粋なおとなが集うバーVol.7 京都「Affinage」「The door,,高倉店」

2016.08.16 更新

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

▲ある日の「Affinage(アフィナージュ)」のメニュー、牛肉の赤ワイン煮込み2,500円~

いいワインはバーで飲むに限る。「Affinage」

どうしても美味しいワインが飲みたくなるときがある。普段は、「料理に合えば上等なワインでなくてもいい」と思っているが、「一杯だけ、一杯だけでいいから、家に帰る前に、う~んと美味しいワインが飲みたい」と熱望してしまうことがある。

そんなとき足を向けるのが、祇園花見小路にある「Affinage」だ。
店主の小嶋章紀(あきのり)さんは、青森県出身。埼玉などでソムリエとしての腕を磨き、縁あって京都のワインショップが営むバーを任されることになった。私が小嶋さんに出会ったのはこの頃で、おそらく10年くらい前だったと思う。

わずか5席ほどの小さなワインバーだったが、赤で統一したシックな雰囲気や、ワインショップが経営する店ならではの上質なワイン選びに魅せられた。そして何より、いつ行っても笑顔で迎えてくれる小嶋さんのプロフェッショナルな接客に心癒された。

仕事で疲れているときも、「お仕事帰りですか? 疲れたでしょう」と話しかけられると、すぅーっと肩から力が抜けていく。「疲れました~」と弱音を吐きながらも、その時点で、すでに疲れが抜けはじめているのがわかる。

ベロベロに飲んで、嫌な酔っぱらいで訪ねることもあったが、「何があったんですか?」とは聞かない小嶋さんの優しさのおかげで、ギリギリもちこたえて家に帰ることができたように思う。
▲誰に対しても親身な接客で慕われる小嶋さん

だから、小嶋さんが独立して京都に自分の店を開くと聞いたときは、「小嶋さんが京都に骨をうずめてくれる(彼の気持ちは聞いていないが…)」と勝手に思って、ものすごくうれしかった。

私と同じように、小嶋さんの店にずっと通える喜びを感じた客はたくさんいたのだろう。開店祝いの花が、店内はもちろん、店の周りや花見小路まであふれるほどに並んでいた。
▲シックな色調、座るだけでなぜか心落ち着くカウンターは8席

「Affinage」の開店当初、しばしば小嶋夫妻と街なかの飲食店で隣合わせることがあった。夫婦で楽しそうに食事をする小嶋さんは、店にいるときより、ほんの少しカジュアルで、いつもより3割増くらいで楽しそうだった。

夫妻が帰ると、「わざわざ開店祝いのお礼に来てくださったんですよ」と店の人がぽつりと言う。どうやら夫妻は、休日ごとにお礼参りに歩いていたようで、小嶋さんらしいなと、こっちまで心があたたかくなった。
▲自家製キッシュは絶品と評判。内容は日替わりで500円。ワインは白・赤・シャンパンなどグラス1,500円~、チャージ500円

お店のFacebookページでは、「本日のキッシュ焼きあがりました」と実況中継され、まるでこれからカーニバルが始まるようなウキウキ感が伝わってくる。

Facebookで見るキッシュは、しっとりとしてワインに合いそうで、まんまとその誘い水にのってしまったことも。

本日のおすすめワインとして小さな黒板に書かれたラインナップは、フランス産がメイン。ブルゴーニュの「シャサーニュ・モンラッシェ プルミエ・クリュ2009」など、ボトルでたのめば数万円というようなグランヴァンやシャンパーニュ、ボルドーワインなどもグラスで味わえるのがなによりの魅力。希少なワインもあるから、迷ったら小嶋さんに相談してほしい。
▲黒板には、その日グラスで飲めるワインがずらり。上質であることはもちろん、小嶋さんがその日一番の飲み頃ワインを選んでラインナップ

どれも気軽に家で開けられるワインではないが、たとえ同じものを家で飲んだとしても、「Affinage」で飲むほど美味しく味わえるかどうか。
いいワインは、やっぱりすてきなバーで、熟達したソムリエにサーブしてもらうに限る。

ワイン好きにうれしいことを最後に。
なんと、それらグラスワインは、いずれも半量で楽しめる。半額+100円なのであれこれ楽しみたい人には、こちらもお薦め。

※価格はすべて税別

お料理もお酒も申し分なし。「The door,,高倉店」

おつまみから本格的な料理まで充実していて、ダイニング使いもできる。ホテルのシェフソムリエを務めたシニアソムリエや、カクテルコンペで優勝を果たしたバーテンダーもいて、お酒に安定感がある。堅苦しさはなくアットホームな雰囲気で迎えてくる。
「The door,,(ザ・ドアー)高倉店」のいいところを挙げだしたら、きりがない。
▲町家を改装した風情ある外観(写真/高見尊裕) 

15年ほどの付き合いのあるソムリエの溝口達也さんから、四条高倉のバーに勤めることになったと連絡をもらったのが5年半ほど前。出かけてみると、町家を改装したカッコいい店。坪庭があって、東京の友人を連れてくるのにちょうどいいと思った。

実際に、最初の頃は東京から来る友人をよく連れていった。友人たちは、「京都らしくていいね」「東京にはこんな店はないわ」と喜んでくれる。調子に乗って、他府県の友人を連れていくならこの店と、たびたび足を運んだ。
▲店奥には植治(うえじ)・小川勝章さん作の坪庭、ゆったりとした寛ぎ感がいい

そんなふうに通っていて気付いたのが、思いのほか京都の人が多いことだった。洗練されたサービス、シックな店内、ゆったりとした座り心地のいい椅子。
いずれもバーでじっくり飲みたい大人好み。確かにこの店は、ひとりでも楽しめると、また違った見方ができた。
▲38席のうちカウンターは9席。1人でも2人でも、4人でも使えるといううれしい店だ。チャージ600円

食後にワインやハイボールを2杯ほど。そんなスタンスでこのバーに通っていた。ただ、いつも思っていたのが、この店の突き出しは美味しいということだった。旬の野菜のマリネだったり、ビシソワーズだったり。

乾き物的な突き出しを出すバーが多いなか、季節に沿った料理が出る店は貴重。ならば、とあるときフードメニューを眺めて驚いた。なんと、おつまみ的なもののほか、サラダや前菜、魚料理や肉料理、パスタ、サンドイッチとまあ多彩。十分、レストランとしても使える。

試しに、食後ではなく食事をしてみようと訪ねた。前菜1品に肉料理とワインをオーダーした。とっても美味しい、ほんとうに美味しい。
聞いてみると、奥の厨房にはちゃんとシェフがいるという。これまでここで料理を食べなかったことを悔やんだ。
▲ステーキサラダ仕立て1,500円など、どの料理も本格的

なんだかカクテルが飲みたい日があった。で、「爽やかで、さっぱりしていて、シュワシュワしたのをお願いします」と注文した。すると、女性バーテンダーの中村晃子さんが私の目の前に立った。

「フルーツ系がいいですか? スパイス系は?」などと細かに聞いてくれる。おまかせしますとお願いしてでてきたカクテルは、繊細な美しさ、極上の味だった。

目を丸くする私に、ソムリエの溝口さんが、「中村は、カクテルコンペで優勝したこともある実力派なんです」とすかさず言う。「なんで!なんで、もっと早く言ってくれないの~」とまたしても、ここでカクテルを飲まずにきたことを悔やんだ。
▲「梨のマルガリータ」など、その時季のフルーツを使ったカクテルは1,300円~。好みの味を伝えて、中村さんにつくってもらいたい 

その後も、デザートを食べてレベルの高さに驚いたり、2階に個室があって驚いたり。そうして5年。飽きることなく、通えば通うほど、魅力が増えていることに気が付いた。

今や常連とよばれる客のひとりになっている(はずだ)が、彼らの距離感やスタンスが大きく変わることはない。旅人がふらりと訪れても、常連と変わらぬもてなしで迎えてくれるところがまたいい。
近すぎず、遠すぎず。店を出るときには、肩から力がぬけているのがわかる。

※価格はすべて税込
中井シノブ

中井シノブ

京都在住の編集者・ライター。出版社勤務、情報誌『LEAF』編集長を経て平成11年(1999)に編集事務所「ほんぬ」を設立。著書に『京都和小物手帖』(山と渓谷社)、『京の一生もん』(紫紅社)、『京都女子酒場』(青幻社)など。年間360日の外食で培った店との信頼やネットワークは他に比肩する者なし。

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