巨大なアート作品も!町中で金子みすゞの作品に出会える、長門市仙崎のレトロな町歩き

2016.07.26

大正末期から昭和初期にかけて500以上の作品を残した童謡詩人・金子みすゞ。代表作「こだまでしょうか」がテレビCMで朗読されるなどして、近年では多くの人に知られる存在となりました。彼女が生まれ育った山口県長門市仙崎は数々の詩においてその情景がうたわれており、当時の姿を色濃く残す町並みや風景は、現在も作品の世界観そのまま!彼女の面影に出会える“金子みすゞの聖地めぐり”にご案内します。

数々の金子みすゞ作品の舞台となった故郷・仙崎

「若き童謡詩人の巨星」と賞賛されながら、26歳という若さでこの世を去った金子みすゞ、明治36年(1903)年~昭和5年(1930)年。昭和59年(1984)年に彼女の作品全集が刊行されるまでの半世紀以上、その存在を知る人はほとんどいませんでした。

しかしこの全集の発売をきっかけに、彼女の作品は飛躍的に多くの人の目に触れるようになります。近年では「私と小鳥と鈴と」が楽曲化されNHK「にほんごであそぼ」で放送された他、「こだまでしょうか」がテレビCMで使用されるなど、そのフレーズとともに童謡詩人・金子みすゞの名をいっそう世間に知らしめることとなりました。
▲作品「わたしと小鳥と鈴と」の一節「みんなちがって、みんないい。」はみすゞの代名詞的な存在。写真は「金子みすゞ記念館」内「プロジェクトMギネス」1/13縮尺タペストリー

金子みすゞの生まれ故郷は山口県長門市仙崎(当時は大津郡仙崎村)。下関へと移り住む大正12(1923)年までの20年間をこの地で過ごしました。

彼女が詩作を始めたのは下関で暮らし始めてからのことですが、生み出された作品には、幼少期、そして青春時代を過ごした仙崎の町並みや界隈の美しい風景が数多くうたわれています。
▲「王子山公園」から見た仙崎の町並み。みすゞは作品「王子山」で「木の間に光る銀の海、わたしの町はそのなかに、竜宮みたいに浮かんでる。」とうたった

仙崎は現在でも漁業拠点の一つであり、名物「仙崎イカ」をはじめ、近海はサザエやウニといった新鮮魚介の宝庫です。また、対岸の青海島は“海上アルプス”とも呼ばれる景勝地。日本海の荒波によって造形された奇岩あり洞門ありの絶景を、仙崎港発着の遊覧船から楽しめます。
▲青海島へと向かう遊覧船。目の前で見る海上アルプスは大迫力!

そんな仙崎の魅力を、今回は金子みすゞの作品をたどりながら紹介します。

実家の書店が再現された趣きある「金子みすゞ記念館」

まずは作品をじっくり知るために「金子みすゞ記念館」(一般税込350円、高校生以下税込150円)へ足を運びましょう。同施設は彼女の実家で書店でもあった「金子文英堂」の跡地にあり、建物も同店そのものが忠実に再現されています。「金子文英堂」内部の雰囲気は、彼女が過ごした大正時代そのものです。
▲記念館は、JR仙崎駅から町の中央を貫く「みすゞ通り」の中程にある。再現された実家「金子文英堂」が入口、隣接する元酒屋(現在は休憩所)が出口となっている。

書物が並ぶ店舗、台帳が置かれた部屋、奥に広がる居住部分では、小物や調度品など細部に至るまで当時が再現されています。2階にはみすゞの部屋もあります。

部屋の中には「叱られる兄さん」「井戸ばたで」など、場所にちなんだ詩の掲示もあり、家族との生活の一場面を垣間見ることも。
▲再現された店内の様子。当時は大津郡で唯一の書店であり、みすゞも本が大好きだった。ちなみに陳列されている本は展示用(表裏のみ装丁)
▲井戸とみすゞの詩。敷地内には随所にみすゞの詩があり、情景を想像せずにはいられない
▲再現されたみすゞの部屋。隣室には、弟で劇作家となった上山雅輔(かみやまがすけ/本名は正祐:うえやままさすけ)を紹介する展示もある

続いて奥の本館へ。ここには、みすゞについての作品や実物を含めた資料が数多く展示されています。
▲子どもの頃のみすゞは、常に成績優秀。それだけでなく、周りの人はもちろん、自然や生き物に対して人一倍の優しさと慈しみの心を持つ少女でもあったとか

館内には、作品512編すべてを鑑賞できる検索コーナーもあります。また、回廊にある直筆原稿の展示では、優しさあふれる、みすゞ直筆の文字にも注目してみて下さい。
▲直筆原稿が展示された回廊
▲手のひらに詩が投影される「手のひらのページ」

館内をぐるりと回れば、きっと誰もがみすゞの人となりとその作品に魅せられてしまうはずですよ。
▲気持ちがすっかりみすゞに魅了され、現在と詩の世界の仙崎がシンクロ!?

ボランティアガイドの案内でみすゞ探訪へ。作品世界にどっぷり浸る

金子みすゞの魅力に触れたところで、今度は「ながとボランティアガイド会」が主催しているガイドツアーへ。こちらを利用するためには1週間前までに電話での予約が必要です。今回は特別に、同会の会長・金谷和夫さんに仙崎の町を案内してもらいました。

記念館から交差点の商店まで30mほど歩いたところで、みすゞが、実家の看板の陰から通りの軒先を見てうたった「角の乾物屋の」の場面が目の前に広がります。ここは、実際にその乾物屋があった場所。今は食料品店になっています。
▲石碑があり、「角の乾物屋の」の全文も掲示されている。「金子文英堂」を背にして立てば、少女時代のみすゞがこちらを見ている気配を感じるかも!?

再現された「金子文英堂」と隣の酒屋以外は当時の姿ではありませんが、仙崎で生まれ育ち現在80歳の金谷さんが話してくれる、昔の町の姿はリアリティにあふれ、タイムスリップした気分に浸れます。
さらに少し歩くと、すぐに「八百屋のお鳩」がうたわれた場所に。現在は石碑と詩の掲示があるのみでお店は残っていませんが、営業当時の様子や、三味線などの芸事に秀で“ハイカラなおじさん”と呼ばれていたという昭和初期の店主についての金谷さんのお話しに、みすゞはどんな風に見ていたのだろうかなどとこちらの想像は楽しくなるばかりです。

続いて「みすゞ通り」の海側の終点へ。対岸の青海島と橋でつながるまではここに渡船場があり、今でもその名残があります。

取材当日は快晴で海の青さが際立っていましたが、この詩の雰囲気に十二分に浸るのであれば、あえて雨の日に訪れてみるべきなのかもしれません。
▲「瀬戸の雨」がうたわれた渡船場跡。詩の掲示は2枚あり、向かって左がみすゞのオリジナル作品

その他にも「極楽寺」「花津浦」など、みすゞが「仙崎八景」としてうたったいくつかの場所へ案内していただきました。そして最後に、みすゞが眠る遍照寺を訪れ、町歩きを終えました。
▲「極楽寺」では境内に咲く桜の様子がうたわれている。取材時は残念ながら6月…
▲仙崎の街の西、深川湾沿いの海岸から望める「花津浦」

町全体が「みすゞギャラリー」。軒先や外壁にみすゞの詩、かまぼこ板を使ったモザイクアートも!

見どころは、詩に登場する場所だけではありません。「みすゞ通り」に並ぶ建物の軒先や外壁には、手作りの詩札やイラストが添えられたパネルがあちらこちらに掲示されており、一区画歩みを進めるたびに、さまざまな詩に出会えます。
▲パネルのイラストは長門市在住のイラストレーター・尾崎眞吾氏が手がけている。パネル左下のQRコードを読み取れば、その場で朗読も聴ける


また、名物「仙崎かまぼこ」のかまぼこ板などを使った、金子みすゞにちなんだモザイクアートもあります。みすゞ通り中程にある「プロジェクトM20000」で見られるのは、代表作の一つとも言われる「大漁」の世界観を表現した作品。2万枚のかまぼこ板に、詩の全文と無数の大羽鰮(おおばいわし)がブラックライトで浮き上がります。
▲無数の大羽鰮に囲まれる不思議な空間。「大漁」の作品のイメージが強烈に印象づけられる

こうしたモザイクアートは町の各所に展示されており、2人のみすゞが描かれた幅10mにも及ぶ作品も必見です。こちらの作品は青海島観光ホテル横の壁面にあり、右斜めから見ると20歳のみすゞが、左斜めからは女学生時代のみすゞが、正面からは両者が向かい合っているように浮かび上がります。
▲右斜めから見た、20歳のみすゞ。三角柱のピースを使うことで、立体的な仕掛けを演出
▲左斜め前から見ると、女学生時代のみすゞが浮かび上がる

近くで見ると、1ピースごとにメッセージが書かれているので、そこに注目するのも楽しいですよ。中には著名人によるメッセージもあるそうなので、探してみてください。
▲「大漁」のモザイクアートのかまぼこ板にも、一枚一枚に長門市民や、同市を訪れた人のメッセージが書かれている
▲JR仙崎駅の駅舎内全面にも、かまぼこ板2万枚による作品が

なお、JR西日本では新下関駅~仙崎駅間で各駅停車の観光列車「みすゞ潮彩」を運行中。仙崎へと向かう列車の車内では金子みすゞを紹介する紙芝居も上演され、さらに気分も高まります。
▲観光列車「みすゞ潮彩」。車両はみすゞの生きた大正時代の「大正ロマン」をイメージして、アール・デコ調にデザインされている(写真は山口県Photo素材集より)
長門市仙崎を訪れ、金子みすゞの面影をたどって町を歩きませんか?きっと誰もが、1900年代初期の仙崎へ、そして彼女の作品世界へと引き込まれてしまうはずです。
兼行太一朗

兼行太一朗

記者兼営業として、地元山口の地域情報紙に14年間勤務。退職後はNPO法人大路小路ひと・まちづくりネットワークに籍を置き、守護大名大内氏や幕末における歴史資源の取材に携わる。同時にフリーライターとして活動しながら、たまに農業も。自称ネコ写真家。(編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP