本場は「こってり」にあらず?長崎ちゃんぽんに受け継がれる心

2017.01.03 更新

長崎を始め日本全国で愛されている「ちゃんぽん」の由来とは…?聞くほどに面白く、ちょっぴり感動。今すぐ「ちゃんぽん」が食べたくなること請け合いです。

中国大陸から傘1本で長崎へ来た若者が
「ちゃんぽん」を作り出したワケ

我々日本人が愛してやまない麵料理。うどん、そば、ラーメン、そしてちゃんぽん。この「ちゃんぽん」が長崎で生まれたのは周知の事実。なれど、どうやって生まれたのかその由来を知る人は一握り。その「ちゃんぽん」の秘密、紐解いていきましょう。

「ちゃんぽん」が生まれたのは、明治時代後期のこと。
1892(明治25)年、19歳の若者がこうもり傘1本のみを携え遠く中国大陸から長崎に渡ってきました。リヤカーに反物を積んで行商をし、日清戦争で華僑への風当たりが強くなった時には侮蔑の眼差しに耐え、ついに1899(明治32)年に中華料理店を創業。その男性こそ、老舗中華料理店「四海樓(しかいろう)」の初代店主である陳平順(ちん へいじゅん)さんです。
▲創業当時の「四海樓」。看板には「清国料理四海樓饂飩元祖」の文字があります

平順さんは世話好きの性分ももちろんですが、自分自身が長崎への渡航、そして長崎での暮らしに大変苦労したことから、中国から渡航してきた華僑や留学生に対し、すすんで身元引受人になっていたそうです。そして食べ盛りである彼らの食生活を助けるために作った料理が「支那饂飩(しなうどん)※後のちゃんぽん」でした。
ボリュームもあり、野菜たっぷりで栄養満点の「支那饂飩」はたちまち評判になり、店で提供を始め、長崎の中華街で広まっていきます。

「ご飯を食べる」という意味の、シンプルで力強い名前に

その後「支那饂飩」は「ちゃんぽん」という名称に変わります。
これは「吃飯(福建語でシャポン、セッポンなどと発音)」が由来だそう。つまり「ご飯を食べる」という意味。

当時、貧しい生活を送っていた華僑や留学生。親しい人に出会った時、こんにちはと同じくらいの感覚で「ご飯は食べたか?」と聞いていたのだそうです。
「ご飯は食べたか?」「食べていない」「では、食べていきなさい」…そんな会話がなされているのを長崎の日本人が聞き、次第に「シャポン」の発音が「ちゃんぽん」となり、料理名として定着したのだとか。

つまり、「ちゃんぽん」は、由来からも名前からも、人々の胃袋を満たすために作られているんですね。

発祥の地「四海樓」は、 まるで高級ホテルのよう…!

▲現在の「四海樓」。まるでホテルのような佇まい!

創業110年以上もの老舗「四海樓」では、今なお平順さんの心を受け継ぎ、昔と変わらない味わいの「長崎ちゃんぽん」を4代目となる陳 優継(ちん まさつぐ)さんが提供しています。そんな「ちゃんぽん」食べてみたい!ということで、いざ「四海樓」へ。

「グラバー園」や「大浦天主堂」からも近い場所にある「四海樓」。5階建てのその規模や豪華な造りからレストランというよりは、まるで高級ホテルのようです…!

「四海樓」は創業100周年を記念して2000(平成12)年に店舗を改築。優継さんの弟で一級建築士の陳 優宏(ちん まさひろ)さんが手掛けました。
▲入口へ続く階段中央には、石に掘られた龍が!

入口は1階と2階。2階へ続く大階段からまず目を奪われます!
これは建物奥にある海へと抜けるため「風の道」となっています。また、「長崎ランタンフェスティバル」などのイベントの際には建物前広場をステージに、階段を観客席にすることも。
▲建物に使用されている瓦にも注目!すべてに「四海樓」のマークが入り、左右の屋根には人形が載っています
▲敷地を区切る「龍壁」

また、瓦で龍の姿を作り出した「龍壁」など、もはや芸術作品。力強い龍の姿にしばし見入ってしまいます。その前にあるのは「魔方陣」。縦・横・斜めの数字を足すといずれもすべて111になる不思議な数字の配列が施された石碑です。
▲「龍壁」の前にある「魔方陣」

6×6の魔方陣は貴重で、優宏さんが中国の奥地で偶然発見したそう。中国では古来から魔除けの意味を持っていることから、長崎に帰り、「店とここを訪れてくださるお客様の魔除けに」と作られました。

まだお店に一歩も足を踏み入れていないのに、階段と壁だけでもう大興奮ですよ…。
こんな中華料理店ほかにあります…?

店内も豪華な造り!元祖「ちゃんぽん」いただきます!

さて、2階の受付を経て通される店内もまた豪華。3階は約90名を収容でき、イベントなどに使われる多目的ホール。4階は座敷と大小さまざまな宴会場の個室が。5階は長崎港から夜景の名所である稲佐山まで一望する展望レストランとなっています。
今回は5階展望レストランに案内していただきました。
▲眼前に広がる長崎港!清々しい180度のパノラマ景色が広がります

「ちゃんぽん」は、もともとは福建料理の「湯肉絲麺(とんにいしいめん)」を日本風にアレンジしたもの。今では、他の地域でも「ちゃんぽん」が郷土料理として提供されていることから、長崎で提供される「ちゃんぽん」は一般的に「長崎ちゃんぽん」と呼ばれています。
▲モチモチ食感のちゃんぽん麺

「長崎ちゃんぽん」の特徴としては、キャベツやもやし、イカ、蒲鉾、豚肉などに加え、長崎近海で獲れる海産物が入っていること。そして、唐灰汁(とうあく/ナトリウム主体の水)でこねた長崎特有のちゃんぽん麺を使用していることがあげられます。唐灰汁は腐敗防止にもなるのだそうです。ちなみに、ラーメンや中華麺はかんすい(カリウム主体の水)で小麦粉をこねたもの。

ちゃんぽん麺は長崎市を中心に50社余りの業者で製造しており、関西や関東方面にも展開しているというから、いかに「長崎ちゃんぽん」が広範囲で浸透しているかうかがい知ることができます。

そんな本場の「ちゃんぽん」(972円・税込)をオーダー。
斎藤茂吉や五木寛之、永六輔など様々な文化人も訪れ、絶賛した四海樓の「ちゃんぽん」。おのずと期待値は上がりますね~。

この日は、キッチンに特別に入れていただき、「ちゃんぽん」の調理風景をちょっと拝見。
キッチンの中には「ぐおん、ぐおん!」という金属音が響いています。
▲大きな鍋を振るう際に大きな音が…

この音の正体は、中華鍋!
通常のガスコンロではなく、圧縮された火と空気の逃げ場がなくなるよう、すっぽりと鍋がはまる“窯”で「ちゃんぽん」は作られます。この窯はコンロのように火が漏れないため、熱が鍋全体に効率よく伝わるとのこと。中華鍋を円を描くように回すためこのような音がしているのです。

また、その手早さも見事で、休まることなく動く中華鍋に次々と材料が投入されていきます。ちなみに休日は約1,000名分(キャベツ200kg!)の「ちゃんぽん」が提供されるのだとか!
▲材料を手早く炒めたら、ちゃんぽん麺を投入

そして忘れてはいけないのが、味の命でもあるスープ。スープは丸鶏と鶏ガラ、豚骨を3~4時間かけて炊き上げたもの。白濁したスープが煮込まれ、食欲をそそる鶏ガラの香りが…。たまりません~。
▲スープも投入し、煮込んで味を馴染ませます
▲どんぶりに注ぎ入れ…
▲最後に錦糸玉子を載せて完成!

想像の“こってり”とは違う
優しい味わいに、心も体もあったまる

完成した「ちゃんぽん」を、早速いただきましょう~!
その味わいは?と聞かれれば、結論から言うと
「思ったより “こってり”ではない」と言えます。

他の店舗でいただく「ちゃんぽん」は、結構“こってり”な味が多い印象だったので、正直少し驚きです。でも、かと言って“あっさり”ではないんです。

その答えは“素材が活きた、優しい味わい”。

もう、本当にこれは食べた方にしか分からないかもしれません。
鶏から丁寧にとったであろう、上品で雑味のないスープに、キャベツの甘み、エビやイカの海鮮の出汁、豚肉の脂の甘み…そのいずれもが味わえ、余計な調味料が入っていないことをダイレクトに感じることができます。
▲ちゃんぽん麺にスープが絡む!まずは一口、スープをいただいてから食べることをお勧めします!

しかし、これこそが「ちゃんぽん」の真髄。
平順さんが、「栄養が摂れ、かつボリュームのある食事を」と考案した料理こそ「ちゃんぽん」。素材の味を消してしまうような“こってり”スープでは決して表現できない味わいなのです。

なお、平順さんが考案した料理は「ちゃんぽん」だけではありません。「皿うどん」もその一つ。「皿うどん」はちゃんぽんと同じ材料に炒めた麺を入れ、スープを煮詰めて馴染ませる料理。“こってり”味がお好みであれば、こちらをいただくのがお勧めですよ。
▲「皿うどん」(972円・税込)

長崎の食文化を豊かにした
陳平順さんの思いと「ちゃんぽん」

さて、「四海樓」はもちろん、長崎の中華料理店の卓上には、他県では見られない“あるモノ”が並んでいます。それは何を隠そう、ソース!

「皿うどん」に酢をかけて食す方もいらっしゃるかと思いますが、長崎ではこの「ソース」をかけて食べるのが普通。複数のソースがありますが、一番主流なものは「金蝶(きんちょう)ソース」で、長崎の人に知らない方はいない、と長崎出身のカメラマンさんは豪語されていました。

この「ソースをかけて食べる文化」。それも平順さんが深く関わっています。
長崎市の醤油醸造所から相談を受け、一緒になって「皿うどん」に合うソースを、と試行錯誤し作り上げたのだとか。考案した料理人が作り上げたのだから、合わないはずはなく、その後長崎で「ソースをかけて食べる文化」が定着するに至ります。

まずは、そのままいただき、その後ソースをかけて味の変化を楽しむ、という訳です。
▲まずはそのまま。コクがあってうま~い!

次に、ソースを麺に馴染ませて…一口食べてみます。
うん!「皿うどん」はかなり甘めの味付けになっているため、少し酸味のきいたソースをかけることで味がキュッと引き締まります。そのままでも美味しいですが、これも違った味わいで美味!!ソースは少しというよりは、結構多めにかける方が多いみたいですよ。
▲「金蝶ソース」をかけて…少しドキドキ

「ちゃんぽん」が日本全国に広まった理由として、その美味しさはもちろんですが、商標登録しなかった、ということも一因。実は、平順さんは娘の清姫(きよひめ)さんより商標登録を勧められたことがあったそうです。しかし、平順さんの答えは「否」。

「留学生や長崎の人たちにかかわらず、大勢の人に食べてもらえたら満足だ」

この答えには“恩送り”という、平順さんの思いがありました。

この「ちゃんぽん」は商品開発してできたものではない。
自ら貧しい時代に他の方に助けていただいて店を構えることができ、貧しい人たちのために作った料理が人々に愛された。
恩を受けた感謝を忘れず、恩は次の世代へ──。

「金蝶ソース」も然り。自分の作った料理をきっかけに、長崎の醤油醸造所も、食文化ももっともっと繁栄してもらいたい。
これが平順さんの思いでした。
▲「金蝶ソース」は1階の「四海樓名店街」でも販売。150ml・162円(写真右)、320ml・248円(写真左)※ともに税込

華僑として生まれた現在の店主・優継さんはこう言います。

「私は日本で生まれ日本で育っていますが、中国人。両方の良いところを知っていて、その両方を伝えたい。『ちゃんぽん』はそんな、日本と中国の架け橋のような存在であってほしいですね」

今も平順さんの思いは確かに受け継がれています。
この「ちゃんぽん」という一杯の料理に、ちゃんと。
桑野智恵

桑野智恵

フリーの雑誌ディレクター/ライター。福岡生まれ、福岡育ちの博多女。3つの出版社を渡り歩き、雑誌編集歴20年弱。食育アドバイザー、フルーツ&ベジタブルアドバイザー。

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