山荘無量塔が魅せる由布流のおもてなし。心の保養地を訪ねて

2015.06.18 更新

いつの頃からか、「東の軽井沢、西の湯布院」と称されるようになった大分県にある湯布院町は、九州随一のハイクラスな観光地として人気を集めています。その湯布院ブランドを育てた立役者のひとり、山荘無量塔(さんそうむらた)の創業者、故・藤林晃司氏の鋭い感性と娯楽への哲学をあちらこちらで感じることができるのが、”由布院空想の森”と呼ばれる鳥越(とりごえ)地区です。宿を基点に、ラウンジやレストラン、カフェ、蕎麦処、美術館などの施設が点在するエリアには、人々を優しく、繊細にもてなす独特の息づかいがあります。今回は、本物を知る人から愛され続けている山荘無量塔の旅時間をナビゲートします。

感性が磨かれる魅惑のMURATAワールド

「亀の井別荘」、「玉の湯」とともに、湯布院御三家のひとつに数えられる山荘無量塔は、金鱗湖の近くで茶寮無量塔(さりょうむらた)を営んでいた創業者、故・藤林晃司氏が築いた日本を代表する名旅館です。大分県のアンテナショップ「坐来(ざらい)大分」(東京・銀座)や、大分自動車道の「別府湾サービスエリア」をプロデュースしたことでも話題となりました。空間デザインから食にいたるまで、幅広いジャンルで最高のパフォーマンスを提供する山荘無量塔の魅力を探るべく、そのアイデアの源泉の地を訪ねました。JR由布院駅から北東へ車を走らせて10分ほど。車を降りたその瞬間から、MURATAワールドのはじまりです。
チェックインまでの時間、山荘無量塔の関連施設が集まる”由布院空想の森”を歩いてみることに。鳥のさえずりを聴きながら散策していると、湯布院の街を一望できる見晴らしのいい場所に、「不生庵(ふしょうあん)」という手打ち蕎麦の店がありました。10割のそば粉に対して1割のつなぎでつくる十一(といち)の蕎麦は、そば粉の香りと味が強く出るのが特徴です。そば粉そのままの風味を味わう「ざるそば」(864円・税込)と迷いつつも、名物の「元祖黒豚蕎麦」(1,512円・税込)をいただくことにしました。九州産の黒豚をじっくりと煮込むこと2日。甘辛く味つけされた豚肉の旨みが、いりこやかつおぶし、さばぶしなど、贅沢な素材で整えられた出汁と絶妙に絡みます。おすすめは、右奥のカウンター席。晴れた日には、久住(くじゅう)の山々まで見渡せます。
次に訪ねたのは、「artegio(アルテジオ)」という美術館です。音楽にまつわるアートを集めた小さな美術館には、マティスやジョン・ケージ、マン・レイなどの作品が飾られていて、館内には、しっとりと心地のいい音楽が流れています。奥には、音楽や美術に関する本を集めたライブラリーがあり、自由に閲覧できるようになっています。いつもは静かな空気に包まれる美術館ですが、国内外からアーティストを招く音楽イベントでは、多くの人が集う賑やかなホールに様変わりするそうです。目で見ること、耳で聴くこと、心で感じること、すべてが愛おしくなる時間をプロデュースする仕事は、山荘無量塔の真骨頂でもあります。
美術館の向かいには、センスの良いセレクト雑貨と、隣のアトリエで手作りされたチョコレートを販売する「the theo(テテオ)」があります。アート鑑賞の余韻に浸るため、奥にあるティールーム「theomurata(テオムラタ)」でひと休み。いただいたのは、厳選された素材を独自にブレンドしたチョコレートドリンクです。上品なカカオの香りと濃厚な生クリームに、はちみつの甘みがとても贅沢! 「しあわせ~」なんてつぶやきながら、すっかりリラックスしてしまうカフェは、白壁と北欧インテリアの優しい空間です。
「theomurata」の看板メニューがこちら、テテオ・プレート(1,000円・税込)です。柚子トリュフ、フリュイ(果物のゼリー)、マカロン、オランジェット、フロランタン(焼菓子)、いちじくショコラ、キャラメルショコラと全部で7種類のアソートを一度に味わえます。金貨のカタチのチョコレートが浮かぶショコラショー(720円・税込)は、ミルクとビターの2種類からチョイス。由布院駅の近くで行列ができるほど人気のロールケーキ店「B-speak(ビースピーク)」のPロール(プレーン・チョコ、各475円・税込)もオーダーできます。

複数の文化や時代が響き合う贅沢で心地よい場所

“由布院空想の森”を散策しているうちに、チェックインの時間になりました。12の客室はすべて” 離れ”タイプ。そのほとんどが古民家を移築したもので、それぞれに異なる趣を持っています。案内された客室の名前は「吉」。築100年の古民家を新潟から移築した客室は、日本の伝統と品格を漂わせる重厚な面持ちです。廊下を挟んで反対側にある洋間には、北欧の椅子やイタリア製のソファが置かれ、2階には、ベッドルームも用意されています。飾り過ぎず、手を抜かず。「本当の意味での娯楽は、人々に再創造するエネルギーを与えるものでなくてはならない」と、ある人物の言葉を受け、”リ・クリエイト(再生)”をテーマにしている山荘無量塔の原点がここにあります。
大分県由布市は、温泉湧出量が全国3位、源泉数は975本と別府温泉に続いて全国2位(※HP「温泉データ」より)を誇る温泉地です。宿泊客のプライベートを最大限に尊重する山荘無量塔では、それぞれの客室で24時間、源泉掛け流し100%の温泉をいつでも楽しむことができます。泉質は、アルカリ性単純温泉でやわらかなもの。檜をふんだんに使用した湯船に浸かると、とろとろのお湯に身も心もすっかり癒されます。
そして、もうひとつ。常連客のお楽しみの場所が、母屋にある「Tan’s bar(タンズバー)」です。こちらも、新潟から築100年の古民家を移築してアレンジされた贅沢な空間です。夜のバータイムは、食事客と宿泊者のみの利用となり、お風呂上がりの浴衣や作務衣のまま訪れることができます。バランタインの30年ものやロイヤルハウスホールドをはじめ、世界の名酒が揃うバーで一日の終わりを過ごします。BGMはなんとカーネギー・ホールでも使われていたという名機、ウエスタン・エレクトリック社のスピーカーから流れる音楽です。バータイムにはジャズ、ティータイムにはクラシックミュージックが流れています。

山荘無量塔の世界観をたっぷりと味わえる”由布院空想の森”は、そこにいるだけで心が満たされる、そんなステキな場所でした。心に栄養が足りていないと感じたら、湯布院町へ出かけてみてください。きっと、元気になれますよ!
隠岐ゆう子

隠岐ゆう子

大学でデザインを学んだ後、大手印刷会社に入社。制作ディレクターとして5年勤めた後、フランス・パリに語学留学へ。現在は、九州・山口を中心に編集・ライターとして活動している。無類の旅好きで、暇とお金さえあればヨーロッパを中心に旅する行動派。旅、温泉、スイーツのキーワードに目がない。

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