天空の禅寺・大陽寺で宿坊体験。大自然の中で自分を見つめる

2016.08.06

都会の喧騒や日々の煩わしさから離れて、静寂の中で自分を見つめたい…。そんな思いから宿坊を訪れる人が増えています。今回は、「初心者におすすめの宿坊ランキング(日本経済新聞・2011年)」で1位に選ばれたこともある埼玉県秩父地方にある「大陽寺(たいようじ)」を訪れ、写経や読経、精進料理などを通して宿坊の魅力を体験してきました。

▲大自然の景色を前にして写経するのも宿坊体験の一部

日本の“マチュピチュ”と呼ばれる秘境に建つ寺

「大陽寺」は、鎌倉時代末期に後嵯峨(ごさが)天皇の第三皇子・仏国国師(ぶっこくこくし)によって正和2(1313)年に開山。断崖絶壁の山中にひっそりとたたずんでいることから、参拝者が訪れることのほとんどない時代も長くありました。

そんな秘境に建つ「大陽寺」ですが、現在は車道も整備され、自家用車で訪れることも可能。最寄り駅の秩父鉄道・三峰口駅から送迎車に乗ることもできます(要予約 ※三峰口駅に平日は15:29、土日祝は15:36着の電車で向かう)。
▲秩父鉄道の終点・三峰口駅。レトロな駅舎は木造だ

三峰口駅から車で約20分。青々とした緑に囲まれた山道を上っていきます。「大陽寺」と書かれた大きな表札があり、その入口からのびる専用道路をさらに進むと5分ほどで到着です。
▲「大陽寺」の座禅堂。中に入ると、自然の中に浮かんでいるような感覚になる

「大陽寺」の宿坊体験プログラムは、写経、読経、法話、日によってヨガや瞑想などもあります。1泊2食付で、食事は住職が作る精進料理です。

宿泊には、タオル、歯ブラシ、寝巻きなどを持参してください。また、座禅はゆったりした服装で参加したほうがいいので、女性はスカートを避けましょう。

ここは携帯電話の電波が通じず、テレビもありません。情報から一切遮断された場所。あるのは、歴史深いお寺と、大自然のみ!

「ここは“日本のマチュピチュ”とも呼ばれています。山々に囲まれ、澄んだ空気と鳥のさえずりに包まれる場所。〈宿坊〉や〈お寺〉と聞くと、修行僧を思い浮かべて、厳しそう…と構えてしまう方もいるかもしれませんが、ご心配なく。どうぞリラックスして過ごしてください。せっかく大自然の中に来ているのですから、自然体で過ごしていただきたい。忙しさに追われた自分を都会へぽんと放り投げて、大の字で寝っ転がるような気持ちでいいのです」と、26代目住職・浅見宗達(あさみそうたつ)さん。
▲住職の浅見さん。「大陽寺」を一人で守り、宿坊参加者への対応もする。精進料理も、住職の手作りだ
▲宿坊施設。ここに宿泊して写経や読経をする。座禅は座禅堂で行う
▲受付は16時までに

写経や読経、座禅への参加は基本的に自由です。のんびりと周辺を散策したければ、出かけてもOK。お寺での生活は、厳しい日程をこなしていく“修行”を想像して緊張していたので、少しほっとしました。ドキドキしながら宿坊体験のスタートです。

はじめての写経。雑念から離れられるか!?

まずは写経に参加してみます。写経とは、印刷技術がなかった時代に、「般若心経」を覚えるために僧侶がそれを紙に書き写したことからはじまったそうです。時代とともに個人的な祈願成就などの意味も持つようになりました。
▲美しい景色を前に写経ができるのも「大陽寺」ならでは

住職が、写経をするときのポイントを教えてくれました。

「写経をする前に、指を一本かざしてみてください。そして指をじっと見る。どうですか?指ははっきり見えるけれど、背景はぼんやりしますよね。今度は、背景のほうを見てください。すると、指がぼやけますよね。集中しているところが、近い場所か遠い場所かで、見える景色が変わってくる。“意識”も同じです」

「自分自身を見つめたいのにその周辺のことばかりを考えてしまうことはありませんか?そんなとき、写経をして、目の前の筆先に意識を集中するのです。おのずと、なかなか離れられなかった雑念から意識がふっと離れて、自分に近いところを見つめることができます」
▲指先をかざしてみる。意識をどこに向けるかで、見える景色が変わることを体感する
▲縁側の戸を開け、開放感のある場所で行う。集中しているように見えるが、「字が汚い…」「明日の仕事は…」など、頭の中はまだまだ雑念でいっぱいです……
▲「般若心経」が書かれた紙の上に半紙をおいてなぞる。間違えても気にしないこと。筆先に集中して、ていねいに書きすすめる

ちょっと疲れたら、ふと、顔を上げてみましょう。木々たちが揺れ、おのずとふーっと深呼吸。リラックスするほど、写経の時間が楽しくなります。
▲最後に、お願いごとを書き、自分の名前を書く。「健康」を願った

写経は何枚書いてもいいそうで、2枚、3枚と書く人もいました。はじめての写経は、ついつい肩に力が入ってしまいました。

写経を終えたら読経の時間まで休憩です。ほかの参加者の方とおしゃべりをしながらのんびり過ごしました。

鐘の音とともに、ひたすら聖典を唱える!

18時30分。読経の時間です。まずは合掌をして、住職の声に合わせて「聖典」を読んでいきます。
▲合掌

「間違えてもいいので、大きな声で読んでください」(住職)

見よう見まねという感じで、とにかく、声に出して読みます。

「観自在菩薩(かんじーざいぼーさー)、行深般若波羅密多時(ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじ)……」(参加者)
▲「臨済宗 聖典」。「摩訶般若波羅密多心経(まかはんにゃはらみったしんぎょう)」が書かれている

住職が鐘(磬子・けいす)をたたくと、みんなの声と鐘の音が合わさって部屋や体に反響します。一生懸命読んでいるだけで、不思議と「読む」ことに集中していきました。住職の力強い声は、迫力満点。一瞬にして厳かな空間が生まれます。

はじめて読むにはむずかしい部分は、住職だけが読み上げます。
▲鐘の音が体に響いてくる
最後、もう一度合掌して読経が終わりました。

ボリューム満点!旨みたっぷりの精進料理

読経終了後はしばし自由時間。20時頃から夕飯の時間です。夕飯は、住職が腕によりをかけて作った精進料理。精進料理と聞くと、「質素で味気ない」「量が少ない」「食事中は私語禁止」…そんなイメージがありましたが、登場したのはボリューム満点の色鮮やかな品々!
▲けんちん汁、ふろふき大根(紫蘇みそ)、高野豆腐の煮物、キュウリとワカメの酢の物、ナスの揚げ出し、ゴボウとニンジンのかき揚げ、白米

精進料理は、動物性の食材を避けて作ります。仏教の戒律にもとづき、殺生を禁じているからです。野菜や豆類、穀物を工夫して調理します。

「いただきます!」

食欲をそそるいい香り!高野豆腐や、ふろふき大根はシイタケでとった出汁がたっぷりしみていて、口の中に旨みが広がります。揚げたてのかき揚げはサクサク。ナスの揚げ出しは、とろりとした食感で、けんちん汁は、野菜の甘みをしっかりと感じることができ、どれもおいしい。野菜の旨みが効いているから、塩分をおさえても味がしっかりしていて、“味が薄い”と感じることもありません。ごはんと汁物はおかわりができます。
▲かき揚げは塩でいただく
▲ニンジンは大きく切られていて食べごたえがある
▲箸ですっと切れるほどやわらかい大根

食事中はおしゃべりもOK。参加者同士、参加のきっかけや、今日の感想などを話したりして、食事を楽しみました。

「命があるものをいただくわけですから、無駄にしないよう食べて、自分の力にしていくというのが精進料理です。感謝しながら食べるため、話さないのが一般的です。でも、“料理はおいしく、かまえない”というのが大切だと思っています。作法にとらわれることで、自由な心から遠ざかってしまうことがありますから、楽しく食べてください」(住職)
▲食事はみんなそろっていただく

満天の星が見える露天風呂

受付をしてから就寝までの間に、順番にお風呂に入ります。お風呂は、住職手作りの露天風呂です。晴れていれば満天の星空を見ながら湯につかれます。まだ明るいときに入れば、山の景色を楽しむこともできます。
▲本格的な露天風呂。脱衣場、洗い場、シャワーがあり、シャンプー、リンスなどもある

法話の時間は、悩みごとの相談もできる

21時頃の法話の時間には、住職が、心の持ち方や、写経や読経、精進料理の意味を改めてお話ししてくれます。こちらから仏教や「大陽寺」のことを聞いたり、悩みごとを相談したりすることもできますよ。
▲住職を囲んでお話しを聞く

この日は、「無」についてのお話しを聞きました。

「さきほどの読経の中に、〈無眼耳鼻舌身意(むーげんにーびーぜっしんにー)〉という言葉がありましたね。わたしたちは、目・耳(音)・鼻(におい)・舌(味)・身(気配)から入る情報に支配されています。それらから離れる、つまり〈無〉になることで、自由になれるという意味です。般若心経を唱え、いまの自分に意識を向けることで、〈無〉の状態に近づくことができるのです」

「無」になろうとすればするほど、いろんなことが浮かんでしまい、なかなか「無」になれません…。「でも、それでいいんです」と住職。

「ただ、浮かんできたことを追いかけないこと。ちょっと遠くから眺めてみるような気持ちでいてください。また別のことが浮かんでも、それを追いかけない。執着しないことが大切なのです」
▲誰が聞いてもわかりやすい言葉でお話しをしてくれる

「聞きたいことがあれば言ってください」ということだったので、勇気を出して質問してみました。
「ついつい自己中心的になってしまうのですが、どんな心持ちで過ごせばいいのでしょうか」――。

「自分の中に、ストーリーがいつの間にか出来上がっていて、その文脈に沿った答えを求めていませんか。“自我”があることで、その文脈しか見えなくなっているのかもしれません。自我を捨てることで、ほかの道に気付くことができる。執着心から自由になることが大切です」

図星…。ありがたい言葉をいただき、法話の時間が終わりました。
▲この日は、参加者のなかにヨガインストラクターの山本志帆さんがいて、瞑想方法を教えてくれた。「大陽寺」では、定期的に「禅セラピー」を開催しており、瞑想体験ができる日もある(日程はHPでご確認ください)

瞑想でさらに心を落ち着かせ、22時前に就寝。
▲部屋は男女別々。布団は各自で敷いて寝る

2日目は朝の散歩からスタート

「大陽寺」から徒歩5分ほどの広場から、朝日が見られると聞いていたので、早起きをして散歩に出かけてみました。朝日が昇るのは5時45分頃。5時半ころにお寺を出て、のんびりと散策します。
▲鳥の鳴き声に耳を傾けながら散歩
▲朝日が見えるという広場に着いた。雲がかかっていて朝日は見られなかったが、雲の中にいるような幻想的な場所だった
▲「大陽寺」に戻ると、住職と番犬がお出迎え

朝の光を浴びながら、ふたたび写経タイム

2日目のプログラムは、6時45分頃からヨガ、読経、座禅です。まだ6時頃だったので、ふたたび写経をしてみました。
▲寝てません…よ

ちなみに、書き上げた写経は、奉納するか、持ち帰ります。
▲今日も景色がすばらしい!

「家や職場に帰ると、また忙しい日々がはじまり、ここで見た景色を忘れてしまうものです。そんなとき、自分が書いた写経を見ることで、見ていた景色を思い出すことができるでしょう」(住職)

なんとここで、住職が淹れたおいしいコーヒーのサービスがありました。お寺でコーヒーとは意外ですが、これも、リラックスしてこそ、自由な時間を過ごせるという住職のはからいです。

ヨガで体をほぐし、朝の読経で心身を調える

▲座禅堂でヨガ。宿泊している建物から歩いて1分ほどのところにある

ヨガの時間になりました。「大陽寺」では「天空ヨガ」「禅&YOGAインテンシブ」など、様々なヨガプログラムを開催しています。人気が高く、すぐに予約が埋まるので早めの予約がおすすめ(日程はHPでご確認ください)。

開催場所は、屋外だったり、屋内(座禅堂)だったり、ヨガプログラムやその日の天候によって変わります。この日は座禅堂で行いました。
▲初心者でも大丈夫
▲先生の美しいポーズを参考に、体をじっくりのばす。窓の外には、美しい景色が広がる
▲足がまったく上がりません。常に呼吸を意識して、呼吸を止めないように行う
▲最後は、仰向けになって呼吸を整える。静寂の中、差し込む朝日が心地よくて、寝てしまいました…

ヨガを終えて外に出ると、朝の澄んだ空気とさわやかな光に包まれました。
「宿坊体験」と聞くと、朝から、掃除や座禅など忙しくスタートするものかと思っていましたが、とにかくのんびり。贅沢な朝時間を楽しみます。
▲「一日一度は呼吸と心を調える」。普段の生活ではなかなかできていなかったと気づいた

隣接する開山堂に移動し、つづいて読経を行います。
▲開山堂
▲開山堂の中には、大きなお面があった。江戸時代に、長々と伸びた髭と鋭い眼光から髭僧大師(ひげそうだいし)と呼ばれていた修行僧の風貌を物語ったお面

合掌をして、住職が太鼓をドン、ドンと叩きながら聖典を唱えます。昨日は、はじめての読経で少し緊張していましたが、2度目なので、昨日より集中できたような気がしました。
▲住職が太鼓を鳴らしながら聖典を唱える
▲目を閉じて、住職の読経に集中する

ほどよい緊張感の中で、ドキドキの座禅

開山堂の隣にある座禅堂には、座禅をするための席が設けてあり、分厚くやわらかい座布団の上にあぐらをかいて座ります。自分の意識を、おへその下あたりの「丹田(たんでん)」に向けます。

「今の姿は、いつか土に返すものですよね。つまり、自分の意識が一時的にいるだけの仮の宿なのです。この仮宿の中にいる本来の自分を感じてください」

「コツとしては、目の前に広い海が広がっていることをイメージしてみてください。見えるのは海の表面だけですが、深く深くもぐると音もない世界がある。ここに、本来の自分がいるような気持ちで、自分の意識を、体の中の深い部分に集中していきます」(住職)
▲座禅堂に入るときは、合掌して一礼する
▲あぐらをかけない場合は正座でもよい
▲手は左手で右手の人差し指を持ち、おへその下あたりへ置く。「丹田(たんでん)」を意識し、腹式呼吸を行う
▲半眼で、少し前を見つめる。通常、座禅は長い線香が消えるまでの約40分だが、ここでは10分ほど行う

「座禅」と聞くと、少しでも動くと背中をパシン!と叩かれるイメージがあったので、とにかく緊張していましたが、叩かれるのは希望者だけと聞いて、ホッ。

でも、せっかくの機会。気を入れてもらうべく、叩いていただきました。
▲警策(きょうさく)を持った住職が、目の前をゆっくりと歩く。叩かれないと分かっても、ドキドキ…
▲住職が前を通るときに、合掌をして一礼すれば、「叩いてください」のサイン。肩の下あたりを肌に沿わせるようにバシ、バシっと左右2回ずつ。思っていたより強い!でも、それほど、痛くなかった
▲座禅堂を出るときも、合掌して一礼する

参加者全員での座禅が終わったら、朝食まで自由時間です。座禅堂のろう下でも座禅が出来ます。眺めがいいのでおすすめです。
▲窓の外に向かって座ることができる
▲座禅をしてもよし、散歩に出てもよし

朝食も、おいしい精進料理で大満足!

お待ちかねの朝食です。もちろん、住職手作りの精進料理。今朝のメニューは、たっぷりのおかゆ、けんちん汁(昨日とは具が変わっています)、煮豆、油揚げの袋とじ煮、たくあん、昆布、干し梅です。

ヨガでしっかりと体を動かしたあとだから、さらにおいしい!おかゆの塩加減も絶妙で、体に染みわたります。すべての料理のレシピを知りたいくらいです。
▲けんちん汁から、香ばしいごま油の香りがただよい食欲全開!
▲朝から野菜をたっぷりいただけるのはうれしい
▲縁側でいただく
▲自然を眺めながら、ゆったりと朝食を楽しむ

朝食後には、ふたたびおいしいコーヒーのサービスがありました。

これですべてのプログラムが終了です。だいたい10時半頃になります。
住職が電車の時間を調べてくれて、駅まで送ってくれます。

「大陽寺」に到着したばかりのときは、緊張もあってなかなか自分と向き合う時間を上手に作れませんでしたが、のんびりした時間の流れと大自然に包まれて、気づくと自分を見つめる時間を過ごしていました。

「忙しい毎日に戻っても、ぜひ、ここで過ごした時間や、見た景色を思い出してみてください。はるか向こう側で見る今回の景色が、自分を救ってくれるでしょう。ぜひ気軽に参加してみてください」(住職)
参加者のみなさんとの出会いも思い出になりました。「大陽寺」で過ごした時間を大切にしながら、またここの景色に会いに来たいと思います。

撮影 本吉映理
齋藤春菜

齋藤春菜

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP