栗スイーツに栗おこわ♪秋の馬籠宿、栗グルメ食いだおれの旅

2016.11.04 更新

「木曽路はすべて山の中」。この書き出しから始まる「夜明け前」を著した明治の文豪・島崎藤村の故郷である馬籠(岐阜県中津川市)は中山道の宿場町。いかにも文学の香り高い地に思われるが、すべて山の中ということは、山の恵みが豊かだと言うこと。秋の馬籠宿は、栗グルメ天国なのである。となれば、花より団子の心意気。別腹もしっかり準備して、栗グルメ食いだおれの旅に出立である。

中央道・中津川ICから車で走ること約20分。次第に深まる山の中に、馬籠宿はある。
中津川市は栗の栽培が盛んな場所であるが、中山道の宿場町として栄えた馬籠宿は、江戸時代より旅人を栗グルメでもてなしてきた場所である。

馬籠で唯一無二の栗スイーツ「栗ふく」
この甘い誘惑を、あなたはきっと断ち切れない

馬籠宿は坂の町である。全長600mほど、石畳に覆われた急勾配の坂道がゆるく蛇行しながら続く。両脇をびっしり土産物屋や飲食店が軒を連ねる坂道を中ほどまで下ると、途端に甘い香りが漂ってきた。香りの源は最初の訪問地、「槌馬屋(つちまや)資料館」の軒先。その名の通り、ふっくらふくふく焼き上がった「栗ふく(税込230円)」である。

「栗ふく」が誕生したのは、10年ほど前。カステラ生地の中に、栗あんと大ぶりな栗が丸ごとひとつ。お店のお母さんたちが交替で、ひとつひとつじっくり手焼きしてくれる。
焼型を数えたところ、一度に最大48個の「栗ふく」をつくることができるが、焼き上がりまでに要する時間は約40分。このため日に600個以上を売り上げる観光シーズンピークともなれば、坂道に沿って延々行列ができる。
さっそく、慣れた手つきで「栗ふく」を焼き始めたお母さんの様子を見学させていただいた。まずはカステラ生地を、焼型に流し込む。この瞬間にもう、甘い香りが漂い始めるからたまらない。
次に、栗あんが配置される。栗と砂糖から成るこの栗あん、モンブランの栗ペーストをイメージしていただければ、いくらか近いかもしれない。しかし味は、ずっと栗が深い。栗あんだけでも十分、幸せになれそうだ。
しばらく待った後、いよいよ本命・栗の登場である。黄金色をした栗が次々と、栗あんの上に乗せられていく。

ちなみに「栗ふく」。平日は栗あんのみだが、土日にはカスタードまたは粒あんも登場することがある。土日には必ず、というわけではないそうなので、あなたの運が良ければ三色の「栗ふく」食べ比べができるかもしれない。
栗が入ったら、おおよそ30分ほど待ちの時間。どんどん甘い香りは膨らんでいくから、身悶えしたくなるような時間だが、ご近所の猫だって大人しく待っている。
お母さんが焼け具合をチェック。ふっくら焼き上がった「栗ふく」の上半分と下半分を合わせれば、あのコロンとした「栗ふく」の姿が完成する。

この合わせの作業、無造作に重ねているようにも見えるが、実は職人技が隠れている。同じ型に同じ生地を流し込んでも、焼き上がった形はひとつひとつ微妙に違うそうだ。その違いを素早く見極め、最も形よく合う上下を選んで重ねていく。焼型の上を蝶のように舞うお母さんの手元にも、ぜひ注目してほしい。
焼型の上に「栗ふく」がお行儀よく並んだら、いよいよ完成。握り飯ほどの大きさがある、立派な「栗ふく」である。焼きたての生地は、カリカリパリパリの皮がうっすら外縁を包み、中はしっとりふわふわ、湯気が上がるような柔らかさである。
撮影用にとお願いし、縦に切っていただいた様子がこちら。見事なまでに栗あんと栗がセンターイン。皮好きの私としては、このカステラ生地の分厚さもたまらない。
もちろん生地はカステラであるから甘いのだが、甘さは控えめの素朴な味わい。それだけに、栗あんの濃厚な甘さが際立っている。生地、栗あん、栗、別個に食べてももちろんおいしいのだが、この三位一体の味わいは実に絶妙。人目をはばかることなく、豪快にバクリといってほしい。

温かいスイーツの次は、冷たいスイーツ
涼しくなっても、やっぱりアイスが好き

本日、我々をご案内下さったのがこちら、島崎史紀(しき)さん。槌馬屋を営む島崎家のお嬢さんである。名字を伺ってもしやと思ったのだが、やはり島崎藤村とは縁続きのお家柄。特に藤村の父・正樹(「夜明け前」の主人公、青山半蔵のモデル)とは交流が深く、2階の資料館には正樹の書画など歴史的資料が展示されている。

そして史紀さんが手に持つのは、「まだあげ初めし前髪の…」から始まる藤村の詩「初恋」に詠われた初恋の君「おゆうさん」のフォトカード。今回特別に、「ぐるたびを見た」と申し出ればプレゼントしていただけるそうだ。これを持っていれば、素敵な文学青年が恋してくれる、かもしれない。
槌馬屋の1階には無料の休憩スペースもあり、お茶やお水をセルフサービスでいただくこともできる。
店内には他に、ご当地の土産物も所狭しと並んでおり、中でも槌馬屋本店(中津川市神坂)から湧き出る弱酸性の天然水「不思議な水」は、様々な健康の悩みを解決してくれると全国に多くのファンがいるそうだ。
次に史紀さんが紹介してくれたのは、2016年7月にデビューした「栗もなかアイス(税込300円)」である。
たっぷり1スクープのバニラアイスの上にトッピングする餡は、栗あんもしくは粒あんからチョイス。もちろんその上には、刻んだ栗。これが、もち米からつくられたパリパリ最中にサンドされている。

「最中ごとパクリと食べた方が、おいしい」という史紀さんのお言葉に従い、ガブッといってみた。もち米の最中はサクサクと砕けるから、思いのほか食べるのに苦労すると言うことはない。そして口の中は、香ばしさと甘さと栗のホクホク感でお祭り騒ぎ。「栗ふく」に続き「栗もなかアイス」も、やっぱりガブっと行くべきである。
▲槌馬屋資料館は、藤村記念館から100mほど坂を下った場所。目印は何より、「栗ふく」の甘い香り

秋の馬籠は、主食だって栗
名物「栗おこわ」はマストで食すべし

スタートからスイーツ2連発だが、まだまだ行ける。キツイ坂道を上るから、カロリーは消費できたと信じることにして、そろそろほしくなるのが「ご飯もの」。次なる目的地は、「栗おこわ」の名店である。

江戸時代から馬籠宿の「栗こわめし」は、名物として名高かった。十返舎一九が馬籠を読んだ狂歌にも「渋皮の むけし女は 見えねども 栗のこわめし ここの名物」、というのがあるほどだ。
そんな「栗おこわ」の現代の名店が、「喫茶 かっぺ」。昭和51(1977)年に女主人の原富江(上写真右)さんがオープンし、現在はお嫁さんの千保美さん(同左)と一緒に切り盛りしている。
こちらが名物の「栗おこわ定食(税込1,000円)」。
「栗おこわ定食」が10年ほど前に誕生したきっかけは、千保美さんのご実家が中津川の栗栽培農家であったこと。それまでより大量の栗が入手できるようになり、栗を用いた甘味だけでなくお食事メニューも、と考え出されたのが「栗おこわ定食」だった。
現れるなり目を引くのが、実に豪快な大きさの栗。「喫茶 かっぺ」で供される栗はすべて、千保美さんたちが拾い集め、ひとつひとつ手で皮を剥く。収穫の始まる9月からの1ヵ月、3人がかりで剥く栗の量は、実に300kg。それでも年間を通じて「栗おこわ定食」を提供するのは難しく、例年9月1日から11月末日までの季節限定メニューとなっている。
使用するもち米は、中津川産の「たかやまもち」という品種。これを一度に4~5升(一升は10合、約1.5kg)、米が見えないほどたっぷりの栗を敷きつめたら、一気に蒸し上げる。

美味しいおこわの秘訣は、もち米がモチモチしていながらベタつかないこと。強飯(こわめし)の名が示すように、一粒ずつ米が立っていながらも、噛みしめるほどにモッチリ感が出てくる。この蒸し加減は、家庭用の調理器具ではちょっと難しいだろう。
「栗おこわ定食」には他に、サラダ・小鉢・佃煮・梅干し・汁物がセットされている。サラダは旬の時期なら地元産、時には原家の畑で収穫された野菜が加わることもあるそうだ。佃煮は季節のもので、本日はゴーヤ。

写真の小鉢は、ササゲ(馬籠のあたりではササギと呼ぶ)と自家製五平餅タレの和え物。ゴマ・クルミ・ピーナッツに醤油を加えたタレは、木の実の油だけでねっとりササゲによく絡む。素朴な山の甘さと、ササゲの青々とした風味が実に絶妙だ。
さなみに原家では、「おこわに味噌汁はつけるものじゃない」のが家訓。このため汁物は「お吸い物」のみ。具のシメジと出汁の濃厚な旨みが、臓腑に沁み渡るほどウマかった。

ラストはキングオブデザート
パフェの極意は溶ける直前の栗の甘さ

「栗おこわ定食」はそれだけで十分、おなかいっぱいになるボリュームがある。しかし、やはりデザートは別腹。メニューの中にパフェを見つけたなら、それは逃すことができないのである。
というわけでいただくのは、「自家製栗入りパフェ(税込600円)」。清々しいミントを頂上にいただく生クリームの山肌に、栗がちりばめられている。台座部分はバニラクリームで、底に隠されたコーンフレークも心憎い。
パフェに用いられる栗は収穫の後、味付けされ冷凍保存されている。美味しさを保つことができるため、「自家製栗入りパフェ」は年間を通じていただけるので、ご安心を。
そして、一度冷凍した栗を解凍することに、このパフェの極意はある。栗をよく見ると、表面をうっすらと霜が覆っている。口に入れると、ほんの薄皮1枚程度、凍った部分が残っていると察せられる。

この「完全に溶ける直前」である状態が、最も栗の甘さが際立つ瞬間。「自家製栗入りパフェ」を開発するにあたり、富江さん・千保美さんはじめお店のスタッフみんなで試食を重ね、たどり着いた答だ。
その瞬間を逃さず、出されたらまずは栗をパクついてほしい。その甘さに納得したら次は、生クリームとバニラクリームに絡めて。何もつけなくとも美味しい栗の甘さが様々に変化する贅沢を、存分に堪能することができる。
▲「喫茶 かっぺ」は「じんばバス停」から坂を下ること3分。店内奥にはテラス席があり、雄大な恵那山を一望することができる。また、テラス席はペット同伴OKなのもうれしい
今回ご紹介した以外にも、五平餅や中津川発祥の栗きんとんなど、馬籠宿の坂は様々な誘惑が右から左から、手ぐすね引いてあなたを待ちかまえている。しかし、花より団子の精神を後ろ暗く感じる必要はない。禁欲的なまでに謹厳だったと言われる俳人・山口 誓子だって、馬籠宿を訪れた際はこんな句を詠んでいる。
 街道の 坂に熟れ柿 火を灯す
秋の馬籠宿はやっぱり、おいしいものが目と心を引き付けるのである。
船坂文子

船坂文子

農家・ライター。本籍地は生まれた時から飛騨。情報誌出版社にて15年間、人材・旅行領域の広告・編集記事作成に従事。若い頃から「田舎に帰って百姓になる」が口癖で、退職後は農業大学校での研修を経て就農。一畝の畑を耕し野菜を販売する傍ら、ライターとしても活動。「人」を通して物事を伝えることを心がけている。

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