一部の人に理解される味?「サリサリカリー」のスパイステクニックはカレー研究家も驚くレベルだった

2016.12.11

たった1品のカレーで客が引きも切らない繁盛店が横浜にある。しかも、カレー1品のみの経営でマイホームまで手に入れたというジャパンドリーム付きだ。パキスタン人直伝カレーは、通常のスパイス使いとは一線を画すため、カレー通にとっても未体験の味だ。この究極カレーのスゴさを探るべし!(byカレー調査隊隊長・井上岳久)

どうも、こんにちは!
カレーの第一人者で、カレー大學の学長・井上岳久先生と、一番弟子りかです。私たち2人は「カレー調査隊」として、ぐるたび編集部に届いた耳寄りカレー情報をもとに全国津々浦々を旅しています。

今回は、神奈川県横浜市にあるビジュアルもスパイス使いも珍しいカレー店のうわさを調査してきました。

心つかまれる不思議なカレー「サリサリカリー」

りか「ぐるたび編集部宛てに、こんな調査依頼のメールが届きました」

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芸能人にもファンが多い少し変わったカレー店が横浜にあるのですが、どうやって作っているのか気になります。また最近になって、120mほどしか離れていないすぐ近くの場所に移転したそうです。作り方と移転理由を調査してきてください!
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井上先生「ほ~う、カレーはおいしいのかな?調査しに行ってみよう」

りか「はい!少し変わったカレー店とは気になりますね」
ということで、やってきたのは東急東横線白楽駅から徒歩7分の「サリサリカリー」。まず目に飛び込んできたのは、何やら不思議な看板です。

井上先生「“一部の人に理解される 昔人の知恵 1000年のカリー”だって。なんだか怪しい看板だな」

りか「“好奇心から始まることもある。”という看板も怪しいです。肝心の店名は書かれていませんが…。ただ、お祝いのお花が飾られているので、移転したのは間違いないようですね!」
勇気を出して入店してみたら、意外にも店内は洋風の落ち着いた雰囲気です。さっそく、このお店唯一のメニュー「スリーコースセット」をオーダー!
▲店名にもなっているサリサリカリーとサラダ、チャイの3点がセットになった「スリーコースセット」(税込1,000円)

りか「なんですか、このルウは…!?こんな風に肉がほぐされているカレー見たことがありません。しかも骨までトッピングされてあります。店頭の看板といい、カレーのビジュアルといい、ちょっと不安になりますね」

井上先生「チキンをほぐしてから食べるカレーには、こういったビジュアルもあるけれど、最初からこの状態で提供されるとは珍しい。ごはんはジャポニカ米のようだね。さっそく食べてみよう」
井上先生&りか「いただきます!」
井上先生「ほ~。塩、ショウガ、ニンニクが効いていて、意外にもスパイスの辛さはないね。これはカレーを食べるというよりは、肉料理を食べる感覚のほうが近いかもしれない」
りか「お、おいしい!塩気が強いので、これをつまみにビールが飲めそうです。お酒を飲んだあとにカレーでシメることはあっても、カレーをつまみにビールを飲みたいだなんて初めて思いましたよ!」
りか「でも…あれ?ひと口目は、初めて食べる味だと思ったのですが、3口目あたりからだんだん、どこかで食べたことがあるような懐かしい味に思えてきました。カレーとは違う、別の鶏肉料理の味だと思うのですが…なんだか不思議な感覚です」
井上先生「その気持ちわかるなぁ。お!じっくり煮込まれた鶏肉は、骨まで食べられるよ。よほど長時間煮込んでいる証拠だな。骨も一緒に煮込んだおかげで、鶏肉のうまみがより抽出されている」

りか「え、骨って食べられるんですか!?というか、骨までかじりついてカレーを研究するとは…さすが先生です!」
カレーを食べたあとは、ジンジャーの香りが漂うチャイでシメます。最初は怪しげな看板に入店するのも不安でしたが、食後は優雅な気持ちになりました。もしや私、サリサリカリーに心つかまれている…!?

スパイスは体のために入れるだけ!サリサリカリーの作り方とは?

謎に包まれているサリサリカリー。このカレーはどうやって作っているのでしょうか?推定年齢60代、南アジアを旅していそうな風貌の男性マスター(残念ながら顔出しNG)に聞いてみましょう!

マスター「玉ねぎとニンニクを6時間かけて煮込んでから、鶏もも肉とトマト、ショウガを加えて、さらに9時間煮込むの。最後に、塩で味付けして完成。パキスタン人の友だちに教わった作り方で、現地でよく食べられるカレーのスタイルなのかどうかはわからないけれど、おもてなし料理と聞いたよ」

井上先生「え、それだけですか?水やスパイスは使わないのでしょうか?」

マスター「うん、水は使わず野菜だけで水分を出しているよ。スパイスはシナモン、ブラックペッパー、コリアンダー、カルダモン、そしてビッグカルダモンなどを使っているけど、それは完成して火を止めたあとに、投入して混ぜるだけ。味付けのためではなく体のためにね。スパイスって漢方のことだから」
▲「ビッグカルダモン」の大きさは約2cmで、よく使われる緑色のカルダモンとは、別の種類。正露丸のような香りがする

井上先生「初めて聞くスパイスの使い方だな…」

りか「まさか、先生の知らないスパイスの使い方があったとは!ふつうはどうやってスパイスを使うのでしょうか?」
井上先生「一般的には、鍋に油をひいてからホールスパイスを炒めたり、玉ねぎなどの具材を炒めてからパウダースパイスを加えたりするね。完成してから、最後に火を止めて投入することはないな~。一般的なスパイスの使い方も知らないようじゃ、一番弟子を名乗っちゃいけないよ!勉強不足のりかさんには、僕の書いたカレーレシピ本の全メニューを作る課題を与えよう」

りか「し、しまった~、一番弟子としたことが!あ、でも先生。ビッグカルダモンを使うのは珍しいですよね(ドヤッ」
井上先生「そう、日本では珍しいスパイスだよ。よく勉強していたね!でもだからといって、課題はチャラにならないぞ」

りか「ひぃ~!」

移転理由は、サリサリカリーファンからの要望だった!

マスターによれば、1990年代半ばに仕事でパキスタンに住んでいた頃、サリサリカリーの元となるカレーに出会ったそうです。帰国後の1999年、人生いろいろあって、資金20万円で北海道に「カラバトカリー」というカレー店をオープン。このときにパキスタン人の友人に来日してもらい、カレーの作り方を教わったといいます。

オープン後、徐々に口コミが広まって、開業7年目には北海道に家まで建ててしまったのだとか!ちなみにマスターは「カラバトカリー」をオープンするまで料理をしたことがなく、玉ねぎを触ったことすらなかったそう。食事のメニューがサリサリカリー1種類しかないのは、他の料理の作り方を知らないし、覚えるのが面倒だからだそうです(笑)。
▲「言葉では伝えられない愛がある」「恋は落ちるもの愛は育むもの」などの名言が印字された紙ナフキン

そして2007年、再び人生いろいろあって、横浜に「サリサリカリー」をオープン(なんだかよくわからないけれど、すごい!)。ちなみに「サリサリ」とはマスターの作った造語で、女性の名前を意味しているんですって!

ところで、なぜ以前の店舗から徒歩2分という近場に最近になって移転したのでしょうか。

マスター「この場所には、100年以上続いた果物屋さんがあったんだけど、つい最近閉店してしまって。そのときに果物屋さんの店主から、『この土地を借りてほしい』と頼まれたんだ。借り手は他にもいるだろうから、最初は断ったんだけど『ぜひともサリサリカリーさんに借りてほしい!』と、またお願いされて。どうやら、サリサリカリーのファンだったらしいんだ。それならば、と」
▲店内には、果物屋さんの名残が見受けられる

りか「移転にそんな理由があったとは。つまり場所を貸したくなるほど、お客さんに愛されていたってことですよね?」

マスター「ありがたいことに、お客さんの7割はリピーターだよ」

井上先生「(小声で)りかさん、周りのお客さんを見渡してみて。学生からご年配まで幅広い年代の方たちがいるよ。辛さ控えめなカレーだから、どんな方でも食べられるんだね」

りか「言われてみれば…!」

マスターは、食べ終わったお客さんに「ありがとね、ありがとね、また来てね」と何度もお礼を言っていました。愛嬌ある人柄も、愛され続けている理由の一つかもしれません。

では井上先生、カレーの評価をお願いします。
▲井上先生「サリサリカリーのカレーチャートはこちら!」
井上先生「辛さは控えめで、コクのあるカレー。15時間以上煮込むなんて、他店ではなかなかできないオペレーションだよ。なにより、スパイスの使い方がおもしろいね!」

りか「スパイステクニックについて勉強になりました。移転理由もいい話だったし、マスターの人柄も魅力的で、調査しに来てよかったです!」
▲最後は、スタッフさんたちとパシャリ!

横浜に来たら、ぜひ「サリサリカリー」を食べましょう!
ご協力ありがとうございました。

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。

名久井梨香

名久井梨香

吉祥寺在住のフリーライター。カレー大學を卒業し、現在カレー大学院で猛勉強中(じつは井上先生の座を狙っている)。カレーパン伝道師。趣味はカレーとJリーグ。

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