岸和田だんじり祭と城下町の魅力

2016.09.03

勇壮さで知られる大阪・岸和田のだんじり祭。日程は毎年9月の敬老の日の前々日の土曜が宵宮(2016年は17日)、前日の日曜が本宮(同18日)の2日間で、例年40万人以上の観客が訪れる。「祭こそわが人生」と地元民が熱狂する、類まれな祭礼の魅力とその舞台となる岸和田城下を訪ねる。

大阪湾に秋を告げる壮大な岸和田祭

全国各地の祭礼には「山車」が出されるが、近畿各地で出される「だんじり」は「地車」とも表記される。
大阪湾沿岸と淡路島を中心に、奈良、和歌山ほか近畿各地の祭礼に出される地車は500台を下らないといわれる。

地元大阪の地車研究家によると、各地でその構造や型、製造された歴史的背景などから、岸和田型、大阪型、神戸型などと呼ばれ、10種以上に分類されている。
共通しているのは、太鼓や鉦(かね)、笛といった鳴物が乗り込み、そのだんじり囃子に乗せて、曳き手が地車を操る。
大阪天満宮の天神祭にもだんじりが出されるが、なんといっても全国的に有名なのは、大阪南部の城下町・岸和田のだんじりだ。
映像でご覧になったことがある方も多いと思うが、岸和田だんじり祭の特徴は「遣(や)り回し」の迫力につきる。

重さ約4t、高さ約4mの欅(けやき)造りの岸和田型のだんじり。
遣り回しは城下町特有の直角の交差点を直前から加速して一気に方向転換する。
だんじりのすぐ前で綱を曳(ひ)く綱元(つなもと)、後ろで方向転換を司る後梃子(うしろてこ)、車輪に棒をかませ回転のきっかけづくりをする前梃子、屋根で飛び跳ねながらタイミングの指示を出す大工方(だいくがた)など、おのおの持ち場が決まった200人以上の曳き手が、気と力をあわせ、伝統の技と度胸を見せる遣り回しは、まさにだんじり祭の華である。
だんじり本体は、至る所に彫刻が施されている。
とくに大きなパートを占める正面・左右の腰廻りや小屋根下の見送り(後ろ)には、源平合戦や難波戦記、忠臣蔵などの名場面が彫刻され、だんじり祭礼に参加する22町おのおのの「我が町」自慢となっている。
大太鼓、小太鼓、鉦、篠笛(しのぶえ)の「鳴物」によるだんじり囃子も魅力だ。「きざみ」「曳き出し」「並足」と、ところどころでリズムの速さを変化させ、曳き手の掛け声もそれに合わせてだんじりを曳行(えいこう)させる。
わたしは岸和田だんじり祭のど真ん中の五軒屋町(ごけんやまち)で生まれ、だんじりとともに育った。平成22(2010)年には五軒屋町曳行責任者を務めた。

2日間の祭礼のクライマックスは、本宮に行われる岸城(きしき)神社の宮入。
15台のだんじりが次々と岸和田城の入口となる「こなから坂」を一気に駆け上がり、ここ一番の遣り回しを見せる。
見る者に「あっ」と息を呑ませる遣り回しは、一つ間違えば家や電柱に激突したり、横転したりで命を落とす危険が伴う。予想のできない動きをすることも多い。

そのため遣り回しが行われる曲がり角前後の道路は立入禁止になり、厳重に警備される。
観客は脚立や踏み台に乗って見たり、雨天の場合に傘を差して見たりするのを禁止されている。
見物は観覧席が無難。岸和田港に近く、その昔、石炭や砂を量る看貫(秤)が置かれていたことから「カンカン場」と呼ばれるポイントに毎年特設される。
路上で見る場合は直線部分に限られるが、祭礼関係者や警察の指示に従って見物すること。

夜は昼の勇壮さから一転。200個ものコマ提灯で飾られた華麗な姿に変貌し子どもが曳き手の主役となる。
このときはゆっくり歩く速さで曳行されるので、リラックスして見られる。
岸和田の人々がこの上なく大切にしている「年に一度の大祭」の安全曳行を見守ってあげてほしい。

岸和田だんじり祭の写真は六覺千手(ろっかくせんじゅ)による

だんじり祭の迫力を体感できる「岸和田だんじり会館」

そのだんじりについてのすべてを知ることができる博物館が、岸和田城に近い本町にある「岸和田だんじり会館」。
元禄16(1703)年に始まったとされるだんじり祭の歴史から、各町のだんじりについてまで、岸和田だんじりのすべてが実感できる専門博物館だ。
館内に入ってすぐの「イベント広場」では、大型マルチビジョンによる迫力の映像でだんじり祭の魅力を体感できる。
▲文化・文政年間(1804~1829)に製作された五軒屋町旧だんじりが、江戸期の紀州街道の町並みを再現した町家とともに展示されている
▲沼町(ぬまちょう)先代だんじりは明治34(1901)年新調。平成13(2005)年まで曳行していたもの
▲天保12(1841)年新調の紙屋町(かみやちょう)先代だんじり。夜間曳行の際の提灯が点灯されている
▲体験コーナーでは、だんじり囃子の演奏が出来る。本物と同様の舞台に太鼓や鉦が設えてある
▲だんじりの大屋根に乗って指示を送る「大工方」の体験も可能
▲だんじり今昔資料館では、岸和田だんじり祭の歴史から、各町のだんじりについて、大工や彫刻師、彫刻のテーマまで詳しく知れる
▲だんじりの飾り付けや全町の法被(はっぴ)、提灯、纏(まとい)も展示

圧巻は3Dめがねをかけての「3Dだんじりビジョン」。立体カメラが撮影した迫力満点の映像で、まるでだんじりに乗っているように「遣り回し」体験ができる。
だんじり研究家から祭大好き少年まで、一日いても飽きることがない。
▲だんじり会館は、岸和田城のすぐ下。堀端を歩くのも、岸和田城の本丸を見学するのもいい
年中だんじり祭の話で盛り上がる、地元・岸和田のだんじり野郎たち。
皆でここ一番の遣り回しを決め、「今年もええ祭やった」と泣く、「祭こそ我が人生」本番の、年に一度の祭はもうすぐだ。
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
PAGE TOP