かき氷のような長崎の「食べるミルクセーキ」/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.11

2016.07.17

かき氷を食べ歩いていると、かき氷メニューの端っこに「食べるミルクセーキ」を見つけることがある。ある時この「ミルクセーキ」を注文すると、店主はおもむろに冷凍庫から貫目氷(かんめごおり)を持ってきて氷削機に設置し、かき氷を作り始めたのだ。細かく削った氷を卵液の入ったアルミのボウルで受けると、泡立て器を使ってカチャカチャとかき回し、ちょっと硬めの「ミルクセーキ」を作ってくれた。なんということだろう、「食べるミルクセーキ」はかき氷の一種だったのだ!

「食べるミルクセーキ」を生み出した九州最古の喫茶店 「ツル茶ん」

「食べるミルクセーキ」発祥の店は長崎の商店街の中にあった。「ツル茶ん」は大正14(1925)年に九州初の喫茶店として開店。コーヒー、ココア、アイスクリームなど喫茶店の王道メニューに最初から「ミルクセーキ」も名を連ねていたという。

もともと「ミルクセーキ」はイギリスの「エッグノッグ」という卵と牛乳を使ったカクテルから考案されたと言われている。幕末に西洋文化とともに日本に伝わって来た「ミルクセーキ」に、「ツル茶ん」初代の川村岳男氏はアレンジを加えた。坂道の多い長崎の市街地を、毎日上り下りして大汗をかいている長崎人のために、たっぷりの氷を加えて作ったのが長崎流「食べるミルクセーキ」であったのだ。
▲元祖長崎風食べるミルクセーキ 680円(税込)

言われてみれば「ミルクセーキ」は、見た目よりも甘さ控えめ、アイスクリームに比べても同じ卵や乳製品を使っているわりに後味がスッキリしている。体をクールダウンして、のどの渇きも抑えられる、そんな役割を「食べるミルクセーキ」は果たしている。

店主に聞くと、ここ「ツル茶ん」でもミルクセーキを作る時には業務用の氷削機を使用しているとのこと。ストローは添えずにスプーンだけで食べるのが長崎流ということで、かき氷と同じ分野に属しているのは間違いない。
創業時から変わらない元祖「食べるミルクセーキ」を、この店の長い歴史を思いながらじっくりと味わった。
▲トルコライス1,180円(税込)

「ツル茶ん」では、長崎名物大人のお子様ランチ・トルコライス(カレー、トンカツ、スパゲティーのひと皿盛り)も味わう事が出来る。長崎に着いたらまずは「ツル茶ん」で懐かしの味を味わってみてほしい。

和菓子屋さんがつくるミルクセーキ 「和風喫茶 志らみず」

「ツル茶ん」からほど近い和菓子屋さんでもミルクセーキを提供していると聞いて訪れたのは、和菓子屋「白水堂」の店舗に併設されている「和風喫茶 志らみず」だ。明治20(1887)年創業の老舗和菓子屋でも一年中ミルクセーキを提供している。
▲ミルクセーキ 680円(税込)

ミルクセーキは「ツル茶ん」にくらべるとちょっと固めでよりアイスクリームに近いように見えたが、ひと匙口に含むとやはり口溶けがアイスクリームとは違う。シャクシャク、サ~ッと溶けて消えてしまう。

「志らみず」ではミルクセーキの他に、抹茶味の「宇治セーキ」や「チョコセーキ」なども提供している。そして、それらと同じようにグラスに入って提供されているのが「氷ぜんざい」。ミルクセーキと同じように氷削機でつくったかき氷に小豆をたっぷり混ぜたものだ。和菓子屋自慢の小豆がたっぷり入っているのだから、これを見過ごす訳にはいかない!即注文だ。
▲氷ぜんざい 690円(税込)

小豆の上品な甘さだけで仕上げられた「氷ぜんざい」は、かき氷よりもしっとりとして水分が多い。「かき氷は一人で一杯食べるのは多すぎる」とおっしゃる年配のお客さんも、こちらは気軽に注文しているようだ。
もっちり白玉がついて、なんとも嬉しいお値段ではないか。長崎に行く事があれば、ぜひこの「氷ぜんざい」も試してみてほしい。

旅人が集う喫茶店「旅人茶屋」

長崎駅近くの路地にある「旅人茶屋」は、ホットサンドとコーヒーが美味しいと評判の小さな喫茶店だ。扉を開けてカウンター席に着くと、誰かが頼んだホットサンドの香りがたまらなく旨そうで思わず注文してしまった。年代物のホットサンドメーカーで焼くホットサンドは、ちょっと濃いめの焼き色で、切り口からはたっぷり詰まった具が溢れ出しそうだ。
▲コンミートとコーンのホットサンド650円(税込)

通年提供されている「ミルクセーキ」を注文すると、目の前で卵を溶き練乳を加えて、作りたてを足付きのグラスに盛りつけてくれた。彩りにはサクランボではなくカラースプレーをパラパラっとふってくれた。このちょっと懐かしい感じが、「ミルクセーキ」にはちょうど良い。
▲ミルクセーキ 600円(税込)

氷はちょっと粗めだが、卵の味がしっかりとしている。今まで食べた中で一番シンプルな印象だが、家で作ってもらった手作りおやつのような感じでとても美味しく、あっという間に完食してしまった。旅先で「お母さんの味」を味わえるような店、そんな懐かしさを求めて旅人はこの店に集ってくるのかもしれない。

アンティーク喫茶&食事「銅八銭」

長崎の旅の最後に訪れたのは、名物の「トルコライス」や「ミルクセーキ」を夜遅くまで楽しむ事の出来る「アンティーク喫茶&食事 銅八銭」だ。蔦の絡まる煉瓦作りの店の前には西洋甲冑が佇み、その横には招き猫が。店内に入ると思いのほか広々とした客席に、中庭から光が差し込む。なんだか落ちつく居心地の良い感じにほっとする。
さてどこの席に座ろうか、できれば「ミルクセーキ」を作っているところが見える席がいいなとさがしていると、人気商品「ミルクセーキ」の注文が入ったのだろう、おもむろにカウンターの上のミキサーが大音量で回り始めた。この店では氷削機は使わず、ミキサーで仕上げるようだ。卵黄ふたつに牛乳・練乳にはちみつも加えて、ミキサーの中でだんだん液体が消えてゆき、完全に固形になったら完成。
▲ミルクセーキ680円(税込)

美しいブルーの切り子グラスに盛りつけられた「ミルクセーキ」は、グラスの高さの2倍ほどに盛りつけられ、彩りにはみかんとアイビーの葉っぱがちょこんと添えられていた。長崎に来て初めて「ミルクセーキ」にストローが添えられているのを見たが、ミキサーで滑らかに仕上げる分溶けてゆくのもはやく、最後には半分溶けかかった「ミルクセーキ」を飲むために必要なのだ。半分溶けた「ミルクセーキ」は最初の氷の部分よりも甘く感じられ、最後まで美味しく飲み干した。
「ツル茶ん」で生まれた「長崎流ミルクセーキ」は、長崎の皆に愛されていろんな店に伝わり、すこしずつお店のテイストにあわせて味や作りかたが変わって行ったのだろう。それからそれぞれの店で何年も何十年も同じ味を伝え続け、今では長崎中の多くの喫茶や食堂で「ミルクセーキ」を食べる事が出来る。どの「ミルクセーキ」も、お店の愛情が詰まった手作りの味がした。路面電車を使っての観光の途中に、乾いたのどを「長崎流ミルクセーキ」で潤してみてはいかがだろうか。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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