ニッポンの洋館の最高峰「迎賓館赤坂離宮」にうっとり

2016.11.10 更新

JR四ツ谷駅を出て南に歩くと、壮麗な門と広い庭が見える。いわゆる赤坂の迎賓館である。外国の皇族や政治家を迎えるためのこの施設が、通年の一般公開を始めたことで大きな話題を呼んでいる。豪華絢爛たる本館及び主庭、前庭を見学してきた。

▲本館の正面外観。線対称が美しい

一般公開は10時からだが、9時半に正門の前に着くと、すでに「本館及び主庭」の見学に向かう人たちが足早に歩いている。入口は正門から右にまわって西門である。

予約をしなくても見学することはできるが、そのかわり行列に並ぶことを覚悟しなければならない(この日は10時前で100人ほどが並んでいた。10~20分ほど待ったのではなかろうか)。

事前に申し込みをして「参観証」を入手している人は優先的に入ることができる。料金は当日受付でも事前申し込みでも1,000円(税込)だ。

なお、迎賓館は賓客の接遇に使われるため、急遽接遇を行う場合は予定されていた
一般公開が中止になることがある。訪れる前には必ず公開状況を確認しよう。
▲正門。これは開門後の様子

見学できるのは「本館及び主庭」「前庭」「和風別館」の3つ

迎賓館の一般公開はもともと夏に限られていたが、2016年4月から通年で公開されるようになった。これは観光立国をめざす政府の方針に合わせて、海外の人に日本の遺産をもっと見ていただこうという趣旨からであるという。

ちなみに一般公開は3つの範囲にわかれていて、「本館及び主庭」のほか、「前庭」「和風別館」を見ることができる。

「前庭」は事前の申し込みは不要で、正門から無料で入場可能。
「和風別館」は事前の申し込みが必要で、料金は1,500円(税込)。1日6回各20名と定員が少なく、先着順ですぐに締め切られてしまうので、はやめに申し込みをしたほうがいい。公開は約45分のガイドツアー形式で行なわれる。予約時間の前後に「本館及び主庭」も見学することができる。
▲正門の内側から本館を眺める

「赤坂離宮」から「迎賓館」へ

迎賓館の立っている土地は、江戸時代には紀州徳川家の屋敷があった。明治になって皇室の所有となり、皇太子(のちの大正天皇)の住まいとして明治42(1909)年に東宮御所(赤坂離宮)が建てられた。(「東宮」とは皇太子の住まいをさす言葉)

戦後になって土地と建物は皇室から国に移管されて、国立国会図書館、東京オリンピック委員会、法務庁などさまざまな組織に使用される。

やがて日本が国際社会に復帰すると、外国からの賓客を迎える施設が求められるようになり、昭和42(1967)年に東宮御所を迎賓館にすることが閣議決定された。建築家・村野藤吾の統括のもと、さまざまな改修が行なわれたのち、昭和49(1974)年に迎賓館が完成した。和風別館はこのときに新設された。

正式名称が「迎賓館赤坂離宮」というのには、こういった経緯がある。現在は内閣府が管轄している。
▲和風別館。設計は谷口吉郎。今回は定員締め切りのため見学できなかった
▲和風別館のロビー

日本の宮廷建築の第一人者、片山東熊が指揮

この日は特別に迎賓館の職員の方に解説をしていただいた。
通常の参観ルートは本館、主庭、前庭の順だが、最初に前庭から本館の外観を見学した。カメラにおさまりきらないほどの左右の広がりにまず圧倒される。
▲本館正面の中央部分
建築を統括したのは宮内省技師の片山東熊(とうくま)である。工部大学校造家学科(のちの東大工学部)でジョサイア・コンドルに学び、辰野金吾(東京駅の設計で有名)らとともに第1回生として卒業した。片山はコンドルが設計した有栖川宮邸の建築を手伝い、以後宮廷建築を得意とする。奈良と京都の国立博物館や沼津御用邸が代表作だ。

装飾にも目を奪われる。
正面中央の上部には一対の武士像が鎮座している。
左は口をあけ、右は口を閉じている。これは「阿吽」の形をとっているという。
▲「あっ」と口を開く武士像

その左右には天球儀と霊鳥の装飾がある。片山はなんどか欧米に出張して建築について学んでいるが、この装飾はアメリカの建築家ブルース・プライスのアドバイスで作ったものといわれている。「鎖国がとけてからまだ間もない日本が世界にはばたいていけるように」という願いが込められているそうだ。
▲天球儀と霊鳥

武士像の下の2階部分の壁にも注目だ。
左には楽器や楽譜、絵の具や絵筆など芸術の繁栄を願うレリーフが、右には農作物や農機具、工具など農工業の発展を願うレリーフが飾られている。
▲農工業の発展を願う右のレリーフ

正面玄関の鉄の扉はフランスのシュワルツ・ミューラー社から購入したもの。扉には桐の葉の紋章がついている。菊紋はよく知られているが、桐紋は初耳だった。3枚の桐の葉の上に花が左から5枚、7枚、5枚とついている。これを「五七の桐」といい、皇室の象徴であり、日本政府の紋章にも使われているそうだ。
▲正面玄関の「五七の桐」の紋章

建物の左右(東西)の玄関には、鉄骨とガラスの庇がついている。これもブルース・プライスのアドバイスといわれ、流れるような曲線のアール・ヌーボー調になっている。ちなみに左(東)の玄関は皇太子専用で、右(西)の玄関は皇太子妃専用。正面玄関はお客さまを迎えるためのものである。
▲西の玄関

迎賓館赤坂離宮の建築様式は一般的にネオ・バロック様式といわれる。
ネオ・バロック様式は豪華壮麗で、権威を誇示することができるものとして19世紀後半のヨーロッパで流行していた。しかし和の意匠も多くほどこされ、そう単純ではない。

ベルサイユ宮殿を模したというのは間違いないが、近年ベルサイユ宮殿の関係者が来たときに「単なる真似ではないオリジナリティのあるものだ」と感心していたそうだ。
▲花崗岩でおおわれた重厚な造り

外壁は茨城県の加波山産と相模原産の花崗岩でおおわれている。石は青山墓地の南の練兵場に集められ、関東の石工150人、関西の石工150人が手彫りで加工した。当時は関西の石工のほうが技術的に上だったらしい。気をつかって人数を揃えたにもかかわらず、両者のケンカが絶えなかったというおもしろい話も伝わっている。

完成して100年目の2009年には明治以降の建築物としては初めて国宝に指定された。

意匠は多種多彩。ナポレオンからジーパン青年まで

本館の西側から内部に入り、階段で2階に上がった(1階は非公開。宿泊室などがある)。順路に沿って2階の部屋を見ていく。

最初は「彩鸞(さいらん)の間」。おもに晩餐会の控室として使用されてきた。
部屋の東西に鸞という鳥が翼を広げているのが部屋の名の由来だ。鸞は中国における想像の鳥で、最高位の鳳凰につぐ鳥とされる。
▲「彩鸞の間」
▲「彩鸞の間」の大鏡の上の鸞

天井には楕円形のアーチの飾りがあり、テントを模している。宮殿にテントとは奇妙な感じがするが、これはナポレオンの軍事遠征をモチーフにしていて、ナポレオン治世下(19世紀初頭)に流行したアンピール様式の建築ではめずらしくないという。スフィンクスの装飾などもあり、ナポレオンのエジプト遠征を想起させる。
▲天井のテント風アーチ飾り

次に「花鳥の間」である。
「饗宴の間」とも呼ばれ、晩餐会の会場として使用されてきた。
欄間のタペストリーには狩猟の様子が描かれていて、天井の油絵と壁の七宝(しっぽう)には鳥と花が描かれている。つまり狩った獲物をここで食べましょう、というストーリーになっている。

キンキラで派手な「彩鸞の間」に比べて、「花鳥の間」は色合いがシックである。たしかにここなら落ち着いて食事ができそうだ(招かれることはなさそうだが……)。
▲「花鳥の間」。天井には獲物の鳥の絵
▲七宝の額。下絵は渡辺省亭(せいてい)、七宝制作は涛川惣助(なみかわそうすけ)

そして大ホール(大広間)と「朝日の間」である。
お客として正面玄関から入った場合、階段を上がって最初に足を踏み入れるのが大ホールであり、そのまままっすぐ進むと「朝日の間」に入る。

さて、その「朝日の間」への入口の左側に、ジーパンをはいた青年が描かれた油絵がかかっていたので、わが目を疑った。題を「絵画」といい、洋画家の小磯良平が描いたものだ。もちろん昭和49年の改修時に飾られたもので、左側には「音楽」の絵もかかっている。こちらも同じような青年たちが楽器を練習している油絵だ。
▲小磯良平の「絵画」

「朝日の間」は、おもにサロン(客間、応接室)として使用されている。天井の油絵には、白馬の馬車に乗って朝日を浴びる女神が描かれている。
▲「朝日の間」
▲「朝日の間」の天井画
▲日本の甲冑とライオンというおもしろい組み合わせ

最後は「羽衣の間」。かつては「舞踏室」として使用され、北側の中2階にはオーケストラ・ボックスも設置されている。現在は雨天時の歓迎式典などのレセプションに用いられている。謡曲「羽衣」のストーリーをもとにフランスの画家が天井の油画を描いた。舞踏室だっただけに壁には楽器や楽譜のレリーフが多い。
▲「羽衣の間」
▲レースのカーテンの向こう側がオーケストラ・ボックス

前庭でコーヒーでも飲みながら余韻にひたりたい

外に出て本館の裏(南側)にまわると、そこが主庭である。館内は撮影禁止だが、主庭と前庭は撮影ができるので、みな思う存分記念撮影している。やはり大噴水越しに本館を撮るのが美しい。
▲主庭の大噴水

私は職員の方に解説していただいたが、入口で音声ガイドを借りることができるし(200円・税込)、各部屋ではガイドスタッフが解説してくれる。ただ漠然と部屋を眺めるよりも、しっかり解説を聞いて、ディテールに目を止めることをおすすめしたい。とにかく明治以降の最高級が揃っているのだから。

別棟の事務室ではガイドブックが販売されているので、詳しく知りたい方は買って帰るとよいと思う。
▲ガイドブック「国宝 迎賓館赤坂離宮―沿革と解説―」(茜出版、1,000円・税込)

本館の内部はそれなりに混んでいるので、ゆっくり見るというわけにはいかないが、前庭は広々としていてくつろいだ気分になれる。移動販売のお店が日替わりで出ていて、イスとテーブルも用意されているので、ドリンクでも買ってガイドブックをパラパラめくりながら、ゆっくりと余韻にひたってはいかがだろうか。
▲前庭でコーヒーブレイク
大塚真

大塚真

編集者・ライター。出版社兼編集プロダクションの株式会社デコに所属。近年編集した本は、服部文祥著『アーバンサバイバル入門』、『加藤嶺夫写真全集 昭和の東京』シリーズの「4江東区」「5中央区」(ともにデコ)ほか。ライターとしては『BE-PAL』(小学館)などで執筆。

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