絶品「出石皿そば」を一皿食べてはまた一皿。箸を持つ手が止まらない!

2016.09.15 更新

出石(いずし)は「但馬の小京都」との異名をもつ昔ながらの城下町。その「出石」を訪れたらぜひとも味わいたいのが「出石皿そば」。味はもちろん、そのスタイルも独特なんです。

兵庫県豊岡市にある小さな城下町「出石」。今も風情ある町並みが残り、年間100万人もの観光客が訪れるという観光地として栄える町です。

そして、そんな出石は、たくさんのそば屋が軒を連ねる関西屈指のそば処としても有名。

江戸時代中期の宝永3(1706)年に信州上田藩の仙石氏がお国替えで出石藩にやって来た際、そば職人をお供に連れてきたのが始まりだと伝わる「出石そば」は、長年郷土料理として地域の人から愛されてきたそう。

幕末の頃には屋台で出されるようになり、持ち運びが便利なようにと手塩皿(てしょうざら)に蕎麦を盛ったことから、「出石皿そば」として、この地域独特の様式を確立していきました。

「独特の様式?」
味もさることながら、食べ方、楽しみ方もユニークなんです。
今回は、出石を訪れたらぜひ食べておきたい「出石皿そば」の楽しみ方をご紹介します。

永楽通宝を握りしめて、お気に入りのお店を見つけよう

▲お土産の販売や観光案内などを行っている「いずし観光センター」
「いろんなお店の皿そばを食べ比べてみたい」
そんな欲張りなあなたにオススメなのが、おトクに3軒のお店の皿そばを食べ比べることのできる「出石皿そば巡り」!

皿そば巡りをするためには、まずはここ「いずし観光センター」を訪れます。
「あの…… 皿そば巡りがしたいんですけど…」
「はい。それではコチラが巾着セットになります」
「巾着セット…?」
手渡されたのは小さな巾着。中を覗くと「永楽通宝」と書かれた昔の銭貨のようなものが3枚入っています。
▲出石皿そば巡り巾着セット(税別1,800円)
「この永楽通宝は、町内38店舗の皿そば屋さんでお使いいただけます」

皿そば巡りは、この永楽通宝1枚と、お店の皿そばとを交換するというシステム。3枚あるから3店舗を巡ることができるというわけです。銭貨でお支払いなんてなかなか気分を盛り上げてくれるじゃないですか。巾着は、地元の名産「出石ちりめん」製で、旅の思い出、お土産にもぴったりです。

一軒目!「近又」は人情味あふれる居心地の良さが魅力

巾着を握りしめ、いざ「皿そば巡り」スタート!
観光センターでもらった「皿そば食べ歩きマップ」とにらめっこしながらまずやってきたのは…
▲「近又(きんまた)」
フランスで最も権威ある美食ガイドの兵庫版でも紹介されている「近又」。出石城からほど近く、いずし観光センターから歩いてすぐの場所にあるお店です。

素朴な京風造りの店構え。そして店前に並ぶ石臼。
筆者のお腹を一気に蕎麦モードに変えてくれる外観です。

のれんをくぐると…

「いらっしゃいませ~ぃっ!」
▲写真中央で厨房からそばを出している男性が、「近又」の3代目ご主人・佐々木近江(おうみ)さん
店員の方々のとても威勢のいい声に迎えられた筆者は、さっそく巾着から永楽通宝を一枚。

「たっ、頼もー。これで皿そばをお願いしたい」
すっかり城下町のいい雰囲気にほだされ、江戸時代の町人を気取り、皿そばを注文します。

「かしこまりましたっ!」

これまた非常に威勢のいい声が返ってきました。
出石を下町と言うかどうかはさておき、まさに「下町人情」あふれる雰囲気の店内。
とても清々しく、思わず元気になってきます。
▲「近又」店内
小上がり席が設けられた和風の店内は、素朴でありながらとても落ち着きがあり、ゆっくりとくつろぐことができます。

そばの出来上がりを待ちながらお店の人にお話を伺うことに。
「近又」の屋号はなんと江戸時代から13代も続く由緒ある屋号。近江の国(現在の滋賀県)より丹波篠山の地に移住してきた初代は、「近江屋」という旅籠を営むことに。当主は代々「近江屋又兵衛」の名前を襲名。後に「近又」と名をあらため、出石でそば屋を開業し、以来3代にわたって、そばを作り続けているんだとか。

「へえ~。お店の名前にもドラマがあるんですね」
そうこうしているうちに…
手のひら大の白いお皿に上品にのせられたお蕎麦。
「おおお!これが皿そばですか」

「はい、出石の皿そばは、わんこそばのように2~3口ずつの蕎麦を皿にのせて提供します。どこのお店も基本の一人前は5皿で、そこから追加していくというしくみ。皿そば巡りの場合、それを3皿でお出ししているんです」
とご主人。

ははーん。そういうわけですか。
これは話の種にもうってつけ。観光地として栄える出石で観光客に人気が出るのも頷けます。

「食べ方はお好みですが、まずは何もつけずにそのまま。その後出汁つゆにつけて、ネギやわさびの薬味を添えて。さらには、とろろや卵を加えてといろいろな味を楽しんでいただけるのも皿そばの特長。もちろん最後には、そば湯もお楽しみいただけます」
それでは、さっそく。

「近又」のそばは、そばの実を皮ごと石臼で挽いた粗挽きの黒いそば。
コシがあり、ちょっとモッチリしていて、ひとすすりで一皿がすっと胃に収まってしまう軽快な喉越しです。

甘さを抑えた関西風醤油味の出汁との相性もバッチリで、食べた後には清涼感がすっと口いっぱいに広がります。
とろろや卵を絡めると、これがまた絶妙なトロミを加えてくれて、まろやかで深みのある味に。
あっという間に3皿ペロリです。

「実際食べてみるとスルスルと入っていくでしょ?少食の女性の方でも軽く15皿くらいは食べていかれますよ」
と笑顔で、店内の番付表を指差すご主人。
▲店内には歴代の強者たちの食べた枚数が番付表として飾られている
「近又」では、そば通認定という制度があり、食べた枚数によって、大・中・小の「そば通の証」をもらうことができるんです。強者たちは、店内の番付表にてその記録を讃えられ、さらには食べた枚数に応じて1年間無料や永久無料などの特典がついてくることも。
▲そば通の証。大人の男性で20皿以上、女性や子どもは15皿以上が最低合格ライン
大食い自慢の方はぜひとも挑戦してみてください。

おいしい食事は、味もさることながら、見た目や雰囲気、食べる場所がとても重要。ましてや旅の食事となると、それはなおさらです。

「出石に観光に訪れた人が、なんだか忘れられなくてと、遠方から何度も足を運んでくれるようになったり、お礼の手紙をいただいたり…とてもうれしいですね」

ひたむきにそばと向き合い、そして訪れる人をあたたかく迎え入れる。
気づけばまた足を運びたくなる「近又」はそんなおそば屋さん。

次のお店のことも考えて、皿そばの追加注文に燃える心をグッとこらえて、後ろ髪をひかれながら店を後にした筆者一同は、「また絶対食べに来ます」と再訪を誓ったのでした。
出石には、自動販売機より皿そば屋さんのほうが多いんじゃないかと疑うほど、たくさんの皿そば屋さんが。
皿そばというスタイルは同じでも、お店それぞれでさまざまな趣向をこらしているということで、すっかり皿そばファンになった筆者は、次のお店へと向かいました。

二軒目!「官兵衛」の間近で見られるそば打ちに感動

続いてやってきたのは、「官兵衛(かんべえ)」。
▲「官兵衛」
これまた、雰囲気のいいお店の玄関。
はやる気持ちを抑えきれずにさっそく中へと入ります。

すると…

目に飛び込んできたのは、大きなガラス張りの窓の中で、そば打ちをしている姿。
▲「官兵衛」では、入り口のすぐ横でそば打ちの様子を公開
「挽きたて、打ちたて、湯掻きたての『3たて』が信条の『出石皿そば』。なかでもうちは、そばの香りを大事にするため、自家製粉と手打ちには徹底的にこだわりつづけているんです。粉はその日の朝に挽いたものを使用。そこに出石のおいしい水だけを長年の試行錯誤により体で覚えた感覚で、合わせて打っていくんです。店舗改装したときに、お客さんにも見てもらえるようにしたんですわ」
と、案内してくれたのは先代の小寺禎之助(こでらていのすけ)さん。
そば打ち場で腕を振るっているのは、息子の勇輝(ゆうき)さんです。
乾燥させないように手早く打つのがポイントというそば打ち。
そば粉に水を加えてそば玉にし、それを伸ばして、たたんで切って、みるみるうちに工程が変わっていき、あっという間にできあがっていくその様子は圧巻です。
▲「官兵衛」店内
「官兵衛」の店内はこぢんまりとしていながらも、清潔感あふれ、誰でも気軽に立ち寄れそうな親しみのある雰囲気。奥にはお座敷もあります。

さっそく皿そばをいただくことに。
やって来ました。
「官兵衛」の皿そばは、白いやや細めの麺。
そばの味を邪魔しないように薬味にもこだわり、厳選したものを使用しているというご主人。
特に存在感を放っているのが、わさびです。生の本わさびが卸金とともに添えられています。

「そばはやはり香りで楽しんで欲しいんですわ。すりたての本わさびがいいアクセントになりますよ」
ならばここはと、わさびでいただきます。わさびをすりおろすとあたり一面にほのかに広がるツンとした爽やかな香り。
それをそのままそばに乗せたら、さっとつゆにくぐらせて、一気にすすります。

そばとわさびの香りが見事に調和して、すーっと鼻に抜けるのがなんとも心地よい。
あっさりしていながらしっかりと旨みのある出汁、そしてわさびのツンとした感覚、そしてその後にやってくるのは、ふわっと広がるそばの甘み。
「豊岡市竹野産の塩をそばにそのままひとつまみ。これもぜひ試してみてください」

なんとそばに塩!
「あれ、やっぱり甘い」
風味豊かなそばは、口にいれるとふわっと甘みが広がるんです。
こちらもあっという間に3皿完食。

「これももっと食べたーい」
いやいやまだ次がある。こちらの店も、再来店確定です。

3軒目!合言葉は「変わり続ける同じもの」。おいしい蕎麦を追求し続ける「甚兵衛」

さあ、いよいよ皿そば巡りも3軒目。筆者一同が最後に向かったのは、「近又」や「官兵衛」のある町の中心部から歩いて10分ほど、すこし町を離れたところにひっそりとお店を構える「甚兵衛(じんべえ)」。

こちらも例の権威ある美食ガイドで紹介されていて、外国からもたくさんの人が訪れるというお店です。
合掌造り風の建物の玄関前、手入れの行き届いた庭にある池には、たくさんの錦鯉が優雅に泳いでいます。
▲「甚兵衛」の女将が笑顔で迎えてくれました
広々とした店内を奥に進むと和風の中庭が。その奥には離れや広いお座敷が造られていて、まるで高級料亭に来たような雰囲気。

「すごい。立派なお店ですね」
「恐縮です。私たちは、とにかくただただ『うまいそばを提供する』『きれいなお店を作る』『気分よく食べてもらえるようにする』というこの3つを追いかけて今までやってきただけです」
謙遜して話してくれたのは大将の渋谷朋矢(しぶやともや)さん。
▲「甚兵衛」の大将・渋谷朋矢さん
昭和51(1976)年創業の出石皿そば専門店「甚兵衛」。挽きたての国産そば粉を季節にあわせて厳選して使用するなど、こだわって作られたそばはもちろんのこと、特に注目したいのが出汁つゆ。たっぷりのこんぶとかつお節になんと創業時から継ぎ足し、寝かし続ける「本がえし」を贅沢に使った唯一無二の出汁つゆです。

「一子相伝で受け継がれてきた特製のかえし。地震が来たらこれを抱きかかえて逃げないと…」
と照れ隠しで笑いながら話す大将。
伝統を背負った男の覚悟が見え隠れします。
「さあ、どうぞ。お召し上がりください」
いよいよ皿そば巡りも最後。思う存分いただきましょう。

「皿そばは、近年食べやすいようにそばちょこに出汁つゆを入れて食べるようになりましたが、昭和の頃まで、もともとはお皿にそのまま出汁つゆをぶっかけて食べていたんですよ」

それならばと歴史に敬意を表しながら、昭和スタイルでいただくことに。
一子相伝の特製かえしを使った出汁つゆは、少し甘めな醤油味。
やや細めながら芯がしっかりしていて、コシがあり、角がたったそばとよく合います。

あれよあれよという間に3皿終了。
今回は迷わず追加で注文します。
「次は薬味を入れてみようかな」「今度は卵を入れましょか」という具合に、いろいろな食べ方を片っ端から堪能。これなら飽きっぽい筆者も飽きる暇がありません。
ここで、そばがのっているお皿の豆知識をひとつ。
出石皿そばに使われるお皿は地域の名産品「出石焼」。白いお皿の真ん中に描かれる柄はお店の屋号というのが定番ですが、近年はそれぞれのお店が趣向を凝らし、さまざまな絵柄が登場。

先程の「官兵衛」では、かわいいお地蔵さんのイラストが、そしてここ「甚兵衛」ではなんと全17種類の絵柄のお皿があるんです。こちらの柄は、動物のかわいいイラストのほか、「あ それそれ」「まだまだいける」「ばんばんついか」などの文字が書かれたものも。次はどんな絵柄だろうと一皿ずつ食べ進むのが楽しくなる粋な演出です。
▲最後は絶品の出汁をそば湯で割って
「今でも毎日研究・改良を繰り返しています。お客さまはそうそう気づかないほどだと思いますが、毎日味は変わっているんですよ」

いつ来ても、いい店だとお客さまに思ってもらうためには、変化を恐れず、挑みつづけなければいけないと信念を語ってくれた大将。

大満足のお腹といっしょになんだか胸もいっぱい。歴史を感じることのできる感慨深いおそばでした。

熱い思いが「出石皿そば」を守り続ける

最後に、今回の「出石皿そば巡り」で印象深かったエピソードをひとつ紹介しましょう。

「官兵衛」を訪れ、お店を後にするときのこと。
「もう他のお店は周られたの?」
「はい、『近又』さんに行ってきました。次は『甚兵衛』さんに行く予定で…」
先代・禎之助さんの質問に、少しバツが悪そうに答える筆者の相棒カメラマン。

「そうかい。それはいいねぇ」
とてもうれしそうにご主人はそう返しました。

思えば「近又」の方々も次のお店へと向かう筆者たちを笑顔で送り出してくれた…
やや気を使いながら筆者は素朴な疑問をぶつけてみました。

「他の皿そば屋さんともみな仲が良さそうな雰囲気を受けたんですけど、言ってみれば商売がたきですよね?良きライバルっていう感じでしょうか?」

「う~ん。ライバル。まあそうなんだけどね。格好つけるわけじゃないけど同志っていう感じかな。例えば、他のお店がのれんを下ろしたとして、じゃあその分うちが潤うかっていうとそんなことない。むしろ『出石皿そば』の値打ちが下がって、うちにも悪影響がでるんと違うかなと。やから、みんながときに協力しあいながら、がんばっていかなあかんと思うんよ」

味も、作り方も、こだわりもお店ごとにそれぞれ違えど、「出石皿そば」への熱き思いは同じ。
これこそが筆者が感じた「出石皿そば」の何よりの魅力。
「出石皿そば巡り」でぜひ、おいしいそばを食べながら出石の人たちの熱い思いに触れてみてください。
James

James

イギリス人と日本人とのクォーター。大学では工学部、情報システムを専攻したかと思えば、ミュージシャンとしてギタリスト、MC、DJとして活動。TVやラジオなどでも活躍。その後(株)アドビジョンにて、デザインやコピーライティングなどマルチに活躍。バックグラウンドを活かした独自の視点が人気のライター。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP