迷路のような小路に誘われて。佐渡・宿根木の船大工の町を歩く

2016.07.05 更新

日本海に浮かぶ離島・佐渡。古くは流刑の地として、また江戸時代には金山の島として、離島でありながらも外部と盛んな交流のあった島でした。海に囲まれた佐渡で、江戸時代中頃から明治にかけて、廻船業の基地として栄えたのが「宿根木(しゅくねぎ)」です。当時の面影そのまま、狭い敷地に民家が密集し、迷路のような路地が張り巡らされた独特の町並みを体感してきました。

宿根木は佐渡島の最南端の狭い谷あいにある、海に向かって開かれた小さな集落です。江戸時代に物流の大動脈だった「北前船」西廻り航路の寄港地であった小木港から南西約4kmほどのところにあり、当時は船大工をはじめ造船技術者が居住し、村全体が木造巨大帆船「千石船(せんごくぶね)」の産業基地として整備され繁栄しました。
その頃の面影を現代に残す町並みは、人がやっとすれ違える程度の小路と、木壁の家屋が肩を寄せあうように密集して建っていることが特徴。わずか1ヘクタールの土地に110棟もの建造物が建てられている独特の町並みから、現在は国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。

そんな町並みは一歩踏み込むと、まるで異世界に迷い込んだような…。それでいてどこか懐かしいような…。そんな不思議な空気を味わうことができると、近年、観光客が急増しています。

まるで迷路のような小路を散策

▲海側から集落への入り口。竹でできた風垣(かぜがき)が集落を守る

海沿いの集落に見られる風垣ですが、その先に見える町並みはまるで映画のセットのよう。
この風垣の前は「大浜」と呼ばれ、駐車スペースもある集落の入口になっていて、ボランティアガイドさんが常駐しています。集落に入る前に、地図を見ながら見どころを教えてもらえます。気になる場所を頭に入れて、小路に誘われるがまま、気の向くまま、いざ宿根木のまち歩きへ!
足を踏み入れると、どこか見覚えがあるような風情ある小路が続いています。耳をすませると家々からはテレビの音や、話し声、咳払いなどが聞こえてきます。忘れてはいけないのは、ここはテーマパークではなく人が暮らす集落だということ。ほとんどが今も住んでいる家で、60戸180人ほどがここで生活をしています。しっかりとマナーを守ってまち歩きをしましょう。
▲通称「世捨小路(よすてこうじ)」。宿根木のメインストリート

集落で一番古い「石畳」の道。人が歩く中央はすり減ってへこんでいて、長い年月を感じます。世捨小路という奇妙な名前の由来は不明。村の奥にある神社、お寺へ向かう人々は必ずこの世捨小路を通り、お寺から出た霊もこの小路を通り村との別れを告げたそうです。先ほどのボランティアガイドさん曰く「危険も隣り合わせだった廻船業。海に出るということは死を覚悟しなければいけないことだったのかもしれません」とのこと。
▲集落を流れる「称光寺(しょうこうじ)川」

集落の中には小川が流れています。かつては、洗濯をしたり野菜を洗ったりした洗い場だったそう。こんな小さな川でも数十人の死者が出るほどの洪水があったんだとか。
▲旧宿根木郵便局の局舎

こちらの局舎は1921年(大正10年)に建てられた、宿根木の集落の中では珍しい洋風建築。緑色の外観がひときわ鮮やかなのですが、不思議と宿根木の雰囲気に合ってます。

町に張り巡らされた迷路のような小路を歩いていると「あれ?またこの家だ」と同じ場所に出てしまうことが結構ありました。それがまた見知らぬ世界に迷い込んでしまったような気分を盛り上げてくれます。

宿根木独自の伝統的建築に注目!

町並みを見て気づいた方もいるかもしれませんが、宿根木にあるほとんどの建物が総二階建て。そして、縦板張りの簡素な外観です。
▲杉板で覆われた建築。船の廃材が利用されている家も多い

宿根木の建築は、町家作りと言われる日本の古民家とは違い、狭い敷地で快適に暮らすため、独自の間取りが進化。古くは平屋だったものを、階高を上げ総二階とすることで、空間を増やしてきました。

また、外観は日本海から吹き付ける強風や塩害から建物を守るため「サヤ」と呼ばれる杉板が縦板張りされている家が多いのも特徴です。このサヤのおかげで、共通の景観が保たれています。
▲覆屋(おおいや)で囲われた土蔵

面白いのが母屋だけでなく、道具蔵として使用される土蔵までも「サヤ」で覆われているものがあったこと。こちらの白い漆喰の土蔵は、丸ごとサヤで覆うように建てられた「覆屋」で囲い海風から守っているのだそう。このような土蔵が、集落内に現在も26棟あるとのことですが、外から見ると普通の家と見分けがつきません。
▲石置き木羽葺(こばぶ)き屋根

また、薄割りにした木の板を何枚も重ねた「木羽葺き」の上に石が置かれた屋根も、特徴的な景観です。これは、瓦が入ってくるまで主流だった日本海側特有の屋根。宿根木では現在、主屋や納屋の約40棟の屋根が石置き屋根に復元されています。

公開民家を見学しよう!

宿根木では、その独特の建築を見学できるようにと、集落内で3棟の元民家が一般公開され、うち2棟ではそれぞれボランティアガイドさんが内部の案内をしてくれます。

そのうちのひとつが、JR東日本の吉永小百合さんが登場するポスターの撮影場所として有名な「三角家」です。
▲今ではすっかり人気の記念撮影スポット

その名の通り「三角」の家。1846年(弘化3年)にこの地に移築されたと言われていますが、もともとは四角い建物だったものを土地に合わせて三角形に切り詰めたのだとか。狭い土地に密集して住む知恵の象徴のような建物です。
▲塩の看板が印象的

実は、2006年(平成18年)まで、塩の販売と新聞の配達などをして生計を立てていたおばあさんが一人で住んでいました。ご高齢になり一人暮らしが難しくなったため、宿根木集落にこの家を託し、親族の住む県外へ移られたそうです。その後、2012年から見学が可能になりました。
中に入ってみると、急勾配な階段に、四角ではなく複雑な角度で配置された廊下や部屋。限られた空間を最大限に活用しようという知恵と技が詰まっています。
▲三角家の中で一番広い2階の座敷

建物内には、お住まいだったおばあさんが生前使用していた物品や、集落の昔の写真などが展示されています。室内から宿根木での暮らしの匂いを感じられるようでした。
▲船主の豪邸「清九郎(せいくろう)」

こちらの公開民家は、江戸時代後期から明治にかけて廻船2隻を所有し、財をなした廻船主の元邸宅「清九郎」。
外観は質素でどこも同じ印象を受ける宿根木の建物ですが、内部は漆をふんだんに使うなど豪華な造りとなっているものも少なくありません。その代表的な建物である「清九郎」は、当時の最高水準の技術と建築材料が使われた邸宅です。
▲吹き抜けの居間は見事な漆塗りが施されている

広い土間や台所、面取柱、内装の柿渋塗りや漆塗り、ケヤキや一本杉の漆塗り戸など、贅を尽くした見事な造りになっています。宿根木集落は隆盛を極めた当時は「佐渡の富の三分の一を集めた」と言われたそう。清九郎の贅沢な空間からは、当時の様子をうかがい知ることができます。
以前は民宿としても使われたという「清九郎」。ボランティアガイドさんによると、2階奥のこの客間は、「現在同じ部屋を作ろうとしたら、この部屋だけで2,000万円かかる」とのこと!

蒸気船や鉄道が発達する前は、流通の核であった北前船ですが、改めてその経済力を実感しました。
最後の公開民家「金子屋」は船大工職人の家。室内は撮影禁止のため写真はお見せできませんが、清九郎より庶民的な暮らしを垣間見ることができます。

民俗学マニアの心を揺さぶる「佐渡国小木民俗博物館」

▲1920年(大正10年)築の旧小学校。現在は博物館として転用

そのまま歩き回っても楽しめる宿根木ですが、土地の歴史や文化を知ってまち歩きをすると一層楽しめるもの。そこでオススメなのが、宿根木の歴史がギュッと詰まった「佐渡国小木民俗博物館」です。1970年(昭和45年)に廃校になった宿根木小学校の木造校舎を活用しています。
▲廃校当時のまま残された3年生の教室
▲各教室がテーマごとの展示室になっている

展示されているのは、主に民俗資料。驚くのはその数で、この地域の漁具や衣類、生活用品に、仏壇や仏像などまで、多岐にわたる暮らしのアイテムが約30,000点も展示されています。民俗学者・宮本常一(みやもとつねいち)氏の提案により設立されたということで、民俗学好きの私はマニア心をくすぐられる展示の数々に興奮しっぱなしでした。
▲漁具や農具を展示した新館

校舎だけでなく、元体育館や1984年(昭和59年)に新たに建てられた新館にも展示物がズラリ。展示物のうち南佐渡漁労用具1,293点、船大工道具1,034点は国の重要有形民俗資料に指定されるなど、貴重な品も揃っています。

さらに隣の千石船展示館では、宿根木の繁栄を支えた実物大の千石船「白山丸」が公開されています。
こちらは、1858年(安政5年)に宿根木で建造された「幸栄丸」を、当時の板図をもとに復元したものです。この千石船は、越後の米を西廻りで大阪へ運び、大阪で塩や雑貨を仕入れて北海道で売るなど、多くの港に立ち寄りながら品物の価格差で商いを行う買積船でした。
▲船内には自由に入ることができます

復元された千石船は、甲板に乗ったり船内に入ることが可能です。巨大な船なのに、船内に入ると腰をかがめなければ歩けないほど狭い空間に驚きました。

この船に、往路は米俵を積み、復路は船が軽くならないよう御影石や焼き物など重量のある品が積み込まれました。宿根木の町には石畳や石橋、石灯籠など全国から運ばれてきた石がたくさんありますが、それも千石船あってのものなんです。宿根木や千石船の歴史に関する展示も多く、ここを訪れた後だと、また違った目線でまち歩きが楽しめそうです。

ゆっくりくつろげるお食事処もオススメ!

宿根木には、歩き回って一息つきたい時にくつろげるスポットもあります。
▲集落内にある「茶房 やました」
宿根木で人気なのがパスタやコーヒー、お茶を頂ける「茶房 やました」さん。外観は周りの家と変わりませんが、中に入ってみると…
客席のテーブルはなんと、小木港で有名な「たらい舟」をひっくり返して赤く塗装を施したもの!これを囲んで座るので他のお客さんと相席になることも多いのだとか。
▲佐渡産サザエとキノコを使った「サザエのオイルスパゲッティ」(950円・税込)
▲デザートセットの「抹茶と小豆のパウンドケーキ」と「コーヒー」(セット料金350円・税込)
▲「ぜんざい」(515円・税込)

料理はシーフードをはじめ佐渡の食材を使ったパスタ中心。甘味メニューもあり、雰囲気のある建物の中でゆっくりとした時間を過ごせます。
他にも、そば打ちや竹細工などの体験・学習ができるお食事処や、手打ちそばが自慢の民宿などくつろげるスポットもあります。
華やかな観光地とは言えませんが、佐渡宿根木の情緒あふれる町並みは、日常から離れ、ゆったりとした時間を満喫することができます。街の喧騒も車通もない。海と風の音、鳥のさえずり、そして少しの生活音がBGMの静かな世界で、心穏やかな休日を過ごしてみてはいかがでしょうか。
唐澤頼充

唐澤頼充

編集・ライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」編集長。農学部卒業後、マーケティング会社に勤務後、独立。現在はNPO職員として勤務する傍ら各種媒体で執筆活動を行っている。「情報流通量の多さが地域の豊かさ」をモットーに、地域に眠る資源をコンテンツ化し、発信する活動を行う。

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