若者が好む優しい味わい。石井酒造が切り開く“新しい”日本酒の魅せ方とは?

2015.08.27

「豊明 純米吟醸」は優しい甘み、そしてまろやかな口当たりが特徴的なお酒です。今回、このお酒を造る埼玉県の石井酒造へ、蔵見学にいってきました。蔵を見せていただくことでより一層お酒が美味しく感じられるのも蔵見学の醍醐味です。蔵見学を通じて見えた、石井酒造の魅力とは?

埼玉県は知る人ぞ知る酒処。実は、全国トップクラスの日本酒生産量を誇っているのです。県内には35もの酒蔵があり、新潟や京都・伏見にも負けない個性豊かな日本酒を生産しています。


中でもインターネットを活用したクラウドファンディングの成功で注目を浴びているのが、埼玉県幸手市の「石井酒造」です。
▲看板には天保11年創業の文字が。170年以上の歴史があります。

新しい視点からのファンづくり

石井酒造は創業から170年以上が経つ老舗企業ですが、驚かされるのが社長・杜氏(製造責任者)の若さ。なんと石井誠社長は現在28歳、和久田杜氏は29歳です。
▲石井社長(左)と杜氏の和久田さん(右)
経験がものを言う業界でもあるため、20代で酒造りをしていくのはかなりの苦労があるでしょう。しかし、彼らはその若さを活かした柔軟な発想と行動力で石井酒造の魅力を日本中に発信しています。その代表的なものがクラウドファンディング※を活用した日本酒の製造です。

石井酒造は、日本酒製造からラベルデザイン、販売戦略までを全て20代のスタッフで行う「20代の大吟醸プロジェクト」を行いました。日本酒は、酒質設計を反映させた製造方法の違いによって差異を見出すことが多いなか、「世代」という切り口のPRによって日本酒業界のみならず、世間から大きな注目を集めたことが成功の秘訣といえます。

こういった取り組みによって新しいファンを増やしているのですね。

※クラウドファンディングとは達成したいプロジェクトに対し、インターネットを介し個人から小口で支援を集められる新しい資金調達の方法。

酒造りの全ての工程を丁寧に行う

石井酒造の酒造りのこだわりは、仕込みの工程の随所に見ることができます。例えば酒米を洗う「洗米」という作業。一般的にはザルを利用して行いますが石井酒造ではザルではなく「洗米ネット」を使います。
多くの蔵で使われているザルに対して、洗米ネットは少量のお米しか洗米できません。それでも洗米ネットを使うのは、品質と安全にこだわっているからだそうです。
▲時間と手間をかけても、品質へのこだわりと安全のために使っている洗米ネット
「ザルだと隅にお米が詰まってしまい洗米が十分でないことがあるんです。手間と暇をかけてでも洗米ネットを使うことにしました。」と石井社長は言います。

また、ザルの場合、作業中に怪我をすることもあるんだとか。従業員が怪我をしないようにすることはもちろん、衛生面でも安心できますね。
お米を蒸している様子。伺った際にはお米を蒸す工程は行われていませんでしたが、こんなに厳かな雰囲気になるのですね。酒造りは早朝から行われるため、こうした風景はなかなか見られません。

私が石井酒造に訪問したときは、ちょうど夏酒の仕込中。今回は特別に発酵している「もろみ」を見せていただきました。
▲少量で仕込んでいる夏酒です!
▲見てください!表面がポコポコ沸き上がっているのがわかりますか?これが発酵なのです。
▲発酵温度の調節に使用する暖気樽(だきだる)という道具
▲酒造りでも最も重要な工程「麹づくり」。伺ったときはすでに麹づくりの工程を終えていましたが、つくる際にはこのように手作業で行われているのです。
▲瓶はお酒が入る大切な容器です。きれいに洗浄をし、さらに破損はないか確認をしています。

優しい甘さに心を掴まれる、石井酒造の「豊明 純米吟醸」

▲蔵内にはこのようにお猪口が並べられています。かわいいですね。
石井酒造は現在2つの銘柄を軸とした商品展開を行っています。
1つは「初緑(はつみどり)」。そして「豊明(ほうめい)」です。「初緑」は醸造アルコールを添加したすっきりとした味わい、「豊明」は純米で甘味のある味わい、というコンセプトで作っているのだそう。特に「豊明」は、石井酒造の新ブランドとして原料もオール埼玉というこだわりがあり、「さけ武蔵」という埼玉県のお米に埼玉県酵母を掛けあわせて造られています。

なるほど。やっぱりお酒好きとしては、こんなことを聞くとお酒が飲みたくなってしまいます。そんな気持ちが伝わったのか、石井社長が試飲をさせてくれました。
持ってきてくれたお酒は「豊明 純米吟醸」。

「確かに甘い!」口に入れたときに感じる印象です。ただ甘いだけではなく、旨みも感じるその甘さには、包み込んでくれるような優しさを感じることができます。

私が石井酒造のお酒について一番強く感じる特徴が、この甘さにあります。
日本酒好きの方には辛口好きも多く、飲食店などでは「辛口のお酒をちょうだい」なんて会話もよく聞こえてきます。そういった風潮もあり、甘めの日本酒を好んで飲まない方も多いのではないでしょうか。

しかし、石井酒造のお酒は辛口好きでも甘口のお酒に目覚めてしまう、そんなお酒だと思います。洋菓子のようなはっきりとした「甘さ」でなはく、お米から造られるからこその優しい甘さなのです。私たちは日常的にお米を食べているため、馴染みがありどこかホッとしてしまうという居心地のよさにつながっているのでしょう。

口にふくむ度に飲み手をいたわりながら、なめらかに舌や喉を通っていく感覚があります。
そして飲み込んでもなお、その味わいが余韻として長く残るように感じられます。1杯のお酒で長く味わいを堪能できるという贅沢さがあるのですね。

日本酒を飲んだときは「一緒になにを食べようか」と考えることも私の楽しみの1つです。例えば、お米の素朴な美味しさがよく合う「米粉揚げ」。または、癖のないお肉の旨みが感じられる「つくね」、魚介の旨みと卵のまろやかさがぴったりな「かに玉」などが食べたくなります。どれも「豊明」の優しい味わいでお料理を引き立ててくれます。
▲販売スペースの様子

伝統は革新の連続の上に成り立つ

▲革新あっての伝統であることを忘れずに活動していきたいと語る石井社長
かつてはお酒=日本酒を意味していた時代もありました。しかし、今では飲むときの選択肢にすら入っていないことも多いです。そんな状況に対して「特に若い人に日本酒を飲んでもらいたい」と石井社長。ボトルの裏にその味わいをグラフ化して説明をするなど、より身近に感じてもらうための工夫をされています。
▲蔵内部で利き酒をする和久田さん
杜氏の和久田さんも、この社長の想いを汲み、仕込み配合などを設計する段階で「若い人にも好まれる酒質」を目指しているとのこと。しかし、その味わいも常に試行錯誤の連続だそう。若者が好む味わいも変化していきますし、つねにそのトレンドを読み解くにはたゆまぬ努力が必要なのでしょう。


クラウドファンディングといい味わいのグラフ化といい、伝統の中に革新を起こす努力を惜しまない石井社長ならではの取り組みなのでしょう。また、そこに共感し、酒造りを統括する和久田さんの実行力。お酒に感じた「優しい甘さ」とはうらはらに、2人の姿がたくましく、また数年後、このコンビが造る日本酒を飲むのが楽しみで仕方ありません。
▲石井酒造のお酒たち
山口奈緒子

山口奈緒子

日本酒のテイスティング資格「利酒師」「酒匠」保持。日本酒専門メディアSAKETIMESの立ち上げに参画。 在籍中の1年間で、日本酒の知識を活かしユーザー拡大に貢献した。 現在は、日本酒の選定・講師など、日本酒の魅力を広げるべくさまざまな活動を行っている。

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