かき氷ホットスポット愛媛/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.12

2016.09.09 更新

「愛媛県にはすごいかき氷屋がある」僕がかき氷をよく食べるようになってから、そういう話を度々耳にすることがあり、一度愛媛にかき氷の食べ歩きに行ってみたいものだと思っていた。願いが叶って初めて愛媛を訪れた時から、僕は愛媛のかき氷の虜になってしまった。以来、最低でも年に一回はかき氷だけのために愛媛を訪れ続けている。本州とは少し違った時間の流れを感じることのできるこの町と、この町が生み出したかき氷を紹介したいと思う。

▲田中戸(たなかど)の「島のあまなつ」650円(税込)

「登泉堂」西日本を代表する至極のかき氷

かき氷に興味がある人なら、一度は今治の「登泉堂(とうせんどう)」の名前を耳にしたことがあるのではないだろうか。明治26(1893)年頃、甘味処「青野商店」として開店した。明治43(1910)年頃、「登泉堂」と名前を改め、かき氷の提供を始めたという。

現在のようなこだわりのシロップを提供し始めたのは昭和45(1970)年頃。現在の店主に代がかわった頃から「登泉堂」のかき氷は、甘味処のかき氷から西日本を代表するかき氷へと変貌を遂げ始めたのである。
▲いよかんミルク670円(税込)

初めて「登泉堂」のかき氷を見たとき、僕はその称号を少し疑った。近年は氷を羽のように削った「ふわふわ」のかき氷が流行なのだが、「登泉堂」のかき氷には僕の知っている「ふわふわ」とした氷の羽が見えない。本当にこれが西日本を代表するかき氷なのか?

もちろんその疑問は、一口食べたときに吹き飛んだ。まるで吸い込まれるように匙が氷の粒子の間に入り込み、その口溶けは想像とは全く違うなめらかなものだった。
▲宇治くり金時880円(税込)

まるで目の前でお抹茶を点ててもらったように香り高く、コクとキレのある抹茶蜜に驚いて、「うまい!これはどちらのお抹茶をお使いですか?」と尋ねると「決めてないんですよ」と店主は答える。「抹茶の出来も、毎年違うのでね。数カ所とって一番良いところのを使います。苺もね、いくつか食べて一番美味しいのを。いくつか種類の違うのを使って最高のバランスを作ることもありますよ」と言った。

店主が信じているものは、ブランドでもなければ評判でもない。全ては自分の舌なのだ。「素材に助けられているんですよ。美味しい素材じゃなければ、美味しいシロップは出来ませんから」。最高の美味しさを求めて色々と手を加えたり工夫を加えたりしたこともあったと言うが、今では余計な手をかけず素材の持つ真の美味しさを追求しているそうだ。
▲ほうじ茶ミルク650円(税込)

もう一つ、店主が心がけている事は「美しさ」と「食べやすさ」だ。「登泉堂」のかき氷は美しい。つんと上を向いた三角形のかき氷は、固めたわけではなくスプーンの入りも口どけも抜群だ。シロップがたっぷりとかけられているが、甘すぎず、物足りなさを感じることもない。全てがパーフェクト。

完全主義者の作る料理は食べ手を圧倒することがあるが、それが無いところがまた「登泉堂」の良いところ。食べ手が緊張しない店づくりを心掛け、皆が楽しんで食べられるよう遊びを残しているのだと思う。

数年「登泉堂」に通っているが今までどうしても食べられなかったものがある。一番人気の「苺のかき氷」だ。一番人気のかき氷をできるだけ多くの人に食べてもらいたいと、3トン以上の苺をシロップに加工しているのだが、人気は年々高まり本格的な夏に入る前に売り切れとなってしまう。遅い夏休みを利用して四国へ旅する僕にとって、「登泉堂」の苺は憧れの存在だった。
▲いちごミルク670円(税込)

2016年の春、ついにこの苺のかき氷をいただく事が出来た。その美味しさといったら!どんな言葉を並べても、あの美味しさは表現できない。すっぱさも無ければ甘ったるさもない、この苺の為だけに四国へ行きたいと、そう思わせてくれる逸品であった。

「あんから庵」繊細な手仕事が生む個性的なかき氷

松山の街中にある定食と甘味の店「あんから庵」。定食は1日1種類、その日のお惣菜の盛り合わせにご飯とお味噌汁を付けたもので、市販品は一切使用せずひとつひとつ丁寧に作る食事が人気の店だ。毎朝店主が書く「お献立」が店の前に貼り出されると、そこからはもう戦闘態勢。開店を待ちきれずに並んだ客がフライング気味に店内へ流れこみ、次から次へと注文が入る。
この定食とともに人気なのが「あんから庵」自家製の甘味だ。アイスも小豆も何から何まで自家製。なんと餅までお店で作っているという。

ゴールデンウィークあたりから提供されるかき氷は、この甘味の素材をたっぷり使って作られる。時間をかけて仕込まれるシロップに、隣の客も思わず覗き込んでしまうほど美味しそうなビジュアル。なんと楽しいかき氷だろう!
▲ぶどう750円(税込)

いつも驚くのは、シロップはもちろんトッピングされた果物にかかるであろう手間の多さだ。美しく形の残ったぶどうは、ひとつひとつ形を崩さぬように手をかけているはずだ。瑞々しさの残る美生柑(みしょうかん)の果肉も、薄皮を丁寧に取り除いているに違いない。「栗ほうじ」の栗の渋皮煮は、「どんなに頑張っても同じように美味しくできないんだよな」と同業者も舌を巻く。
▲美生柑750円(税込)
▲栗ほうじ750円(税込)

氷は四国の有名酒造「ニキタツ酒造」が使用する美味しい山水を使って作られた純氷を使用。美味しい氷に美味しいシロップをかけ、楽しいトッピングをたっぷり纏ったかき氷は、とても個性的な外見に誰もが美味しいと思うだろう安定の味。初めてこの店に訪れた時の興奮を、今でも僕は忘れられない。暫く来ることができないかも、といささか多すぎる注文をしてしまったのだが、どれも驚きと感動の連続だった。
▲ソルト700円(税込)

例年より早い時期に訪れたところ、店主が「新作がありますよ」と声をかけてくれた。2016年の新作は驚きの「ソルト」、塩を味わうシンプルなかき氷だ。まろやかな旨みのあるフランス・ゲランドの塩が程よく効いたシロップは、甘じょっぱさが癖になりスプーンがとまらず一気に食べきってしまった。

真夏の太陽に照らされて喉がからからになった時に、このかき氷を食べたらもっともっと美味しいのだろうなぁ。真夏にこのかき氷を食べられる皆さんが、本当に本当にうらやましくてちょっと妬ましくなってしまう。松山を離れるとき「あんから庵」が近所にあったらなぁ、と思わなかった事はない。

「田中戸」時を超えて。思い出を繋ぐかき氷

初めてこの店のかき氷の写真を見たとき、どうしてもこの店に行きたい!と感じる何かがあった。絶対食べたい!と意気込んで訪れた日、その日はまさかの臨時休業。
旅の都合で四国のスケジュールを延ばすことができず、一旦九州に入ったものの、このかき氷が心残りで仕方がない。諦めがつかず、九州からもう一度四国に向かったのであった。
以前は港町として栄えた「三津港」から延びる、今は少し静かな商店街に「田中戸」はあった。大きな窓から見える店内には居心地の良さそうな広い厨房に、大人数が座れるどっしりとしたテーブル。常連客が陣取る厨房に面したカウンター。そのどれもがまるで絵のように美しく、そこに集まる人たちがなんだかものすごくカッコ良く感じた。
▲生いちご800円(税込)

「田中戸」が提供するのは四国の島で採れる美味しい果物や農作物、牛乳を使った素朴な味わいのかき氷。店主がこの店でかき氷を提供しようと考えた時、頭の中に浮かんだのは、子供の頃に仕事を終えた父親が連れて行ってくれた店で、島のおばあちゃんが作る自家製蜜のかき氷だったと言う。

あまり娯楽のない田舎の町で、夏の夜に食べに行くかき氷は、何よりワクワクする最高の思い出として心に刻み込まれた。その思い出を辿り、かき氷を提供する準備を進めていくうちに、懐かしい思い出のかき氷機に巡り合ったのだという。
▲田中戸れん乳700円(税込)

美味しい果物はシンプルに調理して素材の美味しさをそのまま提供。一方、「田中戸」特製の練乳は、ドライフルーツや豆などを牛乳で煮詰め、様々な旨みを移した褐色の練乳を時間をかけて作られている。年代物の氷削機は、ちょっと大げさな音を立てながら美しい氷を削り出してゆく。

店主の心に刻み込まれた懐かしく美しいかき氷の思い出は、この街の子供達の心にもきっと刻まれているに違いない。そして子供達が大きくなったときに、大事な宝物のような時間を懐かしく思い出すだろう。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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