もうひとつのお好み焼きの本場「神戸」

2016.10.08 更新

お好み焼きといえば「大阪」という答えが返ってくるが、神戸のお好み焼きのおいしさも関西では知られている。牛スジとこんにゃくを味付けした「ぼっかけ」、明石~播磨灘の大貝(おおがい)、蛸の具。そして地ソース。大阪では味わえない、シンプルで素朴なのに食べ応えありの神戸ならではのお好み焼き。わざわざ出かける価値あり。

神戸流お好み焼きの本場、長田へGO

神戸市の西部にある長田(ながた)区。
お好み焼き店が密集しているエリアは、JR神戸線・新長田駅から南へ、地下鉄海岸線・駒ヶ林駅にかけての下町だ。
▲新長田駅前の阪神淡路大震災復興のシンボル「鉄人28号」のモニュメント。18mの高さだ
▲「青森」
▲「ひろちゃん」
▲「元祖 お好み道場」

長田区腕塚町、久保町、駒ヶ林町にかけての約500m四方を歩くと、お好み焼き屋さんの密集地=激戦地だというのがわかる。
それにしても「元祖 お好み道場」という店名はすごい。

国道2号線からアーケードが始まる「本町筋商店街」。
入ってすぐのところに、昭和22(1947)年創業の「志ば多」はある。
この店は「モダン焼き発祥の店」といわれている。
確かに昼時は、ランチとして腹持ちのいいそば入りのモダン焼き(650円~)を注文している客が多い。
が、モダン焼きを頼むとこれ1枚で満腹になるので、せっかくだし名物の「貝焼」(650円)と「すじ焼」のネギバージョン「ぼっかけ」(700円)の2枚をチョイス。
ここのお好み焼きは最初に生地を薄くひいて、その上にキャベツとネギ、具をのせていき、最後に生地を軽くかけて焼くスタイル。
関西では「べた焼き」「うす焼き」とか「洋食焼き」などといわれている焼き方で、生地に卵を加えないのがオーソドックスなやり方。
生地にキャベツを混ぜ込んで焼く通常の「お好み焼き」は、卵を入れるので、この店では「玉子入り」とメニュー書きして区別している。
貝焼に入れる大貝は「ウチムラサキ」といわれている大きな二枚貝で、明石から西にかけての播磨灘が名産地。
だから明石と接する大都市・神戸、とりわけ西部の長田ではお好み焼きの具として定番的存在。
きれいに捌かれた大貝は、まず鉄板で蓋をして焼かれてキャベツの上にのせる。
十分に表をカリッと焼かれたお好み焼きは、中のキャベツが高熱でとろけた状態になっていて、そこが大貝の風味を邪魔しない。
めちゃウマで、テコで切ってから直接食べようとするが、あまりに熱くてやけどしそう。
取り皿に移して、箸で食べることに。
ソースは明石の「ドリームソース」。自分で刷毛で塗ってから粉カツオと青ノリをかける。
辛いドロソースも置いていて所望する客はいるが、地元客はテーブルにある一味をかけて食べる。
とくに貝焼は一味と合う。
この店はお好み焼きを焼く長い鉄板の反対側のカウンター6席と、奥の鉄板5席、鉄板を囲むテーブルが2つ8席。
この店の鉄板の火力は強力なのでカウンター席は暑い。奥の鉄板から客が埋まっていく。
▲焼かれたお好み焼きは「チリトリ」にのせられて客席の鉄板(あらかじめ火が入れられている)に移される
次に「長田名物・ぼっかけ」。
「ぼっかけ」は「すじこん」とも呼ばれる。細かく切った牛スジとこんにゃくを醤油ベースで甘辛く煮込んだもの。
神戸ではお好み焼きや焼きそばの具としてポピュラーだがそのまま酒肴やおかずとして食べるほか、うどんの具にしたりいろんな食べ方がされる。
▲新長田駅前のビルの1階には「ぼっかけ焼きそば」専門店が

おもしろいのは、この「志ば多」では、「ぼっかけ」はネギ焼きで、「すじ焼」(600円)と品書き表記されている通常のキャベツのお好み焼きと区別されている。

ネギの上にすじこんをのせて焼き上げる。ネギの焦げた具合と「ず」(焼くとねばっとなるところ)の具合が絶妙。
酒肴的なお好み焼きと見た。これも粉カツオ、青ノリに加え一味をパラリとかけるとおいしい大人の味に。
※価格はすべて税込

中心街・元町の山手にある、神戸のお好み焼きを代表する店

旧居留地から北野異人館街に上がるトアロードの一筋西の坂道(鯉川筋)にある、ご夫婦二人でやっているお好み焼き屋「一平」。

あたりにはおしゃれなブティックやイタリア料理店などと、魚屋や青果店、米穀店、クリーニング店……といった下町的な商店がうまく混じっている。

客層も近所の商店主から高校の先生、子ども連れの家族、あるいは三宮や元町の料理店関係者など幅広いのが面白い。
お好み焼きは大貝やスジがおいしく、豚玉にしてもマヨネーズや辛子を塗らない正真正銘の神戸のシンプルなお好み焼きだ。
別注の蛸型ガスバーナーで同心円状に熱をつくる鉄板、それを囲む檜のカウンターは割烹のような風格だ。
奥さんの実家が青果店だったり、蛸やイカ、大貝などは親類筋のななめ向かいの魚屋から取り寄せたり、地元神戸の「食のプロ筋」ネットワークのなか、抜群のお好み焼きを出す。
1回に数時間分、500gしかつくらない生地。毎日厳選して半日~1日寝かせて水分をベストに持っていくキャベツ。夏と冬で調合を変えるソース……とどの方面からも完璧を期す。
ご夫婦お二人の「職人技」が他店とは一線を画している。焼き上がるまでの一連のプロセスを見ているだけで、ほれぼれすると同時に、唾がわいてきてすでに「おいしい口」になる。
大貝はお好み焼きや焼きそばに入れるのももちろんだが、鉄板でバター焼きにする客も多い。大貝は鮨屋のように大きさやその日の状態によって時価だが、だいたい1,500円ぐらい。
「神戸和牛ヒレステーキ」(時価)、「ちゃんぽんやさい」(2,500円)など、ちょっとリッチな鉄板焼きのメニューも豊富。

さてこの店も典型的な神戸のお好み焼き店、何といっても「すじ」(730円)が人気。
牛スジは下ごしらえで余計な脂分をきっちりと落とし、完全にアクを取り除く。
その上でこんにゃくとゆっくりと炊き合わされる。醤油と砂糖の甘辛バランスが絶妙。
ここのお好み焼きは「混ぜ焼き」で卵も使う。
混ぜ合わせた生地とキャベツの上にすじこん、ネギ、天かすの順にのせて焼き上げる。
ソースをていねいに塗って出される。客は好みでカツオ粉、青ノリ、一味を振りかけて食べる。
生地のふんわりと、細かく切られた良いキャベツのサクサクの歯触りがしたかと思うと、濃厚で澄んだ牛スジの味が特製ソースに味つけられてえも言われぬうまさ。
フレンチやイタリアン、中国料理といった、北野界隈のグルメ店に埋もれることなく、燦然と輝いている神戸の名店である。

※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP