水の都・島原でみつけたかき氷/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.10
長崎には行ってみたい店がいくつかあった。水の都・島原にあるという究極のかき氷を出す店とはどんな店なのか?長崎発祥スイーツ「食べるミルクセーキ」とは、かき氷なのか飲み物なのか?2回にわたって長崎のかき氷を紹介しようと思う。

究極の削り氷を求めて、島原「速魚川」

島原を歩くと街中に鯉の泳ぐ水路や趣ある湧き水の池をもつ庭園があり、至るところで水の美しさに見とれて足が止まる。古いものを大切にする土地柄なのであろう、手入れされた古い建物が並んでいるのだが、そのなかでも一際目を引くのが「猪原金物店」だ。創業明治10(1877)年、九州で二番目に長い歴史を持つ金物屋に併設されているのが「速魚川」、目当てのかき氷のある店だ。



浮き足立って注文をすませ、顔を上げると伝統的な日本庭園の向こうの壁にはフランスの画家・サビニャックの大きなポスターが見える。見回せば店内のあちらこちらに絵画や小物が溢れ、どれもさりげなく店に馴染んでいるのだが、一つひとつをよく見ると強い自己主張を感じるものばかり。あれこれ気になって眺めているうちに氷が運ばれてきた。

しっとりと抹茶蜜が染み込んだ氷は、最近首都圏で流行っている薄い羽のような氷とは異なり、新雪のような細かい粒子が見える。スプーンを入れると、どういうことだろう?スプーンが氷の中に吸い込まれるように入っていく。驚きながらひとさじ口に含んで驚いた。この口どけはいったい何なんだろうか。今まで何度かこの食感のかき氷に出会ったことはあるがこれは凄い。口溶けが良いと言われる羽のような氷ではないがパウダースノーでもない新しい食感だ。これこそが金物屋の実力、究極のかき氷機の刃で削られた究極のかき氷なのだ。
店主にかき氷のことを聞くと、刃の材質に刃の角度、研ぎ方に砥石の種類と次から次へとこだわりが溢れ出した。実はこの日かき氷の提供は本格的に始まってない状況で、かき氷機の刃に関しては最高の状態ではないのだそうだ。それでこの口どけ。最高の状態の刃は、どんな氷を削り出すのだろうか?
かき氷シーズンになる頃には、最高の研ぎを施されたかき氷機の刃が装着されて、なお一層の素晴らしい口どけのかき氷が提供されるという。そのかき氷を食べるために僕ももう一度島原を訪れることになるだろう。
速魚川
長崎県島原市上の町912 猪原金物店中庭
[かき氷提供期間]5月頃~9月
[提供時間]11:00~18:00(L.O.17:30)
[定休日]水曜、第3木曜 ※ 祝日の場合は営業、翌日休み
0957-62-3117
夏休みの思い出になるかき氷。「しまばら水屋敷」


まずは名物「かんざらし」を注文。それからかき氷のシロップを選び、金時の有無、ミルクをかけるかどうか…。子供の頃に戻ったような気分になって随分と悩んでしまったが、ここでは王道の「イチゴミルク」と「抹茶金時」にすることにした。
メニューを見ていると、ここのかき氷は島原の美しい湧き水を凍らせた「角氷」を使って、昔ながらの氷削機で削っていると書いてある。かき氷の長い歴史があるのだろう、会計場の横にはもう使われなくなったかき氷機がオブジェのように置かれていた。


運ばれてきたカキ氷は、小さい頃に慣れ親しんだ昔ながらの赤い「イチゴミルク」。練乳のかかった部分が少し溶けて白く染まり、なんとも旨そうではないか。「抹茶金時」は金時の他に「かんざらし」の小さな白玉が乗っていて、何とも可愛い姿で運ばれてきた。

茹でて冷水にさらした白玉はもっちりと柔らかいが、氷に触れた部分はやがて少し固くなってくる。もちもちした白玉の食感を楽しもうとちょっと急いで白玉を食べ、あとはのんびり、最後は半溶けになるまでゆったりとかき氷を楽しんだ。
ご夫婦二人だけで営むこの店では、休日には随分な混みようになることも。島原の中心部にあるので、周囲の観光を楽しみながら訪れてほしい。
しまばら水屋敷
長崎県島原市万町513-1 アーケード商店街内
[かき氷提供期間]5月~9月 ※かんざらしは通年
[提供時間]11:00~17:00
[定休日]不定休
0957-62-8555
思い出のミルクセーキを求めて「青い理髪館 工房モモ」

僕が訪れたのはある平日、雨の日の午前中。旅先のあいにくの雨にやや気持ちが重くなっていたのだが、ドアを開けて店に入った途端ふっと不思議な気持ちになった。
昔に戻ったような、知らない場所なのに懐かしいような。
店内には理髪店の頃の椅子がちょこんと残っていて、その回りに見えない時間の壁があるような気がした。

ここに立ち寄ったのは、長崎地方で長く愛されている「食べるミルクセーキ」を食べるためだった。趣味の良い温かみのあるグラスに盛られて運ばれてきたミルクセーキは素朴でシンプル。なんの飾り気もないミルクセーキだが、一口食べると非常に雄弁に語りかけてくるような、とても魅力的なミルクセーキだった。
店主に美味しさの秘密を聞こうと話しかけていると、店の奥から店主のお母さんが少し恥ずかしそうに現れ「ミルクセーキのことなら、私がお話ししましょうか?」と声をかけてくれた。

島原の甘く美味しい牛乳と、餌にこだわって育てられた鶏の卵黄を使い、味付けはきび砂糖と県産のはちみつ。エバミルクでコクを加えて懐かしのミルクセーキの完成だ。長崎地方のミルクセーキは食べるものなので、ストローは添えられない。スプーンで最後のひと匙まで美味しく食べられる、かき氷に近い食べ物だと思っていたのだが、実際昔は氷屋さんで買ったかき氷で作っていたという話を聞き、かき氷とミルクセーキの深い関係を確信できた。懐かしい子供の頃のミルクセーキに出会うことができた。
青い理髪店 工房モモ
長崎県島原市上の町888-2
[ミルクセーキ提供期間]5月~10月中旬
[提供時間]10:30~18:00 ※月曜と祝日は10:30~17:00
[定休日]不定休
0957-64-6057

小池隆介
かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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