迷路のような小路に誘われて。佐渡・宿根木の船大工の町を歩く
日本海に浮かぶ離島・佐渡。古くは流刑の地として、また江戸時代には金山の島として、離島でありながらも外部と盛んな交流のあった島でした。海に囲まれた佐渡で、江戸時代中頃から明治にかけて、廻船業の基地として栄えたのが「宿根木(しゅくねぎ)」です。当時の面影そのまま、狭い敷地に民家が密集し、迷路のような路地が張り巡らされた独特の町並みを体感してきました。


そんな町並みは一歩踏み込むと、まるで異世界に迷い込んだような…。それでいてどこか懐かしいような…。そんな不思議な空気を味わうことができると、近年、観光客が急増しています。
まるで迷路のような小路を散策

海沿いの集落に見られる風垣ですが、その先に見える町並みはまるで映画のセットのよう。



集落で一番古い「石畳」の道。人が歩く中央はすり減ってへこんでいて、長い年月を感じます。世捨小路という奇妙な名前の由来は不明。村の奥にある神社、お寺へ向かう人々は必ずこの世捨小路を通り、お寺から出た霊もこの小路を通り村との別れを告げたそうです。先ほどのボランティアガイドさん曰く「危険も隣り合わせだった廻船業。海に出るということは死を覚悟しなければいけないことだったのかもしれません」とのこと。

集落の中には小川が流れています。かつては、洗濯をしたり野菜を洗ったりした洗い場だったそう。こんな小さな川でも数十人の死者が出るほどの洪水があったんだとか。

こちらの局舎は1921年(大正10年)に建てられた、宿根木の集落の中では珍しい洋風建築。緑色の外観がひときわ鮮やかなのですが、不思議と宿根木の雰囲気に合ってます。
町に張り巡らされた迷路のような小路を歩いていると「あれ?またこの家だ」と同じ場所に出てしまうことが結構ありました。それがまた見知らぬ世界に迷い込んでしまったような気分を盛り上げてくれます。
宿根木独自の伝統的建築に注目!

宿根木の建築は、町家作りと言われる日本の古民家とは違い、狭い敷地で快適に暮らすため、独自の間取りが進化。古くは平屋だったものを、階高を上げ総二階とすることで、空間を増やしてきました。
また、外観は日本海から吹き付ける強風や塩害から建物を守るため「サヤ」と呼ばれる杉板が縦板張りされている家が多いのも特徴です。このサヤのおかげで、共通の景観が保たれています。

面白いのが母屋だけでなく、道具蔵として使用される土蔵までも「サヤ」で覆われているものがあったこと。こちらの白い漆喰の土蔵は、丸ごとサヤで覆うように建てられた「覆屋」で囲い海風から守っているのだそう。このような土蔵が、集落内に現在も26棟あるとのことですが、外から見ると普通の家と見分けがつきません。

また、薄割りにした木の板を何枚も重ねた「木羽葺き」の上に石が置かれた屋根も、特徴的な景観です。これは、瓦が入ってくるまで主流だった日本海側特有の屋根。宿根木では現在、主屋や納屋の約40棟の屋根が石置き屋根に復元されています。
公開民家を見学しよう!
そのうちのひとつが、JR東日本の吉永小百合さんが登場するポスターの撮影場所として有名な「三角家」です。

その名の通り「三角」の家。1846年(弘化3年)にこの地に移築されたと言われていますが、もともとは四角い建物だったものを土地に合わせて三角形に切り詰めたのだとか。狭い土地に密集して住む知恵の象徴のような建物です。

実は、2006年(平成18年)まで、塩の販売と新聞の配達などをして生計を立てていたおばあさんが一人で住んでいました。ご高齢になり一人暮らしが難しくなったため、宿根木集落にこの家を託し、親族の住む県外へ移られたそうです。その後、2012年から見学が可能になりました。


建物内には、お住まいだったおばあさんが生前使用していた物品や、集落の昔の写真などが展示されています。室内から宿根木での暮らしの匂いを感じられるようでした。
公開民家「三角家」
新潟県佐渡市宿根木448
[公開時間]9:00~16:00(4月~11月下旬の土・日・祝日のみ)
[定休日]月~金曜(8月は無休)、冬期(11月下旬~3月末)
[料金]大人300円、中学生以下150円、幼児無料 ※ともに税込

こちらの公開民家は、江戸時代後期から明治にかけて廻船2隻を所有し、財をなした廻船主の元邸宅「清九郎」。
外観は質素でどこも同じ印象を受ける宿根木の建物ですが、内部は漆をふんだんに使うなど豪華な造りとなっているものも少なくありません。その代表的な建物である「清九郎」は、当時の最高水準の技術と建築材料が使われた邸宅です。

広い土間や台所、面取柱、内装の柿渋塗りや漆塗り、ケヤキや一本杉の漆塗り戸など、贅を尽くした見事な造りになっています。宿根木集落は隆盛を極めた当時は「佐渡の富の三分の一を集めた」と言われたそう。清九郎の贅沢な空間からは、当時の様子をうかがい知ることができます。

蒸気船や鉄道が発達する前は、流通の核であった北前船ですが、改めてその経済力を実感しました。
公開民家「清九郎」
新潟県佐渡市宿根木400
[公開時間]9:00~16:00(4月~11月中旬のみ営業、閉館時間は時期により異なる)
[定休日]期間中なし、冬期(11月下旬~3月末)
[料金]大人400円、小・中学生200円 ※ともに税込

公開民家「金子屋」
新潟県佐渡市宿根木
[公開時間]9:00~16:00(時期により異なる)
[定休日]期間中なし、冬期(12~3月)
[料金]300円 ※税込
民俗学マニアの心を揺さぶる「佐渡国小木民俗博物館」

そのまま歩き回っても楽しめる宿根木ですが、土地の歴史や文化を知ってまち歩きをすると一層楽しめるもの。そこでオススメなのが、宿根木の歴史がギュッと詰まった「佐渡国小木民俗博物館」です。1970年(昭和45年)に廃校になった宿根木小学校の木造校舎を活用しています。


展示されているのは、主に民俗資料。驚くのはその数で、この地域の漁具や衣類、生活用品に、仏壇や仏像などまで、多岐にわたる暮らしのアイテムが約30,000点も展示されています。民俗学者・宮本常一(みやもとつねいち)氏の提案により設立されたということで、民俗学好きの私はマニア心をくすぐられる展示の数々に興奮しっぱなしでした。

校舎だけでなく、元体育館や1984年(昭和59年)に新たに建てられた新館にも展示物がズラリ。展示物のうち南佐渡漁労用具1,293点、船大工道具1,034点は国の重要有形民俗資料に指定されるなど、貴重な品も揃っています。
さらに隣の千石船展示館では、宿根木の繁栄を支えた実物大の千石船「白山丸」が公開されています。


復元された千石船は、甲板に乗ったり船内に入ることが可能です。巨大な船なのに、船内に入ると腰をかがめなければ歩けないほど狭い空間に驚きました。
この船に、往路は米俵を積み、復路は船が軽くならないよう御影石や焼き物など重量のある品が積み込まれました。宿根木の町には石畳や石橋、石灯籠など全国から運ばれてきた石がたくさんありますが、それも千石船あってのものなんです。宿根木や千石船の歴史に関する展示も多く、ここを訪れた後だと、また違った目線でまち歩きが楽しめそうです。
佐渡国小木民俗博物館
新潟県佐渡市宿根木270-2
[開館時間]8:30~17:00
[定休日]なし(冬期は月曜)
[料金]大人500円、小人200円 ※ともに税込
0259-86-2604
ゆっくりくつろげるお食事処もオススメ!





料理はシーフードをはじめ佐渡の食材を使ったパスタ中心。甘味メニューもあり、雰囲気のある建物の中でゆっくりとした時間を過ごせます。
茶房 やました
新潟県佐渡市宿根木442
[営業時間]10:00~16:00(ランチ11:00~14:00)
[定休日]木曜 ※他に不定休あり
0259-86-1212

宿根木
新潟県佐渡市宿根木
0259-86-3200(佐渡観光協会・南佐渡案内所)

唐澤頼充
編集・ライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」編集長。農学部卒業後、マーケティング会社に勤務後、独立。現在はNPO職員として勤務する傍ら各種媒体で執筆活動を行っている。「情報流通量の多さが地域の豊かさ」をモットーに、地域に眠る資源をコンテンツ化し、発信する活動を行う。
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