本州最大の高層湿原・尾瀬ヶ原を日帰りで本格ハイキング!

2016.07.23 更新

群馬県、福島県、新潟県、栃木県の4県にまたがる尾瀬国立公園。年間およそ30万人のハイカーがここを訪れ、その半数が散策ルートに選ぶのが「尾瀬ヶ原」。2,000m級の山々に囲まれた尾瀬ヶ原には湿原が広がり、木道が一本はるか先までのびています。その木道をのんびり歩けば、ここでしか見られない広大な景色と鳥の鳴き声、澄んだ空気に包まれます。

日帰りハイキングは6時間コースがおすすめ

4県にまたがる尾瀬国立公園を歩くコースは、大きく分けると「尾瀬ヶ原コース」と「尾瀬沼コース」の2つ。特に、群馬県側の「鳩待峠」を起点にした「尾瀬ヶ原コース」は、ミズバショウ(春)や湿原のなかをのびる木道など、いわゆる「尾瀬」の景色を楽しめ、多くの人が訪れる人気のコースです。

日帰りで尾瀬ヶ原を満喫するなら「尾瀬ヶ原コース」の途中、3分の2あたりにある「竜宮十字路」まで行くのがおすすめ!初心者でも往復約6時間で「鳩待峠」まで戻ってくることができます。今回はガイドさんに案内してもらいながら、「竜宮十字路」まで歩きました!

尾瀬の玄関口「尾瀬戸倉」から「鳩待峠」へ

東京から「尾瀬ヶ原」に行くには、まず「尾瀬戸倉」の待合所に向かいます。スタート地点の「鳩待峠」までは、マイカー規制道路を通るため、「尾瀬戸倉」からは乗合バスか乗合タクシーを利用するんです。
今回はJR上越線沼田駅から路線バスに約1時間半乗って「尾瀬戸倉」へ。早朝の車内はハイキングの格好をした人たちばかりで、テンションがだんだん上がってきました。

ちなみに、「尾瀬戸倉」には駐車場も多くあるので車でもOK。上越新幹線が停車する上毛高原駅から路線バスで行く方法もあります。(所要約1時間50分、沼田駅発より本数が少ない)。
一般のハイカーも入山可能な期間(5月中旬~10月中旬ごろ)には、都内からの夜行バスが運行しており、「尾瀬戸倉」まで直行できるので便利です。
▲スタート地点の「鳩待峠」休憩所。バス、乗合タクシーのチケット売り場がある

ちょうどやってきた乗合バスに乗り込み「鳩待峠」へ。25人乗りの中型バスで約20分、どんどん山道を登っていきます。自称「尾瀬で一番にぎやかなバス」との言葉通り、この日の運転手さんは、尾瀬の自然や動物についてマシンガントーク!あっという間に「鳩待峠」へ到着しました。

バスを降りると、かなり寒い!「尾瀬戸倉」よりも標高が600mほど高く、東京と比べると約10度も気温が低いんだそう。歩くんだしそんなに寒くないでしょ、となめていると痛い目をみます。着脱が簡単な長袖を重ね着するのがおすすめです(この日の私は、Tシャツの上に長袖パーカーとレインウェア。結局、最後まで脱ぎませんでした)。
▲「鳩待峠」休憩所には、お食事処と土産店もある。レインコートなど、基本的なアウトドアグッズもそろっているので、不足がある場合はここでそろえるのも可能
▲尾瀬内のトイレはチップ制。浄水にはとても手間がかかるため、その維持管理費に充てられている

尾瀬をより楽しむなら、尾瀬認定ガイドにおまかせ

今回ガイドをしてくださったのは、「尾瀬ハイキングガイド」および旅行社「オウレット」代表の桂田直樹(かつらだなおき)さん。尾瀬のガイドを行う7つの団体が集まった「尾瀬ガイド協会」の副会長も務めていらっしゃいます。
「尾瀬の認定ガイドになるには、筆記や実地での試験に合格しなければなりません。受かったあとも講習会を定期的に行っていて、知識と技術の高さでは尾瀬のガイドは日本一だと思います」と桂田さん。

個人で尾瀬に来る方には、まだまだガイドが普及していないといいます。「ガイドをつけることで尾瀬が何倍も楽しくなるはず」と、桂田さんは力強く話してくれました。

「尾瀬の自然や尾瀬の歴史について、豊富な知識でいろんな話をしています。時間に合わせたペース配分や緊急時の対処なども、ガイドをつけるメリットではないでしょうか。歩いていて、〈この花はなんだろう?〉〈あの鳴き声はなんの鳥だろう?〉という疑問があれば、ぜひガイドに聞いてください。その場でわかるスッキリ感も魅力のひとつですね」(桂田さん)
▲認定ガイドは、「尾瀬登山ガイド認定証」を付けている
▲道中会った尾瀬認定ガイドの館山さん。女性のガイドさんもたくさんいる

まずは山道を1時間。湿原のスタート地点「山ノ鼻」へ

尾瀬といえば、湿原のなかに木道がのびる景色を思い浮かべる人が多いと思いますが、そこに至るまでには、まず「鳩待峠」から山道を1時間ほど下ります。目指すは、湿原のスタート地点「山ノ鼻」です。

いよいよ出発です!まずは、手足をしっかりストレッチしておきましょう。出発してすぐに、傾斜がきつい区間が30分ほど続きます。傾斜のない木道が続くイメージが強いからか、サンダルやヒールの高い靴などを履いてきてしまう人もいるんだとか。最低でも歩きやすいスニーカーは必須です。
▲尾瀬ヶ原に向かう入口横には尾瀬国立公園の看板がある
▲入口にあるのは種子落としマット。ここで靴裏についた植物の種などをしっかり落とす。外からの種の侵入を防ぎ、国立公園のなかの自然環境を保護するため

この日は前日に雨が降ったあとだったので、道にある石や木が濡れてつるつるに。普通のスニーカーだったのもあってか、何度も滑りそうになってしまいました。下りは大股でスピードを出して歩きたくなりますが、できるだけ小股で注意して歩きましょう。
▲「鳩待峠」から「山ノ鼻」に向かう道中は、ご覧のように石がでこぼこした道も

木々の中を歩いていると、近くからも遠くからも鳥の声が聞こえてきました。桂田さんに聞くと、5月から6月はとくにいろんな種類の鳥が鳴いているそう。
「コルリ、ウグイス、メボソムシクイなどがよく鳴いていますよ」(桂田さん)

「山ノ鼻ビジターセンター」で尾瀬の生態をチェック

スタートから約1時間。川上川という大きな川をこえ、周囲を木々に囲まれた道を抜けると、「山ノ鼻」に到着。すぐ右手に「山ノ鼻ビジターセンター」があります。
センター内には、動植物に関する展示があり、常駐のスタッフに尾瀬について話を聞くことができます。
ガイドさんなしでのハイキングの場合は、ここで尾瀬の動植物についてチェックして、道中で実際に観察していくと、より楽しめるはず。
▲山ノ鼻ビジターセンター。オコジョ、ヤマネを発見した人は、スタッフに報告すると、「発見証」がもらえる
▲山ノ鼻ビジターセンターの展示室。尾瀬に生息するキツネやタヌキの毛皮や骨が展示されている

湿原のスタート地点になる「山ノ鼻」には山小屋もあるので、ここで昼食をとる方も多いそう。天気がよければ、外のベンチで食べるのが開放感もあって◎。お弁当を持参するのもよし、3軒ある山小屋には食堂もありますし、テイクアウトのおにぎりなども用意してくれます。ただし、尾瀬ではゴミは持ち帰り制なので要注意!
▲山ノ鼻にはベンチがずらりと並ぶ。昼時はなかなかの混雑具合だ。尾瀬の自然を間近に見られる「研究見本園」にあるベンチや尾瀬ヶ原の道中のベンチなど、休憩箇所も多くあるのでそちらを利用してもいい
▲「山ノ鼻」でもっとも奥に位置する山小屋「尾瀬ロッジ」
▲「尾瀬ロッジ」ロビー。コーヒーやパンなども提供している。尾瀬内の山小屋の宿泊は事前予約制
▲「尾瀬ロッジ」の名物土産「花まめ甘なっとう」。花豆は尾瀬の名物で、2cmほどの大きな豆。山ノ鼻エリアでは、花豆ソフトなども売っている

隣接する「研究見本園」にぜひ立ち寄って

「山ノ鼻ビジターセンター」を通り過ぎると、左手に「研究見本園」の入口があります。
ここは「尾瀬ヶ原」の最西部。名前を聞くと、人の手が入っているのかなと思いますが、実際には人の手を加えていない、自然な尾瀬の姿を観察できる場所なんです。
広い湿原のなかに木道がぐるっと周回するように通っていて、一周30分ほど。ここの木道は高さが低いので、植物を近くで見ることができるのがポイント。あまり混んでいないので、ゆっくりと尾瀬の自然を満喫できる、穴場スポットです。
▲「研究見本園」内にある池塘(ちとう)と呼ばれる池。風がないときには水面に木のかげや空が映り込む
▲「研究見本園」内でもミズバショウの群生が見られる

ここは最後までミズバショウの見ごろが続く場所でもあるそう。暖冬の今年は、尾瀬ヶ原ではいつもより早く(5月下旬ごろ)見ごろが終わっていましたが、ここでやっと出会うことができました。(例年の見ごろは、5月中旬~6月下旬ごろまで。気候によって前後あり)
▲見つけたのが、ほとんど最後のミズバショウだった

「ミズバショウの白い部分は花ではなく、仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれる葉。また、ミズバショウの名前の由来は、〈葉がバショウという植物に似ていて水のそばにあるから〉です。でも、バショウ科ではなく、サトイモ科の植物なんですよ」(桂田さん)

驚いたのが、ミズバショウの大きさ。なぜか勝手に小さくて可憐なイメージを持っていましたが、実際には1mにもなる大きな葉っぱもあってびっくり!

「ミズバショウは年数を重ねて大きくなっていくんです。だから大きいミズバショウほど、長い年月をかけて成長したもの。ただし、土に栄養がないところでは大きくなれないままです」(桂田さん)

はるか先までつづく木道をひたすら進む!

「山ノ鼻」をスタートして10分ほど歩くと、一気に視界が開けてきます。どこまでも続く木道と、遮るものがない湿原が広がる景色……叫びたくなるくらい気持ちいい!!

このあたりが尾瀬ヶ原のメインゾーン。ハイシーズンはとくに混雑し、木道の上で人の渋滞が起こることも多いです。木道は右側通行なので、譲り合って歩きましょう。
また、木道が高架になっているので、植物とすこし距離があるのですが、湿原に足をおろすのはマナー違反です。
▲永遠に続くような果てのない木道と湿原。遠くにうっすら見えるのは燧ケ岳(ひうちがたけ)

「山ノ鼻」から40分ほど歩くと、「牛首」の分岐地点。ここでUターンする人も多いので、ここを過ぎると人が少なくなり、周りの景色も見やすくなります。
ちらほらとしか人がいない湿原を歩きながら澄んだ空気を吸い込んでいると、浄化されていくような心地がしてきました。時間が許すなら、ぜひ「牛首」から1時間ほどの「竜宮十字路」まで足を運んでください。
▲「牛首」の分岐地点
▲池塘の水面には浮島(うきしま)が

浮島は枯れた草が土に還らずに、どんどんと重なってできる泥炭(でいたん)が水面に浮いている状態。寒い土地で起こりうる現象で、スポンジのように軽く、風が強いとその風にあおられてぷかぷかと移動するんだとか。この日は風が強かったので、池の片方に浮島が寄っていました。
池塘は尾瀬内に約1,900はあるといわれ、とくに「山ノ鼻」から「牛首」の分岐点までの間に多く見られます。じっと見ていると、イモリが泳いでいる姿も発見しました。
▲鹿の足跡がたくさんあった。鹿が花や植物を食い荒らしてしまうんだとか

至仏山を背景にミズバショウが撮影できるベストスポット

「牛首」分岐点を越えて「竜宮十字路」に向かって歩いていると、川の手前で左に折れる道があります。そこを進むと、眼前にはミズバショウが群生し、至仏山を遠くに望める場所が!ここは、ガイドマップなどの表紙を飾るような写真が撮影されるベストスポットです。
見逃しがちな場所ですが、「山ノ鼻」からスタートして、3つめの下ノ大堀川橋という橋が目印。
▲ミズバショウやニッコウキスゲ(7月~8月ごろ)などのビュースポット
▲5月中旬ごろには、ミズバショウの背景に雪が残る至仏山が見える(写真提供:オウレット)

水が吸い込まれる?不思議な伝説「竜宮現象」

「牛首」分岐点から40分ほど歩くと、「竜宮」の山小屋が見えてきます。そこには水が至るところに溜まっていて、木道が左右に広がっている場所がありました。「ここでは〈竜宮現象〉という不思議な現象が起こっているんです」と桂田さん。

右手側にあるのが竜宮現象の「入口」。3方向から水が流れ込んでいるのに、それが流れていく出口がありません。しかもその水たまりから水があふれる様子もありません。
え?なんで?水はどこに消えるの?

これが「竜宮現象」の不思議。渦を巻きながら、水底に水が吸い込まれていく様子から、そこには竜宮城があるのでは?と言われているんだそう。不思議現象の解釈が、なんともロマンチックです!
▲竜宮現象の「入口」。3方向から水が流れ込んでいる

木道を挟んで、左側には出口と呼ばれる水たまりがあります。入口で吸い込まれた水は、この出口から抜けてきているといわれています。
実際のところはどうなのでしょう?いまだによくわかっていないんだそうです。
▲竜宮現象の「出口」。「入口」からは50mほど離れている

「竜宮」には、山小屋が一軒あります。その脇道に抜けると、沼尻川という川に橋がかかっていて、その真ん中あたりが群馬県と福島県の県境になっています。
▲群馬県と福島県の県境は川の上だが、看板はすこしずれた橋の横あたりにある

ここが折り返し地点。普段からデスクワークで運動もほとんどしない私ですが、草花などを見ながら歩いていると、意外と歩けてしまいました。歩きはじめる前には不安を感じていたのですが、まだまだ歩きたいくらい!

もし体力と時間に余裕があるなら、「ヨッピ吊橋」というスポットを経由していくのもおすすめです。「竜宮」からも回って行けますが、先ほどの「牛首」分岐点から別ルートで行く方法もあります。「鳩待峠」からは往復約8時間ほどで歩けるコースです。
▲竜宮の三叉路。奥に見えるのが至仏山。右に曲がると「ヨッピ吊橋」の方向だ

ただし、最後の「山ノ鼻」から「鳩待峠」への登り道は、往復した足の疲労感も相まってなかなかのキツさ。途中にあるベンチなどで小休憩を挟みながら、最後までけがのないように歩きましょう。行きよりも時間がかかってしまうと思いますので、交通機関の時間には気を付けて!

尾瀬を楽しむ3シーズン

すこし雪の残る季節(5~6月)に見ごろを迎えるミズバショウはもちろん、夏(7~8月)に見ごろを迎えるニッコウキスゲの黄色が群生する景色も魅力的です。秋(10月)になると、湿原が黄金に色づく草紅葉を見ることもできます。
▲ニッコウキスゲが咲く季節も人気(写真提供:オウレット)
▲秋は草紅葉が楽しめる(写真提供:オウレット)

美しい花や紅葉が見ごろを迎えるハイシーズンには混雑するので、ゆっくり尾瀬ヶ原を堪能するには、できれば平日に訪れたいところ。
2,000m級の山々に囲まれるなか、見渡す限りつづく湿原と木道の静けさは、日常のすべてを忘れさせてくれるような、澄んだ空気に満ちています。
都心からでも日帰りで楽しめる尾瀬で、リフレッシュしてみるのはいかが?
和田めぐみ

和田めぐみ

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。医療・健康フリーマガジン『からころ』や、その他小冊子、ウェブ媒体の編集・執筆などを手がける。編集を担当した本に『I Love クラシックカメラ』『リンゴをほめるだけでアイデアが豊かになる本』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)などがある。

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