櫻正宗記念館「櫻宴」のポン酒鍋で灘の老舗の粋と歴史を味わう
常夜鍋や美酒鍋など酒を使った料理は日本酒好きにはおなじみであろう。私も、冬は簡単な鍋料理にキリリと冷えた純米酒か熱燗があればそれでいいと思っている神戸・灘の住民だが、最近、灘の酒蔵が供する「ポン酒鍋」なるメニューがあると耳にした。これは一度試してみなければなるまいと、師走のある日、出かけてみた。


「宮水」を発見した「正宗」銘柄の元祖、櫻正宗

──というようなウンチクはすべて、「櫻宴」の展示解説と支配人・下井田勝さんの話で知った。
「もともとは正宗を音読みした『せいしゅう』が『清酒』に通じるところから名付けられたそうです。縁起担ぎの語呂合わせですね。ところが、明治時代に商標を登録する時点で、すでに全国にいくつもの『何々正宗』があった。そこで、国花である桜一輪を配して『櫻正宗』としたと聞いています」と下井田さん。

樽、桶、櫂棒など伝統的な酒造りの道具。昔の酒瓶や酒樽や看板。「櫻正宗」の名や桜の花の絵をあしらった美しい骨董の酒器。館内のいたる所に飾られた展示品に、老舗蔵が積み重ねてきた歴史が息づいている。震災で倒壊した木造蔵の部材を活かして再建した建物には、和食ダイニングとカフェ、ショップもあり、ゆったりと時間を過ごせるようになっている。


「魚崎の駅からすぐという交通の便のよさと、近辺で本格的に料理が食べられる酒蔵は数少ないこともあり、多くの観光客の方々にご利用いただいています。最近では海外からのツアーも多く、関空から直接バスで来られたりもします。まずここで昼食を取ってから酒蔵めぐりに出かけられるようです」と下井田さん。

そう、ダイニングである、今回の目的は。「櫻宴」の名物料理となっている「ポン酒鍋~味くらべ」とはいかなるものか。さっそく味わってみた。
豊潤なだしから作られる2種類のスープで鍋を堪能

ポン酒鍋はその名の通り、スープに日本酒をふんだんに使った鍋料理である。「味くらべ」とあるように、プレーン・豆乳・ピリ辛・粕汁・胡麻&ラー油の5種類から2つの味を選べる。しばし悩んだ末、ピリ辛と粕汁にした。中国の火鍋にあるような陰陽の二色鍋に映える色の対照を目で楽しみたいのと、何といっても酒蔵ゆえ、酒粕を賞味せねばと。


まずは粕汁からいただく。田舎風の粕汁のような濃厚さはなく、さらりとして、ほんのり酒の香りが肉や野菜に絡むのがいい。熱してアルコール分は飛んでいるから、これで酔いが加速する心配はなし。あっさりして実に食べやすい。どの具材にも合うが、とりわけ大貝やイカ、椎茸がうまかった。


「櫻宴」がリニューアルした5年ほど前、「櫻正宗」の日本酒を活かした料理を作ろうと試行錯誤を重ねた。構想段階では他にも何種類かスープを作ったが、現在の5種類に落ち着いた。日本酒に合う鍋を追求した結果である。


鍋の締めに、雑炊かうどんか中華麺を選べるのも楽しいが、今回はスタンダードに雑炊をいただいた。ちなみに、一番人気のあるスープの組み合わせは、プレーンとピリ辛だそうだ。
「宴会の団体様だと、テーブルごとに違う味を選んで、少しずつ分けながら全種類食べられる方もおられます」と下井田さん。
わかる。これは何度か通ってコンプリートしたくなる。ポン酒鍋は一年中あるそうだから、近々来てみよう。

店を出る時、通路脇に「三杯屋」という暖簾をかけたカウンターのスペースがあるのに気づいた。下井田さんに訊くと、「ここではバーのように、ちょっとしたアテとお酒を楽しんでいただけます。櫻正宗のお酒が25種類揃っていて、すべて飲むごとに稀・朱稀(しゅまれ)・焼稀(やきまれ)など、うちの銘柄を冠した称号とオリジナル酒器を進呈します。ただし、あまり酔うとお酒の味がわからなくなるので、一日3杯までにさせていただいてます」とのこと。

「三杯屋」の壁に「ポン酒おでん」の張り紙があった。ポン酒鍋と同じく、高橋さんが取っただしで煮込んでいるらしい。これは食べに来ないといけない。ダイニングの前に立ち寄って鍋への気分を高めるか、鍋を堪能した後にもう一杯、いや、もう三杯だけ寄り道するか。もちろん、ここだけを目当てに来るのもありだ。
私が住んでいるのは、灘五郷のうち「西郷(にしごう)」が最寄りになるが、これは通いたくなる店である。地元の人間も、遠方からの人も、阪神電車に乗って。

※価格はすべて税別(17:00~の飲食は要サービス料)です。
櫻正宗記念館 櫻宴
兵庫県神戸市東灘区魚崎南町4-3-18
[営業時間]11:30~15:00/17:00~22:00(三杯屋は夜のみ)
[定休日]火曜
078-436-3030

松本創
ライター/編集者。関西を中心に政治・行政、都市や文化、震災などをテーマに取材し、ルポやコラムなどを書いている。「ふつうの人」の話を聞くのが好き。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか』(140B)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)など。神戸市灘区在住で、地元の水道筋商店街をこよなく愛する。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
この記事の関連キーワード
こちらもおすすめ
関連エリア
神戸・有馬(有馬温泉)で体験できるプラン
-
オンライン予約OK
【兵庫・神戸】観光タクシープラン 酒蔵をはじめ、灘の名所を巡…
約2時間|11,800円(税込) / 台
神戸・有馬(有馬温泉)
-
オンライン予約OK
【神戸・ガラス細工】ヴェネチアンガラスのお好きなデザインでピ…
約45分|2,640円(税込) / 人
神戸・有馬(有馬温泉)
-
オンライン予約OK
【神戸・ガラス細工】組み合わせ自由自在!カラフルなヴェネチア…
約45分|4,180円(税込) / 人
神戸・有馬(有馬温泉)
-
オンライン予約OK
【兵庫】神戸北野で作るオリジナル香水作り!香水の調香にチャレ…
約60分|2,750円(税込) / 人
神戸・有馬(有馬温泉)
-
オンライン予約OK
【神戸・ガラス細工】ヴェネチアンガラスでネックレス、ストラッ…
約45分|2,420円(税込) / 人
神戸・有馬(有馬温泉)