ときには感じるままに、古寺を訪ねよう。嵐山 天龍寺、インスピレーションの旅

2016.09.13

「みたてる」という表現は、とても日本らしいと思う。砂で水の流れを、石で山や滝を表わしたり。ものを本来の姿ではなく、別の何かに置き換えて、より印象的に見せるユーモラスな思想は、とりわけ日本庭園に取り入れられることが多い。そのエッセンスを感じに、名庭で名高い天龍寺へ。 開山から700年近くを数える現代にも鮮烈なインスピレーションを与え続ける、寺域を訪ねてみた。

訪れる前にざっとおさらいする、
天龍寺のストーリー

京都屈指の観光地、嵐山。嵐山とは渡月橋を中心とした竹林や寺社群のエリア総称だが、かつてこの一帯はすべて天龍寺の境内地であったという。

寺域は現在でも3万坪の広さだが、最盛期はその10倍(東京ドーム20個分!)だったと聞けば、どんな格式と権威を持った寺だったのだろう!と興味が沸く。
▲書院・小方丈より望むアングルは嵐山を借景とする

歴史をひも解くと、はじまりは暦応2年(1339年)。室町幕府を開いた足利尊氏が、後醍醐天皇の菩提を弔うために建立した禅寺だ。

造営のときには、将軍や上皇など名だたる人物からの寄進に加えて、貿易船がもたらした利益が費用にあてられたという。
船は、その名も天龍寺船。国交が途絶えていた元(現在のモンゴル域にあった国家)との交易を、再開してまで就航した特別な船に、建設への気合が感じられる。

かつては京都五山の第一位に列せられ、「古都京都の文化財」として世界文化遺産にも登録。庭園は国の史跡、特別名勝第一号に指定…などなど、経歴はパーフェクト。言わば名門中の名門寺、が天龍寺なのだ。

※京都五山…京都の5大禅寺。南禅寺・天龍寺・相国寺・建仁寺・東福寺・万寿寺の寺格を表す制度。南禅寺は別格扱いで第一位は天龍寺、第二は相国寺、以下第三位・四位・五位と続く
▲禅宗様式伽藍のひとつ、大方丈(おおほうじょう)より眺める庭園

想像力をフルに働かせて見る、
「みたて」の名園

天龍寺を象徴するのが、名園中の名園「曹源池庭園(そうげんちていえん)」。誕生は今からおよそ700年前。京都の苔寺(西芳寺)、鎌倉の瑞泉寺などの作庭でも知られる禅僧、夢窓疎石(むそうそせき)が手掛けた。

大堰川(おおいがわ)を境界にして広がる広大な庭園は、「山」を借景にしたスタイルが有名。すぐ近くに亀山を、少し奥に嵐山、遠くに愛宕山(あたごさん)まで。

幾重にも重なる奥行き、また見る方向を変えれば全く別の構図にも変わるフレキシブルさ、様々な味わいが見るものを飽きさせない。
▲石組みの枯山水で滝の流れを表現した龍門の瀧。水鏡に映り幽玄さが際立つ

庭のあちこちにある、みたての手法にも注目を。

鯉が三段の滝を登って龍になる姿を現した「龍門の瀧」、三体の仏像を表現した「釈迦三尊石」は見所ポイント。
勢いよく泳ぐ龍や、優しい表情の仏様の姿など、それぞれイマジネーションの翼を広げてみたい。

「心を静かに」でOK、初めての庭園鑑賞

「ぜひ座って眺めてみてください」と声をかけてくれたのは、天龍寺 法務部長の小川湫生さん。
庭は座観式庭園にあたり、雲水(うんすい)と呼ばれる禅の修行僧が、毎日夜座(やざ)を行う場でもあるという。

庭園正面の大方丈の縁側に腰かけたり、畳敷の書院に座ったり、などして好みの観賞ポイントを探して腰を落ち着かせよう。
▲中央奥の遠景に、古くから火伏せの山として信仰を集める愛宕山の姿が

「庭を前に心静かに過ごせば、普段は感じられないことが感じられます。耳を澄ませば虫の声、庭に咲く小さな草木から季節を見たり…。
一座七走(いちざしちそう)、7回走ったら1回座る。日常から動きを止めて、ときには座ってただ感じてみることが大切なんです。
美しいものが美しいのではなく、大事なのは美しいと感じるあなたの心なのですから」と小川さんは話す。
▲小方丈では畳に座って庭園鑑賞することが出来る

ふとした瞬間に感じる、
「何気ない美しさ」も贅沢

これまでに8回もの火災に見舞われた天龍寺。
曹源地庭園を除く建物や回廊などの寺域は改修を重ねたものがほとんどだが、夢窓疎石の美意識と精神は随所に受け継がれている。

例えば、花や草木。
ヒマワリのように大群生させて季節を象徴させるというよりも、少量多種があちこちに植えられていて、「7月下旬は百日紅(さるすべり)だな」と小さな季節の移り変わりを感じることが出来る。

1年を通して様々な花が見られるというのは天龍寺の知られざる楽しみ方だろう。
▲取材日は梅雨明けすぐの7月末。猛暑日が続く中にも可憐な夏の花々が
▲大方丈の庭園のワンシーン。苔に映る光と影が印象的
▲まるで小さな絵画のよう。水鏡に映り込む空と木々の姿
▲曹源池庭園の奥に流れる大堤川

カーブを描く屋根と白壁がチャームポイントの庫裏(くり)、茶室のそばには川に見立てた水が流れ、波紋が描かれた枯山水の白砂…名庭だけでなく、空間全体が見事にデザインされている。

シンプルでミニマルな造形の中に宿る、日本の美。
私たちが忘れかけていた、粋の精神を思い出させてくれる。
▲威風堂々とした雰囲気の建物、庫裏(くり)を通って庭園へ
▲凛とした表情の光が差し込む、庫裏の玄関口
▲小方丈から多宝殿に向かう渡り廊下。右手に祥雲閣や甘雨亭(かんうてい)の茶室の姿も見える
▲幾何学模様が美しい、大方丈庭園の枯山水

散策途中に立ち寄りたい、
天龍寺の見どころ・食べどころ

室町期随一の名作庭家、夢窓疎石による曹源池庭園は天龍寺のハイライトだが、まだまだ天龍寺の面白さは続く。

一つ目は日本画。
どれも近代に作られた作品ながら、美術的評価が高い。禅寺の法堂(はっとう)の天井に描かれることが多い雲龍図は、日本画家・加山又造画伯によるもの。10m四方の天井いっぱいにうごめく、八方睨みの龍は圧巻の躍動感。

ユーモラスな面持ちの達磨図の衝立、曹源池庭園を映し出す雲龍襖絵にも目を凝らしたい。
▲法堂の雲龍図。拝観は基本土・日・祝のみ。春・夏・秋には特別公開もある(画像提供:天龍寺)
▲禅宗の開祖・達磨大師を描いた庫裏(くり)の達磨図
▲大方丈の雲龍襖絵。描いたのは若狭物外(わかさぶつがい)画伯

二つ目は精進料理。
境内には天龍寺直営の料理店「篩月(しげつ)」があり、禅の教えが宿る食事を口にすれば、インスピレーション旅の感度もさらに高まるはず。
▲「篩月」花(一汁七菜)の料理一例。前日までに要予約だ(画像提供:天龍寺)

日本人も、はたまた外国人も。
“ベリージャパニーズ!”を求める寺院めぐりは、歴史的価値を知り、建築美に触れるだけが楽しみ方ではない。
ここ天龍寺では、自由な感性で心の感じるままに過ごすことをお勧めしたい。
山本美保

山本美保

京都在住。旅行・観光分野のディレクション・企画編集・執筆を中心に、トラベルマガジンongoingmagの運営も行う。

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