元祖レストラントレインから眺める穏やかな海…肥薩おれんじ鉄道の旅/古谷あつみの鉄道旅 Vol.13

2016.12.03

古谷あつみが行く、全国各地の鉄道旅!今回は、近年話題となっている観光列車のなかでも、とりわけ美しい海を眺められることで有名な肥薩(ひさつ)おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」に乗ってきました!この列車、専用車両を用いた「レストラントレイン」の第1号としても人気です!そのヒミツに迫りたいと思います。

▲肥薩おれんじ鉄道のレストラントレイン観光列車「おれんじ食堂」

今回のパートナーは、いつもの鉄道ライターの土屋武之さん。そして、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ所属の鉄道カメラマン助川康史さんです!

今回の見どころはここ!

1.心温まる接客のヒミツ!「おれんじ食堂」、出発!
2.蒼く輝く宝石箱のような車窓
3.沿線観光!?「おれんじ食堂」立ち寄りスポット
4.やっぱり気になる!?自慢の料理とおもてなし

1.心温まる接客のヒミツ!「おれんじ食堂」、出発!

▲JR九州と、肥薩おれんじ鉄道の駅である川内駅

旅のスタートは川内駅!
鹿児島県薩摩川内市にあるこの駅には、JR九州と肥薩おれんじ鉄道が乗り入れていて、九州新幹線の停車駅でもあります。

古谷「今回は、『おれんじ食堂』に乗って、肥薩おれんじ鉄道の魅力を紹介します!」
土屋「地元の食材をふんだんに取り入れた料理に舌鼓をうちながら、鉄道の旅を楽しむという『レストラントレイン』だ。こうした食をテーマにした観光列車は、今、全国で花盛りだよね。2013年3月24日に運転を開始した『おれんじ食堂』は、専用車両を用いたレストラントレインとしては元祖でもある。」
古谷「まずは、その素晴らしいアイデアに敬意を表したいです。」
▲上品な外観の「おれんじ食堂」

この列車は、「食堂」との名前の通り、移り行く景色を眺めながら、沿線の魅力あふれる季節の料理を楽しめます。金曜日と週末、春休みや夏休みなどの旅行シーズンの運行です。
▲座席指定券のデザインも車両に合わせたもの

食事が楽しみな「おれんじ食堂」ですが、乗車のみのプランなどもあり、その楽しみ方はさまざま!
肥薩おれんじ鉄道は美しい車窓が有名なので、乗るだけでも存分に堪能できます。

私たちが乗ったのは、川内14時52分発の「クルージングディナー」と題された便でした。
▲川内駅に入線する「おれんじ食堂」

紺色の列車が入線してきました!
JR九州の「ゆふいんの森」「あそぼーい」「指宿のたまて箱」「ななつ星in九州」などのデザインを手がけた、人気デザイナーの水戸岡鋭治さんのデザインです。

さて、ここからどんな鉄道旅が始まるのでしょうか?
▲1号車「ダイニングカー」の車内

ホテルのカフェダイニングをイメージして造ったといわれる車内は、広々と開放的。木の質感が活かされ、温かみがあるのが特徴です。
大きく、ゆとりがあるテーブルを備えた座席で、食事が楽しめます。
▲出発合図の鐘を鳴らす客室乗務員

さて、出発です。
ホームでは、乗務員さんが出発を合図する鐘を鳴らしています。その笑顔から、今回の鉄道旅への期待も膨らみます!
▲ゆったりと、落ち着くデザインの座席(2号車リビング・カー)

自慢の車窓が存分に楽しめる大きな窓!今回はこの席に座っての鉄道旅です。
いよいよ列車は、私たちを乗せてゆっくりと走り出しました。
▲「おれんじ食堂」1号車のカウンター

まずはカフェへ。
乗車のみのプランでも、カウンターで飲み物が買えます。
お酒も品数豊富!
▲ラックに並べられたお酒の種類にびっくり

古谷「どれにしようか迷ってしまうほど、豊富な種類のお酒たちがいます!」
土屋「お酒たちって……(苦笑)。でも、南九州と言えば…の焼酎類はもちろん、日本酒やワイン、ビールなどもそろっているよね。ま、甘党の僕にはわからない世界だけど。」
古谷「私にとっては、選ぶのが楽しくなるほどです!ついつい、顔がほころんじゃいます。」

カウンターでは、お料理やその日の気分に合わせたお酒の選び方の相談にも乗ってくださいます。
今回は、地ビールをチョイス!
▲座席にてビールの説明を受ける

購入したのは、熊本県水俣市にある湯の児スペイン村福田農場の地ビール「ケセラセラ」(800円)。
どんなお酒なのか、じっくり説明していただきました。

古谷「それにしても、乗務員の皆さんの接客が本当に丁寧で親切です。」
土屋「『おれんじ食堂』の乗務員は、ほとんどがホテルなどに勤務した経験を持つ、スペシャリストなんだそうだよ。」
古谷「観光列車で心温まるサービスを提供できるよう、そうした接客のベテランを積極採用しているんですね!きめ細やかなサービスの背景には、そうした秘密があったのか。」
▲地ビールをいただきます。「ケセラセラ」は香りがいい蜂蜜を使った、クセがなくさっぱりまろやかな味

美しい車窓と、行き届いたサービス。そしてビール!
ここへきて、私のテンションは最高潮に達します…え?顔が酔っぱらっている?いいえ、気分が良くなっているだけです(笑)

2.蒼く輝く宝石箱のような車窓

さてさて、車内の様子も気になる所ですが、やはり沿線風景も気になるのではないでしょうか?
まず簡単に、肥薩おれんじ鉄道ついてご紹介。

九州西海岸沿いに走る肥薩おれんじ鉄道は、熊本県の八代駅と鹿児島県の川内駅の間、116.9kmを結ぶ第三セクター鉄道。元はJR九州の鹿児島本線の一部だった路線です。開業は2004年。
肥後(熊本県)と薩摩(鹿児島県)を結ぶことと、沿線にかんきつ類が多くあることから、社名におれんじを付け「肥薩おれんじ鉄道」と名付けられたのです。

車窓から眺められる海は八代海や東シナ海で、沿線にはたくさんのビューポイントがあります。
もちろん普通列車でも車窓は同じ。存分に楽しめますよ!
▲海沿いを走る「おれんじ食堂」。助川カメラマンが撮影した、晴れている日の列車走行写真です

土屋「沿線では、ダイナミックな海の景色をバックに走行写真を撮ることもできるよ。」
助川カメラマン「冬の出水には、ツルが越冬のため飛来してくるので、列車とからめた面白い写真も撮れます!」
▲海の風景には、思わず見入ってしまう

肥薩おれんじ鉄道の列車は、川内を出発すると、しばらく海から少し離れた場所を走ります。
最初の見どころは薩摩高城(さつまたき)駅付近!東シナ海が見えてきます。

助川カメラマン「薩摩高城はブルートレイン『はやぶさ』の撮影ポイントとしても知られていたんですよ。」
土屋「まだ国鉄やJR九州だった頃の話だけどね。」
古谷「でも、きれいな景色はそのままです!」

注目は海だけではありません。
米ノ津駅と袋駅の間で「境川」という小さな川を渡りますが、ここがその名の通り鹿児島県と熊本県の県境。江戸時代は肥後藩と薩摩藩の藩境ということもあって橋を架けることが出来ず、人々は自由に行き来することが出来なかったそうです。
▲古びた「境橋」と境川を見下ろす

西南戦争終了後の明治時代中期になって、ようやく「境橋」というアーチ型の橋が架けられました。
現在は隣りに国道の橋が架かっているため人の往来はほとんどなく、静かにその場所にたたずんでいますが、肥薩おれんじ鉄道の列車から見下ろすことができます。
「おれんじ食堂」では、この場所で一時停止し、観光アナウンスも入ります。
▲運転台横には展望席もある!

私は一番前の座席にかぶりつき!
山の中を走っていても、緑の海へ入ってゆくような気分です。運転士さんも笑顔で運転しています。
▲肥後田浦~肥後二見間で展開される八代海の絶景

晴れた日には、車窓いっぱいにどこまでも美しい海が!
薩摩高城~薩摩大川間や肥後田浦~肥後二見間などでは、海のすぐ近くを走ります。ずっと眺めていたくなるような景色です。
▲波打ち際ぎりぎりのところを走る普通列車

肥薩おれんじ鉄道の観光客向け列車では、車窓が美しいポイントや、沿線の歴史が感じられるスポットで速度を落とし、詳しく解説してくれます。

例えば2015年に登場した、土曜・休日運転の観光列車「ゆうゆうトレイン」。
これはふつうの各駅停車よりも遅く、平均速度35km/hほどで八代~出水間を1往復走り、沿線風景を存分に楽しんでもらおうという企画列車。
車両はふだんの普通・快速列車と同じもので、特別料金は不要。普通乗車券や一日乗車券などで乗ることができます。

3.沿線観光!?「おれんじ食堂」立ち寄りスポット

「おれんじ食堂」では、楽しい「寄り道」も楽しめます!
▲薩摩高城駅近くにある「放ちの鐘」

寄り道スポットの目玉と言えば!「薩摩高城駅での散策」です。
私たちが乗った便では、18分間の停車時間中、乗務員さんが東シナ海を一望できるビーチまで案内してくださいました。
天気が良ければ、木漏れ日がキラキラと輝く小道を乗客みんなで歩くことができ、眺めの良い見晴し台まで散策します。

古谷「『放ちの鐘』って…縁切りの鐘なんですって!さっそく鳴らしてみます!」
土屋「誰と縁を切りたいのかなあ……」
古谷「特に誰もいませんけど、とりあえず鳴らしてみました!(笑)」
▲薩摩高城ではイワシの丸干しを試食

土屋さんが手に取っているのはイワシの丸干し。
薩摩高城駅の「駅マルシェ」で販売されていました。
駅マルシェとは「おれんじ食堂」の停車時間中、沿線のお土産を買うことができる、ホームでの物産販売なのです。
▲出水駅など主な停車駅で駅マルシェを開催!

列車は出水駅に到着。
提供されるディナーの積み込み作業が行われます。

そして、ここでも「駅マルシェ」が開催中!
出水では、車内では無料でお試し提供されていた塩せんべいも販売されていました。
なお、駅マルシェは日や時間帯によって内容が変わります。
▲水戸岡デザインの粋が感じられる水俣駅

列車は熊本県に入り、水俣駅に停車。ここも一度は立寄りたい駅です!

土屋「どこかで見たことがある駅舎だと思わない?」
古谷「『おれんじ食堂』と同じで、こちらも木の温もりが感じられる、どこか落ち着くデザインですよね。言うまでもなく、水戸岡鋭治さんがデザインされた駅でしょ?」
土屋「うん。正解(笑)。肥薩おれんじ鉄道では、水戸岡さんは阿久根駅のデザインも手がけている。」
古谷「はずせない寄り道スポットですね。」
▲「イワシかご」の中に入って列車を待つこともできる

水俣駅には水戸岡デザインらしさがいっぱい!
待合室には水俣の伝統工芸品である、「イワシかご(竹籠)」が設置されていて、地域の特色が活かされています。
「イワシかご」とは、カツオ漁の餌となるイワシを生きたまま運ぶためのかご。高さ2m以上もあります。
▲「おれんじ食堂」車内に飾られた工芸品

古谷「『おれんじ食堂』にも沿線のさまざまな伝統工芸品が飾られていました。観光列車らしい演出ですよね。車内の寄り道スポットです。」
土屋「グルメにしろ伝統工芸品にしろ、それまであまり目立たなかった沿線の素晴らしい産品を発掘して見直そうというのが、肥薩おれんじ鉄道であり『おれんじ食堂』のコンセプト。それは、かねてからの水戸岡さんの考え方とも一致してるんだ。」

4.やっぱり気になる!?自慢の料理とおもてなし

さて、沿線の寄り道スポットを紹介しましたが、やはり気になるのは車内でのおもてなしではないでしょうか?少し覗き見させていただきました。

趣向を凝らしたイベントが展開されますが、私がいちばん気に入ったのは、料理と絶妙のハーモニーで乗客を楽しませてくれる、こちらです!
▲なんと、出水では電子ピアノを列車に積み込み!?

そう、出水駅から乗り込んだ地元出身のプロアーティストによる、ジャズピアノ演奏を中心としたエンターテインメント!おいしい料理とともに堪能できるのです。
こちらは、クルージングディナー、サンセットディナー限定です。
▲地元出身のプロアーティストによる生演奏が楽しめる

ピアノ演奏が始まると、そこからは大人の贅沢な時間が始まります。夕日で紅く染まる海を眺めながら、ワイングラスを傾け、ウットリ。ゆっくりとした時間が流れます。
▲料理は車内で盛り付け

もちろんお料理も最高のもの!
古谷「メニューは季節ごとに変わるんですね。」
土屋「沿線のレストランのシェフが調理したものだね。積み込まれた料理が、乗務員さんの手で美しく盛りつけられて、客席へと運ばれていくんだ。」
▲取材日のメイン料理「南九州産黒毛和牛のタタキ赤ワインソース」

南九州の新鮮な食材が使われており、見た目も内容もとても豪華です。
▲八代に到着。新八代駅までひと駅だけJR九州に乗り入れ、九州新幹線とも接続する

私たちを乗せた「おれんじ食堂」は、夕刻にゆっくりと八代駅に到着しました。

古谷「4時間近くも乗っていたとはとても思えないほど、あっという間でした。贅沢な時間だったなあ。」
土屋「いつもよりちょっと奮発したいとか、そんなご褒美旅に、『おれんじ食堂』はいいと思うよ。」

あなたも、優雅な「おれんじ食堂」と肥薩おれんじ鉄道の旅はいかがでしょうか?

次回、古谷あつみの鉄道旅 Vol.14は、熊本県の「肥薩線」と「くま川鉄道」へ!

※記事内の価格表記は全て税込です

土屋武之(鉄道ライター)

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道のしくみ・基礎篇/新技術篇」(ネコ・パブリッシング)、「鉄道の未来予想図」(実業之日本社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「鉄道員になるには」(ぺりかん社)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。

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