長崎県・壱岐島の一支国博物館は、弥生時代へと誘う離島のタイムマシーン

2016.09.26 更新

玄界灘の北西沖に浮かぶ離島・壱岐(いき)。今はのどかなリゾートアイランドですが、弥生時代は「一支国(いきこく)」と呼ばれた国際色豊かな海の王都でした。その2000年前の世界へ誘うのが、島内にある「壱岐市立一支国博物館」です。

眼下に国指定特別史跡!鬼才の建築家が生み出した白亜の箱舟

島の至る所に古墳や遺跡が点在する壱岐。そこからの出土品はいずれも古代日本を物語る貴重なものばかり。それらを一堂に展示するのが、平成22年(2010年)に開館した「壱岐市立一支国博物館」です。
場所は国指定特別史跡であり、弥生時代の日本三大遺跡の1つとも言われる「原の辻(はるのつじ)遺跡」を見下ろす丘の上。独特な曲面を持つ地上4階建ての白亜の建物は、世界的建築家・故黒川紀章氏による生涯最後の作品。

その中にある6つの展示室を巡りながら、2000年前の「一支国」へとタイムスリップ。さらに東アジア(中国・朝鮮半島)と日本の歴史を比較しながら、グローバルな視点で壱岐の通史に迫ります。

すべてはここから始まった。2000年前の2,008の言葉・魏志倭人伝の世界へ

では実際に、館内へ。それぞれの展示室を巡りながら、一支国2000年の旅へと参りましょう。まずは、エントランス前の階段を上がって、2階にある「『魏志』倭人伝の世界」へ。

壱岐が「一支国」との名で歴史の舞台に現れるのは3世紀。中国の三国時代に書かれた「魏志倭人伝」に登場します。文字通り「魏」の国の人が「倭」の国と呼んだ日本について書いた約2,008字の史書。展示室の左右の壁には、「魏志倭人伝」の全文がズラリ!
ライター山田が右手で指差す文字から博物館の広報・松嶋さんの左手までの57文字が「一支国」の記述。島の位置や広さなどの地形、島を納める大官、副官の有無、戸数や稲作状況などが簡潔にまとめてられています。この57文字は、倭の各地を語った文字数の中で3番目の多さで、それはそのまま「一支国」への関心度、存在感の大きさを表しているようです。

魏志倭人伝の全文を眺めた後は、次の展示室「ビューシアター」へ。
暗闇に広がるワイドスクリーン。ここで約7分間の映像が流れます。大陸と朝鮮半島、そして日本本土を結ぶ懸け橋として活躍した「一支国」の歴史、文化、風土をわかりやすく解説。
途中、弥生時代の再現ドラマもあります。情緒あふれる演出で、けっこう引き込まれました。ちなみにロケ地は島内に点在する遺跡や古墳跡。つまり、島には古の風景がまだまだ残っているということですね。
ラストシーンは弥生時代の日本三大遺跡の1つ「原の辻遺跡」。上映が終わると、ゆっくりとスクリーンが下がります。
するとさっきまでスクリーンに映っていた原の辻遺跡が目の前にドーン!

そう、遺跡は博物館の真下に広がっているのです。過去から現代に一気にタイムスリップ、これは夢か現かまぼろしか!そんな思いにさせるこの演出に、思わず拍手してしまう人も少なくないそうです。

明るくなって気づきましたが、シアターの中央には壱岐のジオラママップがありました。
亀の甲羅のような形をしていると言われる壱岐。ジオラママップにはシアター映像で紹介された数々の遺跡や古墳、さらに観光スポットも紹介。なんだか観光案内所的な役割も、この博物館は担っているみたい。

魏志倭人伝の文字とシアター映像で、一支国の概要をざっくり知ったら、シアター左手の「通史ゾーン」に突入しましょう。
2階から1階へと続くゆるやかなスロープが「通史ゾーン」。壁にはズラッと日本と東アジアの年表が書かれています。スロープは下りますが、年表は平成、昭和、大正と歴史をさかのぼっていきます。さらに床の所々には各時代に作られた陶磁器や土器も展示。足元からも時代の変遷が感じられます。
▲これは江戸、室町、鎌倉時代のあたり。鎌倉時代の元寇(げんこう)の際、壱岐は日本で最初に襲来されたようですね

奈良時代に差しかかったところでスロープは左に折り返します。そこから先がいよいよ古代の世界。展示の器もつるんとした弥生式土器が登場します。
▲これらはいずれも島内で出土したモノばかり

この博物館では2000年前の品々の一部に触れることもできるという、オープンな展示演出を取り入れています。
さらに進むと「古墳ゾーン」。ここでは島内にある「笹塚古墳」内部を床下模型とCG映像を使って再現しています。現地でも見学は可能ですが、こちらの方がよりイメージがしやすいかな、と感じました。横には古墳から出土した数々の副葬品も展示されています。

「古墳ゾーン」を過ぎてスロープを進むと左手に大きな木造古代船。展示室「海の王国・原の辻」です。
海の王都であった「一支国」を象徴する大型船を実物大模型で再現。夏休みなどの期間限定で、この大型船に乗るバーチャル航海も体験できます。
また、こちらの前には無料のコスプレ体験コーナーもあります。今から2000年前の一支国スタイルに変身できるんです。しかも、一支国に住む倭人、渡来人、兵士、司祭人(巫女)、そして一支国王の5スタイルから選択可能。
▲ライター山田は倭人、広報の松嶋さんは巫女に変身。木造古代船前での記念撮影もおすすめです

そしてメインホール「一支国トピック」へ。2000年前の弥生時代に迫ります。
注目は「原の辻遺跡」を1/20スケールに縮小したジオラマ模型。ジオラマは7つのシーンに分かれ、「一支国」に暮らす倭人たちの衣食住、また大陸や半島からやってきた渡来人たちとの交流など、高さ約10cmの4頭身フィギュアを約160体使って事細かに、そして実に愛らしく表現しています。
ジオラマでは建物はもちろん、人々の髪型や服装、アクセサリーに至るまで、忠実に再現。「一支国」の人は白っぽい布の中央に穴をあけ、その穴に頭を通すタイプの衣服・貫頭衣(かんとうい)を着ています。

土器づくりをする女性たちに交じって、上写真中央の女性は流れ着いたココヤシの実で作った椰子笛を持っています。このシーンでは当時の人が音楽に関心があったことも表しています。
倭人と青い服を着た渡来人との市場シーン。土器や鉄器、農産物や海産物の物々交換が楽しく行われています。いずれにしても、2000年前は東アジアと日本の人々が共存する、さらに文化も交じり合う実にインターナショナルな島だったようです。
ということは、きっと国際結婚もあったのでしょうか。渡来人のダンナはとっても優しい表情。倭人の奥さんも幸せそう、というシーン…かな?

どのフィギュアも喜怒哀楽の表情がとても豊か。実は160体のうち、42体は、壱岐市の市民がモデルになっているそうです。
「一支国トピック」ではジオラマのみならず、弥生式土器をはじめ、銅や鉄製品、さらに埋葬用の大型甕棺など、多彩な島の出土品を展示しています。
「通史ゾーン」では触れるだけでしたが、こちらでは可能な限り手に持って、その重さや肌ざわりも実感できます。何度も言いますけど、これ、2000年前のものですよ!
▲人の顔を模した石製品・国重要文化財「人面石(じんめんせき)」

農工具や狩猟、武器等につかわれていたと思われる多彩な石製品も展示。中でも注目は、人の顔のように彫られた手のひらサイズの凝灰石「人面石」。原の辻遺跡から1つだけ出土した国内唯一のもので、国の重要文化財です。まだ宗教というものがなかった弥生時代、祖霊を祀る儀式や豊作・豊漁を祈願する祭祀などの場で用いられたのではないか、と言われています。

ジオラマ内ではこの人面石を持った巫女が、祈りを捧げているシーンも。どこにあるかは、行ってのお楽しみ。
ちなみにこの人面石から、壱岐のゆるキャラ「人面石くん」が生まれました。
▲エントランスの右にあるミュージアムショップには顔出し看板があるほか、一支国博物館オリジナルの「人面石クッキー(1個135円、1箱5枚入り720円・税込)」も販売しています

博物館内には古代の謎とロマンに迫る6つの展示室の他、数々の収蔵品を納めたオープン収蔵庫や、遺跡から出土した遺物の修復作業をガラス越しに見学できる観察路もあります。
▲ガラス窓の向こうには、長崎県で発掘された品々がびっしり!この収蔵庫を望む「キッズこうがく研究所」では、発掘模擬体験など各種体験メニューも用意
▲キッズこうがく研究所前の通路が観察路。発掘の整理作業の様子が見学できます

時間がある人は3階の屋上展望広場、さらに4階にある展望室にもぜひ。
▲4階の展望室からの眺め。ライター山田がいるのが3階の屋上展望広場

原の辻遺跡はもちろん、遺跡を囲む広大な平野やその向こうにまっすぐ伸びる水平線と九州本土の山影といった島ならではの風景が見渡せます。

展望室から見下ろす博物館の姿も実に面白い。屋上展望広場にもなっている3階の屋根は山並みに沿ってうねり、周囲の鮮やかな緑に合わせ、天然芝が敷き詰められています。島の景観とのバランス、共生を考慮した黒川デザインの真髄を、この展望室から実感できます。
完成から6年。芝も生い茂り、黒川先生の狙い通り、一支国博物館は、すっかり島の一部になっているようです。

絶景を楽しんだ後は、ぜひ、眼下に広がる原の辻遺跡へ。ミニチュアではなく、実物大の竪穴式、高床式住居に入りながら、さらに弥生ワールドを満喫してください。
かなり駆け足でご案内しましたが、いかがでしたか?長崎県の離島・壱岐にある一支国博物館。もし1泊2日での壱岐旅なら、博物館へはぜひ初日、できれば上陸したその足ですぐに。壱岐ってどんな島なのか、どのような歴史や文化、風土なのか。それらを知っているか否かで旅の充実度や満足度は大きく変わるはず。せっかくなら、ロマンあふれる島旅にしたいじゃないですか。ならば、ぜひお立ち寄りを!
山田誠

山田誠

新潟県十日町市生まれ、現在は福岡県福岡市在住のフリー編集者・ライター。九州の宿や温泉、飲食、雑貨系のショップ、さらに漁村、農村、道の駅など、暮らしと休日に関わるスポットをほぼ毎月、年間150軒以上を取材。取材後は必ず近隣の直売所で地元食材を買って帰る。1児の父。

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