日本のふぐ料理公許第一号店「春帆楼」でこの世の至福を味わう

2015.07.22 更新

本州と九州を隔てる関門海峡を一望する高台に佇む「春帆楼(しゅんぱんろう)」は、ふぐ料理公許第一号店として知られる老舗中の老舗。そのコース料理を堪能すべく、下関本店を訪ねました。

「春帆楼」の名づけ親は伊藤博文。歴史上の人物に愛された場所

▲下関本店の隣には、講和会議の部屋の様子を伝える日清講和記念館がある

山口・下関のグルメを代表するふぐ料理。なかでも、「春帆楼」の歴史は古く、蘭医・藤野玄洋が医院を開き、その妻・みちが長期療養患者のために手料理を出していたのは江戸時代のことでした。明治14年頃、玄洋のもとを頻繁に訪ねていた伊藤博文のすすめで、みちが医院を改装し、割烹旅館を開いたのがはじまりといわれています。

明治20(1887)年の暮れ、初代内閣総理大臣となった伊藤博文が宿泊した際、海は大荒れで漁がありませんでした。困り果てたみちは、豊臣秀吉の時代から続く河豚禁食令に背き、覚悟の上でふぐ料理を提供します。伊藤博文は、「こりゃあ美味い」とその味を称賛。翌年には、ふぐ料理が解禁となり、「春帆楼」は、ふぐ料理公許第一号として広く知られることになったのです。
これまでに訪れた著名人は数知れず。「春帆楼」の1階には、その人々との親交を伝える書や掛け軸が飾られています。料理をいただくために通されたのは、関門海峡が一望できる部屋。日清講和条約(下関条約)の話し合いの場として、伊藤博文が指定したのもここ、「春帆楼」でした。日本の軍艦が遼東半島をめざして海峡を通過していく光景は、清国使節団に脅威を与え、交渉は日本のペースで展開したといわれています。
縁起のいい”福”にちなみ、関西以西では「ふぐ」を濁らず「ふく」というのは有名な話ですが、「春帆楼」でも、お品書きには「ふく」と記されています。「ふくフルコース」は2万3,760円(サービス料・消費税込)。宿泊だと1泊2食付きで3万8,016円(サービス料・消費税込)です。先付は、定番の鯛の塩辛。季節を感じる素材を中心にした前菜には、名物の「ふくの煮こごり」が添えられています。
澄まし汁までいただいたところで、「ひれ酒」を注文しました。「お酒の味が柔らかくなるので女性にも飲みやすいですよ」と話しながら仲居さんが蓋をあけてマッチの火を点じると、杯の中に一瞬だけポッと火が灯ります。ひと口いただくと、何とも香ばしく、まろやかな味。冬場は、珍しい白子酒もおすすめです。また、「獺祭(だっさい)」や「五橋(ごきょう)」など、地元の銘酒も揃っています。
▲ふく薄造り(3人前)

続いて、メインともいえる「ふく薄造り」の登場です。目にした瞬間、あまりの美しさにため息がこぼれます。こちらは、菊盛りと呼ばれる華やかな盛り付け。有田焼の絵柄が透けて見えるほど薄く引かれたふぐの刺身を、大輪の菊の花のように盛り付けるには熟練の技が必要です。祝宴の席には、鶴盛りと呼ばれるお祝いの席にふさわしい盛り付けもあるそうですよ。

一般的にふぐは、秋の彼岸(はしりふく)から春の彼岸(なごりふく)がシーズンだといわれています。冬場は、白子が太り、白菜の旨みとともに美味しさも倍増するそう。もちろん、今はふぐも野菜も生産技術が上がっているので、夏でも美味しいふぐ料理を堪能できます。
「ふく薄造り」の食べ方はそれぞれですが、ここでおすすめを。まずは、自家製のポン酢につけてふぐ本来の上品な味わいを堪能します。次は、ふぐを美味しく食べるために開発された安岡ねぎをまいて、独特の淡泊な甘みをさらに深く味わいます。最後は、ポン酢にスダチを絞り、味の変化を楽しんで。

財界人から選ばれる老舗ならではの一流の味とおもてなし

今度は、「ふくちり鍋」の登場です。仲居さんが横について、慣れた手つきで鍋に野菜やふぐをくぐらせていきます。「まだ早いのでは?」というタイミングで具材を椀に上げていきますが、「最後にちょうど良い具合になるんですよ」と仲居さんがおっしゃる通り、仕上げに熱い出汁を鍋から椀に入れ戻すのを何度も繰り返すことで、熱々の食べごろで目の前に置かれました。
白く甘みが増したふぐの身の美味しさはもちろん、口のまわりの黒い部分にはゼラチン質がたっぷり。「黒くて食べられないと思う方もいらっしゃいますが、ここがいちばん美味しいですよ」と、口のまわりの豊かな味わいは、仲居さんのお墨付きです。骨までしゃぶりたくなる美味しさとは、まさにこのことです。
次にいただくのは、本店の名物「ふく味噌椀」です。仲居さんが赤みそと白みそで味を整えていきます。「お酒が進んでいる席では少し濃く、お召しになる方の雰囲気を見ながらお味噌を合わせます」。細部にまで行き届く心遣いがさすがですね。
そして、揚げ物、蒸し物と続きます。「ふくの唐揚げ」もまた、骨までしゃぶりたくなる美味しさ。程よい塩味がなんともいえません。白子蒸しも上品でふくよかな味わい。天下の珍味といわれるのも納得です。
ふぐの旨みを余すところなく味わうフルコースの最後を締めくくるのは、「ふくぞうすい」です。出汁にご飯を入れて、卵を落として、刻み葱をたっぷりと。仕上げに、おろし生姜を入れて完成です。すでに満腹のはずなのに、あっさりとふくよかな美味しさに、さらりといただいてしまいました。

春うららかな眼下の海にたくさんの帆船が浮かんでいる様子から、伊藤博文によって名づけられた「春帆楼」。関門海峡を眺めながら、美食家を唸らせるふぐ料理を味わう――そんな至福の時間を過ごすことができました!
隠岐ゆう子

隠岐ゆう子

大学でデザインを学んだ後、大手印刷会社に入社。制作ディレクターとして5年勤めた後、フランス・パリに語学留学へ。現在は、九州・山口を中心に編集・ライターとして活動している。無類の旅好きで、暇とお金さえあればヨーロッパを中心に旅する行動派。旅、温泉、スイーツのキーワードに目がない。

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