訪ねて楽しい日本酒の蔵元、第1位!末廣酒造で酒蔵見学だけじゃない魅力を体感

2017.02.02 更新

福島県会津若松市に、江戸時代から続く酒蔵があります。大吟醸「玄宰(げんさい)」や純米大吟醸「亀の尾」で知られる「末廣(すえひろ)酒造」です。会津杜氏の情熱を受け継ぐ昔ながらの手作業による酒造りを間近で見学できるほか、酒造カフェでいただくスイーツも人気とあって、日本経済新聞のNIKKEIプラス1の何でもランキング「訪ねて楽しい日本酒の蔵元」(2013年1月)で第1位を獲得したこともある、人気の酒蔵です。12月中旬、冬の間しか見られない仕込み作業が始まったと聞き、行ってみました。

▲2016年福島県秋季鑑評会・吟醸酒の部で知事賞を受賞した銘酒「大吟醸・玄宰」

100余年の歴史を感じる木造の酒蔵

末廣酒造は福島県のJR会津若松駅から市内周遊バス「ハイカラさん」で約10分、レトロなお店が多く並ぶ七日町(なぬかまち)にあります。
まず目をひくのが、大きな杉玉の吊るされた木造の建物です。明治後半から大正時代に建て直されてから100年余り、重厚感ある木造の蔵は「会津若松市歴史的景観指定建造物」に指定されています。

杉の穂先を集めて球状にした杉玉は酒林(さかばやし)とも呼ばれます。日本酒の造り酒屋では、新酒に変わると新しい杉玉を軒先に吊るして、新酒の到来を知らせるのです。杉玉の色の変化とともに、新酒も熟成していきます。
▲現在はさまざまなお酒を同時に販売しているので、青々とした酒林=新酒のサインとは言えなくなっているという
▲末廣酒造の「嘉永蔵(かえいぐら)」は7つの建物からなり、道路沿いには白壁の蔵(左は仕込み蔵、右は酒蔵カフェ)が連なる

末廣酒造には、昔ながらの手作業で醸造する「嘉永蔵」と、最新技術で造る「博士蔵」(会津美里町)があります。今回は江戸時代から続く「嘉永蔵」での酒造りを見学することに。手間のかかる手造りでの作業を見学できる機会なんて、滅多にないこと!と期待がふくらみます。
▲門前の松の木が「嘉永蔵」入口の目印

いざ、酒蔵探訪へ。冬季限定、「仕込み」作業を見学

入口を入った先には高い吹き抜けのホールが。古木のぬくもりを感じるレトロな雰囲気に、思わずタイムスリップしたような感覚に。
この日参加する「嘉永蔵」の酒造見学コース(無料)はここから始まり、仕込み蔵、資料館、古酒蔵、展示室、昔の主人の住まいなどを約30分かけて回ります。開催は毎日朝9時半から16時までの間に、なんと14回。予約も不要なので気軽に訪れることができます(団体の場合は要予約)。

さっそく指定のサンダルに履き替え、まずは「仕込み蔵」へ。かすかにお酒のよい香りがします。見学は通年受け付けていますが、仕込み作業を見られるのは11月末から2月の冬季のみ。

訪れたのは仕込み作業の真っただ中の12月中旬で、大きな漆喰の扉の向こうから湯気が立ち上っています。お客様サービス部マネージャーの庄司健(しょうじけん)さんが案内してくださいました。
▲冬季(11月~2月)に訪れるなら、仕込み作業の行われる朝9時から10時頃がねらい目

末廣酒造の日本酒は三段仕込み。「添(そえ)仕込み」、「仲(なか)仕込み」、「留(とめ)仕込み」の3回に分けて仕込みます。まずは培養した酵母とほぼ同量の蒸米と麹、水をタンクに入れ、「添仕込み」を。中1日置き、3日目に行う「仲仕込み」では「添仕込み」の時の2倍の量の蒸米と麹、水を加えます。その翌日、4日目は「留仕込み」。「仲仕込み」のさらに倍の量を加えます。

「3回に分けて仕込むのは、酵母を活性化し、生き生きと保つためです。発酵に欠かせない酵母の量は、総体のわずか3~4%ほどです。蒸米と米と水を一気に入れると、酵母はびっくりしてどうしたらよいかわからなくなってしまいます。少しずつ餌を与えることで、酵母は一生懸命食べて活発に動くようになるのです。中1日置くのは、“踊り”といって、酵母がなじんで活性化してくれるのを待つためです」(庄司さん)

なるほど。酵母も生き物、元気に働いてもらうためには相手に合わせてじっくりつきあうことが大切なんですね。
▲蒸し器から白い湯気が。蔵の中は底冷えするので、見学にはぜひ厚着で

さて、この日うかがった朝9時は、仕込みの準備作業の真っ最中でした。
蒸しあがった酒米を桶で運び、さらしを広げたすのこの上に載せて5~6度になるまで冷まします。最近の工場では機械での温度管理が一般的とのことですが、嘉永蔵のような昔ながらの製法にこだわる酒蔵では、気温が下がらないとよいお酒が造れません。仕込み作業を冬に行うのはこのためです。

説明を聞いていると、みるみるうちに蔵の中は蒸気でいっぱいに。そろそろ酒米が蒸しあがるようです。
▲蒸しあがった大量の酒米
▲スコップのようなもので木の桶に大胆に移していく
▲酒米を入れた桶を秤で量ったら、すばやく移動
▲さらしの上に酒米を広げ、冷ます
▲蒸したての酒米は通常のご飯とは違い、口に入れるとつぶつぶした食感

冷ました酒米は麹と水とともにタンクに入れ、酵母を加えます。これを3回繰り返して仕込みが終了すると、次は「発酵」です。発酵させる期間は大吟醸の場合、30~35日。泡の出方を観察したり、数値を計ったりして発酵過程をよく分析したうえで、よい頃合いで搾り器に移します。
▲こちらが搾り器。発酵完了後に移される

大吟醸が日本酒の王様たるゆえんは?

蒸米を冷ます作業を一通り見学したら、資料館へ移動。庄司さんが酒米について説明してくださいます。
▲吊るされているのは末廣酒造で使っている酒米の稲穂

「私たちが通常白米として食べているのは、外側10%を削った90%のお米です。当社の純米酒には60%の酒米を使っています。90%の酒米で造った酒は真っ黄色、雑味が強くおいしくありません」と庄司さん。

驚いたのは大吟醸に使う米の削り度合いです。一般的に、なんと外側の50%以上を削り、芯の部分のみで仕込むのが大吟醸なのだとか。さらにこちらの大吟醸には、酒造に適した山田錦をななナント35%まで削って使っているのだそうです。削るほどよい酒にはなりますが、当然原価は高くなる。大吟醸が酒の王様といわれるわけがわかります。
▲35%まで削った山田錦の米粒。左の70%のものと比べると格段に小さい

次に案内されたのは、古酒(こしゅ)蔵。薄暗く冷えた部屋の中に古酒がずらーっと並んでいます。
▲20~30年前の高価な酒が並ぶ貯蔵庫

日本酒は基本的には悪くなることはありませんが、注意したいのは要冷蔵と書いてある生酒(なまざけ)です。生酒は、酵母が生きた状態の新鮮な酒。10度以下の冷蔵庫で保存している限りは酵母を休眠状態に保てますが、常温に出すと活発に動き出し、酸味が増してしまいます。

「生酒、要冷蔵と書いてあるものは、買ったらすぐに冷蔵庫に入れ、なるべく早く飲むことをおすすめします」と庄司さんはおっしゃっていました。

生酛から山廃酛、そして速醸酛へ

古酒蔵の隣は展示室です。昔の酒造りに使われていた道具を前に、酒造りの変遷についてうかがいます。

江戸時代以降の長い間、酒造りに必要な酵母を育てる唯一の方法が、「生酛(きもと)」と呼ばれる製法でした。身を切るような寒さに凍える厳冬期、半切り桶に蒸米と麹と水を入れ、つややかでやわらかな足をもつ10代の女性が30~40分粗踏みをし、その後かい棒でさらに7時間以上つぶしつづけるという過酷な作業である「山卸し」を経て2週間放置し、発生した乳酸菌が育んだ酵母をさらに2週間培養するのです。
▲生酛で使われた半切り桶

明治末期、「山卸し」作業なしでも乳酸菌と酵母を育てることが可能であることが発見され、山卸し廃止酛、略して「山廃酛(やまはいもと)」、さらにその後、市販の乳酸と培養酵母を添加することでたった2週間で酒造りに必要な酵母ができる「速醸酛(そくじょうもと)」へと製法が変わっていったのだそうです。

かつての職人たちの苦労に思いを馳せ、身が引き締まります。
ちなみに現在の「嘉永蔵」では、「速醸酛」での酒造りが中心とのこと。
▲かつて使っていた器具を見せてもらう

野口英世にゆかりのある昔の住まいを見学

酒蔵としての見学はここまで。次は「昔の主人の住まい」を見せていただきます。天井の低い廊下を進むと、約100年前に造られたという木造3階建ての建物に入ります。

さらに進むと大広間へ。この部分は2階建てのため、先ほどより天井が高く感じられます。一家が結婚式や法事などを行っていたというお部屋です。
▲大広間には江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜の書が掛けられている

末廣家は会津ゆかりの偉人・野口英世との縁が深いそうで、自筆の書が残されていました。
▲野口英世による書

20歳で国家試験に合格、医師となった野口英世は、25歳のときにアメリカ留学を勧められます。年老いた母・シカを残すことへのためらいがあった野口の背中を押したのが、恩師・小林栄でした。「自分が面倒をみるから心配せずに行ってこい」と励ました小林と野口は養子縁組をし、アメリカへ渡ります。小林の姉は末廣家に嫁いでいたため、末廣家は野口にとって親類も同然だったのです。また、母・シカは行商やお宮参りの折に、たびたびこの嘉永蔵を訪れていたとのこと。

思わぬところで日本の偉人の足跡に触れ、感激ひとしおのうちに、見学コースは終了しました。
▲最後の会津藩主、松平容保(かたもり)による書も。「末廣」=「すえひろがり」ということで、欄間には扇形の細工が

お待ちかねの試飲は8種類!

1階のホールに戻り、隣の酒蔵ショップで最後のお楽しみ、試飲体験です。日本酒7種と梅酒1種、全8種類のお酒を飲み比べできます。
▲試飲できる銘柄は季節によって変わる。この時期しか飲めないしぼりたて新酒も
▲「ごく少量ずつ試すので、酔わずに味の差がわかります」と庄司さん

寒い会津地方では、かつては味の濃い料理が主体だったため、お酒も甘めのどっしりしたものが好まれていました。しかし冷暖房が完備され、健康志向が進んだ今では料理も薄味、あっさりしたものへと変化。そのため今はそうした料理に合うやや辛口のさらっとしたお酒が人気だそうです。

この時期の一番のおすすめは、季節限定の「しぼりたて純米吟醸原酒生 末廣」。仕込みの最中、1月末までしかとれない、いわゆるヌーボーです。

一方「ひやおろし純米吟醸原酒」は、冬に造られた新酒を春に火入れし、円熟させた秋の旬の酒。「しぼりたて」はフレッシュさが口に広がりますが、「ひやおろし」は少し落ち着いたのど越しです。

「嘉永蔵」製造の限定大吟醸「嘉永蔵 大吟醸」はさすがの貫禄。素人の私もうなる大人の味わいでした。
酒蔵ショップでは末廣酒造のお酒はもちろん、オリジナルグッズ、会津の名産品も手に入ります。会津の米を使った純会津のお酒を180mlカップに詰めた「末廣Dr.野口カップ」(1カップ232円・税込)はお土産にぴったり。

カフェでは酒蔵ならではのスイーツを堪能

酒蔵の隅々まで満喫した後は、ホールの隣にある酒蔵カフェ「杏(きょう)」で一休み。こちらは「嘉永蔵」にある蔵の中でも最も古い明治25(1892)年竣工の蔵を改装して造られたとのこと。カフェの内部には明るい光が降り注ぎ、蔵ならではの落ち着いたレトロモダンな空間が広がっていました。
▲カフェの欄間にも扇細工が配されている

この日は「大吟醸シフォンケーキ」と「酒粕アイスクリーム」、「仕込み水で淹れたコーヒー」のセットをいただきました。ふんわりと香る日本酒のやさしい風味が口に広がり、見学で冷えた体がほぐれていきます。
▲大吟醸シフォンケーキ、酒粕アイス、コーヒーのセット(1,000円・税込)

帰り道、入口近くで湧き出ている仕込み水を持参したタンクに汲んでいる方を見かけました。嘉永蔵が160年間、地元とともに歩んできたことを感じる瞬間でした。カフェでいただいたコーヒーはびっくりするほどまろやかだったし、このお水でご飯を炊いたらきっとおいしいだろうな、とちょっぴりうらやましかったです。
▲湧き続ける仕込み水(右)と、かつてのお客様用商品受け渡し口(左)

伝統と格式ある酒蔵で、丁寧な説明を聞きながら仕込みの様子を間近に見学した後に飲むお酒の味は一味違います。ほのかに漂う日本酒の香りに包まれながら、ぜいたくなひとときをぜひ過ごしてみてください。
髙松夕佳

髙松夕佳

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。文芸、芸術、絵本、育児等に関する記事や書評の執筆、書籍編集、翻訳など多数。全国各地への取材では、土地ことばや風景印、スタンプを集めるのがひそかな楽しみ。

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