信州そばの本場・戸隠で本格的なそば打ち体験の旅

2016.11.14

長野県といえば「信州そば」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。中でも長野市戸隠(とがくし)の「戸隠そば」は、そのおいしさから出雲そば、わんこそばと並び、日本三大そばのひとつに数えられています。そしてこの地では、戸隠に古くから伝わる製法で自ら打ったそばを味わうこともできるんです。10月下旬の新そばの季節に、そんなそば打ち体験の旅に出かけました。

長野市の中心から車で40分ほどの山あいにある戸隠。高冷地のため稲作には不向きなことから、古くからそばが主食でした。この地にそばがもたらされたのは、修験道の霊山として栄えた平安時代。修行僧の携行食糧がそばであったと伝えられています。
火山灰地で水はけがよいことに加え、昼夜の寒暖差が大きく霧が多く発生する戸隠で栽培されているそばは、豊かな香りと風味が評判です。
▲江戸時代には霊山の宿坊のもてなし料理となり、次第に全国に知られるようになった「戸隠そば」

戸隠特産の根曲竹(ねまがりたけ)で編んだ円形のザルに、一口分ほどの量を5束程度に並べた戸隠独特の盛り方「ぼっち盛り」で提供されるのが「戸隠そば」の特徴です。

伝統的なそば打ち体験ができる「戸隠そば博物館とんくるりん」

現在、戸隠には約40軒ものそば屋が並んでいますが、その中で地元のそば打ち名人の指導を受けながら、気軽にそば打ち体験が楽しめるのが「戸隠そば博物館とんくるりん」です。戸隠そばや世界のそば文化の歴史がわかる「戸隠そばミュージアム」と食事処を併設している大きな施設で、雪深い土地であることから冬期は休館ではあるものの、多くの観光客が足を運んでいます。
▲主要道路沿いにあってアクセスも便利な「戸隠そば博物館とんくるりん」

そば打ちは、ひと鉢につき1~4人のグループに分かれて体験できます。打つのは4人前のそばで、体験時間は1時間ほど(ひと鉢税込3,240円)。できたてのそばはその場で食べられますし(つゆ薬味代ひとり税込250円)、持ち帰りも可能です(要冷蔵)。15名未満なら予約も不要。では早速、受付を済ませたら体験道場へ向かいます。

いよいよそば打ち体験スタート!

▲エプロンをはじめ、材料や道具はすべて用意されています。難しい作業は指導員のスタッフが手助けしてくれるので安心です

この日、指導してくれたのは、食事処で提供されるそばも打っている滝沢良平さん。戸隠で生まれ育ち、この道20年のベテランです。

体験で打つのは、そば粉7に対してつなぎの小麦粉(強力粉)3の「7割そば」。まずは「こね鉢」にそば粉を入れ、熱湯を注ぎます。「普通、そば打ちは水しか使わないんだけど、戸隠では昔、囲炉裏のお湯を使ってそばを打っていたから、今でも熱湯を使うんだよ。私はこれによってそばが打ちやすくなると思っているんだよね」と滝沢さん。お湯を入れることで、そばの香りもふわっと広がります。
▲箸で湯が平均に行きわたるように全体を素早くかき混ぜます。そばのいい香りが漂います

次に、手でバラバラになるように揉みほぐし、湯の水分をまんべんなく浸透させる「水回し」という作業を。ポイントは、ダマにならないように軽く揉むこと。手のひらをすり合わせる動作は、子どもの頃の砂遊びを思い出します。
▲おいしいそばの秘訣は均一に水や粉が行きわたること。そのためにも「水回し」は大切な作業です

そして、小麦粉と水をさらに加えて再度「水回し」を行います。2回目の「水回し」のほうがダマができやすくてひと苦労でしたが、「いい感じですよ」と滝沢さん。こうして全体がしっとりとして固まりができてきたら、それを寄せ集めてひとまとめにして練ります。立ち膝の間にこね鉢を挟み、上半身の体重をかけて手のひらで下方向に押すのですが、適度な力の入れ具合がわからず難しい!力を入れて押してみます。
▲こね鉢の傾斜を利用しながら上半身の体重移動で押すのがポイント。この技を覚えると、パン作りや餃子の皮作り、陶芸にも生かせるのだとか

「こんな感じかな」と試行錯誤しながら、なんとか150回ほど練ると、表面がつるりとしてきました。仕上げは滝沢さんにお任せ。回転させながらひとつにまとめて空気を抜き、円錐形にして生地の傷を消す「へそ出し」をしてもらいます。
▲生地内部の空気を抜き、表面にある傷を一点に集めます
▲こちらは「へそ出し」の作業。そばは繊細で、一度切れたらつながらないので注意深く作業を進めます
▲最後に丸くまとめると、見事に表面がつるつるな生地の玉が完成!

続いて、生地を薄く伸ばす「のす」工程です。この「のし」に入ると、生地の表面はすごい勢いで乾いていくそうで「ゆっくりしていると生地が風邪を引く(割れる)よ」と滝沢さん。とにかくスピーディーかつ丁寧に作業をすることが大切のようです。
打ち粉をした「のし台」の中央に生地を置き、生地の上にも打ち粉をしたら、直径15cmほどになるまで手で押し広げます。
▲写真手前部分のように、一部だけ生地が薄くなってしまうのはNG

続いて、生地の中心部分に厚みを残して少しずつ周囲を麺棒で広げていきます。ポイントは麺棒で最後まで押し切らず、生地の縁で止めること。こうしないと生地の端だけが薄くなってしまい、均等にのすことができないのだとか。
▲中央部分に厚みを残しながら、反時計回りに回転させて「のす」作業を繰り返します。厚みがないと中心部に穴が開いてしまうのだそう

40cmくらいまで生地を広げたら、中央の厚みを手でつぶしてひっくり返し、生地を麺棒に巻きつけて広げる作業を繰り返します。生地が切れないように慎重に、かつ素早く進めなければいけないのですが、力の抜きどころがわからなくて、これまた難しい!しかし、繰り返すうちになんとなくコツをつかんできました。
▲麺棒に生地を半分まで巻きつけてから、手前にたぐり寄せるようにして軽く均等に体重をかけ、奥に転がすように薄く伸ばしていきます    

ある程度まで伸ばしたら、生地をゆっくり広げ、再び生地を麺棒に巻きつけて伸ばし、広げる作業を何度も繰り返していきます。
ちなみに、一般的なそばは巻き取りと回転を繰り返して生地を四角く仕上げていきますが、最後まで円形にのすのが戸隠流。また、江戸流では3本の麺棒が使い分けられますが、戸隠では1本の麺棒しか使いません。
▲のし台から生地を離さないように麺棒を180度回転させて垂直に置き、右手で生地を広げます
▲均等な厚みできれいな円になるように意識しながら、約70cmまでのしていきます。見事にまん丸の生地が完成!滝沢さんに誉めていただきました

生地が乾燥したり破けてしまわないかと緊張しましたが、うまくできて感激です。しかも、想像以上に生地が大きく広がったのにも驚きました。

いざ!おいしいそばの要、そば切りの工程へ

さて、のした生地を滝沢さんに八つ折りにたたんでもらったらまな板にのせ、いよいよそばを切ります。滝沢さんによると、プロでもこの工程の習得にもっとも時間がかかるそう。まずは滝沢さんが切る様子を見せていただきます。
▲生地の上に「こま板」を乗せ、左手で軽くおさえて側面に包丁を押し当てながら包丁を直角に落とします
▲包丁を落としたら、包丁を左側に倒して2mmほど「こま板」を押し、再び「こま板」の側面に沿って切り進めます。これにより2mm幅のそば切りができます

では、挑戦!カミソリのような刃の包丁はずしりと重く、取り扱いには注意が必要です。
▲最初は滝沢さんに包丁の角度や力の入れ具合を教えていただきながら、ゆっくりと進めます
▲集中力が途切れたら一度休み、切れた麺は打ち粉をふるい落としながら盆の上に置いていきます。なお、包丁は左利き用の用意もあります
▲なんと!これまた滝沢さんに誉められるほどうまく切れました

いよいよ実食!自分で打ったそばの味は格別

完成したそばは持ち帰ることもできますが、できたてを食べるのがおすすめとのことで、今回はすべてこの場で食べることに。スタッフに渡して、体験道場に隣接した厨房ですべて茹でてもらいました。
▲麺をバラバラになるように入れ、2度、差し水をし、茹で上がったらザルにあげて水でぬめりを取り、さらに2回目の冷水で引き締めます
▲4人前のそばができました!

「まずは塩で食べてみて」と滝沢さん。すると、自分で打ったそばながら、喉越しと風味のよさにびっくり!口の中にふわっとそばの豊かな風味が広がります。
▲塩だけで食べると、よりその味わい深さが実感できます
▲もちろん、ツユでもおいしくいただきました。食事には漬物が添えられますが、予約の空き状況などに応じて天ぷらなどを追加注文することもできます(税込410円~)

なお、団体予約があった場合や連休などの混雑時は体験をお休みする場合もあります。あらかじめ電話などで予約状況を確認してから出かけるのがおすすめです。
▲併設の「戸隠そばミュージアム」では、そばがこの地でどのように根付いたかを知ることができるほか、そばの食べ方や戸隠自体の文化も学べます
本場・戸隠でそばを味わうだけでなく、そば打ち体験をすれば改めてそばの魅力を知ることができますよ。周辺の「戸隠神社」や「鏡池」などと合わせて、戸隠で過ごす1日をたっぷり楽しむ旅はいかがでしょうか。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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