粋なおとなが集うバーVol.8 神戸「バー・ゴスペル」「ロゼ・パピヨン」

2016.08.18

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

ミナト神戸。六甲山系が一気に海まで開け、おまけに南斜面の神戸の街は美しい。
明治維新でいち早く開港したかつての外国人居留地と、外国人が住む山手の住宅街をつなぐトアロード、そしておしゃれな店が並ぶ北野坂。
そんな神戸・三宮から、最も「神戸らしい」バーを2軒ご紹介する。

お酒、料理、音楽、内装。個性だらけの「バー・ゴスペル」

2015年8月に25周年を迎えた「バー・ゴスペル」。
といっても、店は2012年に現在の「トア山手ザ・神戸タワー」に移転。トアロードのちょうど真ん中にあるランドマークの超高層タワー1階だ。
このバーがユニークなのは、これも有名店だった中山手のコリアンレストラン「KIM(キム)」が揃って移転、2つの店舗がワンフロアを共有している形態だ。
80平米と広いフロアの奥がレストラン、手前にバーがレイアウトされている。
店頭のスタンド看板には“Japa-Korean Restaurant(在日韓国−朝鮮料理)”とうたわれているが、ガラス張りの壁とドアを通して外から見えるのが「バー・ゴスペル」で、立て看板にはバーの店名表記がない。
前を通る人が目にするのは、観葉植物に囲まれた、クールな石材を使ったバー・カウンターとその前に並ぶコンガ(打楽器)をそのまま使ったスツール。バック・バーの酒棚には大きなむき出しのJBL製スピーカー。

見たところバーに違いないのだが、SOUNDとかMUSICとかのサインや表記はないし、「え、このカウンターがコリアン・レストラン!?」と一見なら思ってしまう。
バーの主は、長く雑誌の音楽評の連載やFMラジオの選曲をしていた大倉カイリさんだ。

神戸ナイトライフを語る際にいつも話題になる大倉さんだが、「バー・ゴスペル」にやってくるのはだいたい午後9時で、早い時間に来ると奥の「KIM」だけが営業していて、バー・カウンターの照明が落とされている。

「バー・ゴスペル」目当てで来て戸惑う人も多いが、大倉さんは「別にいいんですよ」と意に介さない。
また逆に午後11時以降レストラン「KIM」が閉店すると、奥の照明が消される。

レストランの客は二通りで、食事を終えてそのまま帰る人、食後に手前の「バー・ゴスペル」で飲み直す人もいる。
▲「お先でーす」とレストラン「KIM」の営業を終え(午後11時閉店)、奥の照明を落として帰る女主人のキム・ポッチョさん
▲レストラン「KIM」のカウンター席
▲「KIM」にはテーブル席も用意されている

「バー・ゴスペル」は、ウイスキー、スピリッツ、カクテルといったバー・メニューに加え、ワインも多種揃う。
客層もカクテル目当ての酒飲みおじさんから、いつもワインを飲んで帰る仕事帰りのファッション関係者、遅い時間は音楽目当ての客とさまざま。
「洋酒がうまい店」「いいワインがある店」「おしゃれな空間」「音がいい店」「ワールドワイドな選曲」…と、店の特徴を語る際、一元的なとらえ方が出来ないのがこの店の他に類を見ない個性だ。
まるで神戸の街場の時代感覚とその空気感を1軒で凝縮したような店なのだ。
▲音が余計に反射しないよう壁にワイルドな岩が石垣のように組まれている。天井高が4メートルと高く、このベンチ・ソファー席の上にロフト席があったりする
▲ロフトへ上がる階段には仲間の鍛冶作家が手造りした印象的な鉄製手すりが。これは前の店から持ってきたもの

その魅力の一つが、タウン女性誌の「おいしい店グランプリ」を獲得したレストラン「KIM」のツマミが「バー・ゴスペル」でも食べられることだ。
タコのチャンジャ(600円)は、手長ダコにこだわって使用(季節によってはイイダコ)。
1杯目はボウモア12年(800円)をソーダ割りで。チャンジャの唐辛子の辛さとアイラ・ウイスキー独特の潮の香りがマッチ。
2杯目に薦められたのがレモンを搾ったラム・ソーダ(800円)。こちらはさっぱり感覚で相性良し。
神戸下町の定番メニュー、牛すじ煮(600円)はさすがにビーフの本場の街。素材のおいしさが引き立っている。
こちらはホワイトホース12年(800円)の水割りで。きっちり冷やされたタンブラーに美しく成形される氷。
なるほど肉の甘みをこわさずおいしく飲める。
▲ワインのチョイスも定評があり、この日はグループ客が白ワインを4本空けて帰った

超弩級のJBLから流れる音楽のボリュームは大きくない、だが奥のレストラン「KIM」が閉店すると幾分ボリュームが上げられる。
「良い音」「抜群の選曲」にひかれて、夜中にやってくるファンの中には音楽やメディア関係者が多い。

選曲家の大倉さんはジャズやラテン、ワールドミュージックを中心に何万曲もの音源を何年もかけてデジタル化し、パソコンにアーカイブとして保存している。
一発検索可能で、その日その時の客に合わせてがらっと選曲を変えたりして音楽ファンを楽しませている。
バー・カウンターを持つレストランや、カフェを併設するブティックはよくあるが、コリアン・レストランとバーの融合は類を見ない。
長年、神戸の街でナイトライフを創造してきた2軒の店だからこそのなせる技だ。

※値段はすべて税込

神戸らしさはリラックス。バーテンドレスが腕をふるう「ロゼ・パピヨン」

三宮から異人館が並ぶ北野町を結ぶ北野坂。
その1本東の細い通りには、北野坂の喧噪を避けるように小さな名店が揃っている。

その一軒が「ロゼ・パピヨン」。
小さなビルの3階すべてを占める1フロアの大人のバーである。
カウンター10席の奥にラウンジスペースがあり、午後3時から12時(金・土曜は夜中の3時)までの長い営業時間。
バーカウンターに立つのは加藤かれんさんで、N.B.A.(日本バーテンダー協会)のコンペにも出場するバーテンドレスだ。
アンティーク調だがびしっと統一せず、どこか「抜いた」空気感を醸すインテリア。深夜のコーヒーをも楽しめるこのバーの雰囲気はリラックスそのものだ。
▲二人掛けだけのカウンター席がとてもチャーミング

カウンターに座るとまずチャーム(500円)が出てくる。
この日は、冷たい梅昆布茶とチーズと黒胡椒のクッキー、コーヒー豆を練り込んだクッキー、レモンケーキ。
昆布だしが利いた梅昆布茶をひと口。
一気に気分がなごむ。
お酒はやはりカクテルといきたい。
この店名物の「白いトマトジュースのカクテル」(1,400円)を。
テキーラかジンかいずれかを選ぶ。ブラッディ・マリーならウォッカだけど、意外に合わないらしい。
テキーラをチョイスする。加えるのは白いトマトジュースでミントをあしらうだけ。極めてシンプルなカクテルだ。
トマトをつぶして濾して上澄みだけとったような透明のトマトジュース。さらっとしているのにまぎれもないトマトの甘さ、酸っぱさ、風味が主張する。
さっぱり涼しさを呼ぶカクテルで、クラッシュしたコーヒー豆の歯触りと強い香りがおいしいクッキーとよくマッチする。
2016年5月に行われたN.B.A.エリートバーテンダーカクテルコンペティション関西統括本部代表選考会で披露した「コラソン」(900円)は、ユニークなオリジナル・カクテルだ。
唐辛子ウォッカ、カンパリ、チェリー・リキュール、青リンゴのシロップ、レモンジュースをシェイク。
唐辛子ウォッカのパンチとカンパリ独特の甘さがほどよく調和している結構強いカクテルだ。
まだ日の高い早い時間帯に来てカクテルを飲んだり、ワイングラスを傾けて帰る常連客が多いそうだが、夕方にカウンターに座るとどこか開放感あふれるパブ的な雰囲気があって、その気持ちがよくわかる。
神戸で「昼から開いてる」貴重なバーでもある。
※値段はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)など、主に大阪の街や食についての著書多数。編集出版集団140B取締役編集責任者。

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