葉山の名店「日影茶屋」で会席入門。日本料理の愉しみ方を知る旅

2016.11.11

都心から電車で約1時間でたどり着くリゾート地・葉山。海と山、そして別荘文化が息づくこの地で、創業300余年の歴史を刻むのが「日影茶屋」です。緑豊かな1,000坪の庭園に抱かれた店内で四季折々の会席料理を愉しむことができ、さらに作法や意味合いまで知ることができるのがここ。一見、ちょっと敷居が高いかな?と思える名店では、美味しさと真心に満ちた和のおもてなしが待っていたのでした。

1,000坪の敷地を誇る庭園に抱かれた江戸時代創業の料亭

寛文元(1661)年に峠の茶屋として創業してから料理旅館、そして日本料理店へ…。江戸から平成へと時を重ね、訪れる人を温かくもてなし続ける「日影茶屋」。御用邸がある葉山の地の名料亭としての風格と、有名アーティストの歌にも出てくる親しみやすさ、そして季節の風情が迎えてくれます。
一歩敷地内へ入れば、緑あふれる別世界。春は山桜、夏は紫陽花や蓮、秋は萩に紅葉、冬は山茶花や水仙と、四季折々の花が咲く敷地の広さは約1,000坪。夏祭りや鮎の会などもこの庭で行われています。
▲菊の花に真綿をかぶせた被綿(きせわた)は、重陽の節句ならではのしつらえ

訪れた時期はちょうど五節句の一つ、重陽の節句(9月9日)のころ。昔から伝わる日本ならではの年中行事や習わしなども大切に伝えてる「日影茶屋」。新米の稲穂が庭の軒にかけられ、傍らの籠からは鈴虫の声が響いていました。
窓一面に緑が広がる庭の眺めに心がほっと癒されるような椅子席。青竹の清々しさを感じながら、お弁当から一品料理、会席料理まで気軽に愉しむことができます。
  
畳敷きの大広間や庭の池にかかる橋を渡った先の離れにある個室もあり、日常をすっかり忘れてしまいそうな雰囲気。大切に守り継がれてきた日本家屋に満ちる和の風情が、いつ訪れても懐かしさと温もりで包んでくれます。

会席料理をさっそく注文。
季節の彩り・味・器を愉しみます

創業時から長きにわたって脈々と継ぐ伝統の日本料理の技。料理長の美的感性と心意気。相模湾のとれたての魚介や地場産の新鮮野菜を用いた「日影茶屋」の会席料理は、季節の旬と彩りが、器の中で美しく調和したもの。まずは、目で舌で、五感で愉しんでいきましょう。  

ちなみに懐石料理と会席料理の違いを少しここで。前者は茶席での料理であり「茶懐石」とも呼ばれます。後者は、江戸時代に宴席の料理として発展したものだそう。共に室町時代に確立した「本膳料理」を発祥としています。
料理長が腕をふるった《先付》《前菜》《椀》《造り》《焼物》《煮物》《揚物》《ご飯》《水菓子》が、順を追って次々と出てきます。(写真で紹介するのは、秋のメニューの一例となります)

《先付》
まず最初にテーブルを飾る《先付》は、柿の実を器に見立てた趣向も和食らしい一品「秋の幸 白和え 柿釜盛り」。柿とさつまいも、いんげんがお豆腐で優しく一つになった味わいに、これから続々登場する献立への期待が高まります。
《前菜》
続きましては、月をモチーフとしたお盆に乗った趣も風雅な「前菜」。手前の栗の利久焼から右回りに三浦半島の沖でとれた鯖寿司、北寄貝酒盗和え、菊花と菊菜おひたし、銀杏とむかご…まさに季節の味覚の競演が見事。会席はお酒と一緒に愉しむ料理ですから、「前菜」もお酒に合う酒菜として出てきます。
《椀》
通常はすまし汁のような汁物がお椀で出るのですが、秋は「松茸の土瓶蒸し」に。蓋をとったとたん立ちのぼるなんともいえない香りと汁の味わいは、この時期ならではの贅沢。取った蓋は、水分を含んでいるので上向きで置いて、食べ終わったら元に戻します。
《造り》
金目鯛、えぼ鯛、まごちと、相模湾であがった新鮮な魚が美しく盛られた刺身を、会席では「造り」と呼びます。その由来は、武家が「切る」と同様「刺す」という言葉を避けたことからだそう。
《焼き物》
続いて、旬の魚が「焼き物」となって登場します。この日は「鮎のうるか焼き」。骨煎餅と菊花に見立てた蕪が添えられて。
《煮物》
食材に恵まれた土地・葉山。季節の三浦野菜と和牛の「吹き寄せ野菜と和牛 黒酢あんかけ」は、ひと口ごとに心がほっこり和みます。
《揚げ物》
蟹の馬鈴薯揚げ、椎茸の利久揚げ、甘唐の素揚げなどが籠に盛られた「揚げ物」。塩とスダチでいただきます。
《ご飯》
お酒を最初からいただくため、会席では最後に出される飯と汁。味噌汁は「止め椀」と呼び、香の物も添えられています。今回の献立の締めくくりは、「栗と木の子の焚き込みご飯」。ほっくりした栗の甘みが引き立つ、絶妙な塩梅のご飯で心もお腹も満ち足ります。
《水菓子》
もっちりした白玉に緑鮮やかなずんだ餡がからむ「白玉のずんだ和え」とお茶で、食後は「美味しかったね」と笑顔がこぼれます。
今回、料理長に特別に創っていただいた秋の特別コースは、まさに日本の四季を堪能できる逸品揃い。この時期ならではの選りすぐりの魚介や野菜のおいしさは格別。旬の味覚や彩りで私たちの目を舌を愉しませてくれる会席料理を、また違う季節にも味わってみたいものだと感じました。

会席料理のマナーや作法を学べる
「和食マナー教室」も年4回開催中

会席料理の一連の流れは、ざっと以上の通りですが、楽しく味わって食べるだけでは終わらないのが、和食の世界の奥深さです。歴史や文化を知り、古くから伝わる美しい作法やマナーを知ることで、いっそう日本料理をもっと美味しく味わうことができる第一歩に。そんな想いから日影茶屋では、年に4回「和食マナー教室」を開催しているそうです。
▲「和食マナー教室」の冒頭では、料理長による器の解説も
▲「マナーは愛です」と優しい笑顔で語りかけてくれる岩下先生
講師として招かれているのは、マナー指導の大御所・岩下宣子(のりこ)先生。日ごろ気になっていていて今さら聞けなかった、和食をいただく際の常識や心得を丁寧に優しく解説してくれます。

さまざまな箸使いのタブーをはじめ、刺身の美味しく美しい食べ方、お椀の蓋の置き方、お吸い物をいただく儀礼、器の愛で方などを、実際に会席料理をいただきながら学べるのです。
教室には、食事の際に何かと役立つ懐紙も用意。汁がたれそうなものを食べるとき、手をそのまま口元に添える「手皿」をついついしがちですがこれはNG。こんなとき、受け皿として懐紙を使えば品よくいただくことができるそうです。
▲美しい箸の使い方、取り方、タブーとされる迷い箸や逆さ箸など、気さくで楽しいトークを通じ、優しく教えてくれる先生
和室での立ち居振る舞いや座布団の座り方なども目からウロコ。接待などの席で役立つためか、男性の受講者やリピーターの方も多いのだそうです。

立ち寄りスポットとしても人気の
菓子舗は、夕暮れ時からバーに変身

料亭と同じ建物内には、蔵を改装した「日影茶屋」菓子舗が。こちらも人気と聞き、食事の帰りに立ち寄ってみました。
▲料亭とは入口が異なる「菓子舗 日影茶屋 葉山本店」
古くからある蔵を改装した店内は、高い天井に梁が張りめぐらされ、しっとりした風情が。人気の「日影大福」のほかお土産に購入したい銘菓を目当てに、次から次へと人々が訪れていました。
大福の両面を天焼し「ひかげ」と焼き印された日影大福(1個160円・税別※消費期限:当日限り)は、甘さ控えめな北海道産の小豆を柔らかな餅生地で包んだ焼大福。使用されている北海道産の豊祝(ほうしゅく)小豆は、他の北海道小豆と比べ大粒であるのが特徴。餅粉は滋賀・羽二重餅粉が主原料です。
「葉山煎餅」(写真右/1,000円・税別)と、蕨生姜・黒豆羹・葉山夏柑葛餅の3種詰め合わせ(写真左/1,000円・税別)も手土産におすすめ。さくさくと風味豊かな煎餅も、冷やしておいしい水菓子も、どちらも美味しいと評判です。
そして日が暮れると同時に、菓子舗は大人が集うバー「久楽(くら)」へと趣を変えます。日本酒やワインを楽しむもよし、軽く食事をしてもよし。もちろん会席料理を堪能した後に、さらにここでまったり過ごすのも一興です。
葉山の名店で味わう会席料理は、まさに和の美と技の結晶。海に遊びに来た帰りに気軽に立ち寄ってみれば、知っているようで知らなかった伝統文化や四季折々の風情に気づくことでしょう。 日本人で良かった…そんな気持ちになれる場所がここにあります。
ゴトウヤスコ

ゴトウヤスコ

ホテル、レストラン、神社、婚礼、旅、食、暦&歳時記、ものづくりなどの広告コピー、雑誌記事、インタビュー記事などを多数執筆し、言葉で人と人をつなぎ、心に響くものごとを伝える。旅は、基本一人旅好き。温泉、パワースポット、絶景、おいしいものがあるところなら、好奇心がおもむくままどこへでも。得意技は、手土産&グルメハンティング。最近は伝統.芸能、日本刀、蓄音機など和文化への興味を深堀中。読書会なども開催。(制作会社CLINK:クリンク)

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