醤油発祥の地・湯浅。情緒あふれる町並みを散策!

2016.12.08 更新

熊野三山へと続く熊野古道の宿場町として、古くから栄えた和歌山県の湯浅町。醤油発祥の地としても有名なこの町では、江戸~明治時代の風情を感じさせる建物が軒を連ね、趣のある町並みを歩きながら、歴史に思いを馳せることができます。

湯浅町は、紀伊半島西部にある広さ20平方キロメートルほどの町。入江の奥に位置するこの町は、海路の便が良かったこともあり、古くから物流の中心地として栄えてきたほか、1800年代初頭にはなんと92軒もの醤油屋が営業していたという醤油醸造の町としても有名です。

ここには、平成18年に文部科学省から「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されたエリアがあり、いまでも江戸~明治時代の面影を残したままになっています。近年では、醤油醸造の歴史に触れ、時代を感じられるその町並みが、観光スポットとしても注目されています。

歴史ある町並みを散策!

▲「大仙堀(だいせんぼり)」からの眺め
というわけで、「湯浅伝統的建造物群保存地区」へとやってきました。
大仙堀という川から繋がる掘割沿いに醤油醸造蔵らしき古い建物がずらりと並んでいます。
大仙堀沿いの通りから一本内側に入った「北町通り」がこの地区の散策コースのメインストリート。歴史を感じさせる家々がズラリと並んでいます。
通りには、さすが醤油の町と思わせるような光景も。
ここでは、「湯浅ボランタリーガイド協会」のボランティアの語り部さんに、町や建物の歴史などを案内していただくことができます(要予約。協力金として、個人の場合300円/1人、バス団体の場合3,000円/1台・ともに税込)。そこで、事前に予約しておいた語り部さんとの待ち合わせ地点へと向かいました。
▲語り部の半邊宗五(はんべそうご)さん
「よろしくお願いします」
「北の町老人憩いの家」前で出迎えてくれたのは本日の語り部・半邊宗五さん。
半邊さんは湯浅伝統地区保存協議会の副会長もされている方で、「この町並みの良さをたくさんの人たちに伝えたい」と2006年から語り部の活動を開始。現在も湯浅町に住んでいる、まさに「湯浅博士」です。
「このあたりの建物は、江戸時代や明治時代のものがそのまま残っているんです。もちろん中には、改修したり建て替えられたりしたものもありますけどね。そして、今でもたくさんの人がその家で暮らし、商売を続けているんです」

まずは、町の歴史や概要をていねいに説明してくれる半邊さん。
歴史ある町並みを保存しながら、今もなお現役で人びとが暮らす町としても成り立っているとは驚きです。
いよいよ、北町通り沿いに町並み散策へと出発。
立ち並ぶ建物一つひとつ順番に詳しく説明してくれる半邊さん。
「これは、何年頃に建てられたもので、この時代の建物の特長は…」などと思わず「へぇ」と感嘆してしまう情報を、次々と小気味いいテンポで話してくれます。
▲江戸時代創業の麹屋(建物は明治11〈1878〉年に建てられたもの)
「鎌倉時代、この地域に伝来したのが『金山寺味噌(きんざんじみそ)』。いわゆる豆味噌です。それ以来この地域では醗酵技術が独自に発展していって、その過程で醤油が生まれ、江戸時代には地域を代表する産業になっていったわけです」

なるほど。勉強になります。
▲せいろミュージアム
「これ、いろんな所にあるでしょ。昔、蒸し料理に使われていた調理器具『せいろ』を利用しているんで『せいろミュージアム』って呼んでいるんですわ」

家の外壁、軒下に格子窓のようにつけられているショーケース。あたりを見渡すと通り沿いの家の至る所に同様のものが。 

「町民の方に協力してもらって、中身はそれぞれの家に残っているものを自由に展示してもらっているんです」

年代を感じさせる小さな絵画や、江戸時代の医者が使っていた小道具など、展示物は実にさまざま。
まるで町全体がひとつの博物館のよう。さまざまな展示を楽しみながら町を散策できる粋な演出です。
通りの家はどれも、歴史を感じる風情があふれるものばかり。現代の家ではあまり見られない、格子窓や行灯などが気分を盛り上げてくれます。
▲地域に縁のある人の絵画や写真が展示されている「北町ふれあいギャラリー」(開館時間9:00~17:00、休館日:水曜、入館無料)
▲毎年春に開催される「ゆあさ行灯アート展」に出品された行灯が展示されている「あんどんミュージアム」(開館時間8:00~18:00、休館日:不定休、入館無料)
「今、暮らしている方の生活を守りながら観光客にももっといろいろ楽しんでもらえるようにと、空き家の有効活用もみんなで相談しながらいろいろ検討しているんですよ」と半邊さん。

通りには、ギャラリーや茶店などもあり、町並みや「せいろミュージアム」以外にも見どころいっぱい。どこも観光客が気軽にふらっと立ち寄れるところばかりなのもうれしいポイントです。
▲ひと休みしながら、町民の方から町のお話を聞くことができるスポット「湯浅まちなみ交流館」(開館時間9:30~16:30、休館日:水・木曜、入館無料)

老舗醤油醸造蔵「角長」で、醤油づくりの奥深さに触れる

さて、通りを進んでいると…

「ここから奥、ずらっと並んでいるのが角長(かどちょう)さんのお店と蔵です。天保12(1841)年の創業以来、ここで醤油づくりを続けている老舗なんですよ」と半邊さん。
時代の重みがにじみ出ている看板の「天保十二年 角長」の文字。建物内に入るのを一瞬ためらってしまうほどの、風格と威厳が溢れ出ています。
「どうぞ、どうぞ。自由に見ていってください。」
まずお話をうかがったのは、6代目 加納誠さん。

「江戸時代、紀州徳川藩の保護を受け、92軒もあったとされるこの町の醤油屋は、醤油づくりの技術が全国に広まったことや、大量生産体制に取り残されたことなど、さまざまな理由から徐々に数を減らしていきました。今では普通、醤油といえば大手食品メーカーの大量生産品が一般的でしょ。それでも、うちは頑なに手作りにこだわり、昔の製法を守り続けているんです」
▲お土産にもオススメの「濁り醤(にごりびしお)」180ml 640円(税込)
添加物を一切使わない、完全手作りの醤油。日本人の和食離れなど、なかなかきびしい醤油業界にありながら、角長の醤油は、長年の経験と実績によって、味、そして安全・安心を追求する人びとに愛され続けています。さらに最近は日本だけでなくパリや香港などのレストランや食料品店からも引き合いがあるんだとか。

今回は特別に実際の製造蔵内を見学させていただくことに。
案内してくださったのは、誠さんの息子で7代目の加納恒儀(つねのり)さん。
少しずつ補修をしながら、江戸時代からずっと使い続けているという蔵へと進みます。
▲江戸時代から使われ続けている角長の醤油蔵
「醤油づくりで大切なのは、何よりも酵母菌。酵母菌が活動しやすい環境づくりをするのが僕らの仕事なんです」と恒儀さん。

蔵の内部の天井や壁・梁、そして使われ続けている樽。これらに付いている蔵付きの酵母菌が角長の何よりの財産。
恒儀さんいわく、長年ここに住みついている酵母菌が角長の醤油の味に唯一無二の個性を生み出す、というのです。

「他の老舗の醤油蔵や味噌蔵なんかを見にいく機会があると、ついつい、蔵の屋根にカビがついているかどうかチェックしちゃうんです。それが、良い酵母菌が住みついている蔵かどうかの指標になりますから」
さすが、職人です。
▲角長7代目の加納恒儀さん
もちろん、良い醤油はそれだけではつくれません。気温などの状態を常にチェックしたり、醗酵を促すため、樽の中をこまめにかき回したり…。

また、驚いたのはその熟成年数。
「この樽は、4年。これは7年ぐらいかな」
しれっとした顔で語る恒儀さん。
深いコクのある濃口の溜り醤油が特長の角長。樽で熟成された「もろみ」と呼ばれる醤油のもとを絞ってつくられるのですが、角長の「もろみ」は最低でも4年以上熟成されるそう。

長い月日をかけて惜しまぬ手間暇、重労働がつくりだす角長の醤油。そのこだわりには感心しっぱなしでした。
▲一般公開されている角長の職人蔵
「今回は特別に蔵の中を見せてもらったみたいだけど、普通に行っても見ることはできないの?」
そんな声が聞こえてきそうですが、ご安心を。
角長では、観光に訪れる人たちのために、職人蔵と醤油資料館を一般公開しています。実際の製造風景とはいかないまでも、奥深い醤油づくりの世界を堪能することができるんです。
▲醤油資料館
かつて実際に醤油の仕込蔵として利用されていた建物内に、昔から醤油製造に使用されていたさまざまな器具が展示されている職人蔵(民具館)。そして、醤油づくりの歴史や作り方などが詳しく展示されている醤油資料館。資料館では専門の係の方が、くわしく解説もしてくれます。(平日は係員が不在の場合もありますので、事前にお問い合せください)

どちらも、角長、そして湯浅の醤油づくりに関する貴重な展示が目白押し。入場無料で見学できるので、ぜひ立ち寄ってみてください。

最後は銭湯跡歴史資料館「甚風呂」で、懐かしき日本に触れる

角長で、湯浅の醤油づくりの奥深さを堪能した後、語り部の半邊さんが、最後にもうひとつぜひ見ていってほしいスポットがあるとのこと。案内してくれたのが銭湯跡歴史資料館「甚風呂(じんぶろ)」です。
湯浅の町並みの特徴のひとつでもある迷路のように張り巡らされた小路を進むと、見えてきたのは、どこか和洋折衷感のある建物。

「甚風呂は、幕末から昭和の高度経済成長の時代まで、4代にわたりこの地で営まれてきた公衆浴場。建物は、正確な時期はわからないんですが、明治前期に建てられたものだろうといわれているんです」と半邊さん。

なるほど、どおりで和の建築でありながら、ハイカラな塀があるなど独特な雰囲気の建物です。
▲ひし形にくり抜かれた塀がおしゃれな甚風呂
▲昔なつかしい銭湯の姿を今に伝える浴場跡
この甚風呂、現在は資料館となっていて、当時の番台や浴場跡、焚場が見学できるほか、経営者の住まいであった主屋には、明治~昭和初期に使われていた古民具が展示されています。
手回し式の電話機から水を汲み上げる手押しポンプまで、ちょっと年配の方なら懐かしくなってしまいそうな昔の生活用品たち。
▲井戸の水を汲み上げる手押しポンプ
じっくり見ていくと、ここだけでもかなりの時間を楽しむことができます。
散策してみて感じたのは、町の肩肘張らない落ち着いた雰囲気と見どころの絶妙なバランス。
半邊さんたちのさまざまな工夫や努力により、観光スポットとしての見どころがたくさんあるこの「湯浅伝統的建築物群保存地区」ですが、実際に町民が今でも暮らしているためか、おしつけがましい観光地感もなく、ゆっくりと町を散策することができます。

この町並みで歴史と伝統を感じながら、時代とともに変わってきた人びとの暮らしに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
James

James

イギリス人と日本人とのクォーター。大学では工学部、情報システムを専攻したかと思えば、ミュージシャンとしてギタリスト、MC、DJとして活動。TVやラジオなどでも活躍。その後(株)アドビジョンにて、デザインやコピーライティングなどマルチに活躍。バックグラウンドを活かした独自の視点が人気のライター。

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