高原の小さなホテル「鷲が峰ひゅって」で極上フレンチを味わう旅

2016.10.20 更新

長野県のほぼ中央、諏訪湖の北東に位置し、八島ヶ原湿原が広がる霧ヶ峰高原。ここに、全5室の小さなホテルのような山小舎(やまごや)「鷲が峰ひゅって」があります。ランプの灯る食堂で上質なフランス料理のディナーを味わうことができるこちらの山小舎。特別感あふれる隠れ家のような空間を訪ねました。

木の温もりあふれるこだわりの空間に癒されて

「鷲が峰ひゅって」が建つのは、霧ヶ峰高原のドライブルートとして人気が高いビーナスラインの近く。標高1,656mですが、車でアクセスすることができます。小さな看板を目印に進むと、小高い丘の上に木造の建物が見えてきました。
▲周囲に遮るものがない高原に建つ「鷲が峰ひゅって」
▲手作りの看板。道路沿いにも目印として同じものがあります
▲壁には特徴的な魚の骨のオブジェ

落ち着いた雰囲気の建物に入ると、薪ストーブが備えられた木の温もり溢れる空間が広がります。
▲古時計の音が響き、心が和む落ち着いた空間。趣のある木のベンチや味わい深いテーブルなど、どこを切り取っても長く使い込まれた独特の魅力を感じます
▲迎えてくれたのは、オーナーシェフの田口信(まこと)さん夫妻。出身は東京という田口さんですが、山登り好きが高じて、この地で「鷲が峰ひゅって」を営むことになったそう

昭和34(1959)年に建てられたこの建物は、もとは麓の下諏訪町にある温泉旅館の別館でした。昭和57(1982)年にこの建物と出合った田口さんは、建物を買い取ってこの場所へ移住。平日は都内のフランス料理の名店で修業しながら、週末だけの山小舎をオープン。7年間の修業を終えたあとは定住し、自分で少しずつ建物を改修しながら、理想の山小舎を作り上げてきました。
▲広い窓に面し、大きな1枚板のテーブルがしつらえられた食堂
▲壁に備えられた大きな本棚には山関係の本がずらり

木造2階建ての建物は、1階がリビングや食堂、浴室、共有の洗面所やトイレなど。2階が客室になっています。
空間は至るところにこだわりを感じますが、そのひとつが、眺めのよい浴室です。田口さん曰く、ちょうど山並みに夕日が沈む頃に入浴した人はなかなか出てこなくなってしまうのだとか。
▲広い窓がある浴室。水は黒曜石の層を流れる地下水を井戸でくみ上げて使っています。肌に柔らかさを感じ、遠赤外線効果で体が芯から温まると言われています

2階の客室はすべて和室で、どの部屋からも霧ヶ峰の大自然や北アルプスなどを眺めることができます。
▲南側の3つの客室からは「鷲が峰ひゅって」の庭と高原の風景を見渡せます
▲布団は自分で敷くスタイルのシンプルな空間で、テレビはなく落ちついた雰囲気

ランプが灯る食堂でフレンチのコースに舌鼓

自慢のディナーは18時または19時から。チェックイン時にいずれかの時間を選びます。食堂に行くとまず、北軽井沢在住の廃材アーティスト・高橋耕也(こうや)さんが制作したという、テーブルの真ん中のオブジェが目を引きます。ディナーはこの14人がけの長テーブルで、宿泊客が一緒にいただきます。
▲女性の一人客が多いことから、周囲と適度な距離感を保ち安心して食事を楽しんでもらうために、話題にできるものがあればとこのオブジェを置いたそう

ちなみに、この辺りは昭和50年代まで電気が通っておらず、ランプの明かりで生活をしていました。田口さんはそうしたランプの光に惹かれ、電気が開通したあとも照明はランプを中心にして、明るさを抑えています。
▲テーブルにはディナーのセッティングが用意されています
▲小さな黒板に書かれているのは本日のメニュー

さて、いよいよディナーをいただきます。素材の魅力を引き出すことを大切にした田口さんの料理は「古いフランス料理と新しい『ヌーヴェルキュイジーヌ』のちょうど中間くらい」だそうで、コース形式で提供されます。
▲前菜はたっぷりのイタリア産生ハム
▲スープはトマトを使ったもの。酸味とクリームのコクがよく合います

この日のメイン料理は、柔らかい舌ビラメとズッキーニやパプリカといった野菜がタワー状に重なった「舌ビラメのマスタードソース」。酸味のあるソースを絡めていただくと、一口食べるごとにさまざまな食材の味わいが広がります。奥様のサービスも丁寧で心地よく、ついついワインが進みます。
▲食べるのがもったいないほど美しい「舌ビラメのマスタードソース」
▲メイン料理が酸味のあるソースだったので、デザートは濃厚なショコラを合わせて

新鮮な素材を使った料理をできたての温かさで食卓に運び、ゆっくりと会話を楽しみながら食事をすることができるように、料理の提供時間やワインを注ぐタイミング、会話の運び方など隅々に細やかな配慮が感じられました。
▲食後は余韻に浸りながら、本を読んだり、リビングでボードゲームをしたりと思い思いの時間を。木製オセロは「鷲が峰ひゅって」オリジナルのもの
▲翌朝の朝食。自家製の焼きたてパンもまた本当においしいものでした

天然記念物・八島ヶ原湿原でガイドウォーク

翌日は、宿から歩いて5分ほどの八島ヶ原湿原で毎日4回開催されるインタープリター(自然解説員)のガイドウォークに参加しました。一帯の自然をより身近に体験できるように、700mの木道を1時間かけて歩きながらじっくりと四季折々の自然を観察するものです。
▲学術的にも貴重な高層湿原であることから国の天然記念物に指定されている八島ヶ原湿原
▲ガイドウォークは少人数制。誰でも気軽に参加できます
▲受付は、八島ヶ原湿原の入口に建つ「八島ビジターセンター」。予約は不要ですが、事前に問い合わせた方が確実です

この日、案内してくれたのは、ベテランのインタープリター・増田祐子さん。説明によると、ここは1万2000年前、湖だったそう。通常、植物は冬に枯れて分解されてしまいますが、八島ヶ原湿原は寒冷な地にあり、水質が酸性で酸素濃度も低いことから植物の分解速度が遅く、毎年1mmずつ未分解のもの(泥炭)がゆっくり堆積し、「高層湿原」という特別な場所を形成してきたそうです。
▲「今も日々変化しているので、今日見た景色は今日しか見られないものなんですよ」と説明してくれました
▲八島ヶ原湿原は400種もの花が咲く亜高山植物の宝庫。取材をした9月上旬はノハラアザミが多く咲いていました

ガイドウォークにより植物や虫たちの自然での営みを知ることができ、より深く楽しむことができました。
▲夏とはまた違った趣を堪能できる秋の八島ヶ原湿原

なお、ビジターセンターの営業は11月中旬まで。それ以降も、木道エリアは自由に入ることができますが、自然保護のため湿原内は入ることができません。
また、ビーナスラインも麓の下諏訪町からのアクセスは閉鎖となるため、やや南下した茅野市から蓼科高原や白樺湖などを経ての到着となります(八島ヶ原湿原より先は通行止め)。
▲冬の八島ヶ原湿原は訪れる人も少なく、静かな散策を楽しめ、雪上に残る動物の足跡なども垣間見ることができます(木道は自由に散策できるため、「鷲が峰ひゅって」では冬にはスノーシューの貸し出しも行っています)

「鷲が峰ひゅって」の特製インドカレーもまた絶品

「鷲が峰ひゅって」では、ランチに手間ひまかけられた「特製インドカレー」を提供しています(日帰り客でも前日の正午までに予約をすればいただくことができます)。そこで、最後に再び「鷲が峰ひゅって」に戻ってランチを。スパイシーすぎないのにインパクトがあり、さらさらとしていてまろやかな味わいでした。
▲具材はキチンのみ。ナイフとスプーンが添えられた「特製インドカレー」(税込1,404円、宿泊者以外は税込1,620円)

豊かな気持ちに満たされる宿と食事とガイドウォーク。思い出深い旅となりました。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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