江戸時代から続く老舗醤油屋で、世界に一つのマイ醤油作り体験!

2016.11.05

毎日何気なく使っている醤油、どうやって作られるか知っていますか?醤油の産地としても知られる香川県で、伝統の製法を受け継ぐ蔵を見学できるのが、江戸時代から続く老舗「かめびし屋」です。ここでは、バラエティ豊かな商品の“きき醤油”や、オリジナルブレンドの“マイ醤油作り”も体験できるとのこと、さっそく訪ねてきました。

古きよき街並みに映える、ベンガラ色の建物

香川の醤油といえば小豆島が有名ですが、県東部の引田(ひけた)も、古くから醤油醸造が盛んに行われてきた町。海上交通の要所としても栄え、豪勢を誇った商家などが連なる古い街並みが、現在も残っています。

その中でも、ひときわ目を引くベンガラ色の建物群が「かめびし屋」。宝暦3(1753)年の創業以来、260年以上にわたって、伝統の製法に倣った醤油作りを行ってきました。
虫籠窓(むしこまど)や格子戸、なまこ壁などが風情を醸す建物は、江戸時代のままのものも多く、広い敷地内の18棟が国の登録有形文化財に指定されています。
▲ベンガラ色の壁が古い街並みに映える「かめびし屋」。現在、引田で麹づくりから手掛ける醤油屋はここ一軒のみ

もろみ蔵の見学で、醤油は生き物だと実感!

では、さっそく中へ。見学や体験は幾つか種類がありますが、今回はフルコースの「マイしょうゆ作り体験(800円・税込)」をお願いしました。
DVDの映像で伝統製法のいろはを学んでからの蔵見学、アーティストとのコラボレーションで生まれた空間の見学、そしてマイ醤油作りやきき醤油の体験という、およそ1時間30分の充実した内容です。

まず、10分余りのDVD鑑賞で、伝統の醤油作りのプロセスが分かりやすく紹介されます。醤油作りの要となるのは、最初の麹(こうじ)作り。材料の大豆と小麦、種麹から作った麹を、藁で編んだ敷物である“むしろ”の上に広げて育てる「むしろ麹」製法が、創業以来の伝統です。

機械化された麹作りが一般的な現在、手間がかかり大量生産ができないこの製法で醤油作りを行っているのは、日本で「かめびし屋」のみだといいます。
▲麹作りが行われるのは、晩秋から春にかけて。むしろに麹を広げた後は、3日3晩、徹夜で温度調整をしながら育てます(写真提供:かめびし屋)

出来上がった麹は、塩水と混ぜ合わせた「もろみ」の状態にして、蔵でじっくり熟成させた後、絞って火入れし、ろ過してから瓶詰めというプロセスを辿ります。

DVDを見終わった後は、いよいよ「もろみ蔵」の見学です。案内してくれたのは、この道16年の泉守(いずみまもる)さん。蔵が建ち並ぶエリアに入ると、一気に醤油の香りが押し寄せてきました。階段を上った先に入口がある蔵には、床下に掘り込まれたような形で、円形の桶と四角い桶が並んでいます。
ふと周りを見ると、歳月を重ねた壁や柱は、酵母菌にびっしりと覆われていました。その数なんと230種類なのだそう!
「歴史ある蔵ならではの財産ですね。さまざまな種類の酵母菌の働きのおかげで発酵が進み、大豆の旨みがじっくり引き出されていくんです」と泉さん。

淡口(うすくち)でも1年半以上、濃口(こいくち)は2年半以上熟成させるといいます。
▲もろみ蔵に並ぶ巨大な杉桶。中には30年以上熟成させているもろみもあるそう

しんとした蔵で耳を澄ませると、プツプツとかすかな音が聞こえてきました。見れば、薄茶色のもろみ液が入った桶の表面から、小さな泡が立っています。「このもろみはまだ1年余り。若いうちはこんなふうに泡を出して発酵するんです」との泉さんの言葉に、醤油は生き物なんだと実感。

仕込んでから6年という桶の中を覗くと、こちらのもろみは黒に近いくらい濃い茶色の塊状に熟成しています。自然の力と長い時間の成せる業に、改めて感じ入りました。
▲「櫂(かい)入れ」と呼ばれる攪拌作業をする泉さん。もろみの中に適度な空気を送り込むことで発酵を促します

蔵見学の後、コースには含まれていない圧搾場の前を通りかかると、チェックに来ていた工場長の谷口雅昭(まさあき)さんが招き入れてくれました。熟成の終わったもろみは、専用の風呂敷に包まれて積み上げられ、大きな圧搾機でゆっくり圧力をかけて絞られるとのこと。
▲圧搾機の前で説明してくれる谷口さん。「ゆっくり時間をかけて絞ることで、雑味のない澄んだ醤油が出来上がります」

「火入れすると香りは高まりますが、味はこの“生”の段階が一番美味しいんじゃないかな」。こう語る谷口さんに、風呂敷から染み出た醤油を少し舐めさせてもらいました。深みはあるけど後味が爽やかで、まさに絞り立てという感じ!
この「生(なま)しょうゆ」、うれしいことにショップでも販売されています。

歴史ある建物とアーティストとの、絶妙なコラボを堪能

広い敷地内には、蔵以外にも公開されている建物があります。今回の見学コースに含まれているのが、「流政之(ながれまさゆき)ワールド」「川島猛(たけし)ワールド」と銘打たれた空間。様々な芸術家との交流があった先代が、歴史ある建物のリノベーションを依頼して出来上がりました。

香川県在住の世界的彫刻家・流政之氏が1970年代頃に手掛けたのは、かつてお座敷だった建物。畳の一部だけを残してタイル貼りの床に変え、ガラス窓を入れて美しい中庭が一望できるゲストルームに改装しました。和洋折衷が絶妙に施された空間は、古民家再生の草分けとも言われています。
▲家具のチョイスに至るまで、流氏がインテリアデザインを手掛けたゲストルーム。イームズのラウンジチェアの右隣(写真中央)は、流氏がデザインした椅子

なお、建物群の外壁はもともと白の漆喰壁でしたが、ベンガラ色に塗り直すよう提案したのも、流氏だそう。麹を扱うため、年月が経つうちにすすけてくるのを目立たなくするだけでなく、ぱっと人目を惹くように、という意図もあったというのが、芸術家らしいアドバイスです。
いっぽう、長年ニューヨークで活躍し、現在は故郷の高松市に拠点を移した現代美術家・川島猛氏は、古い土蔵の1階を古い民具の展示室に、2階を喫茶室に改装。風格ある木組みの構造を活かしつつ、自作のカラフルな家具や壁紙で彩った空間は、モダンで晴れやかな雰囲気に満ちています。
▲川島氏が手掛けた土蔵2階の喫茶室。訪れた人は自由にくつろいでOKというのがうれしい

ブレンド具合を悩むのも楽しい、マイ醤油作り

建物の見学後は、お待ちかねのマイ醤油作りに挑戦!
4種類の醤油と計量カップやスプーンが用意され、なんだか実験気分でわくわくします。泉さんから、それぞれの醤油の特徴を説明された後に、試食して味を確かめ、自由にブレンドしてオリジナルの醤油を作るという流れです。
▲マイ醤油作り用に用意されている4種類の醤油。迷ったら、用途に沿ったブレンドの仕方も教えてもらえます

「『にがり入りこいくち醤油』は、煮炊きはもちろん、何にでも使える万能醤油です」と泉さん。ひとくち舐めると、辛み、甘み、苦みなどのバランスのとれた納得の美味しさ。にがりを入れるのは、自然の塩に近づけるためで、味に膨らみが出るそうです。

「『にがり入りうすくち醤油』は、煮物を色よく仕上げるのにぴったり。塩分はこいくちより高いです」。ふむふむ、確かに旨みがありつつ、塩気が少し強めです。

「『三年醸造醤油』は、刺身など素材そのものの美味しさを引き出してくれます。三年間じっくり熟成させていますが、コクはあるのに塩辛さは感じないですよ」。本当だ!後味が何ともまろやかなのが魅力です。

「『減塩醤油』は、一般的な塩分をろ過する作り方ではなく、最初から低塩で仕込んでいるので、旨みを残したまま仕上がっています」。なるほど、辛みだけがすっと後退したやさしい味わいです。
悩みましたが、コクの深さとヘルシーさのいいとこ取りを狙って、三年醸造醤油と減塩醤油のふたつを1:1の割合でミックス。深みを感じさせながら、すっきりした味わいになった気がします。

出来上がった醤油を小瓶に詰めたら、ラベル作り。カラフルなマーカーやマスキングテープが用意されているので、あれこれ工夫するのも楽しいひとときです。子どもたちにも大人気だそう。
▲マイ醤油(約200ml)が完成!家に持ち帰った後は、要冷蔵です

味わいの違いを知ると、もっと色々な醤油の味見をしたくなってきました。そんな欲張りなリクエストに応えるかのように、コースの最後は、ショップでの“きき醤油”タイムです。
マイ醤油作りでも使った醤油のほか、5年も熟成させた醤油やだし醤油、もろみなど、多種多様な品揃え。スタッフが商品説明や使い方のアドバイスをしてくれるので、料理に合わせて何本も揃えたくなります。
▲ショップに設けられた“きき醤油”コーナー。スタッフの佐野ゆかさんが、丁寧に説明してくれました
▲左から、「にがり入りこいくち醤油」(1,069円/900ml)、「三年醸造醤油」(1,426円/900ml)、「もろみ醤油」(7,722円/900ml)、「生しょうゆ」(1,069円/300ml) ※すべて税込

もろみ醤油は、もろみの粒が浮いた濃口醤油。年月と共にもろみが溶けて、ワインのように香りやコクが出て来るといいます。砥部焼の徳利入りで、デザインは流政之氏。生しょうゆのラベルデザインは川島猛氏です。

また、最近大人気なのが、醤油をフリーズドライで粉末化した「ソイソルト」。試食してみると、思った以上に塩辛さがマイルドで、醤油の風味がふわっと立っています。サラダやパスタ、肉や魚のソテーなど、様々な料理に活用できそう。
▲ソイソルトもバラエティ豊か。左から、「三年醸造」「うすくち」(各1,501円/100ml)、「青唐辛子&にんにく」「オニオン&にんにく」「シュペールセル」(各702円/50ml) ※すべて税込

なお、冬には毎年発売される人気の品“しょうゆチョコ”も登場するそう。2016年はインド洋に浮かぶクリスマス島の塩で仕込んだ醤油を使って作られるとのこと、楽しみです!

醤油の風味を活かした絶品メニュー

充実のコースを終えたら、お腹が空いてきました。ショップに隣接する「かめびし茶屋」では、こだわりの醤油を使った軽食をいただくことができます。
惹かれたのは、香川産の小麦「さぬきの夢2009」を100%使ったさぬきうどん。「しょうゆうどん」と「もろみうどん」がありますが、他ではなかなか味わえない「もろみうどん」(小420円・税込)をお願いしました。
▲漆喰壁や太い梁が風情漂う「かめびし茶屋」。天井に吊られているのは、大正初期の14代目の婚礼時に、お嫁さんが乗ってきたかごだそう

かけうどんの上にもろみの塊が乗っていて、それを少しずつ溶きながらいただきます。上品なダシが、徐々にコクを増していく味の変化が楽しい!モチモチのうどんに、もろみがよくからみます。
▲醤油の蔵元ならではのもろみうどん。トッピングの大葉とすりゴマが豊かな風味をプラス
▲醤油のあんが香ばしいみたらし団子セット(540円・税込)もぜひ。無農薬ほうじ茶がついています

さらに、2014年に「かめびし茶屋」別棟に登場した本格的なナポリ窯では、土・日・祝日限定ですが、焼きたての、しかも醤油を使ったピザが楽しめます。事前に申し込めば、生地を伸ばすところから始める「ピザ作り体験」(1枚2,000円・税込)も可能。
▲馴れた手つきでピザを薪窯の中に入れる、スタッフの田中宏典さん。普段は醤油作りの職人で、ピザ作りはいいリフレッシュになるそう

こちらは、一番人気の「釜あげしらす」(1,200円・税込)。生地に三年醸造醤油をたっぷり塗り、地元の引田産しらす、モッツァレラチーズ、パルメザンチーズ、細ねぎを散らして焼き上げます。
▲焼きたてのピザは、醤油のこんがりした香りがたまらない!醤油とチーズの相性も抜群!

醤油やしらすのコクや塩気をチーズがマイルドに包み込み、直径25cmはありそうなピザもぺろりとお腹へ。「鶏肉の豆麹漬け」など、他の醤油ピザも食べてみたくなりました。
最後に、18代目の当代・岡田佳織さんに話を聞くことができました。なぜ伝統の製法を頑なに守っているのかと尋ねたところ、先代の時代に世の中の醤油作りはどんどん機械化が進んだものの、機械で作った麹の味見をしてみると、「むしろ麹」とは全く風味が違ったそう。

「むしろ麹製法で作った麹は、旨みやコクが段違いに深い。効率は悪いけど、昔ながらの方法を守り続けることの大切さを実感したと父は言っていました。私も同じ思いです」
量産される醤油に比べて値段は張りますが、それは手間ひまと歳月をかけてじっくり熟成させる自然の産物ゆえ。今回の見学で体感したからこそ、深く頷くことができました。
puffin

puffin

東京でのライター生活を経て、現在は縁あって香川県在住。四国のおおらかな魅力と豊かな食文化に触発される日々。取材で出会うモノ・コトの根幹に流れる、人々の思いを伝えたいと願っている。

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