水の都・島原でみつけたかき氷/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.10

2016.06.29 更新

長崎には行ってみたい店がいくつかあった。水の都・島原にあるという究極のかき氷を出す店とはどんな店なのか?長崎発祥スイーツ「食べるミルクセーキ」とは、かき氷なのか飲み物なのか?2回にわたって長崎のかき氷を紹介しようと思う。

▲「速魚川(はやめがわ)」の氷ぜんざい750円(税込)

究極の削り氷を求めて、島原「速魚川」

「島原に美味しいかき氷がある」そんな噂は随分前から耳に入っていた。なかなか訪れることのできなかったその店に、ようやく訪れることができた。
島原を歩くと街中に鯉の泳ぐ水路や趣ある湧き水の池をもつ庭園があり、至るところで水の美しさに見とれて足が止まる。古いものを大切にする土地柄なのであろう、手入れされた古い建物が並んでいるのだが、そのなかでも一際目を引くのが「猪原金物店」だ。創業明治10(1877)年、九州で二番目に長い歴史を持つ金物屋に併設されているのが「速魚川」、目当てのかき氷のある店だ。
店内には何やら変わった形のマニアックなナイフがあるかと思えば、女性が好みそうな小物類や明るい色調のポストカードなども並び、それらと並んで日用品のオタマや鍋も売られている。なんとも風変わりな迷路のような店内を抜けると、気持ちの良い日本庭園が現れた。この庭を囲むように「速魚川」の客席は配置されている。こんこんと湧く水に満たされた池には清らかな水でしか生きられないという日本石亀が遊び、一つの宇宙がこの空間に存在しているかのように感じる。
これはいい。きっと大当たりだ。この店が不味いものを出すわけがない。
浮き足立って注文をすませ、顔を上げると伝統的な日本庭園の向こうの壁にはフランスの画家・サビニャックの大きなポスターが見える。見回せば店内のあちらこちらに絵画や小物が溢れ、どれもさりげなく店に馴染んでいるのだが、一つひとつをよく見ると強い自己主張を感じるものばかり。あれこれ気になって眺めているうちに氷が運ばれてきた。
▲宇治金時+白玉800円(税込)

しっとりと抹茶蜜が染み込んだ氷は、最近首都圏で流行っている薄い羽のような氷とは異なり、新雪のような細かい粒子が見える。スプーンを入れると、どういうことだろう?スプーンが氷の中に吸い込まれるように入っていく。驚きながらひとさじ口に含んで驚いた。この口どけはいったい何なんだろうか。今まで何度かこの食感のかき氷に出会ったことはあるがこれは凄い。口溶けが良いと言われる羽のような氷ではないがパウダースノーでもない新しい食感だ。これこそが金物屋の実力、究極のかき氷機の刃で削られた究極のかき氷なのだ。

店主にかき氷のことを聞くと、刃の材質に刃の角度、研ぎ方に砥石の種類と次から次へとこだわりが溢れ出した。実はこの日かき氷の提供は本格的に始まってない状況で、かき氷機の刃に関しては最高の状態ではないのだそうだ。それでこの口どけ。最高の状態の刃は、どんな氷を削り出すのだろうか?

かき氷シーズンになる頃には、最高の研ぎを施されたかき氷機の刃が装着されて、なお一層の素晴らしい口どけのかき氷が提供されるという。そのかき氷を食べるために僕ももう一度島原を訪れることになるだろう。

夏休みの思い出になるかき氷。「しまばら水屋敷」

島原名物「かんざらし(白玉)」 専門の甘味処「しまばら水屋敷」は、明治時代に建てられた店主の祖母の住居を復活させた、美しい池と庭を持つ甘味処だ。島原のアーケード商店街の途中にある風情のある門をくぐって奥へ。まずはメニューを注文だ。子供の頃に見たことがあるような懐かしい会計場で、ひらひらと風になびくメニューを見ながらどれにしようかを楽しく迷う。
▲かんざらし324円(税込)

まずは名物「かんざらし」を注文。それからかき氷のシロップを選び、金時の有無、ミルクをかけるかどうか…。子供の頃に戻ったような気分になって随分と悩んでしまったが、ここでは王道の「イチゴミルク」と「抹茶金時」にすることにした。

メニューを見ていると、ここのかき氷は島原の美しい湧き水を凍らせた「角氷」を使って、昔ながらの氷削機で削っていると書いてある。かき氷の長い歴史があるのだろう、会計場の横にはもう使われなくなったかき氷機がオブジェのように置かれていた。
注文を終えて庭へ抜けると、なんという美しさだろう。様々な緑色の葉が活き活きと茂る木々。洒落た造りの日本家屋が悠然とたたずんでいる。先客らにならって縁側近くに腰を下ろし、水面に目を落としてただぼんやりと待つ。いいなぁ、この雰囲気。
▲イチゴかき氷ミルクかけ540円(税込)

運ばれてきたカキ氷は、小さい頃に慣れ親しんだ昔ながらの赤い「イチゴミルク」。練乳のかかった部分が少し溶けて白く染まり、なんとも旨そうではないか。「抹茶金時」は金時の他に「かんざらし」の小さな白玉が乗っていて、何とも可愛い姿で運ばれてきた。
▲抹茶金時かき氷648円(税込)

茹でて冷水にさらした白玉はもっちりと柔らかいが、氷に触れた部分はやがて少し固くなってくる。もちもちした白玉の食感を楽しもうとちょっと急いで白玉を食べ、あとはのんびり、最後は半溶けになるまでゆったりとかき氷を楽しんだ。

ご夫婦二人だけで営むこの店では、休日には随分な混みようになることも。島原の中心部にあるので、周囲の観光を楽しみながら訪れてほしい。

思い出のミルクセーキを求めて「青い理髪館 工房モモ」

島原城のすぐ近くの商店街にある「青い理髪館 工房モモ」は大正12(1923)年に建てられ、登録有形文化財に指定されている美しい洋館だ。老朽化が進み取り壊しが検討された時に、近所の商店街を始め多くの人の願いと努力によって修復され、今は手作りのお菓子と喫茶の店として地元の人から旅行客まで多くの人に愛されている。

僕が訪れたのはある平日、雨の日の午前中。旅先のあいにくの雨にやや気持ちが重くなっていたのだが、ドアを開けて店に入った途端ふっと不思議な気持ちになった。
昔に戻ったような、知らない場所なのに懐かしいような。
店内には理髪店の頃の椅子がちょこんと残っていて、その回りに見えない時間の壁があるような気がした。
▲長崎式食べるミルクセーキ580円(税込)

ここに立ち寄ったのは、長崎地方で長く愛されている「食べるミルクセーキ」を食べるためだった。趣味の良い温かみのあるグラスに盛られて運ばれてきたミルクセーキは素朴でシンプル。なんの飾り気もないミルクセーキだが、一口食べると非常に雄弁に語りかけてくるような、とても魅力的なミルクセーキだった。

店主に美味しさの秘密を聞こうと話しかけていると、店の奥から店主のお母さんが少し恥ずかしそうに現れ「ミルクセーキのことなら、私がお話ししましょうか?」と声をかけてくれた。
「子供の頃まだ電気冷蔵庫がなかったんで、暑い夏の日に氷屋さんに行ってかき氷を買ってくるんです。蜜をかけないでーって言って味なしのかき氷を。急いで走って帰って、卵黄とお砂糖と牛乳を入れてよく混ぜて作ってたんですよ。これが美味しくて!その時のミルクセーキの味を再現して作ってるんです。」

島原の甘く美味しい牛乳と、餌にこだわって育てられた鶏の卵黄を使い、味付けはきび砂糖と県産のはちみつ。エバミルクでコクを加えて懐かしのミルクセーキの完成だ。長崎地方のミルクセーキは食べるものなので、ストローは添えられない。スプーンで最後のひと匙まで美味しく食べられる、かき氷に近い食べ物だと思っていたのだが、実際昔は氷屋さんで買ったかき氷で作っていたという話を聞き、かき氷とミルクセーキの深い関係を確信できた。懐かしい子供の頃のミルクセーキに出会うことができた。
美味しいミルクセーキに出会えたところで、この「食べるミルクセーキ」の発祥の地である長崎を訪ねてみる事にした。長崎では通年、至る所で提供されているという「食べるミルクセーキ」、どんなミルクセーキと出会えるのか楽しみだ。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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