時を経て初めての御開帳、羽黒山正善院「黄金堂」と「於竹大日堂」

2016.10.05 更新

山岳修験の霊場として知られている山形県・羽黒山の中で、山伏たちが修行にこもる前に訪れるのが、羽黒山正善院の「黄金堂(こがねどう)」と「於竹大日堂(おたけだいにちどう)」。2016年の秋、この2つのお堂が御開帳を行うと聞き、さっそく訪ねてきました。

▲国指定重要文化財の羽黒山正善院「黄金堂」

羽黒山参詣道の入り口である随神門(ずいしんもん)の手前には今でも羽黒山の門前町として、参拝客が宿泊する宿坊が軒を連ねる手向(とうげ)地区があります。
▲手向地区に残る、昔ながらの宿坊

この辺りの家々の棟木には「引き綱(ひきづな)」が掛けられています。これは毎年、「年越しの松例祭(しょうれいさい)」(国の重要無形民俗文化財指定)で使われた悪の象徴とされるツツガムシを模してつくった大松明(おおたいまつ)を再利用して厄除けのお守りとしたもの。出羽三山の氏子であるこの地域の人々は、祭りや宿坊を守りながら信仰の伝統を伝え続けています。
▲火防と厄除け、家内繁栄を願い掛けられている「引き綱」

精進潔斎、心身を浄める精進料理

羽黒山正善院を訪れる前にぜひ立ち寄りたいのが、精進料理を食べられるお店。

羽黒町では、出羽三山の食文化・精進料理を継承しながら観光の新しい目玉にしていこうと有志が集まり、2012年に「出羽三山精進料理プロジェクト」を立ち上げました。

出羽三山の精進料理を正しく受け継いでいきながら、その背景にある出羽三山の歴史、信仰、文化を国内外に発信していこうと活動しています。

この日は、プロジェクトの代表を務める土岐彰(ときあきら)さんが営む旅館「多聞館(たもんかん)」で精進料理をいただくことにしました。
▲「いらっしゃいませ!」笑顔で迎えてくれた土岐さん

羽黒山の宿坊は修行を積んだ山伏が経営していますが、精進料理は宿坊の女性たちが作ることが多いそうです。「多聞館」でも女将さんと若女将さんが中心になり調理しています。
▲旬の素材を生かした精進料理2,000円(税別)。予約すれば日帰りでも利用することができます

月山筍(がっさんだけ)と呼ばれる細竹の煮しめ、タケノコの甘酢煮、ぜんまいの油炒め、赤かぶの酢の物、ばんげ(ふきのとう)味噌など、庄内の家庭料理が並びます。どれも、シンプルに素材の美味さを生かした料理ばかり。旬の美味しさを味わってもらおうと、季節によってメニューを変えています。

中でも「ごま豆腐」は庄内地方で昔から食べられてきた家庭料理です。様々な料理に餡をかけて食べることが多いというこの地域。「ごま豆腐」にもたっぷりと餡がかけてあります。
▲優しい味わいの「ごま豆腐」。だし汁ではなく、餡をかけて
▲箸で持ち上げてもしっかりと形が残ります
▲野趣あふれる「とび茸(トビタケ)」の煮物
▲サクサク!「おかのり」の天ぷら

山菜や米、水など食材のすべてが山の恩恵を受けたものばかり。
▲感謝の気持ちでいただきました

「出羽三山精進料理プロジェクト」に取り組んでいるのは宿坊や旅館、食事処等10店輔。料理は5品1,500円、7品2,000円、9品2,500円(すべて税別)と目安の価格が設定されていますが、献立は各店それぞれに異なりますので問い合わせてみて。
▲旬の食材に彩られた「出羽三山精進料理」

参詣の玄関口で、2016年秋御開帳の「黄金堂」を訪ねる

精進料理で心身ともに“美味しく”浄めたところで、羽黒山を参拝する際の玄関口にあたる、羽黒山正善院 「黄金堂」(国指定重要文化財)と「於竹大日堂」を訪ねてみましょう。
▲気さくで楽しい、山伏で正善院副住職の長南弘道(ちょうなんこうどう)さんに、今回特別に案内していただきました

2016年は「黄金堂」の平成大改修工事落慶の年でもあり、同じ境内にある「於竹大日堂」の修理工事落慶の年。さらに、この2つのお堂を含む出羽三山にまつわるストーリーが文化庁の「日本遺産」に認定された記念すべき年です。

そこで、9月25日(日)から10月30日(日)まで、「黄金堂」では明治元年の神仏分離令発令によって、羽黒山頂にある現在の「三神合祭殿(さんじんごうさいでん)」から移された御本尊3体(※)「出羽三山大権現(でわさんやまだいごんげん)」の御開帳を行います。
※羽黒山大権現(聖観世音菩薩)、月山大権現(阿弥陀如来)、湯殿山大権現(大日如来)
▲神聖な空気が漂う境内

また、時を同じくして、江戸時代に大日如来の御化身・生き仏として江戸市中の人々が絶大な信仰を寄せた実在の人物「お竹さん」を祀っている「於竹大日堂」では、御本尊「於竹大日如来」が御開帳されます。

「黄金堂」の境内に入り、正面で参拝をした後はお堂の中を時計回りに一周。その後、「於竹大日堂」を参拝すると出羽三山をお参りしたことと同じになるように構成されています。

この日も、「黄金堂」から参拝させていただくことにしました。
▲荘厳な雰囲気漂う門構え

庄内三十三観音霊場第一番札所ともなっている「黄金堂」は、旧国宝であり、国指定の重要文化財に指定されています。

神亀5(728)年に聖武天皇が建てたという説と、建久4(1193)年、源頼朝が平泉・藤原氏討伐を祈願し建てたという説がありますが、文禄2(1593)年に、酒田城主・甘粕備後守景継と上杉の家臣・直江山城守兼続が大修復を行ったのが現在の「黄金堂」と言われています。
▲願いを込めて、これまでどれだけの人が鐘を鳴らしてきたんでしょう…

元は「小金堂(しょうこんどう)」と呼んでいましたが、いつしか「こがねどう」と呼ばれるようになり、ご本尊の三十三体の観音様が黄金色に映えることから「黄金堂」と書いて「こがねどう」となりました。

堂内には、ご本尊である等身大の三十三体の聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)をはじめ、かつて羽黒山五重塔に安置されていた御本尊前仏の他、平安時代から江戸時代までの貴重な仏像が約70体安置されています。

お堂と回向柱(えこうばしら)とを結んでいるのは、地球上に存在する、地、水、火、風、空を表現した5色の縁綱(えんづな)。
▲お堂から回向柱に繋がる5色の縁綱
▲一礼してから縁綱を握り、回向柱をなでたりしながら願いを込めて

お参りするときの注意点をお聞きすると…
「写真撮影は厳禁です。参拝は左側通行で、堂内は時計回りに進んでいただき、仏像には手を触れないようにお願いします。聖域ですので、ワイワイガヤガヤせずに心を込めてお参りしてください」と教えてくださいました。
▲難しい話をわかりやすく説明してくれる副住職

山伏の装束は、市松模様の鈴懸(すずかけ)を着て、結袈裟(ゆいげさ)を掛ける。頭には頭巾(ときん)をつけて。仏の領域に入り、信仰するお不動様と一体となるために山で修行する山伏。装束にはすべてお不動様と関係する意味が込められています。
▲頭巾は山で修行の際、水をすくって飲むときのコップの代わりにもなるなんて知らなかった!
▲堂内にある高さ4mもある金剛力士像の足。<元禄8(1695)年、善慶作>全身の姿は御開帳の時のお楽しみ!

「この度の御開帳で皆様からお参りいただくために、堂内の仏像の配置も変えました」と、副住職。
▲立体曼荼羅として仏教の世界観を視覚的にわかりやすく表現している堂内

「本来の祈りには、“生を受けたら命ある限り全うする”という意味が込められている」
副住職の説法が心を打ちます。

「あちらを見て」
住職の声に促され、指さすほうに目をやると、遥か遠くに霊峰・月山が。その昔、女人禁制だった月山。女性や老人たちは、「黄金堂」のこの場に立ち、祈りを捧げていたということです。
▲「昔の女性たちは、ここでしかお祈りできなかったのね…」
▲月山、湯殿山が女人禁制を解いたのは明治に入ってからのこと

当時の女性たちの気持ちを少しですが味わうことができました。

女性を守るお堂には、お竹さん秘話がありました

「黄金堂」を参拝した後は、同じ境内にある「於竹大日堂」へ。ここは「お竹伝説」が残る、女性に人気のお堂です。
▲庶民の中から生まれた仏様、お竹さんを祀るお堂

話は江戸時代に遡ります。元和8(1622)年に現在の鶴岡市羽黒町に生まれた「お竹」さんは、18歳の時に江戸日本橋の豪商佐久間家の奉公人となりました。お竹さんは気立てが優しく、人の嫌がる仕事を進んで行う働き者。米一粒も粗末にせず、自分の食事は飢えた人や動物に与え、自分は残飯を洗って煮て食べていたと言います。

今に感謝し、「もったいない」「ありがたい」という思いをいつも持ち続けたお竹さん。
その噂は江戸八百八町に広まっていきました。そんな慈悲深い彼女のもとを湯殿山行者と羽黒山伏が訪れ、「大日如来の化身である」と告げます。
▲「お竹さんに手を合わせれば身分関係なく救ってもらえると、多くの人が参拝に訪れます」(副住職)

お竹さんが亡くなると、佐久間家では仏師に高さ9尺(約3m)あまりの「お竹大日如来」像を彫らせ供養しました。 その後、お竹さんの生まれ故郷の羽黒山麓「黄金堂」の境内に「於竹大日堂」を建立し、奉納したのです。

今でも、女性の守護として良縁成就、子孫繁栄、安産成就、女性疾患の平癒等、女性にしか理解のできない想いの全てを受け止めてくれる如来様として参拝客が後を絶ちません。

中には、良いお嫁さんを求める人や良い社員が見つかるようにとお祈りにくる人の姿も。
結婚前に二人で参拝すると別れないという伝説もあるとか。
▲お竹さんの道徳観は時を経て受け継がれていきます

「黄金堂」「於竹大日堂」ともに御開帳の期間中、土・日曜には東北三十六不動尊霊場境内の砂を踏みながら、各不動尊の御影(おすがた)を礼拝することで全霊場巡拝と同じご利益をいただけるという「御砂踏み」をはじめ、山伏さんの案内による解説「山伏特別ガイド」(午前10~11時、午後2~3時の2回開催・各回先着50名限定・有料)、特別記念押印「満願之證」なども用意しているそう。

「御砂踏み」は無料ですが、「満願之證」と「山伏特別ガイド」は有料、1週間前までに予約が必要です。「山伏特別ガイド」には「椿の調べ(5,000円)」と「蓮の調べ(10,000円)」のプランがありますので、詳しくは羽黒町観光協会までお問い合わせを。
2つのお堂が同時に御開帳するのはまたとない機会です!ぜひ、この機会に羽黒山を訪れてみてください。

撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。山形県知事認可法人アトリエ・ミューズ企業組合専務理事。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP