昔懐かしいレトロな鉄道風景に出会う、肥薩線&くま川鉄道の旅/古谷あつみの鉄道旅Vol.14

2018.09.10 更新

何があるわけではないけれど、なんだかずっと眺めていたくなる、また見たくなる風景。日本に残る、そんな懐かしい香りがする車窓に会いに、九州は熊本へ行ってきました。

今回もアドバイザーは鉄道ライターの土屋武之さん。カメラはマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ所属の助川康史さんの3人で旅してきました。

今回のみどころはここ!

1.王道!SL列車の旅
2.心温まる、ほっこりくま川鉄道の旅
3.ここはどこ?寝台列車の旅!?
4.ループ線ってなぁに?おもしろ路線へ行ってきました

1.王道!SL列車の旅

▲八代駅に「SL人吉(ひとよし)」が到着

懐かしの鉄道風景に会いに行く旅!はじまりはここ、八代駅です。
「懐かしい」と言えば、SLを思い浮かべる方も多いんじゃないでしょうか?
と、いうわけでそんな王道懐かし旅のスタートは「SL人吉」から!
▲今回の旅程ルート。JR肥薩線とくま川鉄道を旅します
「SL人吉」は、熊本駅~人吉駅間を鹿児島本線・肥薩線経由で走る、JR九州の列車です。八代駅~人吉駅間では雄大な球磨川(くまがわ)の風景を車内から望めるということもあり、九州内のみならず、全国から多くの観光客を集めています。
▲肥薩(ひさつ)線を走る「SL人吉」

「SL人吉」を牽引するのは「ハチロク」の愛称で親しまれる、8620形の58654号機。1922(大正11)年に製造された蒸気機関車です。

SLの魅力って何?と聞かれることがあるのですが、なんといってもこの煙でしょう!カッコイイじゃありませんか。
しかも、独特の「香り」も味わえます(石炭が燃える匂いですね)。電車にはない引っ張られているような感覚の乗り心地は、実際に乗ってみないとわかりません。
▲肥薩線は球磨川の急流に沿って走る

そして、「SL人吉」ならではの魅力と言えば、なんといっても球磨川の風景でしょう!
でも、ごめんなさい。取材日は台風通過直後だったため、本来の姿を写真に収めることはできませんでした…。
けれども、何度も撮影に訪れている助川カメラマンは「晴れた日には川がエメラルドグリーンに輝くんです!」と力説。それを見たかったなあ。しかし、濁っていても壮大な景色です。

球磨川は列車の右側に現れたり、左側に現れたり!
どちら側の座席からでも車窓は楽しめ、鉄橋などの見どころの前では案内アナウンスも入って、テンションは最高潮に達します。
▲駅名と木造駅舎が注目される一勝地(いっしょうち)駅

「SL人吉」では、途中の停車駅である一勝地駅にて、停車時間を長めに設けています。
ここは縁起が良い駅名として有名で、勝利を願うスポーツ選手や受験生などがお守りに入場券を求めにくるほどなんです。
▲お城風の外観をした人吉駅

さてさて、人吉駅に到着しましたよ!
SL旅の締めくくりは、人気の駅弁を食べること。その駅弁とはいったい…!?
▲人気の「栗めし」(1,000円)

まずは、見た目にも面白い、栗の形をした人吉駅の駅弁「栗めし」。古くから鉄道ファンから愛され、親しまれ続けています。
その誕生は、なんと1965(昭和40)年。人吉地方の名物の栗をはじめ、野菜の煮物など懐かしい味のお総菜がぎっしり。
▲八代駅前にある「より藤」にて駅弁をゲット!

そして、もうひとつ。肥薩線沿線で人気なのが、八代駅前で三代続く鮎家「より藤」の人気駅弁「鮎屋三代」(1,250円)!

JR九州が実施した「九州駅弁ランキング」で、第1回から第3回まで、3年連続1位を獲得したほどの人気駅弁です。
2004年3月13日の九州新幹線新八代~鹿児島中央間開業に合わせて売り出されました。
▲大人気の駅弁「鮎屋三代」

それにしてもインパクトのある見た目!
球磨川で獲れる天然の鮎の出汁でふっくらと炊き上げられたご飯の上に、秘伝のタレで骨までやわらかく煮込まれた鮎の甘露煮が、どーんとまるごと一匹乗せられています。

でも私は魚が食べられない…そこで今回も、土屋さんに食べていただきました。

古谷「土屋さん、どうですかぁ?」
土屋「川魚の甘露煮は、ちょっとクセがあるけど好きな人は大好きで、僕もそう(笑)。個性的で、『通好み』の味というところかな?都会ではあまり食べる機会がないし、昔、田舎のおばあちゃんが作ってくれたとか、そういう懐かしさが感じられるね…」

なるほど~!懐かし味のする駅弁をぜひ味わってみて下さいね!

2.心温まる、ほっこりくま川鉄道の旅

さて、お腹もいっぱいになったところで、次の懐かしい鉄道旅に出発です。
出発は、JR人吉駅の隣りにある、くま川鉄道人吉温泉駅。
くま川鉄道はここと湯前(ゆのまえ)駅の間、24.8kmを結ぶ鉄道です。
▲くま川鉄道で教え子と再会!

私の隣りは土屋さん…ではなく(笑)
なんと、私が福岡市内で講師をしていた学校の卒業生、椎葉悠太(しいばゆうた)さんです!鉄道員になる夢を叶え、くま川鉄道で整備のお仕事をしています。
懐かしの旅で、懐かしの人に出会っちゃいました!(笑)
▲人吉温泉駅ホームの入口には「田園シンフォニー」の垂れ幕が

椎葉さん「古谷先生、お久しぶりです~!」
古谷「わ~!久しぶり!ちょっと、取材に来たと!」
椎葉さん「それは嬉しいです。僕たちが整備した車両も自慢ですけど、車窓もゆっくり楽しんで行って下さいね。そうだ、沿線に面白い宿があるので、今日はそこへ泊まってくださいよ!」
土屋「実は、そこに泊まることになってるよ~。」
古谷「え~!面白い宿ってなんですか!?気になる!」
椎葉さん「行けばわかります。」
▲「田園シンフォニー」で出発

くま川鉄道では「田園シンフォニー」に乗車します。
これは、さまざまな観光列車のデザインを手がける水戸岡鋭治さんがデザインしたディーゼルカー。全部で5両あり、それぞれに季節を現す「春」「夏」「秋」「冬」「白(白秋)」とデザインのテーマが与えられており、このうちの2~3両の組み合わせで運行されます。
▲水戸岡鋭治氏がデザインした、くま川鉄道の列車(乗車した「春」)の車内

車内は、各車両共通のテーマとして、木の温もりが感じられるデザインになっています。
球磨地方産のヒノキを贅沢に使用し、懐かしさと近代的な香りが隣り合わせになったような不思議な空間です。

なお、「田園シンフォニー」を使った、くま川鉄道の観光列車が「田園シンフォニー・はぴねすトレイン」。乗って、幸せを探しにゆく列車です。途中駅では長時間の停車中におもてなしがある他、おかどめ幸福駅での「幸福祈願」やポストカード、おみやげ引換券、ご祈願絵馬がセットになったツアーの形で乗車できます。お弁当やデザートをオプションでつけることもできますよ。
▲運転台の横も開放的

観光列車の運行日や、時間が合わない!という方もご安心ください。

実はくま川鉄道の普通列車は、すべて「田園シンフォニー」と同じ車両での運転。
徐行運転や「おもてなし」こそありませんが、乗車券だけでこんな素敵な車両に乗ってもいいのでしょうか?
良心的すぎます!
▲くま川鉄道も球磨川に沿ってさかのぼる

球磨川もこんなにど~ん!と大きく見えますよ。
この日は台風の影響で濁っていましたが、ふだんは美しく、おだやかな球磨川を望むことができます。

さて、この列車「田園シンフォニー」と名前がついていますが、その名前の由来がすぐにわかりました。
▲人吉盆地の田園風景

美しい田園風景が車窓いっぱいに広がるのです!
車内では、ベートーベンの有名な交響曲(シンフォニー)第6番「田園」が絶え間なく流れ、美しい音楽と車窓のハーモニーが楽しめます。
▲どこまでも田園風景が続く

田園風景を見ると、どこか懐かしい故郷に帰って来たような優しい気持ちになります。
特になにかあるってわけでもない、ただ田園が続く。逆にそんな風景が、とても魅力的なんです。
▲夏の車窓は緑で埋め尽くされる

運転台の横に張り付くと、こんな綺麗な景色が!「癒される~!」このひと言に尽きます。
時々垣間見られる沿線の人々の生活も、どこか懐かしくって、ほっこりします。
▲くま川鉄道には貴重な文化遺産も残る。これは木上(きのえ)駅待合室

木上駅は待合室とホームが、国の有形文化財に登録されています。
くま川鉄道の前身である国鉄湯前線は1924(大正13)年の開業。当時の建造物が多く残っていることから、駅舎や橋梁など、他にも合わせて19件もの建造物が有形文化財に登録されているのです。
▲広い窓から眺める田園風景には、ついついカメラを向けたくなる

人吉盆地(球磨盆地)は広く、シャッターチャンスもたくさん。美しい緑が広がる写真が撮れますよ。
▲山に近い終点の湯前駅

湯前駅へ到着。くま川鉄道完乗です!

3.ここはどこ?寝台列車の旅!?

古谷「そういえば、今朝、椎葉さんと話していた宿ってどこなんですか?」
土屋「寝台列車さ。最寄りは多良木(たらぎ)駅。」
古谷「多良木駅から寝台列車!?そんなの走っていましたっけ?」
▲ユニークな形の多良木駅近くには…

くま川鉄道多良木駅の駅舎は不思議な形。しかし、この駅から寝台列車に乗れるとは!?どういうことなんでしょうか?
土屋さんに案内され、着いた場所には驚き!
▲寝台特急「はやぶさ」が多良木に!?

そこには、2009年3月に惜しまれながら廃止された寝台特急「はやぶさ」が堂々と佇んでいたのです!
今や、姿を消したブルートレイン。テンションが上がります。
▲「はやぶさ」の車両を改造し、作られた多目的室。ここの受付でチェックイン

ここ、実は「ブルートレインたらぎ」という簡易宿泊施設。「はやぶさ」に使われていた寝台車3両を改造し、多良木駅のすぐそばで営業しているのです。
今夜は懐かしのブルートレインの雰囲気を味わおうということだったのです。土屋さん、さすが!
実は私、ブルートレインは初体験…
▲3両のうち1両が個室寝台車(上段)

私の部屋は、元個室B寝台「ソロ」。
上段と下段があり、ここは上段!窓からは外の景色がよく見えます!
▲設備の一部は現役時代のまま残されている

室内のコントロールパネルや照明は使えませんが、内装は現役時代のまま。本当に寝台列車に乗っている気分です。
▲個室内には、現役時代にはなかったコンセントも

宿泊施設として使いやすいよう、コンセントなどは取り付けられているので安心!
携帯の充電もできますし、ヘアアイロンだって使えます。
▲お手洗いや洗面所は別棟。現役時代のものは使えない

お手洗いや洗面所などは別棟にあって、綺麗で使いやすく、女性も安心。
宿泊料金には、すぐ近くにある天然温泉「えびすの湯」の入浴券も含まれるので、お風呂の心配もありません。
▲個室の下段。天井が高い

せっかくなので、他のお部屋も覗いてみましょう!こちらは「ソロ」の下段。
上段より天井が高く、広々とした印象です。好みが別れると思いますが、私は上段派!
▲開放型B寝台車はグループ向け

こちらは、廊下との仕切りがない開放型のB寝台車。
友達や家族で楽しい夜を過ごしたい方は、こちらがおすすめです。
▲廊下の補助椅子に座って外を眺め、ありし日のブルートレインに思いをはせる…

こうして見ると走っている寝台列車そのものに見えませんか!?
かつて「はやぶさ」で旅した乗客たちは、この窓からどんな景色を見たのでしょう?なんだかワクワクする夜です。
▲寝台内は飲食禁止だが、食事や歓談ができるスペースがある

3両のうち真ん中の車両は多目的スペース兼受付。
食事の持ち込みは自由で、沿線の駅弁を楽しむのも良し、地酒を楽しむのも良しです!
▲すぐ隣りをくま川鉄道の車両が走るのも、また不思議な光景です。

そうでした!ここの宿泊料金はビックリしますよ!?
なんと、大人1泊が1年中、個室、開放型とも3,080円なんです!本当に驚きました。懐かしいブルートレインの旅が格安で楽しめます。

4.ループ線ってなぁに?おもしろ路線へ行ってきました

ブルートレインで一夜を過ごした翌日。また、人吉駅へと戻りました。
古谷「どうしても行きたい所があって。ここへ行かなきゃ帰れません!」
土屋「また始まったよ…。」

私が行きたかったのは、JR肥薩線の人吉~矢岳(やたけ)間。
熊本・宮崎県境の国見山地を越える険しい道のりで、途中の大畑駅には、全国で唯一のループ線の途中にあるスイッチバックを見ることができるのです。

ループ線とは、らせん状に線路を設け急勾配を緩和する手法のこと。
スイッチバックは急勾配の途中に駅を設けるため、行きつ戻りつするようジグザグに敷かれた路線のことです。肥薩線はこの両方が組み合わされた、なんだか面白い区間なんです。
▲思わぬことに乗客はわれわれだけ…

肥薩線列車はたまたま貸切状態!これはラッキーです。車窓を独り占め!
▲人吉を出ると、すぐ急勾配区間に差し掛かる

列車は夕陽でキラキラと光る急勾配の山道を登り、車窓には癒される風景が続きます。人吉駅から少し離れただけなのに、どんどん山深くなるのです。
▲大畑駅に到着。吉松行きは左側の線路を通って駅に着き、右側の線路へ折り返して発車。その先で、さらにもう一度折り返す

さて、いよいよスイッチバックがやってきました!大畑ではまず駅に停車して、バックで発車。さらに勾配を登ります。
人吉~吉松間の開業は、1909(明治42)年。
現代の鉄道は急勾配でも簡単に上り下りできるようになりましたが、100年前には、こうした色々な工夫を凝らして、山を越えていた時代があったんですね。
▲先ほど発車した大畑駅を眼下に見下ろすところも!

どんどん勾配を登ります。しばらくして振り返ってみると、もうこんなに高いところまで来ていました。
どれだけ急な坂なのかがよくわかります。
▲ループ線をカーブしつつ登る

ループ線とはいえ、そこまでカーブになっている体感はありません。
車窓に夢中になっているうちに、あっという間に次の矢岳駅が見えてきました。
▲サミット(峠の頂点)にある矢岳駅に到着

さて、こちらも懐かしい雰囲気の駅舎です。ここでも面白い発見があるのでしょうか?
▲今は使われていない湧水盆。かつてはここに水が湧き、乗客も乗務員も洗顔をしていた

早速見つけました。なんだかわかりますか?
これは湧水盆と呼ばれるもの。蒸気機関車が走っていた頃、ススで真っ黒になってしまった乗客や機関士の顔や手を洗うためのものだったんです。面白い!
▲駅前にある人吉市SL展示館。地元の人が管理している

駅前には人吉市SL展示館があり、肥薩線で活躍していたD51形蒸気機関車が保存されています。
「SL人吉」の58654号機も、いったん引退してからは、ここに置かれていました。しかし管理が行き届いていて状態が良かったので、復活できたのです!
▲誰もいない矢岳駅の待合室

こちらは待合室。大きく開放的に作られていて、ゆったり落ち着きます。
▲黄昏時の矢岳駅待合室

日も落ち、灯りが点りました…
▲日が暮れると雰囲気が変わる

さっきまでとは一転。タイムスリップしたかのようなレトロな雰囲気に様変わりです。時間の流れがゆっくりになったような感じがして、不思議です。
▲矢岳駅ではゆったりした時間を過ごせた

今回の鉄道旅はここで終了です。たくさんの「懐かしの鉄道風景」に触れることができ、気分もリフレッシュ!短い時間で濃厚な旅が出来ました!
みなさんもぜひ、懐かしの鉄道風景に会いに行ってみてくださいね。

さて、古谷あつみの鉄道旅!次はどんな鉄道風景に会えるのでしょうか?

次回、古谷あつみの鉄道旅 Vol.15は、島根県の「一畑電車」へ!

※記事内の価格表記は全て税込です

土屋武之(鉄道ライター)

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道のしくみ・基礎篇/新技術篇」(ネコ・パブリッシング)、「鉄道の未来予想図」(実業之日本社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「鉄道員になるには」(ぺりかん社)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。

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