野生のクジラをさがす旅。和歌山でホエールウォッチングに挑戦!

2016.08.07 更新

和歌山県の南に広がる熊野灘沖合いは、古くから捕鯨が行われていたエリアのひとつ。捕鯨が規制された今でも調査用の捕鯨船が運航する、とてもクジラと縁のある地域です。ホエールウォッチングが楽しめるポイントとしても人気ということで、さっそく体験しに行ってきました。

ここは和歌山県、南紀勝浦温泉のある那智勝浦町。太平洋に面したリアス式海岸のキレイな景色を見ながら入れる温泉や、全国有数のマグロ水揚げ基地「紀伊勝浦漁港」がある「マグロの町」としても有名で、古くから観光と漁業の町として栄えてきました。

しかし、今日のお目当ては温泉でもマグロでもありません。
今日のお目当ては…

クジラ!

1950年頃、アメリカのカリフォルニア州で始まったと言われている「ホエールウォッチング」。水族館ではなく、海に出て、野生のクジラやイルカに出合えるというこのアクティビティは、たちまち大好評に。今では全世界に広まり、ここ日本でもいくつかの地域で体験できるようになりました。

そのひとつがここ那智勝浦町。 今回は、ホエールウォッチング体験ができる「清丸渡船」さんにお邪魔しました。
▲JR紀伊勝浦駅から歩いて10分ほどの場所にある「清丸渡船」

幻想的な夜明けとともに、クジラ探しの旅ははじまる

体験に訪れたのは、梅雨真っ盛りの季節6月。 まだ薄暗い早朝に集合場所に到着した筆者一同。

「ホエール・ウオッチング」と書かれた大きな看板が掲げられた建物のすぐ目の前には小さな船着き場があり、その向こうには海が広がっていました。
▲早朝の船着き場

いわゆる小さな漁港という感じの船着き場からは、近くに点在している旅館や民宿が見えます。 港には、これまたいわゆる漁船という風貌の船が数隻停泊しています。

しばらく港の景色を眺めて待つことに。
朝日が昇っていく港の風景はとても幻想的。 きれいな海や朝日の美しい自然美と 海の男を連想させる豪気な船のフォルムのコントラストが印象深く、味わい深い風景を作り出しています。

日の出とともに驚くほどみるみると明るくなっていくあたりの景色。そして、船の全貌が現れてきました。
▲第一清丸

「おはようございます。ホエールウォッチングの方?」
「はい。よろしくお願いします。この船で行くんですか?」
「そう、この清丸で行きますよ。今日の予約はあなた方だけなので、 時間前ですけれど良ければさっそく行きましょう」

なんと、平日ということもあってかまさかの貸し切り状態。 やさしそうな「清丸渡船」の奥さんの案内で、乗船名簿の記入をして、渡されたライフジャケットを着用 したら、早速乗船です。

全長17m、定員最大28名という第一清丸。客船やフェリーとはひと味違う漁師気分を味わえる船に乗り込むやいなやエンジン音を高らかに響かせ、船が動き出しました。
▲クジラ探しの相棒「第一清丸」で出港

奥さんに見送られ、みるみる港を離れていく船。漁にでかける男の気分です。

さあ、クジラに会いに行こう!

船はどんどんスピードをあげ、海上を沖に向かって進んでいきます。

「どれくらい沖までいくんですか?」
「ここから30分から1時間くらいは沖に進みます。そこからクジラを探しながらさらに船を進めていくんです。 しばらくは景色でも楽しみながらのんびりしていてください」
とスタッフのお兄さん。

太平洋を回遊するクジラは、毎年4月から9月にかけ、那智勝浦の沖合い、熊野灘にやってきます。 クジラたちには朝方に陸に近づき、また沖へと離れていくという習性があり、 海岸から15km~20km離れたあたりで見られることが多いんだそう。しかし、潮の流れやその日の状況によってクジラのいる場所は毎日違うので、沖合い30~40kmまでクジラを探しながら船を進めるとのこと。

さあ、今日はクジラに会うことはできるでしょうか?
運航中は、船上で自由に過ごすことができます。 開放的な甲板では、見渡す限り一面に広がる空と海。まあるい水平線までしっかりと見えます。 360度の海の景色は大迫力。まさにパノラマな風景です。

そして、この日大迫力だったのは、景色だけではありませんでした。
この日は、波が高めで若干荒れ模様。 何かに掴まっていないと足をとられるほどの揺れが、たびたび船を襲います。

筆者は、ちょっとした遊園地のアトラクション気分で楽しんでいましたが、同行カメラマンが船酔いでまさかのダウン!グロッキーな顔で「酔い止めが売り切れてて…」と必死に言い訳するカメラマン。

彼は車で山道を走るだけでも酔ってしまうという見た目に似合わず繊細な男で、本来一般的な普通の人であればよほどのことがない限り大丈夫なのですが、乗り物が苦手な方は念のため「酔い止め」を忘れずに。

ちなみにこの第一清丸には、操縦席前にちょっとしたキャビン(船室)があり、冷暖房完備。疲れたらそこで横になってひと休みすることができるようになっています。万が一のときにもうれしい配慮です。
▲こちらが船長の井筒清和(いづつきよかず)さん

清丸渡船の船長・井筒さんは、このホエールウォッチング体験以外にも、磯釣りを楽しみたい釣り人を一級磯へ案内するなど、渡船業30年以上というベテラン。このあたりの海を知り尽くした寡黙なクールダンディーです。

「どうやってクジラを探すんですか?」
「目で見てさ。今日は、波が高いでなかなか見つけにくいけどな」
▲沖に出ると船長は、一段上の操縦席へ移り、クジラを目で探しながら船を進めます

目!?

漁師仲間や捕鯨船と無線で連絡をとりあったり、クリック音と呼ばれるクジラが発する歯ぎしりの音がしないか水中に沈めて確かめる装置を使ったりはするものの、船長は自分の長年の経験にもとづいて、その日クジラが現れそうな方向へと船を進め、そして自分の目でクジラを見つけ出すというのです。 しかし、今日はあいにくのこの高波。クジラがジャンプする姿や潮を吹く姿が波にかき消されてとても探しづらい環境だそう。

ジーザス。なんて日を選んでしまったんでしょう。
「まあそれでも何も見れずに帰るって日はなかなかないわ。今まで出航した日の8割~9割は、何かしら見せることができとるで…」
なんと心強い!

さあ出てこい!クジラ。
船長!頼みます!

イルカたちと並走!

港を出港してから2~3時間たった頃でしょうか。心地良い潮風を堪能しながら海上の景色を優雅に堪能していたところ、突如船長が船のスピードをあげました。 どうやら近くの船から無線で「イルカをみかけた」との情報が入った様子。

船首で目を凝らすスタッフのお兄さん。
ダウンしているカメラマンを叩き起こす筆者。

そして、船がエンジンを停止させます。

すると…

「いた!! イルカだ」

イルカの4~6頭の群れが海上をはねたかと思えば、なんとイルカの方からみるみるうちに船に近づいてくるではありませんか。
船の真下までやってきたイルカたちは、船を先導するかのように船首から顔を出します。

「アラリイルカですね。マダライルカとも呼ばれ、昔はマグロの網によくかかってしまっていて絶滅が心配されていました。それで今はイルカにやさしいマグロ漁法などが用いられるようになっていますけどね」
▲船と並走するアラリイルカ

すごく近い!
海に飛び込んだら触れられそうなほど、すぐ目の前を優雅に泳ぐイルカ。 野生のイルカをこの距離で見ることができるなんて感激です。 しかも、船といっしょに並走しているなんて!
思わず目を奪われるとはこのことです。 ただただじーっと見つめてしまいました。

船を見失ってしまったのか、船と遊ぶのに飽きたのか、しばらくすると、並走していたイルカたちの数は徐々に減っていきます。 そして、ついに最後の一頭も離れていってしまいました。 夢のような時間はあっという間。

「さあ、クジラを探しましょう」
クジラ探しの旅はまだまだ続きます。

そのときはいきなり現れた!クジラの大群に遭遇!?

それからまた海上散歩を続ける「第一清丸」。
イルカとの遭遇で俄然テンションがあがった筆者。クジラもぜひ見てみたい。 しかしなかなかクジラに遭遇できません。

「やっぱり今日は厳しいな。もうお昼だし、そろそろ帰りましょか。まあ帰りながらも探しますで」
と船長。

「今日はダメやな~って帰っているときにクジラに出合うこともよくあるんですよ」
と励ましてくれるスタッフのお兄さん。

「……」
相変わらずダウンしているカメラマン。

残念無念!でも今日はイルカが見れたし、まあしょうがないのかなとあきらめて帰路につく一同。

帰りはじめてしばらくたったときのことでした。

「あっ!」
スタッフのお兄さんが遠くを指差しました。
なにも言わずポーカーフェイスのまま、船の進路を変える船長。

その先には…
よく目をこらすと遠くの方に海上から付きだした三角のヒレが見えます。
「ハナゴンドウですね」
「キターーーーー!クジラ!」

「ハナゴンドウは体長3~4メートルのクジラです。クジラというととにかく大きいとイメージする人も 多いですが、イルカよりちょっと大きいくらいのものもクジラなんですよ」

お兄さんによると、そもそもクジラとイルカはとても近い種で、体が小さくて、口の中に歯が生えている鯨類をイルカと呼んでいるということだそう。

確かに遠目で見るかぎり、先ほどのイルカと見た目はそんなに違いません。 何はともあれクジラを見つけたぞ。もっと近くで見たいなあ。

そう思っていると、船長がニヤッとしてひと言。

「いっぱいおるで」

見渡すとなんとそこらじゅうに三角のヒレが海上に現れては消えています。

「おーーーー! これ全部ハナゴンドウですか」
「50頭ぐらいの大群やな」

そして…
「バシャーン」
▲ハナゴンドウ

船の近くで、また遠くのほうで、思い思いにジャンプをするハナゴンドウ。

「あっ。飛んだ。こっちでも」
「あそこにいるのが近いですよ」
ハナゴンドウの動きは意外と早く、あちらこちらで繰り広げられるパフォーマンスに船上は大騒ぎです。

まるでもぐらたたきゲームをしているかのように船のまわりのいたるところから顔をだすハナゴンドウたち。

そうなると大変なのはカメラマンです。
「目で見るにはいいけど、なかなか写真に撮るのは難しいですよね」
お兄さんにそう言われながらも、船酔いで顔面蒼白になったカメラマンが必死に格闘しています。

そして、
決死の一枚がコチラ。
先ほどのアラリイルカとは違い、平べったく、角ばった頭。そして黒光りしたツヤのある体。 体中に傷跡のようなものが見えますが、これはハナゴンドウの特徴で、古傷が白く残った跡。クジラやイルカは、エサのイカと格闘したり、ケンカや求愛など、仲間同士のコミュニケーションでお互い噛みあったりして、傷が付くこと自体は珍しいことではないのだそう。

無事写真に収めることができた筆者一同は、満足度120%で帰還しました。 ちなみに後日知ったことですが、ハナゴンドウはクジラではなくイルカだという説もあるようで…
まあ、クジラでもイルカでもどっちでもいい!
とにかく大満足です。
▲別の日に船長が撮影したマッコウクジラ

今回は見ることができませんでしたが、他にも大型のマッコウクジラなど、さまざまなクジラやイルカたちを見ることもできるという和歌山のホエールウォッチング。 熊野灘沖合いのきれいな海と空を楽しみ、野生のクジラを探す船上の旅は、 仮にクジラに出合うことができなくてもとても優雅で、スリリングなロマン溢れるクルーズです。

みなさんもぜひ実際に体験してみては?
James

James

イギリス人と日本人とのクォーター。大学では工学部、情報システムを専攻したかと思えば、ミュージシャンとしてギタリスト、MC、DJとして活動。TVやラジオなどでも活躍。その後(株)アドビジョンにて、デザインやコピーライティングなどマルチに活躍。バックグラウンドを活かした独自の視点が人気のライター。

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