「GEA」山形から世界へ、ものづくりの歴史と新しい文化の発信スポット

2016.12.06 更新

一瞬、ヨーロッパの街角にいるような錯覚を覚えてしまう空気感と石蔵の存在感。山形県のほぼ中央に位置する小さな町、寒河江市(さがえし)にファッションとライフスタイルの発信地として世界的に注目されているディープな空間があります。情報、文化が交差する複合ショップ「GEA(ギア)」の魅力を、余すことなくご紹介します。

世界的に注目の紡績メーカーが手掛けるセレクトショップ

「GEA」は、昭和7(1932)年の創業以来、紡績ニットメーカーとして燦然と光を放つ存在の佐藤繊維が手掛けるセレクトショップで、2015年にオープンしました。
原料選びから、糸づくり、仕上げまでを一貫して自社工場で行う佐藤繊維。
独創的な糸やニット製品は、パリやミラノのコレクションに参加するヨーロッパの一流メゾンからのオーダーも多く、世界的に注目されています。

2009年、アメリカのオバマ大統領の就任式でミシェル夫人が着ていたカーディガンが、佐藤繊維の紡いだ糸で編んだニットだったことでも話題になりました。

石蔵をリノベーション、過去と未来が交差する場

敷地内にある2棟の石蔵は、山形市山寺にあった酒蔵を譲り受けて約65年前に移築したもの。
移築後は紡績、ニット工場として何十年もの間、実際に使用していました。
▲写真右の棟がファッション棟「GEA1」。左奥の棟はライフスタイル棟で、「GEA2」「GEA3」が入る

「GEA」は、糸作家でデザイナーでもある、社長の佐藤正樹(まさき)さんが世界を旅しながら出合ったこだわりの品々や、旅したからこそ見えてきたローカルな魅力を発信するショップとして立ち上げたもので、地方に残る独自の文化と新しいライフスタイルを提案しています。

衣食住をテーマに、世界中の注目ブランドの最新ラインナップが揃うファッション棟「GEA1」と、国内外から買い付けた暮らしに必要なツールが揃うライフスタイル棟(「GEA2」「GEA3」)の2棟に分かれ、「GEA3」には山形の食文化を発信するレストランスペースもあります。

「作り手」目線でセレクトした洋服が揃う「衣」の空間

「GEA1」から早速入ってみることに。

店内に入った瞬間、目を奪われたのは全長9mもの紡績機。これは紡績工場で使用していたものだそうで、店内ではこうした独創的な什器をいくつも見ることができます。
▲ユーズド感が男前な什器

1階には佐藤繊維のオリジナルニットブランド<991(キューキューイチ)>を中心としたメンズものが。「作り手」目線でセレクトした洋服やアクセサリーが並んでいます。

「<991>は原料選びから糸づくり、編み、パターンとも、今の佐藤繊維の集大成とも言えるブランドです」と紹介してくれたのは、スタッフの菊池芙生子(ふきこ)さん。
▲メンズライクな着こなしが素敵な菊池さん
▲ニット製のテーラードジャケット

ニットでは難しいとされていた立体的なパターンで組み立て、ベーシックなデザインの細部にまでこだわり抜いて作り上げたのが<991>なのです。
▲照明を抑えたダークな雰囲気が重厚感を際立たせる店内

店内に散らばる斬新な工夫は、日本で活躍するクリエーターたちとともに創り上げたもの。
石の壁を包み込むようにガラスの壁が設置されており、ガラス面に反射する光と影が様々な表情をつくります。

また、ガラスの壁はスピーカーの役割も。ガラス面に、鳥のさえずりや川のせせらぎ、ものづくりをするときの機織りの音などを反響させているんだとか。
どこからともなく聞こえるさりげない音が心地良い雰囲気を演出しています。
▲光の交差でさえも絵になります
▲紡績工場の映像が壁に映し出されて

海外トップメゾンの最新ラインナップが揃うフロア

鉄の階段を上り、2階へ行ってみましょう。

2階には、日本にファンの多いブランド「Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)」「MARNI(マルニ)」「ACNE STUDIOS(アクネ ストゥディオズ)」といった海外トップメゾンの最新ラインナップが並びます。
▲ガラスで囲まれた異空間
▲佐藤社長とバイヤーとで選び抜いた、世界各国のブランドがここで見られます

原毛選びから、職人目線でこだわり抜いてつくる佐藤繊維の糸は世界的に有名。その信頼性があるからこそ、これだけのヨーロッパの高級メゾンが「GEA」に集結するのです。
また、紡績メーカーだからこそ、素材に対してはどの店よりも厳しい目で…その姿勢が「GEA」のクオリティの高さに繋がっています。
▲自社ブランド「M.&KYOKO(エム アンド キョウコ)」は個性的で、自分自身のスタイルを持つ女性に人気!
▲ニットと革とのコラボが可愛い「M.&KYOKO」のスリッパ13,000円(税別)

地方独自の文化を発信、新たなビジネスモデルに

「マーケットやトレンドをただ追いかけるのではなく、オンリーワンの糸づくり、モノづくりをしていきたいという思いは、15年前にブランドを立ち上げた時から一貫しています」と話す佐藤さん。
▲佐藤繊維の4代目・佐藤正樹さん

「地方は東京を追いかけていく。でも、地方には、山形には、独自の歴史と小さいけど印象的なストーリーが残っています。日本中の地方が再生していくためには、私たちだからできることを考え、世界中から一地方都市に人が訪れるような工夫をしていかないといけない」

「昔から繊維業を担ってきた、この土地でしかできないことをやっていくためのビジネスモデルとしてGEAを立ち上げました」

話の端々から佐藤さんのモノづくり、そして地元への思いが伝わってきます。

国内外から買い付けた、選りすぐりのプロダクトが並ぶ「住」の空間

▲真っ黒で重厚感のあるドアの奥には、どんな雑貨が?ワクワク度MAX!

心地良い空間の中でぜい沢な時間を味わった後は、洗練された可愛い雑貨たちに会いに「GEA2」へ。
▲雑貨好きにはたまらない空間です!

国内外から買い付けた様々なプロダクトが所狭しと並ぶ店内では、充実したライフスタイルを提案しています。
▲長く愛用してもらえるような使いやすいキッチンツールをセレクト
本棚には「装うということ」「日々の生活」「毎日の食べる」「世界とつながる」「身近なものとつながる」という5つのテーマで、ブックディレクターの幅允孝(はばよしたか)さんが選書したものが並びます。
▲佐藤繊維で作った毛糸玉も販売。ディスプレイ什器もヴィンテージで可愛い

「GEA2」のテーマは“ものをつくる人、買う人がつながり、地域をつなぐ新しい社交場”。モノづくり県の山形で活動する作家や国内外で注目されている作家の作品を展示するスペースもあります。

和の美しさや伝統技術を大切にしてきた山形のモノづくりに、現代のクリエイタ―たちが新たな息を吹きかけ、新しいモノづくりに挑戦しています。
▲アルミなどの金属に草木染めを施して新たな金属作品の魅力を生み出している工芸作家、牧野広大(こうだい)さんも、山形を拠点に活動する作家の一人
「呆れるぐらい手仕事」をモットーに無垢材の家具や雑貨を制作している、地元の工房「エヌ・ワークス」の作品。「GEA」で不定期に開催する、木のスプーンを作るワークショップも人気。

黒い鋳物が器になった、南仏のサン・ジュリアンで作られる「MAD et LEN(マドエレン)」のフレグランスは、すべての工程を職人の手で行い、注文を受けてから作るそう。
▲「バイヤーさんと常に話し合いながら、納得いくものだけを置いています」と、雑貨担当の早坂彩さん
▲山形の家具メーカー「天童木工」とのコラボで、佐藤繊維の生地を貼った椅子は「GEA」でしか手に入らない

雑貨好きにはたまらない“住”の空間「GEA2」。いつも発見があるような、居心地の良い場を目指しているそうです。

山形の食材を使った料理やグロッサリーに出合う「食」の空間

「GEA2」の奥に進むと、そこは“食”の空間「GEA3」です。

昼は「GEA cafe」として、夜は「レストラン0053」として山形の食材をたっぷり使った食事が楽しめます。
▲ディナータイムには壁に無声映画が投影されます。スクリーンを使った特別上映イベントを開催することも。
▲ディスプレイのモチーフは可愛い毛糸。石壁に照らされた光が、優しい空間をつくります

人気の「GEA LUNCH SET」は、旬の食材によってメニューが変わります。今回、注文したのは「山形牛ひき肉と真室川大豆のカレーライス」。

ランチセットは3種類から選べ、すべてに「おひさま農園のオーガニック野菜サラダ」と「自家製フォカッチャ(豚肉パテ付き)」がついて1,200円(税別)。
▲彩り鮮やかな野菜サラダに目が釘付けの「おひさま農園のオーガニック野菜サラダ」は数量限定

最初に登場する野菜サラダの可愛いこと!
白い皿のキャンバスに色とりどりの野菜たち。生で食べられるつるむらさきの花やさつまいも、オクラ、ザクロ…種類の多さに感激しきり!

農薬や化学肥料を使わない元気な畑で育った野菜は、契約農家の「おひさま農園」から毎日届けられます。
▲写真手前が「山形牛ひき肉と真室川大豆のカレーライス」。単品で注文の場合は1,000円(税別)

「山形牛ひき肉と真室川大豆のカレーライス」は、山形牛のすねの部位を使ったひき肉と、県内の小さな町で栽培されている大豆を使っています。

大豆がアクセントのカレーはスパイシーなのにマイルドな口あたり。大豆、カボチャが入っているので女性に人気のメニューだとか。

シェフオススメのコースメニュー(夜限定)は、季節感を大事にした独創的な料理が人気。ここではコース料理の中から3品をセレクトしてご紹介します。
▲料理名は「ホタテ 馬肉 石 豆」。木製のボードは「GEA2」でも販売している「エヌ・ワークス」のもの

木製のボードの上に敷いてあるのは、庭園を思わせるようなグリーンのクランブル。
石に見立てているのは、衣に炭の粉を混ぜて揚げたじゃがいも。そのほか、シュー生地の中に枝豆のピューレと豆乳をあわせたものを詰め、豆の形に仕上げたものなど、全4種類のフードがグリーンの上に載ります。

シェフのユニークなアイデアと創造性が詰まった一皿です。
▲東根市のきれいな湧き水で養殖しているニジマスのカルパッチョ。こりっとした歯ごたえが特徴
▲コース料理の後半に登場する魚介のリゾットは、季節や旬によって食材が変わります。写真ははまぐりとニラの穂を添えて

コース料理は7品の料理にデザートと飲み物(コーヒーか紅茶)が付いて5,000円(税別)。山形の「食」の魅力をまるごと堪能できますよ。

地元の生産者が作る食材を使って、ここでしか味わえない料理を

シェフの磯野将大(まさひろ)さんは香川県生まれ。

「アジアベストレストラン50」に2年連続で選ばれたシンガポールの「Iggy’s(イギーズ)」で、若くして料理長を務めたキャリアを持つ磯野さんは、海外で働きながら日本の食材の素晴らしさを再認識したと言います。

「それなら日本に帰って料理を作ろうと思ったんです。でも、都会で、広く流通している食材を使って料理を作ってもこれまでと同じ。生産者の顔が見える田舎に新天地を求めていた時に『GEA』のこと、レストランを立ち上げようとしていることを知りました」と磯野さん。
▲この店でしか味わえない料理を提案する磯野シェフ

「寒河江を、山形の食材を使った料理で世界中から人を呼べる町にしたい」
地元の資源を使って地域活性化を目指す佐藤社長の考えに共感した磯野さんは、
すぐに寒河江市に移住を決めたそう。

「季節感を大切に、地元の生産者が作るこだわりの食材を使った料理を提供していきたい」と話す、磯野さん。

伝統野菜が300種以上も残る山形県でしか作れない料理のアイデアは次から次へと膨らみます。
▲レストラン名の「0053」は「GEA」の郵便番号下4桁からとったもの
▲レジ付近では「GEA」のマークが取っ手になったグラスも販売。1個5,111円(税別)
▲県内のメーカーとコラボして作ったジャムはお土産にピッタリ。3個セット4,990円(税別)
▲スタッフの帽子は「M.&KYOKO」のもの。残念ながら非売品

「GEA3」にはそば屋「弦円庵(げんえんあん)」もあり、この地域で親しまれている「冷たい肉そば」850円(税別)を味わうことができます。
▲山形名物の肉そばをぜひ味わってほしい
▲明るい「弦円庵」の店内

地域の財産を活用しながら、地方から新しい文化を発信していく

佐藤繊維のモノづくりは、昭和7(1932)年に初代が羊を飼うところから始まりました。時代の流れとともに西洋の繊維製品が入ってくると、県内の各農家に羊を一頭ずつ飼うことを提案し、羊を育て、手で糸をつむぎ、編み物用の糸を作ることを指導していったそうです。

山形には連綿と受け継がれる小さな物語がたくさん残っています。それを地域の財産として捉えながら、地方から新しい文化を発信していくスポット「GEA」。訪れる度に新しい魅力に出会えますよ。
撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。オフィス マウマウワン代表。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

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