江戸時代より燕三条に伝わる鎚起銅器。工場見学でその職人技に驚嘆

2016.10.01 更新

モノづくりの街として世界有数の金属加工産地である新潟県・燕三条。「玉川堂(ぎょくせんどう)」はこの地で鎚起銅器(ついきどうき)と呼ばれる伝統工芸品を作り続け、2016年に創業200周年を迎えました。耳慣れない鎚起銅器とは一体どんなものなのか?謎めいた工芸品がぐっと身近になり大切にしたくなる一品に変わる、工場見学の旅へ行ってみました!

▲玉川堂の看板商品のひとつでもあるかぼちゃ型の鎚起銅器(やかん)

一枚の銅板から継ぎ目のないやかんを作る。 2016年に創業200周年を迎えた玉川堂

上越新幹線には燕三条という駅がありますが、これは隣接する「燕市」と「三条市」を合わせた呼び方。どちらも職人の街ですが、燕市はスプーンやフォークといったカトラリー、三条市は包丁や鎌などの打ち刃物や大工道具が得意といった地域性があります。

このエリア一帯が職人の街としての道を歩み始めたのが江戸時代。水害による米作のダメージを補うための副業として和釘を作ったことが始まりでした。ちなみに、2013年の伊勢神宮の式年遷宮で20数万本使われた和釘は全て三条市の職人が作ったものなんです!

その後、1770年代に仙台からの流れ職人がこの地に腰を落ち着けて、鎚起銅器を伝えたそう。
▲一つひとつ銅板を打つことで「鎚目(つちめ)」をつける職人

「鎚起」とは「『鎚』で打ち『起』こす」という意味で、鎚起銅器はその名の通り、一枚の銅板を金鎚で叩き、成形された「やかん」や「ぐい呑」などのアイテム全般を指します。一人でやかんを一通り作れるようになるには10年はかかるという、まさに職人の世界。

全国に鎚起銅器の作家はいても、産地として生産を続けているのはこの燕三条だけ。そのなかで玉川堂は文化13(1816)年に創業し、やかんをはじめとした生活用品を作るところからスタートしました。
▲建物が国の登録有形文化財に指定されている「玉川堂」。JR弥彦線燕駅から徒歩3分と好アクセス

2代、3代と続く中で装飾的な彫金を施した鎚起銅器を、日本が初めて参加した「ウィーン万国博覧会」をはじめ国内外の数々の博覧会に出品するなどしながら発展を遂げた玉川堂。現在では7代目当主玉川基行(たまがわもとゆき)氏(※苗字は「たまがわ」と読みます)を中心に、茶器や酒器を中心とした鎚起銅器を生産しています。

さらに職人の育成や通年で工場見学を開くなど、多角的に国内唯一の鎚起銅器産地の発展にも尽力。1958(昭和33)年には新潟県より「新潟県無形文化財」に指定され、職人の中からは人間国宝の玉川宣夫(たまがわのりお)氏も輩出しました。
▲新品のやかん(右)と、40年経ったもの(左)。時を経てゆっくりと色が変化し、味わい深くなります

歴史やデザイン性の高さはもちろんのこと、銅ならではの「使いやすさ」も忘れてはいけません。銅は非常に熱伝導が早いので、鎚起銅器のやかんでお湯を沸かすと、とても早く沸騰するメリットが!水を入れっぱなしでも錆びることはありません。鎚起銅器はそんな実用性の高さも魅力の一つであり、大切に使い続ければ半永久的に使えて味わいが増すものなのです。

それでは早速、カンカンカンカンと銅を打つ音がいざなう工場を見学しながら、鎚起銅器について迫っていきましょう!

昔と変わらない職人の手技が、目の前で繰り広げられる

▲1枚の銅板から鎚起銅器が出来上がる過程

「うちは20~30年前から積極的に工場見学を受け入れていますが、ここ4、5年ぐらいで急激に訪れる人が増えたんですよね。匂いを嗅いだり、音を聞いたり、熱を感じたり…こういう時代だからこそ五感を揺さぶる体験が世の中から支持されているのではないでしょうか」と教えてくださったのは、玉川堂番頭の山田立(りつ)さん。外国人の見学者も訪れるそうです。

「工場見学」と言えど、玉川堂で目にするのは見学のための施設ではなく、実際の注文の商品を作る現場。注文などにより日々工場の様子や見学内容は変わるので、取材日に拝見できた様子を写真でご紹介します。

こちらは、切り出した銅板を熱して柔らかくする「焼き鈍(なま)し」という工程。
▲見学用のサンプルを焼き鈍し中
▲炉から出した銅を冷水に。大きな音と大量の水蒸気にびっくり!素手で触れられるほどすぐに温度が下がります。冷めても柔らかく、加工がしやすいのも特長
▲「こんなに柔らかいんですよ」と、水から引き上げたばかりの銅をぐにゃっと曲げてみせてくださいました

鍛金場(たんきんば)と呼ばれる40畳の作業場では、職人の技、銅を叩く音から匂いまで、昔から変わることのないリアルな制作風景がそのまま目の前に広がります。
▲見学者と職人の距離が近い!
▲よく見ると職人によって作っているものが違います。やかんの蓋に急須、特注品を手がける人も
▲何人もの職人が一斉に銅を打つ音はかなり響くので、職人の耳には耳栓が
▲打つ時に銅器を乗せる金道具「鳥口(とりくち)」。これだけで約200種類、金鎚や木槌も約300種類も!

工場の奥をのぞくと、銅に錫(すず)を焼き付けたり煮たりして着色中でした。玉川堂のように銅を6~7色着色できる技術は世界広しといえど、唯一無二!
▲製品を特殊な液体で煮て色付けしているところ
▲液体から引き上げたばかりの茶さじ

見学時間はおよそ20~30分になりますが、タイミングや質問など場合によって異なります。
作り方や道具、職人についてなど、見れば見るほど、聞けば聞くほど興味が深まる工場なので、ぜひ実際に鎚起銅器が作られる臨場感を肌で感じて、詳しく聞いてみてください。

職人の皆さんの真剣で丁寧な手仕事の様子はもちろんのこと、使い込まれた道具類、音が抜けるよう天井が高く作られた建築、1893(明治26)年の「シカゴ万国博覧会」の賞状など、目を凝らせば凝らすほど興味を惹かれるものが見えてきます。作業台は創業当時からのものがあるという言い伝えも。
写真撮影やSNSへの投稿もOK!ただし、フラッシュは作業の妨げになるので控えましょう。
▲若手の女性職人3人で考案したという花器(30,240円・税込)

銅器で飲むとお茶の味が違う!? デザイン、機能、経年を堪能する喜び

工場が築80年、お座敷部分が築100余年と建物自体も味わい深く、国の登録有形文化財に指定されている玉川堂。奥行きが大変深く、奥が工場で手前がお座敷になっています。
見学のあとはお座敷でサービスのお茶をいただきながら、玉川堂の歴史や鎚起銅器のより詳しいお話を伺うことができます。
ここでは鎚起銅器の販売も行っています。ぐい呑(11,800円)やビールカップ(18,360円)といった酒器や急須(51,840円~)などの茶器をはじめ、最近始めたコーヒー関連の銅器も人気です。(※価格は全て税込)

「生産の現場を見ていただくと、お客様と品物との距離がぐっと縮まるのがすごくよくわかるんですよ。既に持っている方は使い方が変わるし、お持ちではない方も価格に納得感が出たりするようですね」と山田さん。

確かに安くて便利なものがたくさん溢れる現代、ぐい呑で1万円を超える鎚起銅器は一見高価なものにも思えます。しかし実際に一つひとつ丁寧に作られる手間と技術、そして経年することでより味わいを増す楽しみを知ると、むしろ価格以上の価値が感じられました。
▲お座敷の先は風情あるお庭が広がります。爽やかな空気が心地よかったです

鎚起銅器のビールカップでお茶をいただいたところ、なんともまろやかな口当たりが…?
「銅イオンに水を浄化する作用があるので、個人の感覚で差はありますが、味がまろやかになると言われることはありますね」(山田さん)
見た目の美しさだけではなく、味わいの変化を感じられるのは体験してみないと感じられないこと。まさに五感で鎚起銅器を感じられる工場見学になっています。

玉川堂では職人に直接指導してもらって鎚起銅器のぐい呑や小皿を作るワークショップを開催することもあるので、ものづくりに興味のある方に特におすすめです(不定期開催。情報はホームページFacebookで告知)。
▲ワークショップでは世界にたったひとつのオリジナルのアイテムを作ることができます

「この土地で200年続いてきているものを僕らの世代で終わらせることなく、次の世代にバトンタッチしていくことが使命。そこで日本中はもちろん、世界中からこの燕三条に来てもらうことで交流人口を増やして、地域の価値や意義を高めていこうという活動をしています。『伝統は革新の連続』と考え銅器を核に日々変化しながら、この土地を国際産業観光都市にしていきたいですね」と山田さん。

玉川堂の近郊にも包丁や味噌など約10の見学OKの工場があるので併せて回ってみたり、越後湯沢に宿泊して温泉を楽しみつつ燕三条まで足を伸ばしたり、佐渡の観光の後に訪れたりと新潟を広く楽しむ旅もおすすめとのことでした。
一つひとつ職人が打ち上げ、土地の持つ文化や技術、歴史がぎゅっと詰まった鎚起銅器。工場見学をしてから暮らしの中に取り入れてみると、愛おしいものと暮らす喜びや旅の思い出も一緒に、時間を経るごとにより輝きが増していくことと思います。

78もの工場を見学できる「工場の祭典」

そしてこの秋、燕三条では注目のモノづくりの街ならではのイベントが開かれます!
今回お邪魔させていただいた玉川堂をはじめ、ノーベル賞の晩餐会でカトラリーを提供している工場など78もの燕三条の工場見学を含む、97の事業所が参加するイベント「工場(こうば)の祭典」が2016年10月6日~9日に開催。
▲2015年の工場の祭典で行われた、玉川堂によるワークショップ「小皿製作体験」の様子

普段は一般公開していない工場の中も観られるとあって、2015年は4日間で延べ19,000人もの人が来場したほど大盛況!来場者の約4割は新潟県外からの訪問だそうです。

4回目を迎える2016年は参加事業者数が2015年の68から97に増え、農園でのランチ体験など農家から発信する「耕場」と産品を買える「購場」も新たに登場し、よりスケールアップ!見学だけではなくワークショップなどのイベントを開催する工場もあるので、メイドイン燕三条の職人技をたっぷり堪能できるまたとないチャンスになっています。
玉川堂では10月6日と7日に1日3回小皿製作体験のワークショップを開催します(各回先着5名・料金:1,000円・税込)。

こちらもぜひ、チェックしてみてください。
丸山智子

丸山智子

ライター・コピーライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」参加ライター。東京の編集プロダクション、広告制作会社を経て2014年より新潟でフリーランスに。イベントの宣伝・広報、地方情報誌、住宅情報誌、会報誌等での執筆、広告の企画制作などの分野で活動中。関心分野は、和菓子・日本文化・舞台芸術。

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