホヤ水)を煎って、塩状にしたものです。

店主がホヤをもらった際、中のホヤ水をいつも捨てるだけではもったいないと感じ、考案したのがホヤ塩だったそう。実際に作って食べてみると、濃厚だけどクセのない海の香りにびっくり。さらにソフトクリームにかけたところ、思いのほかマッチしたのだとか。

一口食べてみると、通常の塩よりミネラルを感じさせる風味があって、とても美味。スイカに塩をかけることで甘みが引き立つように、ソフトクリームのミルキーな甘みを強調し、大人な味わいの塩スイーツへと変貌します。
▲「ホヤばくだん」300円(税込)

ユニークなホヤ料理をもう一品。ホヤ殻にホヤごはんをぎっしりと詰めた、「ホヤばくだん」です。中身のホヤごはんはホヤと米をダシで炊き上げたもの。中のホヤごはんを箸で取り出しながらいただきます。ホヤが持つ磯の旨みを生かした奥深い味わいがポイントです。ちなみにホヤ殻は食べられないのでご注意を。

ごはんにはもち米も混ぜており、ふっくらもっちりな食感。腹持ちがとても良いので、おやつはもちろんランチにもオススメです。ホヤ塩とシソはお好みでどうぞ。
▲「ホヤばくだん」のホヤ殻。仕込み中の様子を見せてもらうと沢山のホヤ殻が

一味違ったホヤ料理を味わうなら「女川おちゃっこクラブ」へ!

地元の人にとってはもう定番?
晩酌のお供にぴったりな「ホヤキソバ」

やはりホヤにはお酒。ホヤをつまみにお酒もたしなめる大人なお店で締めましょう。向かったのは「Bar OWL(バー オウル)」。
▲「ホヤキソバ」700円(税込)

「Bar OWL」が提供するホヤを使ったメニュー、それが「ホヤキソバ」。ホヤとヤキソバの奇跡のコラボレーションです。下処理を施し食べやすくした歯ごたえの良いホヤと、モチモチした蒸し焼きの麺を炒めた一品。考案したのはオーナーの髙橋圭介さんです。

「磯の風味が豊かなホヤとシンプルな塩焼きそば。少し塩っ気のある食べ物同士なので、意外とマッチするんじゃないかと。」こうして作った「ホヤキソバ」の評判は上々。改良を重ね定番メニューとなりました!
▲大振りに切られたホヤはプリプリ。弾けるような食感がたまりません

ガーリックを絡めた麺に塩味のあるホヤがアクセントとなり、食欲を刺激します。さらに上に乗せた大葉と一緒に食べることで、爽やかな風味と香りが加わります。これはビールとの相性も抜群。女川の夜を楽しく、美味しく過ごしたいなら、是非立ち寄ってみてください。
最初は得体の知れない食べ物だったホヤ。

しかし女川のホヤを食べてみると、家路につく頃にはその虜に。
やはりホヤを食べるなら、水揚げほやほやに限る。
そしてホヤを美味しくする薬味として、ホヤ愛に溢れた地元の方々の笑顔も外せない。この美味しさを体験しに、女川へ行ってみよう。
飯間大悟

飯間大悟

ファッションと麺類と歴史を愛する29歳の足軽ライター。伊達政宗大好き。奥州一の武将になるため、日々武者修行中。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP